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第七十八話、公務員、《煙の魔術師》の軌跡その4



 聞きたいことは山ほどある。

 知りたいことも山ほどある。

 でもまず確認したいのは――!


 あたしはビシっとイケザキキャットを指差し。


「それで、今この時代に生きている筈の池崎さんはどこに行ってるのよ! あなたがそのままあたし達が知ってる池崎さんなの? それとも、あなたとは別の池崎さんが今もこの世界のどこかにいるのか、その辺をはっきりして貰いたいんですけど」


 問いかけにこくりと頷き。


『安心しろ、オレはお前さんたちが知っている池崎ミツルそのものだよ。まああくまでも精神や意識はって意味だがな』

「どういうこと? あたしたちにはその辺の事がさっぱりなんで、説明! 説明! 説明を要求するわ!」


 詰め寄るあたしに二人も同意している。


『なんつーか、アレだ。今までおまえさん達と接していたのは、完全にオレと同じ存在をコピーした遠隔操作型の人間人形だった、っていやあ分かるか?』

「説明不足も甚だしいわねえ……」


 ちっとも理解できないが。

 腕を組んで、ふむ。

 あたしは魔術式を鑑定しながら、整理するように言葉を口にする。


「今から五年後、だいたい四十歳ぐらいになるあなたは世界が滅ぶとタイムリープをして二十年前、つまり二十歳の肉体に意識と自我を移す。おそらくそれがタイムリープの原理でしょう? 同一存在が同じ時間軸にいることにはならないと思うんだけど――どういうこと」

『そこで既に誤解があるぜ、お嬢ちゃん』


 ムカ!

 答えを知ってるからって、偉そうでやんの。

 うっぐぐぐぐぐ、めちゃくちゃドヤ顔をしてくれちゃって!


 まあ、ネコだから許されるけど。


「クイズじゃないんだから、ちゃっちゃと教えなさいよ!」

『二十年前のターニングポイントの位置に戻る時、オレは本来の肉体に戻ることができねえんだよ。物理的にな。だから代わりの器を用意する必要がある、それが二十年前の、二十歳の肉体のオレだな』


 イケザキキャットが肉球の先に魔力を浮かべる。

 魔術映像である。

 映し出されたのは、美貌の黒髪神父が人体錬成をしている場面。


 大黒さんが、ぽっと頬を赤らめ言う。


「あら、この、美貌のおじ様は?」

「気を付けてね、あんまりマジマジとみると魅了に取り込まれるわ。うちのお父さん、あなたたちがCと呼んでいる存在よ」


 十五年前、ホワイトハウルおじ様はここで二ノ宮さんを蘇生させ。

 ロックおじ様はヤナギさんに接触し。

 お父さんは、池崎さんの肉体を構築し、二十年後の未来からタイムリープしてくる池崎さんを受け入れる器を用意した。


 ということだろう。

 結局、三獣神……全部動いているじゃないの。


 これでようやく少し理解した。

 なぜ初めの事件の時――三魔猫による記憶消去のネコ砂アタックが、池崎さんに効かなかったのか。

 当然である、あの池崎さんの肉体を構築したのは世界最強のネコ魔術師だったのだから。


 しかし本題はそこじゃない。

 あたしは考え――。


「ねえ、本来のこの時間軸にいる筈のあなたは、どうなっているの?」

『この時点じゃ、まだ生まれちゃいねえんだよ。ま、そのターニングポイントの年にはちゃんと生まれてくるがな』

「生まれていない!?」


 ってことは。

 話を聞いていたヤナギさんが言う。


「つまり、この時間軸、話がややこしいですが――いま、この瞬間には、十五歳のあなたが別にいるという事でしょうかね」

『おう、公安クソ眼鏡、よくわかったじゃねえか』


 笑いながらタバコを探そうとするイケザキキャットが、モフ毛を探るが。

 それはただの癖だったのだろう。

 猫の状態でタバコは吸えないらしく、ふぅ……と息だけ吐き。


『ぶっちゃけちまうと、この世界の滅びの原因になっている異能力者。滅びを確定させる厄災の異能。その能力者の正体ってのが、オレなんだわ』


 ……。


「いや、そういう冗談は笑えないんですけど?」

『オレが冗談を言う男に見えるか?』

「ネコにしか、見えないわねえ……」


 冗談ではないらしい。

 つまりだ。


「今、あなたとは別に存在する、十五歳の池崎少年をどうにかすればいいって事なんでしょうけど。なるほどね、あなたがどうして滅びの異能力者をどうにかしようとしなかったのか。ロックおじ様があまり多くを語らなかったのかも、理解出来たわ。どうにかしようとしても無駄って事ね」

