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対人戦エリア Ⅱ

王都グランエンドを出発してから、馬車に揺られること二日。道中はすることもなく、ただ、のんびりと馬車の旅をするだけ。


真達は出身地でもないツヴァルン方面に足を踏み入れることはなかったが、王都周辺の景色というのは特に変わり映えするようなこともなく、見知った景色と同じだ。本格的に景色が変わるのはツヴァルンを越えてゴ・ダ砂漠に入ってからのことになるのだろう。


思えば、真はキスクの街に行ってから一度もマール村どころか実家にも戻っていない。戻ったところで誰がいるわけでもないのだが、することのない馬車の旅程ではそんな郷愁の念にかられることもある。


「お客さん、申し訳ないがここまでです」


馬を止めて御者の男が客席に来てそう告げた。止まった場所はツヴァルンへと続く道にある関所。石造りの関所で、常駐しているのであろうNPCの兵士が立っている。


「あ、はい、分かりました……」


美月は緊張した声で返事をする。事前に話を聞いていたため、この関所を越えるとそこが対人戦エリアになることは分かっていた。


美月の返事が合図となって、真達は無言で馬車から降りた。通行の許可を取っているとはいえ、対人戦エリアに足を踏み入れるというのは心穏やかにはいられない。


これがただのゲームであれば、真は嬉々として先陣を突っ切って行っただろう。ゲームでの『World in birth Online』では、実際に戦場を暴れまわり、数多くの敵をなぎ倒してきた。その分、真も倒された回数が尋常ではないくらい多いのだが、勝っても負けても戦場を駆け回ることを楽しんでいた。


だが、本当に命をやり取りをするのであれば話は別だ。事実、攻城戦で人同士が殺し合いをすることは発生していない。誰もそんなことはやりたくないのだ。だから、攻城戦のに名乗りを上げた3つのギルドは特殊な部類に入るのだろう。


「今から、ツヴァルン周辺の対人戦エリアに入る。蒼井真、お前たちは対人戦エリアにおけるルールを理解しているか?」


千尋の毅然とした声が関所の前で響く。何度も通っている道ではあるが、緊張はある。それでも、臆することなくしっかりとした態度を保っていた。


「対人戦エリアのルールって、ここでは同じギルドや同盟関係にない人は攻撃対象になるってことだよな?」


突然、理解しているかと聞かれて、真は当然みんなが知っているであろうことしか答えられなかった。他に何かルールがあるのかまでは実際に対人戦エリアで戦闘をしていないので分からない。


「ああ、それで大まかには合っている。ただ、レッドゾーンのことは知らないようだな?」


「レッドゾーン?」


聞きなれない言葉に真が首を傾げた。美月や翼も同じように知らないといった顔をしている。


「対人戦エリアでの一種の救済措置のようなものだ。モンスターとの戦闘で致命傷を喰らえば命を落とすが、人同士で致命傷を受けた場合は一度、体が赤く発光する。その状態で何らかの攻撃を受ければ死ぬが、要するにワンクッション入ることになるんだ」


「それが、レッドゾーン……」


本来であれば死んでいるダメージを負ったとしても、人同士の戦いであれば、レッドゾーンに突入して命を繋ぐことができる。


「その、レッドゾーンに入ってしまったら逃げるっていう選択もできるわけですよね。相手も人を殺めることをしなくて済むし……」


美月が複雑な表情で言う。レッドゾーンに入ったとしても相手がそれで引いてくれればいいが、そうでない場合もあるわけだ。ただ、現状でレッドゾーンにまで至る対人戦が行われたことはない。


「どうしてそんなこと知ってるの?」


疑問を呈してきたのは華凛だった。実際に人同士が戦ったという話は聞いたことがない。にも関わらず、人を殺す一歩手前で一旦止まることを知っているのはどういうことなのか。


「私達は『ライオンハート』と同盟関係だからな。王都に来てから、攻城戦管理局で同盟申請もしている。だから、『ライオンハート』が攻城戦に参加する時に『フレンドシップ』のメンバーにメッセージが届いた。その内容が今話をした通りのものだ」


