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エピローグ とある名犬の日記~また逢う日まで~


 【SIDE:死霊魔術犬ペス】


 ここは異世界ではなく、現代日本。

 あれから数か月が経っておった。


 我、日向ペスの一日は月影との散歩で始まる。

 朝露の香りに鼻をフガフガ♪

 つい尻尾も揺れてしまうというもの。


 太陽をたくさん浴びるべく、我は犬毛を輝かせ!


『ぐわはーっはははは! 見よ! この偉大なるビーグル、ネクロワンサーたる我の行進ぞ!』


 ドヤる我に続き、人型モードで歩んでいた月影めが。


『ご機嫌だね、ペス……なにかあった?』

『これぞ犬の勘よっ、今日は何かいいことがある気がするのだ!』


 つまり根拠などない!

 ……。

 我はとあることに気付き、振り向いてジト目である。


『というか、月影よ。汝もネコになってしまっては、犬と猫の散歩。高級飼い犬の脱走扱いになってしまうではないか……』


 うむ、そうなのだ。

 こやつ、我のリードを引いていた筈なのに、いつのまにか完全なるネコになっておったのだった。

 我のジト目を受け。


『俺も、モフ毛を太陽で温めたい……』

『さようか……』


 あいかわらずマイペースな男である。

 我は死霊魔術で召喚した人型アンデッドにリードを引かせることにした。


 大きな自然公園につき。

 中央の噴水近くにあるコンビニでサンドウィッチを買い。

 むーしゃむしゃむしゃ♪


『今日のサンドウィッチはなかなかの美味。そうか、これが我が勘が示す今日の良きことであったか』


 我は満足し帰宅した。


 浄化洗浄魔術で手足の肉球を綺麗にし。

 カシャカシャカシャ。

 我はリビングに向かい進軍を開始。


 そこには炎舞が朝食を用意し待っておる。

 しかし、炎舞めは何故か我と月影の口を見て。

 炎の髪を揺らし、ギロり。


「おいてめえら、買い食いはダメだって言わなかったか? ああん!?」

『安心せよ、ちゃーんと汝の朝食も腹いっぱいまで喰ってやる! バターの一滴すら残さず、啜ってくれるわ! ガーハッハハッハハ!』


 ベーコンエッグとサラダの香りにじゅるりとし♪

 床を回転しながら、バウバウ!

 ワフワフと遠吠えをあげてやったのだ。


 炎舞めは我に弱い。

 はぁ……と露骨に肩を落とし。


「いや、そういう問題じゃねえだろ。んなに食ってると、太っちまうぞ?」

『だが我が主は、ちょっと”ふくよかな”くらいが丁度いいと言っておるぞ? まあ太り過ぎはさすがに避けるがな?』

「ったく、あいつは……」


 ガシガシと頭を掻きつつも、炎舞めは朝のコーヒーを、なんかよく知らぬ高級そうな器具で作り始めていた。

 将来、喫茶店でもやりたいということで練習しているらしいが。

 我は、きょろきょろと机の周りを見渡し。


『我が主はまーだ眠っておるのか』

「ああ、あいつ、異世界から帰ってきた途端、なんか思いついたのかめっちゃ悪い顔をしてやがっただろ? その魔術実験で夜更かししたんだとよ」


 まあ、たしかにそんな顔をしておった。

 今日も散歩に行くぞと、その間抜けな頬を肉球で押してプニプニしてやったのだが。

 あと、五年……むにゃむにゃと起きる気配は皆無だった。


 あれは実験というよりは、もう既になにかやらかした後の顔にも見えたが。

 我はとりあえず我用のワンコ椅子に上り。

 テレビをオン!