「あら、どうしてなのアカリちゃん。タイムリープする前の池崎さんが滅びの異能力者なら、その子を探して……その、どうにかすれば滅びは避けられるわけでしょう? 解決しそうに思えるけど」


 まあ単純に考えるとそうなのだが。


「じゃあ大黒さんに聞くけど、その情報源を誰がもってきてると思う?」

「それは――ここにいる池崎さんで……」


 混乱する大黒さんの言葉を、引き継ぐ形でヤナギさんが言う。


「仮に滅びの少年と呼んでおきますが……、池崎による介入でその少年を殺してしまったり封印してしまったりすると、滅びの未来はなくなる。けれどです。同時にその時点で、池崎――あなたのタイムリープ自体が発生しなくなることが確定してしまうわけですね。ここに問題がある」


 時間軸を表にしながら、理知的な顔で彼が続ける。


「池崎がタイムリープをしてこなくなるとです、滅びの少年をどうにかすること自体が、なかったことになってしまう。なにしろ未来から来たあなたが介入することで、初めてその少年を事前になんとかすることができるのですからね。未来から来たあなたが関わる以上、滅びの少年をどうにかしてしまうとパラドックスが発生して前の状態に戻ってしまう」


 滅びの犯人と、滅びを救おうと未来からやってきた存在が同一人物なのだから仕方がない。


 しかし、滅ぼそうとしていたくせに。

 いや実際滅ぼしてしまう癖に、タイムリープして今度は救おうって……。

 んーむ、どういう心境の変化なんだか。


 なかなか複雑なことになっているようである。

 ともあれだ。


「そういう話なら、出逢ったあの日に教えてくれればよかったのに」

『なら聞くが、信用もできていねえ男からオレは未来から来たんだって言われて、おまえさんは信じることができたと思うか?』

「なるほど、試したこともあったのね。その言い方からすると、あたしは信じなかったわけか」


 まあ当然っちゃ当然か。

 猫の姿のまま、池崎さんがいつものように苦く笑ってみせる。


『ゲームとちゃんと向き合っていないお前さんは、もっと尖ってるからな』

「あたしも知らない、あたし――ねえ。なんか複雑な心境だわ」


 ヤナギさんが言う。


「性格が多少異なる程度なら、まだいいのではないですか? 大黒は死んでいるわけですから」

「そうですねえ、池崎さんに感謝しないといけないのかしら」


 にっこりお姉さんスマイルな大黒さんであるが。

 色々と思う所があるのか。

 池崎さんは困った顔をしてみせていた。


『感謝する必要なんてねえよ。オレは、大黒。何度も世界を繰り返す中で、何度もお前を見捨てているからな。それも一度や二度じゃねえ、何度もお前の死を……見なかったことにした。助けようと思えば、助けられる場合でもな』


 それがタイムリープという現象の負の部分か。

 そう、彼は選ぶことができるのだ。

 死ぬと分かっている人を助けるかどうかを。


 あたしがこの二人に、死相を見た時と似ているかもしれない。

 あたしは見捨てることができず、結局二人を助けたが――。

 世界を救うルートを探す途中で、池崎さんは何度も彼女の死を容認していたということだ。


 けれどだ。

 大黒さんは笑みを浮かべてみせ。


「うふふふふ。そんな落ち込むことはありませんよ、池崎さん。それでもこちらとしてはやはり、感謝を伝えさせて貰うわ。ありがとうございます、救っていただいて」

『分かってねえな、お前は。だから、オレはだな、お前さんを何度も』


 言葉を遮るように、イケザキキャットの鼻頭を指で押し。

 大黒さんはまっすぐに池崎さんを見て、唇を動かしていた。


「それでも、今こうして――あなたの前で微笑んでいるでしょう? たぶん、あなたのおかげでね。他のルートがどうなっていたかは知らないけど、今は今じゃない。それってやっぱり、感謝したいって思ってもいいんじゃないかしら?」


 それでも今の彼女が、彼に助けられたという事に違いはない。

 そういいたいのだろう。


 恥ずかしいのか――。

 池崎さんは、知るかよと、横を向いてしまったが。

 まあ、少しはその心も救われたようだ。


 なんか、関係性も時間も事件も、色々と複雑になってきている。

 今までの事件。

 あたしの歩んだ物語、全てが実は繋がっているのだろうが――。


 まあ分からないことは、丁寧に紐解けばいい。

 一つずつ解決していけばいいだけの話である。

 次にあたしが言う。


「それで、話を戻して悪いんですけど。結局、あなたの肉体はいま、どうなっているわけ? いままであたし達と接していた、お父さんが人体錬成で作り出した器があるはずなんでしょう。なんでネコになってるのよ!」


