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第百十二話、最終決戦! あたしはアカリ、日向アカリ!その2



 戦いは終わっていない。

 けれど既に結果は見えていた――。

 後はもう、どれだけ時間がかかるかどうかの問題。


 四方を囲まれた敵に、もはや結界から脱出する手段はない。

 あたしは見たいものを見る能力。

 いわゆる《透視》を異能魔導書から選択し、発動する。


 結界内を叩き。

 ギギギギっと溶けた肉塊と、下から覗く骨でひっかく音がする。

 永遠を望んだ天使ギシリトールが、結界の檻の中で唸りをあげる。


『開けて。開けて。ずっと。ずっと。一緒! ずっと。一緒。一緒……』


 うーむ……ギシリトールくん。

 なかなか悲痛な叫びである。

 しかも、めちゃくちゃ普通に動いているな。


 あたしが遠見の魔術系統の異能を使ったと理解したのだろう、お兄ちゃんが言う。


「アカリ! どうだ! 中の奴は、溶けてるか!」

「んー……。今そっちにも映像を送るわ」


 お兄ちゃんの額に、ビシっとイカリマークが浮かぶ。

 そりゃあまあ、結構本気でやってこれだからなあ。


「はぁぁぁあああぁぁ!? こんだけやって、まだ動いているってどーなってやがるんだ!」

「んーむ……やっぱり月兄も到着しないと、根本的な解決にはならないか」


 ぼやくあたしにディカプリオ君が反応する。


「その、月兄さんという方なら。どうにかできる……のですか?」


 ああ、そうか。

 彼はループし続けている記憶がないから、月兄に関しても詳しくないのか。

 あたし達兄妹は大規模魔術を結界内にぶっ放し続けながら。


「そりゃあまあ、月兄だけはレギュレーションが違うっていうか――アリンコの戦争に絶対無敵のライオンが乱入するみたいなものっていうか……」

「アイツの強さってか、存在自体がイレギュラーだから。どう説明したらいいか、迷っちまうんだよな」


 前々から言っていたと思うが。

 月兄は絶対に敵にしてはいけない相手。


 あたしと戦った時は、手を抜きまくり。

 というか――あたしを滅ぼしてはいけないという厳しい制約があったから、こっちはなんとか戦えていたにすぎない。

 互いに相手を滅ぼしていい戦いだったら、結果は分かり切っていた。


 後は、月兄が到着するまでここで滅ぼし続け。

 兄が到着したら……。

 終わりが見えてくると、だんだんとこちらも相手の様子を冷静に眺めることができる。


 悲痛な声が響き渡る。


『開けて。開けて。神父。どこ? 開けて。開けて。ずっと。ずっと。一緒!』


 ……。

 本当に、ずっと一緒に居たい。

 ただそれだけなのだろう。


 子どものように結界を掻きむしるギシリトールを見て、炎兄がガルルルっと唸り。


「おいこら糞天使! だいたいてめえ! ずっと一緒に居てえならアカリと神父と一緒に異世界についていけばいいだけじゃねえか! なにをそんなに暴走してやがるんだ、ああん!?」


 まあ正論である。

 それができるのなら話は拗れないが――。

 あたしが淡々と告げる。


「無駄よ。あの天使は、創造主である神父とずっと一緒にいる……その命令を遵守している」

「はぁ!? だったらなおさらだろうが!」


 普通ならばそうなのだ。

 けれど、この世界は今現在、普通ではない現象が発生している。

 そう、異界より舞い降りた姫とその父親が元凶のループ世界である。


 あたしはディカプリオ神父を一瞥し。


「たぶん、あの天使はディカプリオ神父個人に……もうかなりの愛着と執着を持っているのよ。仮に神父と一緒にこれから異世界に行くとしても、人間の寿命はせいぜいで百年でしょう? まあ人間でも長寿な存在もいる。救世主の異能力を持っているなら、千年とか二千年とか生きられる可能性もあるけど、所詮は有限。でも――」


 パンデミックが闇の霧のまま、赤い亀裂の瞳を細め。


『このままループを継続させれば、有限ではなく、文字通り無限に一緒に居られる、か。哀れな躯の戦士よのう』

「そういうこと。彼にとってはそれが最善で唯一の答えなのよ。たった百年ぽっちと、一億年と二千年以上、ずっと、ずっと一緒に居られるための無限ループ。単純な命令に従うのなら、有限と無限、どっちを選ぶかは明白でしょう?」


