第六十五話、アンダーグラウンド! ~幹部が誘う秘密結社~後編
前回の超かしこいあらすじ。
かわいいあたしのかわいい犬のペスが、危険を察知した!
てなわけで!
あたしは、すぅっと髪の色を根元から赤く染め上げ――聖剣を召喚。
キラキラっと♪
輝く白い魔力を散らしつつ、宣言する。
「よーし! ペスが言うからにはなんかあるに違いないわ! みんな、警戒して!」
『ぬはははははは! 我を信じ臨戦態勢に入るその判断の早さ、評価してやらんでもないぞ!』
影から飛び出したペスも死霊魔導書を浮かべて、ふふーん!
肉球と鼻の頭を光らせ、ドヤ!
あたしもそのまま虹色に輝く聖剣を、ぐるん!
周囲にも、聖剣の乙女として生み出した浮遊剣を展開!
武器を取り出したあたし達に、亜門さんがぎょっと顔を引きつらせる。
「お、お嬢ちゃん! なにするつもりよ! それに、その髪に白い肌は!?」
「あれ? あなたはそういえばあたしの赤雪姫モードを見たことはなかったんだっけ――厳密にはかなり違うけど、まあ、戦闘モードと思ってもらえばいいわ」
中がどうなっているのか、意識を集中させるが――。
……。
だぁぁぁあぁぁぁ! ノイズが酷くて読み取れない!
アリの群れを望遠鏡で覗いている気分である。
「ダメね――あたしの力が偉大過ぎて、確認できないわ。亜門さん! 中の人と連絡は取れないの?」
「い、今やってるわ! でも、連絡が取れないってこと自体が答えじゃなくって?」
さもありなん、か。
あたしの手から抜けだしたヤナギさんも、翼にタロットを握り。
魔法陣を展開。
仕えている神、神鶏ロックウェル卿おじ様への誓いを述べるように、翼をバササササ!
コケっと舞を披露してみせる。
鳥足の先から、砂塵を浮かべ。
『我が主の御心のままに。異能解放します――《鶏冠輝く金塔戦車》』
ジャリリリイッィィン!
ミニスフィンクスの戦車に乗る、ニワトリさんに変身する。
戦車――勝利を司る、戦闘用の《アルカナの獣》だろう。
これがヤナギさんの異能力なので、こちらも問題なし。
人間としてはやはりレベルの高いヤナギさんが、タロットを握り――感知の波動を放出。
静かに告げる。
『扉の中に、人ではないモノの気配がありますね――ペスさん、あなたの感知は?』
『ニワトリ男よ、そなたの言う通り。相手が弱すぎて我が主には察知できんようだが、明らかにこの世の法則と異なるモノがおるわ!』
おー! ペスがあたしのことを我が主って言ってるじゃない!
照れるだろうから口にはしないけど。
なーんだ、やっぱり主人だって思ってるのね……!
しかしだ。
人ではないモノの気配?
白い雪肌を光らせたあたしは、ぐぐっと眉間にシワを寄せる。
近眼の人が、見えないものをよぉぉぉぉっく見ようとする顔である。
「あれ、これって――魔物ね。しかも、異世界の。襲われてるんじゃない? この中」
ぷっくらと唇を動かすあたしも可愛いわけだが。
戦車モードのヤナギバードさんがコケっと、鶏冠を向ける。
『異世界の魔物? ということは、アカリさん達の世界からの、侵入者……ということですか?』
ふふっとあたしは妖しく微笑する。
「あら、そうとも限らないわよ。ここの亜門さんや、うちのペスみたいに異能力によって異世界の魔物を召喚、または再現して顕現させることはできるもの――。それに異世界からこの世界に来るのって、誰にでもできるってほど簡単なことじゃないのよ、なんでもあたし達のせいにされても困るわ」
『そう、なのですか? ではやはり、あの方やあなたの父君が特別、ということになるわけですか』
それもあるが――。
「あなたたちが住む魔術のない地球。この世界は、ちょっと特殊なのよ――魔術の気配がほとんどなかった世界ですもの。入ってくるにもそれなりの力がいるって事」
あたし達の世界に伝わる逸話によると。
全ての始まりはこの地球。
魔術がなかったはずのこの世界で産まれた強大な存在が、異世界転移をして生まれたのがあたしたちの魔術ある世界。
ということになっているらしいが。
ともあれだ。
「そういう話が聞きたいのなら、今度じっくり教えてあげるわ。だから、今は集中しましょう」
『了解です――アカリさん、こちらはいつでも』
「オッケー!」
同意するあたしは、そのまま周囲に保護結界を展開しつつ。
……って。
一人、臨戦態勢に入っていない依頼人に言う。
「ちょっと! 亜門さん、あなたもナイトメアを出して! 合図をしたら――扉をぶち破って欲しいのよ!」
あー、そういや。
あたしはもちろん戦闘慣れしているし!
ヤナギさんもペスも既にあたしに慣れていて、即座に行動してくれたが!
