第六十三話、依頼クエスト発生!
あたしたち異能力者学校の教室に乗り込んできたのは、悪魔使いの能力者。
亜門セリカさん。
露出度の高い聖職者姿のシスターなのだが。
教壇の前にカツカツカツと歩み寄り。
彼女はキリリ!
大げさなモーションで、あたしをビシっと指差し。
「感謝なさいっ、日向アカリお嬢ちゃん! 今日はあなたにお願いがあってきてあげたのよ!」
ででーん!
なかなか愉快な姉ちゃんである。
食べ終えたシウマイ弁当を横に積んで、あたしは片手を腰に当て立ち上がり。
「いや――お願いに来たなら、もっとこう、低姿勢で頼むものじゃないの……?」
「ふっ、甘いわね! このわたくしが、お願いにきて差し上げたのですから! それだけで感謝して欲しいぐらいなのですけれど――ね!」
馬面マッチョ悪魔たちに紙吹雪を召喚させ。
亜門おばちゃん……ご満悦である。
ま、まあ年齢からいったらおばちゃんじゃないのだろうが、どうも、こう、古臭いというか。
懐かしのDVDコレクションにでてくる特撮戦隊モノの、敵女幹部っぽい雰囲気なので反応に困る。
とりあえず、ナイトメアたちに女生徒の何人かが魅了されているので。
あたしは指をぱちんと鳴らす。
「あなたが面白おかしい人だって事だけは分かったわ。でも、ここ学校なんだからそっちの悪魔には服を着てもらうわよ」
計測限界の”十重の魔法陣”が教室の床を回転した――。
次の瞬間。
ナイトメアたちが、ヒヒヒンっと驚愕する。
馬面マッチョ悪魔たちの装備欄に、強制的に執事服を付与したのである。
亜門ねえちゃんが、なっ――っと、喉の奥まで覗かせ。
「あ、あなた! わたくしのダーリンたちに何をなさるの!?」
「あのねえ、悪魔だからって裸で歩き回られたら困るのよ」
コンプライアンス的な問題である。
なぜか一部の女子が、逆に執事服を着た悪魔たちに追加魅了されている気もするが。
……。
ああ、体格が良いから……馬の頭をしたスーツイケメンに見えなくもないのか。
物怖じしない沢田ちゃんが、召喚された悪魔とピース!
記念撮影する横で。
あたしはお昼休みが終わらぬ内にと話を促した。
「で? お願いってなんなの」
「それほどに語って欲しいのなら、語ってあげなくもないわ」
「はいはい、聞きたいから語って頂戴な」
バサっと長い黒髪を手の甲で弾く姿は、まんま戦隊モノの敵幹部。
肉感的な肢体が、なんとなくイラっとするが。
ここで突っ込んだらあたしの負け。
そもそも!
髪の毛はちゃんと、聖職者のベールの中にしまうもんなんじゃないの!
「いいでしょう――とくと聞きなさい! あなたに負け、解放されたわたくしが――あなたたちのような、政府が囲んでいる異能力者とは別口の組織に雇われ、そこで働いているということは知っているでしょう?」
「いや、知らんし」
そもそも存在すら忘れてたんですから。
そんなあたしをフォローするためか。
ナイトメア執事たちと戯れていた沢田ちゃんが、真面目な口調でリップを動かし始める。
「アカリっちは知らないかもだけど、そーいう組織があるって事はマジよ。政府だけが異能力者を囲めてるわけないっしょ? 実際、あーしも接触を図ったことがあるし、向こうからも声を掛けられたこともあるっつーか? バリバリにスカウトもされたっしょ」
なるほど。
かつてのあたしのような野良異能力者が集まった連中。
といったところか。
あたしが言う。
「ま、こうしてあたし達が学校に閉じ込められている、なーんて考える人も多いでしょうしね。でも、大丈夫なの? 犯罪組織とかだったら、さすがに放っておけないし。ここで捕まえちゃうけど」
告げるあたしに反応し、三魔猫がウニャ!
しゅっしゅ!
シャドウボクシングのように、肉球パンチで空をぺちぺちしてみせる。
沢田ちゃんがそのまま三毛猫ドライファル教皇を抱き上げ。
ちーっす!
