第九十話、集いし英傑! ~姫様たちの百鬼夜行~後編
あたしによるメンバー紹介は続いていた。
既にゾンビとか――。
近所の猫ちゃん(強)だったりを紹介した後だったので、本物の石油王が登場しても反応は鈍かった。
イケオジフォームになっているネコ執事、月兄の眷属である守衛猫さんは複雑そうな顔をしているが。
こればっかりはしょうがない。
順番の問題というか、インパクトの差というか。
まあ政府関係者だけは、石油王の存在に一番脅威を感じていたようだが。
その辺は経済のアレコレもあるのだろう。
石油王の息子のホークアイ君。
自慢の息子に活躍をみせたいお父さんとしては、ここで頑張っておきたいようである。
ま、今はここにいないんですけどね。
一通りの紹介を終えたあたしは、明るさを前面に出した姫様スマイルをしてみせ。
会議場と化した応接室に響く声を上げていた。
「と、まあ! だいたいはこんな感じよ! みんな! フレンドリーファイア、同士討ちをしないように気を付けて行動してちょうだいね♪」
初対面での連携はなかなか難しい。
集団行動はそれが一番怖いのである。
遅れて合流をした実は変人枠の女性、キリっとした軍人風ウーマンな二ノ宮さんが手をあげる。
「姫殿下、質問があるのだが構わないだろうか」
「ん? どったの? 駅弁ならちゃんと二ノ宮さんの分も取ってあるわよ?」
重要な事実を伝えたのだが。
池崎さんが再びモニターの中でキシシシっと嗤う中、二ノ宮さんも苦笑してみせる。
「君はあいかわらずだな。ありがたく後でいただくが、そうではない。異界からも人を呼んだと報告を受けているが――我らは把握していない。支障なければ紹介していただきたいのだが? 構わないかな」
宝塚ファンならうっとりしてしまう女性の美声である。
きっと二ノ宮さんはこういう会議でも、凛とした声を発してるんだろうなあ。
しかし、彼女の言葉にあたしは異界の姫としての顔で――ふふっと悪戯な笑みを浮かべていた。
「そうね、紹介が遅れてごめんなさい。けれど、もう皆さんのすぐ傍に顕現しているのよ? あなたたちがただ、気づいていないだけ。自分の足元を見る癖をつけておいた方がいいわ」
「足元……?」
呟く二ノ宮さんが下を向くと、そこには当然、影がある。
そして影の中には何がある?
決まっている、そこには猫魔獣のテリトリー、影世界がある。
ネコは影に生きるもの、皆が影使い。
影あるところに、猫があり。
と、まあそんなわけで!
「紹介するわ、彼らはあたしの眷属である三魔公。そしてその偉大なる異界の公爵の領地に住まう領民、猫魔獣の皆さんよ!」
あたしが告げた、その途端。
皆の影が、うにぃ~っとチェシャ猫スマイルを作り出す。
そう、皆の影の中からかわいいネコがうにゅっと顔を出していたのだ。
膨大な魔力で揺れる中、シュバっとあたしの影から飛び出したのは三匹の魔猫。
クロシロ三毛!
まずはクロが、カラスの濡れ羽色の獣毛をギラつかせ!
ででーん!
『フハハハハハハ! 恐れるがイイ、人間よ! 我が名はシュヴァルツ! 黒魔公の名を冠する、三魔公が一柱! シュヴァルツ=ニャ=カーター公爵とは何を隠そう、わたしの事なのである!』
ビシっとポーズを取る公爵の姿に、黒猫の領民たちが肉球拍手!
続いて白きモフモフが、ふっと前に出て!
『控えなさい、人類よ! 我が名はヴァイス! 白刃公の称号を拝命せし、猫聖騎士。三魔公が一柱、ヴァイス=ニュ=カッツェ大帝! 人呼んで、白刃のニャーロードとは、ワタクシの事なのですよ!』
朗々と宣言する領主で公爵なネコ騎士の宣言に、白猫の領民たちが拍手喝采!
さらに続いて、三色の獣毛を凛々しく輝かせ!
ぶにゃ!
『我を崇めなさい、人の子らよ! 我が名はドライファル! 三賢公の聖名を預かりし、混沌たる調停者! ドライファル=ウニャ=キャリコ教皇! 迷える者は吾輩をこう呼ぶのである、すなわち! 三魔公の長と!』
さりげなく長と名乗ったドライファル教皇が錫杖を鳴らし、モフ毛を光らせる。
が――!
当然、聞き捨てならなかったのだろう……シュヴァルツ公とヴァイス大帝が、ギロ!