亜門さんだけ戦闘慣れしていないのか。
組織に雇われたとはいえ、異能力がある一般人みたいなものだろうし。
混乱気味に聖職者のベールを揺らし、彼女が叫ぶ。
「あぁあああああああぁぁ! もう! なんなのよ!」
「中に魔物がいるのよ!」
「魔物って!? ま、まあいいわ! ダーリンを呼べばいいのねっ、言っとくけど! 何か問題になったらお嬢ちゃん達に請求書を送りつけるからっ、覚悟をしておく事ね――っ!」
文句を言いつつも亜門さんが魔導書を顕現させ。
装備。
執事服を着こんだ馬面マッチョなナイトメアを召喚。
四匹の執事ナイトメアが、恭しく礼をしてみせていた。
おそらく、執事服の影響で紳士度が上がっているのだろう。
亜門さんの唇が、動く!
「異能解放! 我が言葉は主なる言葉! 悪魔よ、我が意に従い、我が願いを叶え給え!」
詠唱による悪魔使役だろう。
聖職者のベールとスリットの深いシスター服が、バタバタバタ!
魔力に揺られる中。
片手に乗せた魔導書を青白く光らせ、聖職者姿の彼女が吠える。
「いつでもいけるわよ、お嬢ちゃん!」
「じゃあお願い! 扉を破る程度でいいからね!」
頷き亜門さんが魔導書の表紙を青白く輝かせる。
魔力の光を受けるシスターの顔は、ちょっぴり妖艶である。
この女、あたしほどじゃないけど結構美人なのかもしれない。
「さあ! おゆきなさい! マイダーリン達!」
異能による命令だろう。
指示された馬面ナイトメアが、ぶわぁぁぁっと魔力を溜めこみ。
六重の魔法陣を……って、おい!
抜刀したままのあたしは、慌ててくわっと叫ぶ。
「ちょっと!? 六重の魔法陣って――、街中で使っていい出力じゃないでしょうっ! それじゃあ扉どころじゃなくて、周囲が吹き飛ぶわよ!」
「え? あれ? おかしいわね? その六重っていうのはよくわからないけど、ここまでの魔力なんて普段でないんですけど――っ」
焦る亜門さんの前で、ナイトメアたちの魔力がますます増していく。
魔術にはそれぞれ一定のレベル基準があり、二重三重……と魔法陣が重なっていき、最終的には十重で打ち止め。
それ以上先は計測限界で、判断できなくなるのだが。
六重ならば及第点以上の魔力量。
まあそれなりに高位の魔術となるのだ。
地下の特殊空間とはいえ、んなもんを街のある場所でぶっ放せば、絶対に何かが起きる!
混乱するあたしと亜門さんを見て。
ペスが冷静な声で言う。
『のう――娘よ、そなたが教室で付与した”あの執事服”のせいではないか?』
「え……っ」
あ、そーいえば。
あの時、裸でウロチョロされても困るとあたしが強制装備をさせた執事服は、そのままである。
あぁ……たぶん、それだ。
あたしの頬に浮かんだ球の汗を睨み、亜門さんが言う。
「ねえ、お嬢ちゃん。突っ込むのを忘れてたけど――あれってなんなの?」
「なんなのって……あぁ……うん。ダンジョン探索で手に入れた要らない装備だったんだけど……」
要らないと言っても、あくまでもあたしにとってはの話。
ペスがジト目で、口をわふん。
『で? どこで手に入れたのであるか?』
「あははははは、ははは……」
たしかあれは、子どもの頃。
まだ見ぬ魔導書欲しさに次元をこじ開け発見した、未踏の遺跡ダンジョン。
伝説級の装備とかがごろごろ転がっていて――。
それを装備した悪魔の力が倍増されるのは必然。
しかも、魔導書による命令なのでナイトメアたちの攻撃は止められない。
ヒヒヒヒヒン! と、馬面くんたちも自分の力に困惑する中。
あたしは冷静沈着な声で赤髪を膨らませ。
「そ、そんなことより! みんな、あたしに任せて! 生きている人だけは、結界で守るから! 死者は一人も出さないし! よしんば出したとしても、ここは異能によってつくられた空間だから、ダンジョン内判定! なんとでもなるわ――!」
言って、あたしは魔力をボファァァァァッァア!
赤と白の魔力結晶現象、いわゆるダイヤモンドダスト状の結界を形成。
広範囲に影響する、広域結界を構築――!
前回の事件で出逢ったホークアイ君の音波の異能をコピーし!
すぅっと息を吸い。
「中の人! 聞こえてるー!? たぶん、そっち! 襲われてるんでしょー! もうすぐ爆発が起きるの! 死にたくなかったら何か反応を起こして頂戴! 反応がある場所にそれぞれ結界を張って、巻き込まれないようにするからー!?」
音波の異能で倍増!
声が秘密結社に響き渡る!
「これでよし! 後は結界に守られていない魔物だけが滅ぶし、魔物が反応を起こしても結界で閉じ込める状態になるから解決! さっすがあたし! 天才的! んじゃ、ペス! あなたもお願い!」
『我の助力を求めるか――ふむ、まあよい! ガハハハハハハ! 畏れるがよい、人類よ! 死霊魔術犬の力、とくと見せてくれるわ!』
と、ペスもノリノリで尻尾をぶんぶん!
