第百十一話、最終決戦! あたしはアカリ、日向アカリ!その1
結界の外はお祭り騒ぎ。
非日常に慣れた学校の連中が、異能力で発生した出店や売店を楽しみ見学する中。
あたしのお兄ちゃんは颯爽と登場し、なぜかディカプリオ君と池崎さんの前でヤンキー座り。
妹に手を出すなよと、ガルルルル!
「お兄ちゃん! みんなが見てるんだから恥ずかしい事しないでよ!」
「ああん? 兄ちゃんが妹に近づく野郎どもを警戒して何が悪いってんだ? 特に池崎っち! てめえ! 前と事情が変わってるじゃねえか! 五年後のアカリとどういう関係だったんだぁ、ああん!?」
ああんああん!? と眉間を尖らせ悪絡みしているが。
これでもファンタジーイケメン。
うちの女生徒はそれだけでかなり魅了されている様子。
まあ結界を引き継いでくれたので、邪険にはできないが。
「はいはい、そういうのは戦闘が終わった後にして頂戴。それで、月兄は?」
「ああ、あいつは全世界で同時に発生した魔竜を喰ってからくるから、もう少し遅れるだろうよ」
……ん?
「全世界同時魔竜って? どういうこと……」
「あのなあ、親父達は全世界に魔術や異能をバラまいてるんだぞ? 中心地であるこの日本に事件は集中してるが、他の国でなにも起こらないわけじゃねえってことだよ」
そりゃあホークアイ君たちも海外の異能力者だから。
日本だけで発生しているわけじゃないってのは知ってるけど。
「やっぱりお兄ちゃんたちはお兄ちゃんたちで、あたしとは違う事件に巻き込まれてたりしてるってわけね」
当然っちゃ当然か。
こういうのもなんだけど、あたしたち兄妹ってそういうのに巻き込まれやすい体質だからなあ。
誰に似たかは敢えて言わないけど。
お兄ちゃんは腕を組んだまま、大笑いし。
「ま、どっかの妹様ほど世界の危機になってるわけじゃねえがな!」
告げたその後。
ちょっとした間を作り、暴走する天使を睨む炎兄。
燃えるような紅蓮色の瞳がシリアスモードに切り替わる。
「魔力の強さでヤベエ存在だったのは分かっちゃいたが、これは――」
「状況を理解しているでしょうけど、何度倒しても蘇ってくるわ。あたしも何度か機能停止状態にまで持ち込んだけど即座に回復する――たぶんまだ、十回も倒してない筈よ」
「転生前の親父。本物の反救世主の遺骸から生み出された天使か。狂えるクライストの怪物ってところだな」
言いながらも、あたしたち兄妹は聖剣と聖火の弾丸を降り注がせ続けているのだが。
あたしとお兄ちゃんは魔術式を演算する。
後何回、これを吹っ飛ばせば倒すことをできるか計算しているのだが。
お兄ちゃんが言う。
「がぁあああああぁぁぁ! 無理だろ、これ! 月影がくるまではどうにもできねえな」
あ、やっぱりお兄ちゃんもそう思うか。
池崎さんが鼻梁を僅かに暗くし――。
「ん? 炎舞の兄も協力するならなんとかなるんじゃねえのか? 言っとくがな、その兄貴もゲームオーバーを招く特大地雷だったかんな。その強さはよく知ってるぞ……?」
「おいこら、池崎っち! 人を地雷扱いするんじゃねえ! そういうレベルじゃねえんだよ、この巨神は!」
言いながら、炎兄は魔炎龍を大量召喚。
本人は結界の維持に集中しつつ、魔炎龍による代理詠唱を開始。
太陽を圧縮した天体を落下させつつ、知的に続ける。
「単純計算で五十万の聖遺物……残機ストックがあると仮定してだ。一回殺すのにまあ十分程度はかかるだろう? 休みなしで滅ぼし続けたとしても、十年近くはかかるんじゃねえかってことだ」
あたしが続ける。
「それも現段階での強さを想定した計算よ。こいつは明らかに最初の状態より強くなってきている。たぶん、心の強さに魔力が比例しているんでしょうね。どれだけ強くなってもあたし達が負けることはないけど、一回倒すのに十分じゃ済まなくなるって事。下手したらそのままあたしたちはお婆ちゃんになっちゃうわ」
兄妹で丁寧に解説しているのに、なぜか池崎さんは人の話を聞いていない。
「おいこら、てめえ! 聞いてんのか!?」
「ちょっと池崎さん! 真面目な話なのよ!?」
兄妹で唸るあたし達に、池崎さんの代わりにディカプリオ君が申し訳なさそうに言う。
「あ、あの……彼はお二人が落下させまくってるミニチュア天体落下の反動に対処するので、必死なのでは?」
まあたしかに。
あたしも結界の手が空いたので、月を落下させまくっている。
お兄ちゃんはお兄ちゃんで、太陽を落下させまくっている。
兄妹で顔を見合わせ。
同時に首の後ろに手を当て、あははははは!