『ぶにゃ!? ドライファル! そなた! いつからキサマが長となった!』
『そうであるぞ、三魔公の長にふさわしき猫は我! このヴァイスに他なりませぬ!』
あ、今度はヴァイス大帝がさりげなく長アピールを始めてるし。
もうこうなったら止まらない。
シュヴァルツ公が、うにゃっと割り込み眉間に邪悪な皺を刻む!
『ヴァイスよ、キサマもか! 三魔公がトップは我! 全てを吹き飛ばす黒き稲妻たる、このシュヴァルツにこそふさわしいと言っているであろう!』
『ほお! 吠えましたな、シュヴァルツ公! 全てを説き伏せる吾輩の説法こそが最強! このドライファルこそが、三魔公の頂点だと自負しておりまするが?』
腕を組んだ黒猫と、三毛猫が額をぶつけあう中。
白猫が朗々と両手を広げ、肉球をぷにん♪
『否! 魔術による破壊も、精神攻撃による破滅も時代が古い。やはり物理が全てを支配するのです! 剣と爪にて道を切り開くことこそ! 三魔公の頂に立つにふさわしき力! このヴァイスこそがリーダーとなり、モフ毛伝説を作るべきであるのでは!?』
クロシロ三毛の、三色の毛玉がウニャニャニャ!
あぁ……なにやってんだか。
洒落にならない魔力がぶつかり合い始めている。
三魔公たる三魔猫は本物の大物猫魔族。
毛を逆立て、ぎろっと睨み合うだけでビリビリとした殺気が会議室を揺らしていた。
ゴゴゴゴゴゴ!
正直、ディカプリオ神父なんか屁の河童。
つまようじの先につけたごま塩並みにしか感じないほどの、膨大な魔力をぶつけあっている。
こっちの方がよっぽど世界を滅ぼしそうな危険度なのだが。
まあ、皆にはこのネコ達を怒らせないでね?
と、伝わっただろうから、これはこれでいいか。
それぞれの領民ネコは、まーたやってるニャと仲良く観察しているし。
あたしは呆れた顔で、頬を掻き。
「あのねえ……悪いんだけど、これ。真面目な会議なんだから……ね?」
駄目だ、こりゃ。
完全にこの機会に誰がトップか、決めようという魂胆で話を聞いちゃいないや。
三魔猫のリーダー奪い合い対決を気にせず、二ノ宮さんが言う。
「姫殿下、とりあえず強力な助っ人であるとは分かったのだが――彼らの領民、すなわち異界の魔猫が我らの影の中に入り込んでいる。そして、サポートをしてくれる……そう考えても?」
と、めちゃくちゃ荒れ狂ってる会議室を気にせずにいる彼女。
この人……。
三獣神、ハウルおじ様の使徒だけあって、神経が図太いなあ……。
「その通りよ。もし死にそうになったら影からネコが出てきてなんとかしてくれる、そう思ってくれていいわ。まあ保険みたいなもんだし、猫って気まぐれだから絶対安全ってわけじゃないの。一応、ちゃんと自衛もするようにお願いするわ」
話を聞き、やはりまったく動じていない二ノ宮さんがスゥっと立ち上がり。
全員に聞こえるように、宣言する。
「聞こえたな、公僕達よ! 姫殿下は死者を望んではいない! 各自、自らの身は自らでも守れ! 特に、我が部下たちよ! もしネコ達の足を引っ張るような真似をしてみろ、訓練を初期からやり直しだ! 誰一人死ぬな! 殺させるな! ただし、民間人のためならばその命を張れ!」
うわぁ、軍人さんのノリだぁ……。
しかも今のを聞いて、体育会系の彼女の部下はちゃんと鼓舞されてるし。
刑事さんたちは……微妙な所かな。
こちらの状況を眺めていた天使のジブリール君が、なにやら複雑そうな顔で言う。
「……おう、姫さんよ」
「なによ、その顔は」
こいつ、狂戦士の代表格みたいな性格のくせに。
真人間代表みたいな態度をしおってからに。
まあディカプリオ神父から解放されて、人間味が戻ってきたのかもしれないが。
「あの三魔猫ってやつらが強えのは分かるが……その領民とかいう、この影にいる猫の連中。一匹一匹が、オレよりも強くねえか?」
なかなか正確な認識であるが。
はて、何をいまさら言っているのか。
「当たり前でしょう? 猫魔獣、ようするにネコよ? そもそも召喚とかの例外を除いて地球に入ってこられるのは、それなり以上のレベルの存在だし……強いに決まってるじゃない」
「いや、だって領民ってことは……一般人……いや、ネコだが。とにかく、民間人じゃねえのか!? なんでただのネコがこんなに極悪なレベルで、オレ様より圧倒的に強いんだよ。おかしいだろう!?」
その頬には強者を察した緊張の汗が浮かんでいる。
ああ、と納得した顔をしてあたしが言う。