 今日のワンワンのコーナーで、見目麗しい美女犬でも映るやもしれんとニュース番組をつけたのだが。


 ……。

 コーヒー豆の芳醇な香りが漂うリビングで、ニュースが映りだす。

 そこにあったのは、大騒動。


『のう、炎舞よ。おそらくはあの者、またやらかしおったぞ』

「んだと!? 何が映ってやがる!」

『ほれ、見てみろ。星を使った天体規模の大規模魔法陣が、夜中のうちに展開されておったようだな――炎舞よ、スマホはチェックしておらんかったのか』


 SNSとやらでも大騒動になっておると思うのだが。


「なんか知らねえが、充電されてなかったんだよ」

『ふむ……それもこれの影響であるやもしれんな』


 テレビに映っているのは、星座を利用した魔法陣。

 魔法陣を操っているのは、赤き巨大な魔猫。

 ……。


 我が主である。


 そしてだ。

 その横には仁王立ちになって魔法陣を補助する黒猫、大魔帝ケトス。

 その更に横には、ネコ状態の月影の姿もある。

 彼らの後方で、肉球をペチンと顔に当てているネコは異能力学校の教師に戻っている池崎だろう。


 三魔猫も当然、星座を操る魔術式の補助を行い、モフ毛を靡かせていた。


 歯ぐきを剥き出しに憤怒する炎舞が言う。


「あいつらっ、夜中になにやってやがったんだ!」

『おぬしならば魔術式も読み取れるであろう? 何と書いてあるのだ』

「あぁあああああぁぁぁぁ! あいつら! 世界に異能をバラまきやがった!」


 はて。


『なーにを言っておるのだ。既にバラまいてあるだろう』

「違うんだよ。確かに十五年前に異能は発生している。だが、異能に目覚めていない連中の方が大半だっただろう?」

『なるほど……話が見えたぞ』


 ようするに、本当の意味で全人類に異能を覚醒させたのだろう。

 理由はおそらく。

 これからの地球を想ってのこと。


 ……と、思いたいが、まあ半分ぐらいはおもいつきだろう。


「そりゃあ、異能力者狩りのせいで……一般人の間にわだかまりが起きそうな気配はあったが……な。全員を異能力者にしたら、それはそれで問題が起きるだろう! 何考えてるんだ、あいつらは!」

『まあ異能の有無は絶大。別種族といえるほどに力の差がでておったからな。これも一つの手ではあろう』


 別に良い手とは言っていない。


 炎舞が呼ばれなかった理由も簡単。

 絶対に反対されると分かっていたからと思われる。

 この家でまともな精神を持っているのは、こやつと我だしのう……。


 我らが顔を合わせて、はぁ……と息を漏らしている間に。

 黒髪をポニーテールにして、くわぁぁぁ!

 大きな欠伸をして、問題児である我が主がリビングにやってきて。


「ん~、くわぁあぁぁぁぁあ! ああ、一仕事した後の目覚めって最高ね♪ あ、お兄ちゃん! あたし、コーンポタージュも飲みたいから、よろしくね♪」

「よろしくじゃねえよ、いつ起きたんだよ。いや、それよりこれ! どうするんだよ!」


 唸る兄に、我が主アカリ姫はブイサイン!


「これで異能力者問題も解決みたいな?」


 ニヘヘヘヘっと年相応の笑み。

 底抜けに明るい反応である。


「いや、そんな笑顔じゃ誤魔化されねえぞ!? 簡単に言いやがるが、そんな容易い話じゃねえだろう。親父もおまえも何を考えてやがる! あと、月影はどこに逃げた! いなくなってるじゃねえか!」


 コーヒーの香りを楽しむようにゆったりとカップに細い指を当て。

 我が主が言う。


「どうせお兄ちゃんが烈火のごとく怒るだろうからって、朝食を包んで登校しちゃったわよ?」

「だぁあああああああぁぁぁ! 確信犯じゃねえか! あのバカ親父は!?」

「ああ、公務が忙しいっていいながら、異世界に帰ったわ」


 逃げたという事か。

 我が主、日向アカリは兄からの説教を受け流しスキルで回避しつつ。

 我の頭を撫でていた。


 ◇


 主と共に学校に向かう中。

 我は言った。


『異世界で暮らすかこちらで暮らすか、結論は保留。とりあえず卒業まではこちらにいるということであるが……それなのに異能なんてバラまいて良かったのか? 騒動が収まるまでは戻れなくなるぞ』

「んー……まあ最終的に戻ることになっても、しばらくはこっちにいるし?」


 あいかわらず適当な娘である。

 我は眉を下げ。


『卒業後はどうするつもりなのだ。我は、まあそなたについていってやっても良いが』

「卒業後ね~。まだあたし一年生よ? そんな先の事なんてわからないじゃない」


 百万年の記憶をもつくせに。

 たった二、三年がそんなに先であるか。


『まあよいがの……主の感覚はよく分からん』

「あ、そうそう。悪いんだけど、今日和菓子が食べたいの。買っておいて貰っていい? 三魔猫は昨日の儀式の夜更かしでぐっすりと眠っちゃってるし、お兄ちゃんは激おこだろうし」


 和菓子は我も嫌いではない。

 いや。

 むしろ好きである。


 かつて、この娘が主人となる前に食べた、あの味を思い出すからだ。

 共に太陽の下で、味わった甘い味。

 チーズ竹輪の次に、我は和菓子が好きであった。


 ついこの間まで、復讐に生きておったのに。

 我は――ずいぶんと昔のように思えてしまっていた。


『まあよかろう。任せておけ』

「んじゃ、あたしはちゃんとお勉強ってやつをしてくるから。放課後までは自由にしてていいわよ~♪ 後でね~!」


 言って、娘は転移の魔法陣を展開!

