書籍四巻 販促SS2
千早は新界生物を研究する教授から送られてきた依頼書を見つめて悩んでいた。
新界に生息する多年生植物を栽培してほしいという内容で、弧黒連峰を有する千早向けの内容ではある。
ただ、この植物はとある問題を抱えていた。
「大型動物が寄ってくる植物……」
フェロニアと名がついているこの植物はある程度育つと獰猛な肉食動物が集まってくる。植物が何らかのフェロモンを放って呼び寄せているのではないかとされており、研究対象になっているのだ。
研究が進めば大型動物の誘引剤はもちろん忌避剤のヒントになるかもしれない。ようするに虫除けスプレーならぬ肉食動物避けスプレーが作れる。
千早はモニターで弧黒連峰の西側を見回す。
土地はある。ここで栽培すれば淡鏡の海が近く、鮮度を保って輸送し研究もできる。
ただし、収穫まで肉食動物から守り切れればの話だ。
教授との繋がりは大事にしたい。戦闘系依頼を送ってこないまともな人だし、力になりたい。
報酬はやや少ないが、教授も研究費の捻出に苦慮しているのだろう。
「……準備しよう」
大型動物が寄ってくると分かっているなら、追い返せるようにあらかじめ防備を固めればいい。
まずは物資の購入から、と千早はいつも通りに手榴弾などを買い込もうとして、手を止める。
「高騰してる……?」
どうやら一時的に品薄になっているらしく、次回の入荷まで高値どまりらしい。
困った千早は測量データをモニターに表示して障害物の設置場所を考え始めた。
爆発物で仕留められないのであれば、簡単にはたどり着けないように障害物を置いて時間を稼ぎ、千早自身が山頂からオールラウンダーで手榴弾を投げる形にすればいい。手間はかかるが、罠として設置するよりも手榴弾の数は少なく済む。
あれこれと考えていた千早の前でスマホが震える。
「新界生配信さん?」
代表の榛畑から直接の依頼が届いていた。
どうやら、新界生配信の企画で弧黒連峰を舞台にしたアスレチックを建設し、イベントをしたいらしい。
陽キャの考えることはよくわからない。新界でアスレチックを作ったとしても参加者はアクタノイドになる。体力勝負というより機体の性能勝負になる。
断ろうとしかけて、千早はふとモニターを見た。
「あ、そうだ」
※
『さあ、いよいよ開催、新界アクタノイドアスレチック! 参加枠は全機体、オールラウンダーからオーダー系までより取り見取りだ! 今後打ちあがる監視衛星が見逃したことを悔やむような熱い勝負を期待しているぜ!』
弧黒連峰西側斜面に多種多様な障害物が建設されていた。
大型動物はもちろん、半端な技量のアクターでは踏破不可能な障害物たちは企画者の新界生配信と千早が悪ノリ混じりで設計し、新界ツリーハウジングが監修して築き上げられた代物だ。
「山城かよ」
参加者がツッコミを入れるくらいにはがちがちに防御が固められている。
千早は山頂でフェロニアを植えながらニコニコしていた。
企画予算で弧黒連峰西側の防御を固められたので、千早の懐に一切のダメージがない。素人建築と違って新界ツリーハウジングは本物の建築家が代表を務めているので様々な面で得をする依頼だった。
唯一の懸念はこの企画に参加するオーダー系狙いの盗賊アクターの襲撃だったが、榛畑に一笑に付された。なんだか凄腕のアクターが守護神の如く見守っているらしい。
配信を映しているモニターから榛畑の声が聞こえてくる。
『ルール違反の不届き者にはボマー様から手榴弾のお仕置きがプレゼントされるぞ? 他は巻き込まれないように要注意だ! マジで見境ないからね?』
凄腕守護神はボマーというらしい。
畑を爆破しないでほしいな、と思いながら、千早はフェロニアに水をやった。
『千早ちゃんの評判に深刻なエラー 4』が本日発売します。
書店などで見かけたら手に取っていただけると嬉しいです。
ネタバレ防止のため、四巻の感想は活動報告にお願いします。