「ごめんごめん、そういや反動を任せてたのすっかり忘れてたわ~」
「なははははは! まあオレ達の攻撃の反動じゃあしゃあないわな!」
あたし達を睨み、池崎さんが威嚇するネコのごとく。
キシャアァァァァァァっとした顔でこちらに吠える。
「てめえら兄妹は、本当にそっくりだな! 自分が強いからって、自分基準で行動しやがって! いいかっ、直さねえといけねえのは、そーいうところだぞ!」
兄と妹で手をパタパタさせ。
「いいじゃない。そう言いながらも池崎さん、ちゃんと対応して防げてるんだし」
「おう、そうだそうだ! 心が狭いぞ、池崎っち!」
てへぺろする、兄妹にパンデミックが心底呆れた様子で言う。
『ループの度に思うのだが、憎悪に彩られ、無限の時を復讐に費やした我らより……よほど邪悪よのう。うぬらは――』
ギャラリー達までがなぜかジト目をしているが、気にしない。
というか、あっちにも増幅していない声も聞こえているのか。
ホークアイくんが聞いたことを、全部把握しているのかな。
まあ、たぶんホークアイ君が直接耳で聞いた情報を、誰かの異能……おそらく心に直接左右させる異能で拡散させているのだろう。
魔術的に考えれば――今の生徒たちの精神は全員、繋がっている状態にある。
それは全にして一、一にして全。
個ではさほど強いとも思えない人間だが、複数となった時は別。
人間とは、群れとなって初めて力を発揮する種族なのだ。
個では弱い人間が、魔族に対抗できるのはそういう事情もあるのだが。
これは――おそらく沢田ちゃんのフレンドリーの力を使っているのかな。
あそこで待機している生徒全員の心は、沢田ちゃんの異能を通して繋がっている状態にあるのだろう。
それはある意味で脳の構造と同じ。
これは――使えるかもしれない。
彼女は……ああ、あっちでかき氷を食べてるな。
あたしは声を上げていた。
「沢田ちゃん! 聞こえてるー!? その連結状態って、どれくらいまでなら保てそう!?」
あたしの呼びかけに、大黒さんの後ろで異能を発動させていた沢田ちゃんが顔を出し。
「どれくらいっつったって。まあやろうと思えばずっとできるっしょ? あーしの異能は、昔から鍛えてたし? これくらい、余裕みたいな?」
あ、昔から鍛えていたという言葉に、ホークアイくんにダメージが入ったな。
彼女の場合は誘拐されて能力を使わされていたわけで、その原因ともいえるホークアイ君には、ちょっと耳が痛かったのだろう。
まあいいや。
あの二人はあの二人で、彼ら本人でそういう部分を解決する必要があるだろうし。
あたしが介入することで話が拗れても、ねえ?
「沢田ちゃん! そっちの作戦に支障がないならー! ちょっと前に出て貰っていい!?」
「こっちはもう準備できてるから構わないけど、どったの?」
準備? ヤナギさんも二ノ宮さんもいないし、やっぱり、裏で何か進めているのかな。
ともあれ、沢田ちゃんが前にでてきたその時。
あたしは、ニヒヒヒヒっと思わずネコ微笑。
「あなたたち全員の異能を、魔導書にコピーさせて貰うわ!」
「コピーって、アカリっち! そんなことまでできるん?」
「あたしを誰だと思っているの! これでも世界最強の魔猫にして大魔術師、大魔帝ケトスの娘よ! それくらい楽勝! 朝食に挟むペラペラロースハムの薄さよりも軽くできちゃうんだから!」
言って、許可を待たずにあたしは魔導書化の異能を発動!
彼らを直接の魔導書化対象にはせずに、異能で繋がっている異能力学校の生徒たち、としてターゲット。
群れとなっている生徒たち全員の物語を、一冊の書として顕現させるため!
赤く揺らめくドレスと髪を、バサバサっと風に揺らし。
白い肌にキラキラと雪色の魔力を浮かべ。
ふふふっと邪悪な微笑を継続。
「さあ! あなたたちの人生という名の物語を聞かせて頂戴!」
手を翳したあたしの掌に、彼らを刻む魔導書が生まれていく。
これは異能力者達が歩んだ人生を刻んだ本。
彼らは今でこそ明るいが、まあ異能に目覚めた者たちだけあって様々な苦悩があった筈。
その物語を魔導書にしたことによって、書の厚みはそれなり。
彼らの異能を全て、瞬時に魔術として発動できる魔導書の誕生である。
生徒たちはそのままだが、魔導書は完成!