 学校へとショートカットしおったのだが。

 ……。


『あやつ、異能とか魔術での転移通学が校則で禁止されたの、完全に無視しとるのう……』


 さて、我は歩みを開始した。


 向かう和菓子屋は……。

 記憶の中にある、かつての主人と向かった商店街。


 街路樹が並ぶ商店街は、まだ盛況だった。

 あの日と変わらない日常がここにある。


 まだ我が死ぬ前。

 異能も知らず、主人と共に歩いた商店街。

 犬である我が買い物をしても不思議に思われなくなっているが、それは異能のおかげか。

 我は和菓子をひとつ多く購入した。


 自由な時間がある。

 そのまま寄り道をすることにしたのだ。

 向かう先は、かつて生前も歩いたとある道。


 道は長いが、それでも記憶に残る道。


 我が辿り着いたのは、墓地。

 大きな桜の樹の下。

 かつて、我を愛してくれた主人の墓だった。


 季節外れの桜が咲いている。

 咲く季節を間違えたのだろうか。

 それに……。


 我は首を傾げていた。


 なぜだろうか。

 草がボーボーではない。

 ちゃんと掃除がされている。


 墓地の管理者でも変わったのだろうか。


 我はお供えに、羊羹を捧げ。

 肉球を合わせる。

 この行為に意味があるかどうかは分からない。しかし、かつての主人も亡くした伴侶の墓の前でこうしていた。


 ざあざあざあっと桜の木が揺れ、音が鳴る中。

 我は考える。


 あれからたくさんのことがあった。

 死霊魔術師である我ならば、主の躯のみを蘇生できるが。

 それは無粋か。


『さて、主よ――それは高級羊羹だ。このままにしておくと、腐ってしまうからの。いや、仕方なし。それは我が喰ろうても構わぬな?』


 そう、お供えはそのままにしてはダメ。

 それが今のマナーらしい。

 仕方ない、仕方ないと我は羊羹をむっちゅむっちゅ♪


 げっぷっと、美味しくいただいた。

 その時だった。

 何かが、頭に触れていた。


 懐かしい気配だった。

 誰かが頭を撫でていたのだ。

 どうせ、我が主アカリが学校を抜け出してきたのだろう。


 そう思って、頭をあげると。

 そこには桜の樹と、太陽と。

 あなたの顔があった。


 ざあざあざあっと桜の木が揺れ、音が鳴る中。

 我は考える。

 これは間違いなく、あるじだと。


 優しい顔。

 我にチーズ竹輪をくれた、いや、それ以上の恩人。

 我の口が、動く。


『なぜ、あなたが……』


 木漏れ日の中で声がした。


「ペスや、おまえも……ようやく。幸せになってくれたんだね」


 主の声だった。


『主よ、なぜあなたがそこにいる。成仏したのでは……?』

「おまえが幸せに笑ってくれるまで……できるわけないじゃないか」


 死霊魔術師たる我には理解できた。

 魂の一部、未練を残したことにより発生した。

 残留思念。


 あるいは、神と呼ばれる存在が、会わせてくれるために連れてきてくれたのか。


 風が吹いた。

 樹々が揺れた。

 大きな桜の樹の下で、あの日のあなたが微笑んでいた。


 しわくちゃになった顔で。

 かつての主が更に微笑んだ。


「アカリちゃんだった……か。よく、掃除に来てくれているよ。そして、おまえの近況を聞かせてくれた。あの子が……新しい主人なんだね」


 掃除された墓を見て。

 我は言う。


『ああ、そうである』

「おまえもあの子が気に入って、いるんだね――大好きなのだね」


 微笑みながら、主の亡霊が言う。

 そうか、あやつ。

 我に内緒でたまに来ていたのか。


『我が見張っておらんと、なにをするか分からんからのう。まあ、好きか嫌いかで言ったら、答えは言わずとも、あなたには分かっているだろう』

「そうか――そうだろうね」


 我は素直に感情を見せぬ。

 それがあなたには分かるのだろう。

 我の主人だった亡霊は、一層深く安堵した顔で。


「これで、安心して……天へと昇れるよ」


 穏やかな声だった。

 その時。


 光が、周囲を照らし始めた。

 温かい。

 慈悲深い神の光。


 犬魔術師たる我は知っていた。

 これが成仏。

 天からの迎えだと。


「お迎えのようだ」

『ああ、そのようであるな』


 もし、神というものがここを見ているのなら。

 こんな演出もするのだろう。

