表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

64/123

第六十四話、アンダーグラウンド! ~幹部が誘う秘密結社~前編



 案内された場所は高層ビルが並ぶオフィス街だった。


 政府が管理できていない異能力者組織。

 そこは神に逆らうように天へと伸びる、現代のバベルの塔!

 ではなく。


「あんたたち……、なに堂々と、オフィス街の地下にこーんな! 大きな空間を作っちゃってるのよ……! これ、建築法とか、大丈夫なの!?」


 そう。

 駅の近くにさりげなく置いてあるビルの扉を開けると、地下へのエレベーターが存在していて。

 そこを、ぐぐぐぐっと下り。

 チーン!


 扉が開いたその先に広がっていたのは、巨大な空間。

 地下街が築かれていたのである。


 空気は悪の秘密結社。

 といったところか。

 地下街の見た目はちょっと高級な街の、吹き抜けが特徴的なショッピングモールを想像して貰えばいいだろう。


 おそらくだが、地下に空間を作り出す異能力者がいるのかな。


 高所恐怖症の人が下を見ると、ぞぞぞぞっと背筋が凍ってしまう場所でもある。

 まあ人通りは皆無。

 外からあたし達がくることを知っていて、隠れているのだろうか。


 ともあれ。

 あたしを案内するように前を歩く女性。

 亜門セリカさんが、勝ち誇ったような笑みを口角に刻み。

 地下街の照明を受けた唇を揺らす。


「あんまり身を乗り出さないでちょうだいね、お嬢ちゃん。解呪能力者を連れてきたはいいけど、勝手に落ちて死んじゃいました。なんてオチはさすがに嫌よ」

「わぁってるわよ。ちょっと観察してただけじゃない」


 わざわざ立ち止まって、聖職者服を翻しながら。

 びしぃ!

 ポーズを取って指さしてくるのだが、いちいち大げさな姉ちゃんである。


「それで――どう! お嬢ちゃん! わたくしたちの秘密基地は!」

「どうって、うわぁ……この人たち、特撮戦隊モノに憧れていたのかなぁ、としか。ねえ? ヤナギバードさん」

『コメントは控えさせていただきますよ』


 あたしの腕の中で、ムスーっと眉間にシワを刻んでいるニワトリさんは、まあ言わなくても分かるだろうが説明すると。

 うん!

 公安でイケオジな、あのヤナギさんである!


 今回の件を巨乳秘書な大黒さんに報告し、大黒さんが皆に相談。

 誰かがついていかないと、あたしが何をするか分からない!

 というわけで、誰がついていくかという話になり――選ばれたのが公安のヤナギさん。


 ニワトリの姿なら正体がバレないということで!

 タロットカード、アルカナの獣に変身もできる彼がこうしてあたしの腕の中にいる。

 というわけなのだ。


 こういう時は、池崎さんがついてくるのがいつものパターンなのだが。

 なーんか、最近姿を見ないのよねえ。

 このタイミングで姿を消しているという事は、独自に悪魔竜化アプリの犯人を追っているのだろう。


 無茶をしていないといいのだが、あれでもレベル千だし、普通の異能力者相手なら絶対に負けない筈ではある。

 ……。

 なのだが――。


 んーむ。

 ついつい、あのイケオジ未満の事を考えてしまう。


 そんなあたしのモヤモヤを察したのだろう。

 ファサっと首周りの羽毛を持ち上げ、ヤナギバードさんが静かに口を開く。


『あの男も優秀な刑事です、元ですが、危険があればちゃんと逃げ帰ってくるでしょう。まあ普段がアレですから? あなたが心配されるのも理解できます、ですが、申し訳ないと思いますが――今はこちらに集中してください。あなたとて、大事な保護対象なのですから』

「分かってるわよ」

『おや、心配しているというのは認めるのですね。以前のあなたなら、否定されていたと思いますが』


 指摘されてあたしは、眉を下げる。


「だって、あの人、死にたがりだから――目を離すと何をするか分からないし。心配しているのは本当なのよ。無理に否定するのって、なんか子供っぽいかなって、そう思ったのよ」


 冷静な顔で、ニワトリさんがあたしを見て。


『ふむ――アカリさんは、そうしているとご令嬢に見えますね』

「いや、本当にご令嬢だし……」

『失礼、そういえば肩書だけは本当にそうでしたね。あなたは破天荒が過ぎるので、いつも忘れてしまいそうになるのです。申し訳ない』


 こいつ、真顔で言い切りやがった。


 しかも悪気はゼロ。

 この人も、本当にアレな性格よね……。

 池崎さんとコンビを組んでいるだけはある。


 まあ、あくまでも本当のコンビではなく実質的に、いつもコンビみたいに行動を共にしてしまっていただけらしいが。


 そんなあたしとニワトリさんのやり取りを観察し――。

 じぃぃぃぃ。

 亜門さんが胸の谷間が際立つ格好で前のめりになり、自らの顎に指をあて考え込む。


 ちょっと呆れ顔で濡れた唇を上下させていた。


「お嬢ちゃん、あなた本当にいくつ能力を持ってるのよ。このニワトリもあなたの使い魔なんでしょう?」

「そういうことになるのかしらねえ」


 実際。

 正体を隠す意味でも、一時的に使い魔登録をしているので嘘は言っていない。

 メガネをクイクイっと翼で上げながら、ヤナギさんが言う。


『それよりも――あなた達、アカリさんも言っていましたが――これは違法建築ではありませんか? 地下に街を作っているなどという話は、初めて耳にしましたが。看過できませんよ』