異能:フレンドリーによる全員で一という個体判定はなくなって、異能は解除されてしまっただろう。
当然だ、集合だった彼らの心をまとめたモノがこの魔導書なのだ。
こちらの声が丸聞こえになることもなくなっている筈。
空を飛びながらコートの裾をパタパタさせる池崎さんが腕を組んで。
教師の顔であたしをじぃぃいぃぃぃぃ
生徒たちはただ異能をコピーする魔術と思い込んでいるようだが。
当然、池崎さんはこの書を知っている。
人生の全てが、物語として書かれていることを知っているのだろう。
「魔導書にして魔術の足しにするのはいいが、あいつらの人生を許可なく勝手に読むなよ? プライバシーとかもあるんだからな?」
「え!? なに!? ちょっと戦闘が激しくて聞こえないわ」
言いながら、あたしは誕生した魔導書。
《若き異能力者達の苦悩》。
を、装備。
「おいこら! そういうところもお嬢ちゃんの悪い癖だからな!」
正論な説教には、こちらも正論で返すのみ。
あたしはシリアスと女子高生の砕けた口調の中間で。
魔導書の灯りを受けながら、瞳を真摯に彼に向ける。
「はいはい。お説教なら世界を救った後にちゃんと聞いてあげるわよ。真面目な話ね。ここで決着をつけておかないとまずいの。このギシリトール、ちょっとどころじゃなくてかなり異常だわ。今は――手数を増やすことが先決でしょう?」
「炎舞の兄貴がきても、まだ足りねえのか?」
池崎さんも声を低くさせている。
半分冗談だが半分シリアス。
あたしの微妙な立ち位置を悟っているのだろう。
あたしは頬に汗を浮かべ。
けれど口調は、わずかに砕けたまま。
「いざとなったら、冗談抜きで全世界の命を一度魔導書化して保存するわ。どうしようもなくなったらですけどね――」
あたしは異界の姫として、皇族としての声と顔で皆を見渡していた。
生徒たちに、シリアスな顔で語り掛けたのだ。
「あなたたちの協力に感謝します。もう知っている人も多いでしょうけど、わたくしは異なる世界より顕現した異世界人。あなたたちの世界を救うためにやってきた皇族、プリンセスよ。まあ、この美しさをみれば一目瞭然でしょうけど」
ふふふっと美しい姫様スマイルも忘れない。
静かに瞳を閉じ。
雰囲気作りと演出に間を作り――。
「どうしても、敵を倒すのに力が足りないの。だから、あなたたちの異能を、わたくしに貸していただきました! 事後承諾になってごめんなさい! けど! わたくしは、いえあたしは、あたしはこの世界が好きなの! 壊させたくないの! 守りたいの! だから――」
「アカリ……」
沢田ちゃんが、あたしの演出に付き合ってそれっぽい声をあげる。
彼女はあたしの目的を察しているのだろう。
「アカリっち! あーしはあんたの友達なんだから! どんな時でもあんたの味方っしょ! 世界を守るためにあんたがこんなに頑張ってるのに! もし、勝手に異能を借りたって騒ぐ奴がいたら、あーしがぶっとばしてやるっしょ! あんたたちも、いいわよね!? アカリに異能を貸したって、問題ないっしょ!?」
同じく、あたしをよく知っている不良の梅原君が。
正体ばれをした魔法少女を、最終決戦に見送る不良君の顔で!
天を衝くほどの声をあげる。
「日向ぁあああああああぁぁぁ! がんばれよー! ぜってぇえええ、負けるなよぉおぉぉ!」
よっしゃ!
ナイスアドリブ!
こういう空気は周りに伝染するもの。
雰囲気にのまれた生徒たちからも、声が上がり始める。
「アカリさん! 私達の異能を使って勝てるなら、お願い!」
「ああ、日向! おまえに任せっぱなしですまねえが、頼む!」
「わたしたちの」
「オレ達の地球を救ってくれぇええぇぇええぇ!」
声を聞いたあたしは、うるっと。瞳をこっそりと透明目薬で濡らし。
憂いを含んだ姫様の笑みで。
涙を浮かべて感謝を示してみせる。
「皆……っ、ありがとう!」
こう見えてもあたしは本物の、ファンタジー美少女姫。
その魅了効果は絶大!
よーし!
言質を取った!
これで、勝手に物語をコピーしたことも”許可を得た”ことになった!