「それじゃあ、『フレンドシップ』のメンバーは『ライオンハート』が攻城戦に参加することを事前に知っていたのか……」


真が思慮深く呟く。攻城戦に参加するということは少なくとも利己目的だ。『ライオンハート』というギルドのことはよく知らないが、利他的な『フレンドシップ』の思想とは相容れないような気もする。


「蒼井真が言いたいことは分からないでもない。実際に人と戦っていないにしても、攻城戦というものは人同士の命を奪い合うことを前提としている。それを知っていてどうして容認しているかということだろう?」


「あ、いや……そこまでは……」


自分達にとっては痛いところであるにも関わらず、千尋はズバッと言い放った。そのことに真が気圧されてしまう。だが、千尋は真を責めようというつもりがないことは伝わっていた。


「いいんだ……事実として、攻城戦に参加したギルドと同盟関係にあるからな。それに反対もしなかったからな……。だが、事前に『ライオンハート』が攻城戦に参加することを知っていたのは信也と私だけだ。他のメンバーは知らなかったことだ」


「ちょっと補足させてもらってもいいかな?」


千尋の説明に対して割って入ってきたのは小林だった。真と千尋の話を聞いてどうしても言いたいことがあった。


「ああ、構わない」


千尋が端的に返事をする。


「ありがとう。えっとね、僕や蒼井君たちはエル・アーシア出身だから分からないことなんだけど、ゴ・ダ砂漠出身者からしてみれば『ライオンハート』っていうギルドは全幅の信頼を置けるギルドなんだよ」


千尋から許可をもらった小林が話始めた。そして、小林の話は続く。


「僕が『フレンドシップ』に入ってからメンバーの人にゴ・ダ砂漠での話を色々と聞いたんだけどね、そこには必ずといっていいほど『ライオンハート』の名前が出てくる。それも皆誇らしげに話をするんだよ。『ライオンハート』が命を懸けて自分たちを導いてくれているってね」


「そうだ、ミッションの時は『ライオンハート』が常に先頭を進んでくれていた。信也も私も紫藤総志には命を救われている。今の私達があるのは『ライオンハート』の力が大きいと思っている」


千尋が小林の話の途中で思わず口を挟んだ。『ライオンハート』というギルドの名誉のためにも語らずにはいられなかった。


「エル・アーシア出身者はね、何か謎の組織が動いてくれてたみたいだけど、ゴ・ダ砂漠の出身者からしてみれば、『ライオンハート』が自分たちの象徴みたいなものなんだよ。だから、部外者である僕らがとやかくいうのは筋違いだと思うんだよね。あ、蒼井君が文句を言っているとは思ってないよ、ただ、知らないところでの話だからね」


小林はそこまで話をすると引き下がった。自分も部外者だからこそ、同じ部外者である真に言えることがある。丸くまとめるにはこの場で小林が話をすることが最適といえた。


「あぁ、なんていうか小林さんの言う通り、そういうつもりで言ったんじゃなかったんだけど……」


真がばつの悪い顔で声を漏らす。


「気にしなくてもいいんだ。さっきも言った通り、攻城戦に参加するということは人の命を奪うことを是認しているということになるからな。だが、『ライオンハート』は決して自分たちの利益のためだけに動くギルドではない。これだけは分かってほしい。攻城戦に参加したのも『ライオンハート』なりに考えがあってのことだ。それに対してゴ・ダ砂漠の出身者は疑問を抱かない」


千尋が穏やかな声で言う。余計な言い訳はしない。ただ、『ライオンハート』というギルドがどういうものなのか、同盟を結んでいる『フレンドシップ』との関係がどういうものなのかを分かってもらえればそれでいい。


「あの、私達も知らないで余計なこと言ってしまってすみませんでした」


美月が頭を下げる。言葉こそ口にはしていなかったが、『ライオンハート』と『フレンドシップ』の関係については気にしているところがあったからだ。だが、それも今の話を聞いて落とし込むことができている。


「いらぬ誤解は解けたようね。だったら、こんなところさっさと抜けてしまいましょう」


意見を出したのは横で話を聞いていた園部だ。最後に纏めるところを持っていくのは、この女性の強い部分でもあるのだろうか。真はそんなことを思いながら、小林の方を見ると、真の意を汲み取ったような顔を返してきた。



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