 説明するあたしに、ディカプリオくんの顔が曇りだす。


「ええ……彼は、他の天使とは違って単純な命令しか聞けませんから……」

『命令の上書きはできんのか?』


 パンデミックの意見に、神父は力なく首を横に振る。


「かなり前から繰り返し命令を放っているのですが、反応は……」

「そうね……おそらくは無限に一緒に居られるループと比べて、全てキャンセルされてるんだと思うわ。さっきも言ったけど、無限と有限じゃ比べるまでもない。彼にとって優先させるべきなのはループの維持。言い方は悪いですけど……単純な作りの天使ですもの、本当にそう信じこんじゃってるのよ」


 あたしの脳裏に、おぼろげながらも記憶が浮かんでくる。

 あたしの知らない、あたしの記憶。

 それは、ディカプリオ神父の仲間になっていたあたしの記憶。


 言葉が、漏れ始めていた。


「だから暴れるし。だからループを維持するために、大事な神父だって殺してしまう。きっと、前にも似たようなことがあったのよ。誰かに神父を奪われて、彼と離れてしまう……そんなルートもね。その時に……神父の死でループが維持されることを学習してるんでしょうね」


 彼を奪ったのはきっと、あたしの知らないあたしだったのだろう。

 その記憶を維持しているギシリトールにとっては、あたしは邪魔者。

 だからこそ、ここまで暴走してしまった可能性がある。


 ……。

 べ、べつに、あたしのせいじゃないわよね?

 い、いままでの事って、結局あたしがどこかに関わっている気がするが、気にしないでおこう。


 その辺のことを顔には出さず。

 あたしは天使に、憐憫のまなざしを向けていた。

 けれど……止めないと、このまま世界は滅び、また最初からやり直し。


 ループ現象の犯人たるあたしが――どうにかするべきだろう。


 あたしの言葉を聞いた池崎さんが、ふぅっとタバコの煙を闇の風に乗せ。

 渋い、大人の色気すら感じてしまう声で。

 悲しげに告げた。


「まるで、駄々をこね続けて喚くガキと一緒だな。理屈じゃねえんだろうよ……」


 ふむと考え。

 あたしは生徒たちの異能魔導書を開き。


「ディカプリオ神父、あんた不老不死になりなさい」


 遠くの方で、話が聞こえているホークアイ君がずっこける。

 だが。

 こちらの面子はああ、なるほどと納得顔。


 炎兄が言う。


「なるほどな。無限と無限なら説得の舞台には立てるってわけか」

『考えたな、赤き魔猫の異界姫よ』


 パンデミックに続き、池崎さんも筋張った指にタバコを挟み。


「ま、あと何年もぶっ殺し続けるよりは手っ取り早いわな」

「ちょ! ちょっと待ってください! ふ、不老不死だなんて、そ、そんなに簡単になれるものなのですか!?」


 このディカプリオくん、黒幕の一人で、散々暴れまわってくれたくせに。

 やはり、わりと一般人よりな思考の持ち主なのだろう。

 あたしが言う。


「あのねえ。あんた、異能の力で何度死んでも蘇っていたでしょう? 元から死なないことに関しては適性がある異能なんだから、後は老化と寿命と関係するテロメアの方に細工すれば結構簡単にできると思うわよ?」

「結構、簡単に……ですか。なんというか、本当に――アカリさんはファンタジー世界の方なんですね」


 困惑しつつディカプリオくんが告げたその時。

 あたしの影が、ぶわぶわぶわっと揺れ始めた。

 影から登場したのは――三匹の猫と、一匹の犬。


 シュヴァルツ公とヴァイス大帝。

 そしてドライファル教皇。

 更に、ネクロワンサーのペスが口元を、ケチャップやらマヨネーズやらでドロドロにして。


『うにゃはははは! 我ら、姫様の護衛を司る魔界の公爵!』

『華麗に、優雅に!』

『参上でありまする! 控えるのです、愚かなる人間たちよ!』


 まずは三魔公がモフモフなネコ毛を夜風に靡かせ。

 続いてペスが、なにやら大量のアンデッド軍団を連れて顕現!