「あー、そっか。あなたたち地球人は知らないのね。ネコって大魔帝の祝福や加護、そして魔王陛下からモフモフを強化する恩寵を受けてるから。最強種族の一角よ?」
「大魔帝に、魔王? いや、意味わかんねえんだが。つーか、ネコが最強って……異世界ってどうなってやがるんだ……」
露骨に翼を落とす彼は、モノのついでとばかりに続ける。
「ちなみに、一角ってことは、他に強い種族がいるんだろう? 他の最強ってのは……なんなんだ?」
「犬とニワトリよ」
これはロックおじ様とハウルおじ様の影響である。
もはやジブリール君は深くは語らず。
ただ、「お、おう……」と困った言葉を零していたが、一応注意を促す意味でも、あたしが続ける。
「その次辺りに悪魔や精霊族かしらね。悪魔にも精霊族にも強大な魔帝……って言っても分からないか、魔王軍幹部がいるから種族自体が強化されてるのよね」
魔王軍幹部の言葉に、一部の政府関係者からザワめきが起こる。
異世界事情を知らない者にとっては興味深い話なのかもしれないが。
今はそこは本題ではない。
犬や猫やニワトリ。
ようするにアニマルが強いという常識を知っている三人。
池崎さん、ヤナギさん、二ノ宮さんはまったく動揺していない。
ヤナギさんが眼鏡を輝かせ言う。
「それで――ネコの方々への依頼料はどうなさいますか」
「あら、簡単よ。彼らの目的は本場のチュー……って、猫に詳しくない人には分からないか。地球産の液状オヤツに夢中になっててね。報酬は大量の液状ネコおやつで問題ないわ」
ヤナギさんが頷き、魔導契約が果たされる。
もはや突っ込むことにつかれたのか、ジブリール君が気の抜けきった顔でぼそり。
「で、これで終わりか? 終わっていいなら、あの糞神父の根城だったり、計画だったりを説明してえんだが――」
「あ、ちょっと待って。もう一人、助っ人を頼んであるのよ」
あたしの言葉に公務員と政府関係者の肩が、びくりと揺れる。
これ以上、問題を増やすな。
そう言いたげな目であるが、こっちはこっちの事情もあるのだから無視。
彼らは今の問題、ディカプリオ神父をどうにかしたいだけなのだろうが。
こちらはその背後にいる、黒幕ともいえる”魔女と猫の呪いたる黒死病”の擬神化された存在。
便宜上、パンデミックと呼ぶことにするが……。
かつての池崎さんをどうにかする事が本命なのである。
極端な話、あの神父を滅ぼすだけなら話は早いのだ。
洗脳でもなんでもこちらがし返せばいいだけ。
まあミサイルが飛んでくるが、それも一応対策済み。
問題は、パンデミックが別の存在を災厄の核に認定し、また同じことを繰り返すことにある。
それを阻止するために、ディカプリオ神父というわかりやすい悪役を選定している最中に、どうにかしたい。
それがあたしと、池崎さんの思惑なのである。
そんなわけで強力な助っ人が必要、これから呼ぶ相手は一応強大な存在という事だ。
なので静寂が必要。
荒ぶる三魔猫を猫使いの力で静かにさせ――。
真面目な口調であたしが言う。
「ディカプリオ神父が洗脳に成功している理由、その一つに天使を連れているって部分があるでしょう? 人間って見た目に騙されやすい種族だから、相手に確実なアドバンテージがあるわ。そこでね? その対策にこっちも天使っぽい人を呼んだのよ。今から呼ぶけど、ちょっと偉い人だから――なるべく失礼がないように頼むわね?」
「姫さんよお……偉い人って……誰なんだ」
「そんな疲れ切った声を出さないで。これで終わりだから――あたしの大おじいちゃん。母方の血縁で……おじいちゃんの更にお父さん、いわゆる曾祖父にあたる存在よ」
あたしの声に反応し――。
世界が――揺れた。
それはさながら神の降臨。
天が割れ、世界が光に満たされていく。
聖なる存在を祝福するように虹が掛かり、平和を象徴とする鳩が讃美歌を吟じ始めていた。
まあ……駅前の鳩がいきなり神を讃える舞を披露し始めていることになるので。
めちゃくちゃビビるだろうが。
幸か不幸か現在、この日本は洗脳騒動で混乱中――いわゆる些事である。
そして、彼のモノは降臨した。
光と炎が、神々しく大地を突き刺す。
そのまま光はこの会議室の真上に移動し――光の柱が、物理現象を捻じ曲げ入り込んできた。
声がする。
『遠き青き星――原初の神が作りし世界。ふふ、まさか我がこの地に降臨する日が来ようとは。巡る因果とは、皮肉なものであるな』
古き神。
あたしのひいおじいちゃん、が顕現する。
きぃいいぃぃいぃぃぃぃぃん!