 我は眩しさの中で、肉球を伸ばしていた。


 ああ……そうか。主よ、我が愛しきものよ。


『死したあなたを戒めていたのは、ずっと不安にさせておったのは――我自身』


 赤き瞳を震わせて。

 かつて魔性となりかけていた我は言う。


『人間と、この世界を憎む……我の憎悪であったのだな』


 しかし、我の憎悪は晴れた。

 それが主の未練を断ったのだろう。

 主が、光に包まれる。


「もう、何も不安はない。最後の頼みだ。どうか、幸せになっておくれ――」


 既に――主の願いは叶っている。

 今の我の暮らしは――幸せだった。

 新しい主に愛され、世界の醜さとは別の……温かさを知った。


『心配要らぬ、我は――もう、笑えるようになっている』


 我は、いっぱいの笑顔を作り。

 バウバウと鳴いた。

 かつて幸せだったあの日の、我のように。


 それが分かったのだろう。

 主の消えゆく口が動く。


「ありがとう、可愛いペス……おまえにあえて、幸せだったよ――……」

『我もだ――主よ』

「いつかまた……おまえと……――」


 言葉と共に。

 主の残滓が消えていく。


『ああ、いつか。その日がくることを、我も待とう』


 いつかあなたも、この世界に再び転生するだろう。

 その時まで、我は――。

 あの者と共に。


 墓の上。

 桜の木漏れ日の中。

 かつての主が天へと昇って消えていた。


 ざぁぁぁぁぁぁっと、風が音を奏でる。


 本当の意味で成仏。

 輪廻の輪へと戻ったのだろう。

 爽やかな風が、我の鼻をくすぐっている。


 我は伸ばした肉球に輝く太陽を見ていた。


 じゅるりじゅるりと鼻がでる。

 けれど、これは悲しき別れではない。


 日向アカリ。

 我が新しき主。


 あやつはこれからも騒動を起こすだろう。

 世界を巻き込み、きっと波風を立てるだろう。

 ならばこそ我は――。


『仕方あるまい、汝の人生ものがたりにいましばらく、付き合ってやるとするか』


 桜の樹の下。

 我は二人の主を想い。

 太陽の温かさを感じていた。






 【完結】




◇本日の更新にて、

『危険度SSS:最強チート女子高生は静かに暮らしたい

※なお、ふつうには暮らせないようです。』は完結となりました。

お読みいただき&

アカリさんの冒険にお付き合いいただき、ありがとうございました!


もし最後まで読んでいただけたのなら、とても嬉しいです。

※ご意見、ご感想、誤字脱字のご連絡など、とても励みにさせていただいておりました。

ありがとうございます!


◇今後の予定について。


本日2022/4/23(土)の18:20頃に、

癒し系ネコちゃんに焦点を当てたハイファンタジー。

「ぶにゃははは! ヒーラー魔猫に土下座せよ!

 ~世界で唯一蘇生魔術を扱える存在が、ネコだった世界~」

の連載開始予定となっております。

https://book1.adouzi.eu.org/n2074hp/


内容はタイトルのまんまです。

主人公は癒しを得意とするネコちゃん(ラグドール)となっております。

新しい、もふもふネコちゃんの冒険にお付き合いいただける方は、

こちらもチェックしていただければ幸いです。

※更新時間は安定するまでは不定期ですが、

毎日更新予定です。


それでは、お読みいただき本当にありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[一言] この物語の本当の主人公は、ペスとその主人だったのか……。 ペス……ペスと……ペスト……? なんてのも考えたが、取り敢えず今はペスの幸せを祝福しておきましょう。 ◇ 遂にSSSも読破じゃー…
2024/02/24 16:44 退会済み
管理
[一言] 読み終えましたー。 とっても面白かった&最後はじーんとさせられました。 ありがとうございます!
2023/10/29 17:01 退会済み
管理
[一言] 良かったねワンコ!ご主人に会えたね!! 炎兄ちゃん放置で最後の最後でやらかしましたが、完結お疲れ様です。 これでケトにゃん関連の物語は一旦おしまいですね 新にゃんこの世界に召喚魔術が無い…
感想一覧
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