むろん、本当にただ許可を取るためだけの演出なのだが。
それを知っているのは、あたしの友人と近しい者達だけ。
あの二人は、あたしの友達なのでその辺を察して、何も言わずとも協力してくれたのだ。
いやあ、やはり持つべきものは友達よね~♪
池崎さんとパンデミックが、器用に闇の霧をヒクつかせ。
「おまえなあ……」
『これで正式に汝の魔導書となったわけだな……』
あたしは、ニヒヒヒっと悪い顔をし。
「まあいいじゃない! ほとんど無報酬で世界を救ってるんだし? これくらいの報酬があってもいいでしょう?」
中身の物語は後でじっくりと読むとして!
あたしはさっそく魔導書を発動!
生徒たちの異能に応じた数だけ、魔術が発動されていた。
「さあ! 学校のみんなの異能! 受けてごらんなさい!」
たとえば熱を発生させる異能ならば、大爆炎が。
氷を発生させる異能ならば、氷結の檻が。
空間を転移させる異能ならば、相手の内臓を直接抉りだし――。
全て攻撃的な魔術として、膨大なる知識を持つあたしの手によりアレンジされてさく裂する。
結界の維持があたしの手から離れたので、本気モードで戦えるのだ!
ただ、まあちょっと破壊のエネルギーが強すぎる――。
おそらくこの反動を防ぐのは、憎悪の魔性の二人でも無理!
だが! さすがはあたしのお兄ちゃんといったところか。
瞬時に、炎兄の朗々たる声が響き渡る。
「我が拒みたるは万物の介入。禁ずる! 其は改竄を許さず、認めず、決して通さぬ聖なる柱。我が名は炎舞! 世界の理を読み解く者なりや!」
キィィィィィィィンと、聖なる柱が大海原を囲み始める。
結界の強度を高め始めたのだ。
そのまま炎兄が魔炎シミターを掲げ――邪悪にキシシシっとワイルドスマイル。
「滅びな! 狂えるクライストの怪物! 十年でも二十年でも、その回数分を滅ぼし続けりゃあいいだけだろう! フフフフ、フハハハハハハ!」
まるで悪役のセリフである。
炎兄が、前の戦いの時にあたしに仕掛けようとしていた規模の――核熱属性の超大規模魔術を、結界内で発動させる。
あたしを消滅させてはいけないからと、あの時は力を抑えていたが今回は違う。
ギジュチュチュクウググググググググドドドドォォォォォン!
四角い結界内が、白き紅蓮で染まっていた。
あたしは池崎さんとディカプリオくんとパンデミックを回収し、結界の外に緊急転移!
火力自慢のお兄ちゃんの本気の攻撃に巻き込まれたら、さすがにまずいと判断したのだ。
炎兄も敵を閉じ込めたまま、外に転移!
本気になっているのだろう、全身に魔術文字による紋様が生まれ始めていた。
まるでゲーミングパソコンのような……い、いや、怒られるからやめておこう。
引き締まった体躯のファンタジーイケメンなので、やはり女生徒たちの反応が凄い。
と、とにかく!
淡い光を隆起する肌に浮かべ、炎兄が叫ぶ。
「畳みかけるぞ!」
「オッケー! このまま蒸発させるわ!」
ドガガガガガガギギギ!
ベゴゴゴゴベゲゲゲゲ!
池崎さんが結界内で発生する超火力を眺め。
「だぁあああああぁぁぁぁ! あいっかわらず無茶苦茶な兄妹だな!」
「まあ、相手はあたしよりも強力な結界を張れるお兄ちゃん製の檻の中。こっちには攻撃が漏れてこないから問題ないわよ! あたしも生徒たちの異能魔術で、あいつを滅ぼし続けるわ!」
そう。
本来なら守り、進行を止める筈だった結界の属性を変換。
相手を閉じ込め、逃げ場のない火力で殺戮し続ける空間へと変えていたのだ。
密閉された空間内で、異能魔術とお兄ちゃんの核熱魔術が発動し続ける。
ま、まあ四方を囲んで焼き殺すっていう、なかなかエグイやり方だが。
……。
なーんか、相手の動きが止まってないような気がするのよねえ……。
あたしもお兄ちゃんも察したのだろう。
これだけやっても、まだ動いているのだとしたら。
悪い予感というのはよく当たるもので――。
ホークアイ君でなくても聞こえている。
中から――ズンズン……っと。
音がしていた。
けれど、明らかに動きは鈍くなっている……。
結界が得意な炎兄の到着後は、全てが致命的な攻撃となっているからだろう。
おそらくだが――もう負けることはないだろう。
問題は、どれだけ早く処理できるかってことよねえ……。
そしてこれを現実的に退治できるとなったら――大きな問題も残っている。
そう、事後処理である。
事件を起こしたディカプリオ神父も、パンデミックも。
そしておそらく、あたしたち兄妹も。
もう――今まで通りではいられないだろう。
あたしは知っていた。
あたしは……人間は好きだが――けれど。
全員が全員、善人というわけではないということを。