あたしと一緒に、死霊による結界を展開してくれていたりする。
よーし、良いコンビってことで!
ついでにあたしは、揺れる影に向かい言葉をかける。
「シュヴァルツ公! ヴァイス大帝! ドライファル教皇! あなたたちもフォローをお願い!」
『その言葉!』
『待っておりましたにゃ!』
『呼ばれて飛びでてウニャニャニャニャ! でありますニャ!』
三魔猫も影からにょこっと出てきて、くわり!
『にゃはははは! 新人めが狼狽えていますニャ~! しかーし、我らお嬢様親衛隊!』
『お嬢様の尻ぬぐいはお手の物!』
『さあ――、我らもキャットタワー結界を構築しましょうぞ!』
ビシ! ズバ!
うにゃにゃーん!
モフモフ魔術師たちの集いを睨み、シスター服をパタパタさせている亜門姉ちゃんが唸る!
「ちょっとそこの愉快なアニマルとお嬢ちゃんたち! 遊んでないで、早くしてちょうだい! もうそろそろ、わたくしのダーリンの巨砲がぶっ放されちゃうわ!」
「こっちも準備いいわ! 解き放って!」
その刹那のやりとりの間に――。
限界が来ていたのだろう。
ナイトメアたちが、ブヒヒヒヒーン!
魔力砲が――解き放たれた。
ズガガガゴゴゴジャァァァァァアア!
それは、螺旋を描く物理的な精神波。
ナイトメアたちの腕から、とんでもない質量の魔力が放出されていたのである。
扉ごと、どかしゃぁぁあああああああっぁぁっぁん!
けたたましい地鳴りは、砂混じりのガラスが割れる音――。
といった感じか。
周囲の空間が魔力の嵐に巻き込まれ、大規模な爆発が起きる。
しかーし! 中の人たちは結界で守られているので、問題なし!
砂煙が上がっているが、あたしの目には周囲が見えていた。
全員生きている!
死者はいなかったから、あたしは悪くない!
……。
って、わけにはいかないわよねえ。
どうみても、ここに入ってきた時の街並み……ぶっ壊れてるのよねえ。
ただ死者がいないのは、確実である。
さて、人命救助にいきますか!
と、思った矢先だった。
ナイトメアたちの暴走魔力砲の中にあり、あたしやモフモフーズの結界の対象外。
なおかつ生命反応があり、動いている者がいる。
それって、つまり。
「そこにいるのは分かってるのよ――、姿をみせなさい!」
「ほぅ――ワタシの気配を察するか」
声は素直に返ってきた。
年齢や種族は分からないが、渋い男の声である。
だが、姿が見えない。
この地下秘密結社を襲っていた犯人とみて間違いないだろう。
ならばやることは決まっている。
あたしは音波の異能で声を拡張し。
「なっ――なんてことをするの!? 街をこんなに破壊するなんて! この外道ぉおおぉぉぉぉ!」
「……は? いや、これはおまえたちがやったのだろう!」
あたしの声は倍増されているが、相手の声は倍増されていない。
つまり、弁明のしようがなーし!
おそらく大半の人はこう思っただろう。
この爆破は敵による破壊工作、街を半壊させたのは非道なる敵――と。
対するあたし達は、人的被害を抑えるために結界を張って守ってくれた恩人である。
便乗してだろう。
声を拡張させる魔導メガホンを装備し、ニヤリ!
垂れ耳をパタパタさせながら、邪悪な顔をしてペスが吠える。
『おうおう! なーんと卑劣な男よのう! 自らが街を破壊しておいて、我らの仕業にみせかけようと工作までしていたとは、な!』
三魔猫も空気を読んで音声を倍増させ。
『ニャフフフフ、よもや我らのせいにしようとしていたとは。語るに落ちるとはまさにこの事ニャ!』
『なれど、我らは貴殿が行った破壊工作を確認しております』
『然り! 許せぬ外道を相手にするのも、我らの務め。悪鬼羅刹たる破壊者を捕らえねばなりませぬな!』
三魔猫も、ドヤァァァァっとモフ毛を膨らませ邪悪スマイル!
必殺!
責任のなすりつけ成功である!
あたし達は肉球と乙女の手でハイタッチ!
これで、あたし達がやった証拠が見つかったとしても、それは敵の情報操作♪
罠である――と、なってくれるだろう。
本来ならガバガバな計画だが、あたしの《説得スキル》が上乗せされているので、問題なし!
いやあ、ペスもあたしのやり方を分かってきてるじゃない!
「な!? おい、コラァァァァ! きさまらっ! 自分で行った破壊を、全部なすりつけおったな!」
抗議の声が響くが、もちろん無視。
三毛猫たるドライファル教皇が音声遮断結界を張ったので、防音もばっちり♪
なぜかヤナギさんと亜門さんとナイトメアたちが――。
うわぁ……っと、外道を見るようなジト目であたし達を見ているが。
気にしない!
さて! 犯人退治と行きますか!