と、呑気に記念撮影しながら、けれど真面目な口調で言う。
「あーしが掴んでいる情報の限りでは、犯罪者集団じゃないっぽいけどね~。ま、諜報活動のついでに情報網にひっかかっただけだし? 詳しく入り込んだわけじゃあないし? 責任は取れないけどね」
「なるほどねえ、沢田ちゃんが言うなら間違いないか」
さすが、諜報員として動いていたこともあるらしい沢田ちゃん。
ギャルの見た目に反して、社会の裏情報はかなり把握しているらしい。
亜門さんとやらに目線を戻したあたしは、はぁ……。
嫌そうな顔で告げる。
「それで組織に雇われたあなたがあたしにお願いって……なによ? まさか、仲間になれって話じゃないでしょうね? さすがに断るわよ?」
促された彼女は、自分に酔ったような火照った顔で。
「そういう話もあったけれどね! けれどすぐに却下になったわ!」
「あら、あたしを制御しきれないって判断したって所かしら」
顔だけ赤雪姫モードのサディスティックさを覗かせ、あたしはふふっと微笑する。
が――。
彼女は高い所に立とうと動きながら、ビシ!
「いいえ! 違うわ、甘いわね日向アカリお嬢ちゃん!」
「ああ、いちいち教壇に登らないでいいから、ちゃちゃっと話して」
「満場一致で却下された理由は単純明快。高校生に危険なことをさせるわけにはいかないでしょう、ってなったのよ!」
うわ。
めちゃくちゃまともな意見だった。
「そこはいきなり真っ当な結論なのね……」
「そんなわけで。いまわたくしが、組織から依頼されているのは人探しなの。あなた、顔も広そうだしわたくしとも既知でしょう? だから、人探しに協力して欲しいのよ」
これもまあ普通のお願いだった。
「人探しって、あのねえ――そんなの探偵でも雇えばいいでしょうが」
「探偵で見つけられるのなら苦労はしないわよ。わたくしが依頼されたのは特定の能力者。レア中のレアな人材を探しているってわけ。ここは異能力者の学校、該当する能力者がいたっておかしくはないでしょう?」
なるほど、異能力者探しか。
それならこの学校に乗り込んできた事も、あたしを訪ねてきた理由も納得できる。
「しかし、今更だけどよく入り込めたわね。ここが異能力者の学校って事は、一応秘密になってる筈じゃない。それに、職員さんに止められなかったの?」
ただ愉快なお姉ちゃんだからギャグで済んでいるが。
それこそテロリストだったら大問題である。
まあ、また来たらぶっ飛ばすけど。
しかし彼女は勝ち誇った笑みを浮かべ、にひり!
桃色の胸を張って自慢げに言う。
「日向アカリの知り合いだと言ったら、ああ……あの子の……やっぱり……って、ちょっと引き気味だったけど。あっさり通してくれたわ!」
「だぁあああああああぁぁぁ! 防犯意識、ガバガバじゃない!」
実際知り合いだったのだから、間違っちゃいないのだが。
「さて、お嬢ちゃん真面目な話なんだけど。こちらも本当に真剣に探しているのよ、協力して貰えないかしら。無論、それ相応の代価は支払うつもりだそうよ」
「悪いわね。つもり、だとか、だそうよとか――そういう曖昧な言葉は信用しないようにしているのよ」
引き受けた後で、やっぱり払えません。
なーんてオチが待ってるのは嫌なのである。
「あら。その歳なのに、しっかりしてるわね」
「契約って魔術師にとっては結構重要な要素なのよ」
「じゃあ一応、どういう能力者を探しているのか、それだけ伝えさせて貰っても構わなくて? たぶん、ここにいる他の子達も知りたいんじゃないかしら?」
挑発するように、彼女は唇を薄らと開いていた。
こいつ、意外に話の持って行き方が上手いな。
聞かせろ聞かせろと興味津々。
周囲が活気だっているので断れないだろう。
その中にウチの三魔猫もいるのはご愛敬。
「わたくしが探している能力者は解呪や異能解除といった、他者にかけられた攻撃的な異能を解く能力者よ」
ようするにだ。
あたしは言う。
「あなたたちの仲間の誰かが、異能攻撃を受けて呪われている状態にあるってこと?」
「平たく言ってしまえばそういうことね」
話を聞いていたヤンキー梅原君が言う。
「なあ日向ぁ、呪いなんてあるのか?」
「こういう時、あたしがどう返すかはあなただって知ってるでしょう? 異能という物理法則を捻じ曲げる力が存在しているのだから、呪いという現象があったって不思議じゃないわ。まあ、そういう異能力なんでしょうけど」
いつもの魔術師講師モードのあたしにではなく、周囲に目をやって。
「この際、お嬢ちゃんじゃなくてもいいわ、誰か知っている人がいたら教えてくれないかしら」
