書籍二巻 販促SS♯1
短編のつもりが四話構成になってました。
10/102巻発売!
予約お願いします。
雪山にボマーが出ると噂になっていた。
その噂を確かめるべく我々、新界生配信は雪山に急行する。
「――ほほぉ」
動画のナレーションを聞き流しながら、千早は弧黒連峰で畑を耕していた。
衛星打ち上げの話もあり、これからは新界での農業など、様々な資源を増やし研究する段階だと、千早は想像している。
山一つを所有し、広大な農地を確保した千早はある意味勝ち組。ドンパチとは無縁な農業生活が幕を開けるのだ。
新界生配信の動画を眺めながら、事前にプログラムしておいた通りの動きをサイコロンにさせるだけの簡単農業。出来上がった作物は農林水産省が研究用に買い取ってくれる契約もしている。
「雪山はもう、過去のフィールド……ふふっ」
危険生物との追いかけっこもボマーなんて言う危険な相手の調査も、今の千早には遠い世界の話。
かつては雪山でシダアシサソリという生物と戦い、クレバスとレアメタル鉱床を見つけ、盗賊アクターから逃げ回ったりしたものだ。
だが、千早はもう次のステージ、農業フェイズに移行した。
「……ん? メッセージきてる?」
スマホが震え、アプリがメッセージ着信を知らせている。
何だろうと思いつつスマホを手に取る。メッセージ送信者はユニゾン人機テクノロジー。千早に直接の依頼をしたいらしい。
警戒しつつ、千早はメッセージの内容を見ようとして、動画の音声にびくりと震える。
『マジでいる! ボマー蠍だ!』
動画を見ると、雪山を滑走するシダアシサソリがズームされていた。その尻尾には掘削用と思われる爆薬が引っかかっている。
爆薬にはモザイクがかかっていた。通常、モザイクを掛ける部分ではない。虫が苦手な視聴者に配慮してシダアシサソリそのものにモザイクを掛けるならわかるのだが、これでは逆だ。
ボマーと呼ばれる原因になった尻尾の掘削用爆薬にモザイクを掛ける意味があるとすれば――視聴者以外への配慮だ。
「……ふへっ」
蘇ってきた記憶に、千早は引き攣った笑みを浮かべる。
クレバス周辺で、盗賊アクターとの戦闘を行ったことがある。レアメタル鉱床へユニゾン人機テクノロジーを案内した際の出来事だ。
辛勝した千早は、シダアシサソリが掘削用爆薬を尻尾に引っ掛けてどこかへ消えたのを見届けた。
あのシダアシサソリがいまだ、爆発もせずにひっかけたまま行動しているらしい。
千早は手元のスマホ画面に目を向ける。
ユニゾン人機テクノロジーからの依頼内容は、言ってしまえば後始末だ。
『当社のロゴが入った掘削用爆薬を保持するシダアシサソリ、識別通称ボマー蠍の討伐』
他社に被害を出そうものならスキャンダルだ。すでに噂になっているため、早々に片付けたいのだろう。
だが、下手にこの失態を拡散したくもないため、シダアシサソリが掘削用爆薬を持って行く現場を見ていた千早に直接依頼をしているらしい。口止め料も込みなのか、依頼料も相場よりかなり高い。
シダアシサソリ自体はそれほど強くない。だが、雪山で掘削用爆薬を持っているのが厄介だ。銃弾が爆薬に命中すると雪崩が起きかねず、周辺被害も馬鹿にならない。
『爆発物の扱いに長けるうさぴゅーさんならばと、期待しております』
「うぇっ」
何やら期待されている。
千早はすでに涙を目に浮かべながら、どうにか断れないかと視線を彷徨わせる。
しかし、ユニゾン人機テクノロジーはいわばお得意様だ。自衛隊から費用が支払われているとはいえ、一点物のコンセプト機、童行李を自爆特攻させてしまった負い目もある。
あのボマー蠍の誕生経緯を知っているのは千早くらいで、あまりこの情報を拡散されたくないユニゾン人機テクノロジーの意図も合わせると、千早が受けるのが一番丸く収まる。
「うっうぇっへ……」
依頼を受ける理由はある。受けない理由はない。受けたくない理由は特大。
千早は受けたくない理由が自己都合の場合、強くは出られない。
「うけ、受ける……受けます……」
苦渋の決断をして、千早は涙を拭った。
「いまさらなんでぇ……」