その者は、聖炎を背後に抱き顕現していた。
彼のモノは楽園。
すなわち、エデンの園に似た世界の権力者であった聖父。
見た目のイメージを告げるなら、まさに大天使そのもの。
そう、あたしは天使に対抗するために本物の大天使の助っ人を呼んだのだ。
皆はその美しい大天使の姿に目を奪われ――。
て……って、あれ?
奪われるどころか、困惑とジト目?
あたしが見上げると――。
黄金の毛並みが、そこにあった。
柔らかめのタワシのようなボディのでっかいネズミさん。
鬼天竺鼠ともいわれる、カピバラさんのフォルムである。
……。
あ、ああぁああああああぁぁぁぁ!
あたし、そういや!
ちゃんと大天使の姿で顕現してね♪
っていうの、忘れてたぁぁああぁぁ!
こちらの動揺も気にせず、顕現したカピバラさんが口をもしゃもしゃさせて。
ハート型の肉球を輝かせ。
ドヤァァァ!
『我らが世界の源流たる世界に生きる者――人類よ、がはははははは! 我こそがアカリの曾祖父! 聖父クリストフ! うむ、許可を与える。太陽を拝むが如く、我尊顔を拝謁せよ! そして、存分に見惚れ! 畏れるがよい!』
想像してみて欲しい。
ものすっごい神々しい聖なるオーラを纏い、ホタルのような聖光を周囲に纏う。
偉そうなカピバラさんを!
つぶらな瞳をモキュっと閉じて、大おじいちゃんが全開の聖なるオーラを。
ぺか~♪
六対の、大天使の翼を背後に抱き――カピバラさんが開眼する!
『汝らに神の祝福があらんことを――!』
実際に、ものすっごい強化効果のある神の祝福をバラまいてくれているのだが。
たぶん、皆。
どう突っ込んだらいいか悩むだろう。
「カピバラじゃねえか!」
その中でも口を開いたのは、やはりジブリール君。
ハッと我に返ったあたしも唸る。
「お、大おじいちゃん! なんでリラックスモードで来てるのよ!」
『んぬ? 我が魂の曾孫、アカリよ。そなたはなーにをそんなに慌てておるのだ? ちゃーんと呼ばれた通り、顕現したのであるが?』
言って、会議室の真ん中にソファーを顕現させ、モフ!
カピバラさん、豪快にくつろぎモードで駅弁に手を伸ばす。
シュウマイ弁当の香りが、ふしゅ~っと広がっていた。
そのままシュウマイ弁当を軽く平らげ、すき焼き弁当に手を伸ばす。
流れるような連続攻撃であるが……。
今回のゲストを誰にも伝えていなかったせいだろう、沈黙は重い。
この混沌の中でも一人冷静な男。
ヤナギさんが頭痛を堪えるような顔で、あたしをじろり。
「アカリさん……このカピバラさんが、超強力な……助っ人、なのですか? というか、ひいおじいちゃんというのは? すみません、理解の範疇を超えているのですが?」
「えーと、簡単に言うとあたしの曾祖父にあたる古い神様で……楽園って呼ばれてる特殊なエリアに住んでいた、本当に由緒ある存在なのよ。ほ、ほんとうはね! すっごい大天使ですって見た目なのよ! これは仮の姿っていうか……で、あたしのひいお爺ちゃんっていうのも本当で……血筋で言えば魔王陛下のお父さんにあたる大物なのよ、これでも」
慌てて説明するあたしに、ヤナギさんがぎょっと眼鏡を曇らせる。
その顔には――。
まーたあなたはやらかしましたね……と書いてある。
え? なに? あたし、なにかやっちゃったのかしら。
悩む猫のように、うにゅっと眉を顰めるあたしにペスが言う。
『のう、娘よ――そなた、今さらっとばらしたが。このカピバラ……魔王の父にあたる神なのであろう? ならばそなた、自分自身が魔王の孫であるという事を暴露してしまったのではないか?』
あ、あぁああああああああぁぁぁ!
そういえばうっかりしてたけど。
あたし、一部の人にしかそういう事を語ってないんだった!
魔王の孫という肩書はそれなりに大きい。
ファンタジー世界を知らない人にとっても、めちゃくちゃインパクトがあるだろう。
当然、なんかすっごい空気になっていた。