『ブワハハハハハ! 話は聞いておったぞ、小娘にして我が主、アカリよ! あの巨神をも助けようとは、あいもかわらず強欲な娘よのう!』


 垂れた耳を風でパタパタさせる、そのビーグル犬の姿は愛らしいが。

 あたしは腰に手を当て、苦笑してみせる。


「遅いじゃないのよ。さっきまで手数が足りなかったけど、もう間に合ってるんですけど?」

『まあ、大黒女史に頼まれ、色々とな!』


 尻尾を偉そうに振るペスが、ドヤ顔をしている。

 あたしにも内緒で裏で動いている作戦というやつだろう。

 いったい、なにをしてたんだか。


「色々はいいけど、もうあんまり頼めることはないわよ? 月兄の到着を待って、あれが会話できるぐらいになるまで弱らせて説得を試してみる。ま、まあ……その弱らせるって段階で、現状だと年単位でかかるんだけど」

『案ずるな我が主よ! 月影ならずっと上から見ておったからな。もう既に事態を把握しておる』


 なぜかペスが自慢げに、ふふんと鼻の頭を輝かせるが。

 って!?


「月兄が見てたって――どういうことよ」

『ダメじゃないか……ペス。バラしたら――』


 声は、空から聞こえていた。

 見上げるそこにあるのは夜空。

 夜そのものが語り掛けるように、ニヒィっとチェシャ猫のような巨大な口が生まれる。


「その口は……月兄、って!? まさか! お兄ちゃん! ずっとそこから見てたんじゃないでしょうね?」

『ずっとじゃない……。たまに魔竜を呑み込みに行ったり……していたし?』


 夜から闇がそのまま下りてきて。

 学ランを着崩した――雪豹を彷彿とさせる貴公子が、闇の渦から顕現し始めていた。

 そこに現れたのは幻想的なファンタジー美青年。


 月兄の人型バージョンである。

 まあ結構天然兄貴なのだが、何も知らない人からするとクールな皇子様が降ってきたように見えただろう。

 男女問わず、魅了の力によって生徒たちが倒れ始めていた。


「あいかわらず歩く迷惑装置よねえ、月兄って」

「アカリには言われたくないけど……まあいいや」


 告げて月兄はカツンカツンとあたしと三魔猫。

 そしてペスの前を横切り。

 顔を無貌――混沌の闇そのものに豹変させ。


 グギギギギギと、冥府の門を開く音のような。

 世界を恐慌状態にさせるほどの、ドス黒い声で――。

 ボソリ。


『池崎ミツル――そして父さんが人間だった頃の家族、ディカプリオ。俺はね、君達のようなナメクジ程度の力しかないような男が……アカリに近づくのはよくないと――そう思うんだ』


 いや、そりゃ月兄に比べたらどんな最強だってナメクジ程度でしょうが……。

 夢世界の邪神の末端を顔に乗せるバカお兄ちゃん。

 その頭に背後から、ベシ!


 あたしは異能魔導書アタック。

 ようするに分厚い本の角攻撃を決めて、髪を逆立てていた。


「あのねえ! 月兄! もうその流れは炎兄の時にやったの! 二度も同じことを言わせないでよ、恥ずかしいじゃないっ!」


 月兄が邪神モードを解除して。


「さすがアカリだね――……」

「なにがよ!」

「炎舞兄さんも動けなかったのに……、普通にブック鈍器攻撃を決めるなんて――やっぱり、アカリだけだね、俺とまともに渡り合えるのは」


 まあたしかに、炎兄は月兄に結構苦手意識持ってるからなあ。

 あくまでも戦闘面での話だが。

 ペスたちと三魔猫は動物という属性と、モフモフ家族という属性があるので――月兄がいても平然としているが。


 他の人たちはというと。

 泡を吹いて倒れかけちゃってるな。

 あたしは指を鳴らし、皆の精神を強化魔術で補強。


「月兄、協力しに来てくれたんじゃなかったの?」

「うん、迷っていたんだけど――……いいよ、協力してあげることにした」


 迷っていた?

 北海道を乗っ取る時は、まあ海鮮料理を食べたいからってすぐに了承してくれたのだが。

 黒きモフ毛で紳士たるシュヴァルツ公が猫口を開く。


『月影様はあの天使、ギシリトールを滅ぼすことには反対だったそうで。流れ次第ではあちら側に加勢する気だったのですニャ』

「そ、そうだったのね……」


 その辺を三魔猫とペスがモフモフ仲間で止めていた。

 と考えると、けっこう危なかったのかもしれない。


 月兄が、結界の中で神父との永遠を求め続ける巨神に目をやって。

 すぅっと、切れ長に赤い瞳を細める。


「だって可哀そうじゃないか――あの子は、ただずっと一緒に居たいだけ……。それは……そこの憎悪の魔性パンデミックも、憎悪の魔性イケザキも同じだっただろう? そしてアカリは二人には手を差し伸べていた。だったら、彼だけを助けないのは、違う。フェアじゃない……俺はね、アカリ。そういう差別は好きじゃない。ただそれだけの話だったんだよ」