問われた皆は、なぜかあたしをじっと見て。
代表して沢田ちゃんが言う。
「どーせ、アカリっちができるわよ。そういうの」
「あんたたちねえ、友達を売る?」
「いいじゃん、人助けみたいなもんっしょ? で、さあ亜門セリカさん、だったっけ? いったい、どんな人が呪いにかかってるんよ。アカリっちって滅茶苦茶お人よしだから、たぶんちゃんとした事情で、ちゃんと報酬を支払うなら受けてくれると思うわよ」
亜門さんとやらが、怪訝な顔であたしを見て。
「え、あなた猫使いと悪魔使いの他にも異能力を持ってるって事? ずるじゃない?」
「信じる信じないはどっちでもいいけど、あーもう……とりあえず、どこの誰が呪いにかかってるのか、サササっと話しちゃって頂戴な。まともな内容なら引き受けるし、まともじゃないなら追い返すから」
彼女は言葉を詰まらせ考える。
あたしは露骨な声で応じる。
「言えないっていうのなら、それはそれでいいわ。さすがに――口に出せない不審者を治してあげるほどのお人よしにはなれないもの。けど逆にね、本当に切羽詰まった事情なら、前向きに考えなくもないわ」
あたしの言葉を信じたのか。
聖職者の恰好をした愉快な露出狂が、服に似合わず静かに告げる。
「呪いにかかっているのは、組織でも重要な人物。皆にも黙っていて欲しいのだけれど、現在で確認されている中でも希少な存在。治癒の異能力者よ……」
シリアスな口調な亜門さんとは裏腹。
周囲からは、へぇっと普通の反応が淡々と返されたのみ。
「あら? 反応が鈍いわね。聞こえなかったのかしら。ではもう一度、言ってあげるわ! よくお聞きなさい、学生たち! 呪いにかかっているのは、ななな、なんと! 超レアなことで有名な、治癒能力者よ!」
ででーん!
衝撃の事実に。
教室が騒然と!
しないのよねえ……これが。
理由は分かっているのだ。
亜門さんが、うにゅっと眉間にシワを寄せ。
「って、なんであまり驚いていないの? 治癒の能力者よ? 超レアでしょう? もっとこう、ね? あるでしょう!?」
「いや、だって日向も、缶ジュース一本で骨折とか治してくれるっすよ?」
梅原君のツッコミが教室に響く。
他の生徒もうんうん頷いている。
「は? そこのヤンキーくん。いま、なんていったのかしら?」
「だから、日向も治癒能力があるから――別に今更的な感じっすよ?」
亜門さんは、あんぐりと間抜けなほどに口を開いて。
ぎょっと目を見開き、あたしの眼前まで近づき!
くわっと叫びだす!
「あ、あなた! 治療の能力も持っているの!?」
「まあ、得意じゃないけれど、できるわよ?」
「チートじゃない、チート! そんなの反則よ!」
そーいわれてもなあ……。
こう見えても、あたし本物の魔術のある世界の姫様だし。
言っても妄想っていわれるだろうから、もう言わないけど。
「で? なんでまたその人は呪いなんか受けちゃったわけ?」
「さあ? でも大体の経緯は聞いているわ。その人は、もぐりの医者みたいなこともやっているらしくって。本当に重病で、手の施しようのない患者の治療を引き受けていたらしいんですけど。ある日、治療をした瞬間にバチバチって黒い光が走って、倒れちゃったらしいのよ。で、よく調べてみると異能力による攻撃を受けた反応が見つかった、って話よ」
人助けをしていたら、突然――か。
三毛猫のドライファル教皇が言う。
『おそらく、その患者とやらに呪いが掛けられていて。それを治療してしまった影響で、呪いが倍増、治癒者に向かう、呪い返しのような状態になったのでしょうニャ~』
「かもね。ま、そういうことならいいわ。引き受けてあげる」
あっさりとは言うなかれ。
呪いを受けているのなら、早いうちに対処してあげた方がいいだろう。
あたしの言葉に、彼女がぱぁぁぁっと表情を明るくする。
「本当に!? それなら人探しよりももっと報酬を出せると思うわ!」
期待していいかどうかは、ちょっと微妙なところかな。
それでも、あたしは頷いて。
「ただ、こっちは一応政府の管理下にあるわけだから――大人の許可を貰うわよ? それでもいい? あと、もしその話自体が嘘だったら、許しませんからね?」
というわけで、あたしは依頼を引き受けることにした。
なぜ引き受けたのか。
それはまあ単純な話。
誰かを治そうとして、つまり善意での行為でそういう目に遭ってしまったというのなら。
それはなんか面白くないし。
納得がいかないからである。
ようするにまあ。
あたしは皆が言うように、お人よしなのだろう。