 詰め寄られ、ふぅ……とネコ吐息。

 ジト目のイケザキキャットが、デカい溜息であたしの髪を揺らしながら。


『本来のオレの本体。今、十五歳のガキが破滅を招く厄災の能力者だってことは説明したよな?』

「ええ、忘れるわけないでしょう。それがどうしたのよ」

『そっちと勘違いされて。ディカプリオの糞野郎に呪いをかけて逃げていたところに、奇襲されてな。おまえさんの兄貴に殺されちまったんだよ』


 ……。

 あぁ……、まーたあたしの関係者でやんの。


 なるほど。

 それでいつも接していたイケオジ未満の肉体を壊され、ここにあるネコの器に入り込んでいるのだろう。

 タイムリープが発動しなかったのだとすると、まだ解決策があるという事だと思うが。


 それにしても。


「月兄ったら、結局池崎さんを殺しちゃったのね……」

『いや、そっちじゃねえよ。今回のオレを殺したのは、マジになったおまえさんちのご長男様。狂える炎の機械男チクタクマン、全世界の機械を操り何度も世界を崩壊させる問題児。炎舞の兄貴の方だ』


 さすがにあたしは動転していた。


「って!? 月兄じゃなくて、炎兄が!? どういうことよ!」


 あたしが慌てるのは面白いのか。

 他人事みたいな顔で、ネコ髯とモフ毛を膨らませ池崎さん。


『よく考えてみろ、オレは嬢ちゃん――おまえさんを騙して近寄ってきた未来人ともいえるだろう? それにだ、オレの存在自体がお前さんにとっては、正直マイナスなんだよ。ルートによってはおまえさんの死のきっかけにもなってやがる。そこをあの炎の兄貴は調べつくしたんだろうな。おまえさんも、おまえさんの兄も、良い奴だ。敵としても、味方としても何度も対峙しているからよく知っている』


 本当に詳しく知っているようだ。

 ……。

 た、たぶん敵対ルートを進んでいるときは、めちゃくちゃ大変だっただろうなあ。


『だからこそ知っている。おまえら異世界人、いや日向アカリとその関係者は明確な優先順位をもって行動しているんだよ。仲間が大事、身内が大事、家族が大事。その大事な家族のためなら、なんだってしちまうんだ。そう、なんだってな。今回もそう。たとえ、おまえさんに嫌われようとも――妹のためにオレを殺す選択をしたってわけだ』

「で、でも……あんなに仲良くしていたのに」


 そう、池崎さんと炎兄はけっこうイイ感じに友好関係を築いていたのだが。


『だからあいつ、言ってやがったよ。オレを焼き殺す時に――恨むのなら恨んでくれていい。それでもオレは、お前を消す。妹のためじゃねえ、妹の事で心を痛めるオレ自身のためにな――って。辛そうな顔でな』


 あたしは冷静になって考える。


「そうか、炎兄にしてみれば優先順位はこの世界じゃなくて、家族。最終的に世界が滅んだとしても、異世界に帰ればいいと思ったのね」

『ヤツは精霊国の皇子。割り切った価値観と、冷徹な一面をもっている皇族だからな。実際、オレは嬢ちゃんを何度も不幸にしている。先の話だがな。クソ生意気だが大事な妹にたかる害虫を駆除しただけだ、間違っちゃいねえ選択だよ』


 あたしは言葉を詰まらせてしまうが。

 池崎さんが言う。


『それでとりあえず頼みがある。わりと急ぐ頼みだ』

「えーと、構わないけど。なんなの?」

『もうしばらくしたら炎舞の兄貴がここにやってくる。おそらく、全てを破壊するためにな。さすがにこの拠点を壊されたら、もう二度とタイムリープはできねえ。未来が確定しちまうからな、炎舞の兄貴からこことオレを守ってくれねえか?』


 めちゃくちゃ厄介なことを言い出した。


「ちなみになんですけど、ここが破壊されたって事は今まで――」

『一度もねえよ。発見されたのも今回が初めてだ。だから、この後どうなるかはオレにも分からん』


 涼しげな顔で言っているのだが。

 あたしは、ぐぬぬぬぬ!


「そーいうことは! もっと早く言いなさいよ! 炎兄と戦いになるなら、もっと準備しないとまずいでしょうがぁぁぁぁあぁ!」


 というわけで。

 とりあえず、ここを探っている炎舞兄と本気で戦う事になりそうです。

 ……。

 って! 落ち着いてる場合じゃないんですけど!?



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[一言] 今回の滅びは兄妹喧嘩かあ(棒
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