 なかなかどうして、珍しい長台詞である。


 まあ炎兄もあたしとの魔導契約があるから、手伝ってくれていただけで。

 下手すると敵側についている可能性もあったくらいだしねえ……。

 じぃぃぃぃっとあたしは月兄を睨み。


「じゃああたしがディカプリオ神父に永遠を与えて、説得させる! って、作戦を取らなかった場合はどうするつもりだったわけ?」

「決まっているじゃないか……――」


 バサリバサリと風で揺れる前髪の隙間。

 赤い瞳を輝かせ。

 月兄の口だけが、ゆったりと蠢きだす。


「俺はね……アカリ。たまには本気の兄妹喧嘩も悪くない。そう思っていたよ……だって、父さんを除けばアカリだけだからね。俺とまともに……戦いにな(あそんでくれ)るのは――」


 あたしは戦闘民族かなんかのカテゴリーかい!


「ったく、お兄ちゃんはあたしを過大評価し過ぎ! いくらなんでも、お兄ちゃん相手じゃ無理よ」

「そうかな……。まあ、アカリがそう思っているなら、それでもいいけど――」


 微笑んで――月兄は瞳を赤く染め上げる。

 結界の中にいる、哀れな天使に目をやったのだ。


「説得ができるぐらい……まあ、残機ストックが一桁になるくらいに滅ぼせば――大丈夫かな?」

「頼んじゃっていいかしら? 頼りにしてるんだからね、月兄!」


 エヘヘヘヘっと、兄に任せるのは妹の特権!

 月兄は頷き、氷の皇子様とも称される微笑を浮かべ。


「いいよ。頼られるのは嫌いじゃない――それに……」


 兄が未来視を発動させたのだろうか。

 なにやら遠くを見る顔で……。


「アカリの願いなら、俺はなんでも聞き入れるよ。でも、いつか本当に、本気で俺と遊んでくれるよね。無限ループの中で溜めた知識を力と出来る……知識欲のケモノ。魔術世界にグリモワールを大量に書き記し、保存し続ける次元図書館の赤き魔猫。未来のアカリなら――きっと、とっても楽しく遊べると思うんだ」


 ふっふっふっと、月兄。

 謎のスマイルである。いったい、なにをみたんだか。


「まーた過大評価が始まった。お兄ちゃん、明らかにシスコンだし身内への評価が甘いのよねえ。まあいいわ。ちゃちゃっとやっちゃってよ。あたし、最近忙しくてあんまり配信出来てないから、早く終わらせたいのよねえ」


 月兄は何故か苦笑したまま。

 それでも行動を開始していた。


 三兄妹の中で、”最も強力で絶対不可侵な結界”を張れる炎兄。

 その檻の中に。

 魔術を解き放った――。


「そうだね。じゃあ。話をするなら、おとなしくさせないとね――」


 あたしですら理解できない魔術式だった。

 けれど、おそらくそれは無。

 虚無を召喚するという、全ての法則を無視した――攻撃とは違う現象を引き起こす禁呪。


 巨神がいる空間を無で上書きする。

 ありえない現象が、魔術式によって引き出され膨れ上がり。

 音もなく、それは終わっていた。


 刹那。


 一瞬だった。

 次の瞬間には、巨神の残機は消し飛んでいた。

 ……。


 って! まさか消し飛ばしちゃったんじゃないでしょうね!?

 いやいやいや。

 月兄に限ってそんな、大雑把な……。


 いや。

 月兄って、根本的にネコだしなあ。

 あたしがじろっと月兄を向くと、そのクールな頬にうっすらと汗が浮かんでいる。


 失敗をごまかす時のお父さんのような顔をして。

 月兄は、猫状態になり、しぺしぺしぺと毛繕い♪

 ネコの言葉で、兄がぼそり……。


『アカリ……なら分かるよね。力加減って、難しい』

「あぁああああああぁぁぁ! もう! 急いで残骸を探して、逆に再生させるわよ!」


 この後。

 あたしたちはめちゃくちゃ急いで、肉片を捜索した。



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