「あら~、お嬢ちゃん。あなたの使い魔、けっこう生意気じゃない♪ 声だけ俳優さんみたいで、面白いわね!」


 くすりと微笑んだ亜門さんが、ヤナギさんの羽毛頭をペチペチと叩く。

 無駄に声の良いニワトリに見えるのだろう。


『僕は一般論を述べているのです。あなたたち、ちゃんと税金を払っているのですか? 脱税は許されませんよ』

「ふふふ、生意気なニワトリさんに逆に質問しちゃおうかしら? 異能力で作られた空間に、日本の法律って適用されるのかしらねえ?」


 答えが分かっていて彼女は意地悪をしているのだろう。

 ヤナギバードさんも答えを知っているので、答えられずに――ブスーっと嘴を尖らせている。

 あたしが言う。


「異空間や亜空間。次元の異なる場所。日本という国の座標とは異なる空間にある場所は治外法権よ。あたしがダンジョン内だと銃刀法違反を気にせず、聖剣を顕現させるみたいにね。ここではたぶん、日本の法律は適用されない筈じゃないかしら」

「そういうことよ! ふふふふふふ! ニワトリさん、あなたの負けね!」


 ニワトリ相手にもビシっとポーズを取る愉快な姉ちゃんに構わず、あたしは周囲の街を観察しながら。


「それで、その呪いにかかっちゃってるって人はどこにいるのよ。問題を解決してからのんびりとここの観光をしたいんですけど?」

「いや、あのねえお嬢ちゃん。ここは一応、政府を信用できない異能力者達の秘密基地なんですし……勝手に観光を決められても困るんですけど?」


 こういう部分で、いきなり真っ当な意見を言ってくるから困る。

 公安のヤナギさん的には――この機会に管理されていない異能力者を見て回りたい、という事情もあるのだろう。

 あたしを止める気はないようである。


 樹を隠すなら、なんとやら。

 ここに悪魔竜化アプリ事件の犯人が紛れ込んでいる。

 なーんて言う可能性もゼロじゃない。


 口にはしないが同じ考えなのか、ヤナギさんは翼でクイクイ!

 あたしの手をペチペチしだしている。


 利用されてあげてもいいわよ!

 と、あたしは、にひぃ~♪

 悪戯猫の顔で口角を釣り上げる。


「へへーん! せっかく面白そうな場所にきたんですから! あたしは、か・な・ら・ず! ここで遊んでいくわよ?」

「わたくしが言うのもアレだけど。お嬢ちゃん、ちょっと変わってるわよねえ……」


 呆れるお姉ちゃんとは裏腹。

 あたしの腕の中のヤナギバードさんが羽毛をもふっと膨らませ――。

 銀縁眼鏡をキリっと輝かせる。


『しかし、そこが彼女の良い所でもありますから』

「はいはい、主人を立てる良い使い魔だこと。心配しなくても、もうそろそろつくわよ」


 カツンと音を立てて立ち止まった亜門さんが、ふふふっと微笑する。

 巨大な門の前で、仁王立ち。


「わたくし、亜門セリカの帰還よ! さあ! 扉を開けて頂戴!」


 中から誰かが明けてくれる手筈になっているのだろう。

 ……。

 なのに、反応はなし。


 頬に汗を垂らしつつ。


「あら? おかしいわね、何かあったのかしら」


 扉を無理やり手で開けようとするも、反応はなし。

 あたしが言う。


「亜門さん、あなた……怖がられてるんじゃない?」

「し、失礼ね! たしかに、悪魔様への誓いを綴った自作の聖典を売りつけようとしたときは、嫌な顔をされたけど。依頼人との関係は良好なんだから」


 震える声が返ってきた。


 んなもん売ろうとしていたんかい。

 しかし。

 本当になにかあったのだろうか。


 周囲を探索するべく、ダンジョン用の探査魔術を発動する。

 異能力で作られた空間なので、ちゃんとダンジョン判定してくれるようである。


 しかし……。

 ん~?

 人の気配がほとんどないな。


「ねえ、亜門さん。ここっていつもこんなに静かなの? 人の姿が全然ないけど」

「そういえば……変ね……ここは、買い物もできる本当の街みたいになっているのに、誰も――見えないなんてことは、いままでなかったわ」


 なるほど。

 悩むあたしの足元、影の中からペスの声がする。


『娘よ、少しいいか?』

「ペス? どうかしたの」


 あたしの影の中から、ちゃぽん!

 ビーグル犬の顔と、犬手がちょこっと覗いている。


『気をつけよ――なにかおかしいぞここは』


 感覚の鋭いビーグル犬のペスが言うからには、本当になにかがおかしいのだろう。

 あたしも感覚は鋭いのだが、いかんせん強すぎてダメ。

 周囲を這う虫と、力の弱い人間の区別がつかなかったりしてしまうのである。


 でも、ペスがこういうのならば――。

 すぅっと息を吸い。

 あたしは空気を切り替えた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