第百九話、最終決戦! ~元凶姫と黒幕達と、ラスボスと~その3
夜空を照らす魔力閃光による朝焼けの中。
ビルほどの大きさになって暴れている、聖遺物のバケモノの前。
ズドドドドドとヘリコプターの音が鳴っている。
開いたその鋼鉄の扉の中には、見知った面子が顔を出していた。
濃い黒髪と浅黒い肌が印象に残る、中東系なそれなりの美青年。
石油王の息子のホークアイ君である。
あたしはにっこり笑顔で口を開いていた!
「やっぱり聞こえていたのね! 信じてたわよ!」
「こちらが分かりますか! アカリさん!」
彼の異能は音波。
それは通信ではなく、純粋に自らの聴覚を強化する力。
あたし達の会話も彼にだけは聞こえていた筈。
だからきっと、こちらの事情を把握した上で接近してきてくれた。
そう考えていい筈だ。
実際、彼は目の色を変えて、血相も変えて――。
あれ? なんかめっちゃ凄い顔をしているが。
彼の異能で強化された声が届く。
「アカリさぁぁぁぁぁん! ストップ! ステイです! こちらも状況を把握して動いていますからっ、世界を破壊するのは待ってください!」
あぁ……あたしが地球を破壊すると池崎さん達に伝えた時に、聞いていて。
慌てて飛んできたのだろう。
味方識別機能がついている結界なので、そのまま素通りして入ってきた彼のヘリコプターが、空飛ぶあたし達と並走しているのだが――。
あたしは声を風属性の魔術で拡張し!
「分かってるわよ! あれは最終手段にとっておくわ! でー! なんかそっちは手を打ってるって考えていいのかしらー!」
「本当にー、本当に破壊しませんねー!?」
こ、こいつ……っ。
「あたしをなんだと思ってるのよー! ほかに手段があるならそっちを優先させるに決まってるでしょ!」
「け、計画を聞いていたのですがー! あなたのことですからー! 魔導書化した人間の物語を読みたいがために、そのまま計画を実行するんじゃないかって、みなさんがー!」
みなさん?
ってことは、あたしを知ってる連中はあたしならやりかねないと、思っているのだろう。
い、いやまあ実際にやる気だったからなんとも反論しようがないが。
「まあいいわ! お兄ちゃん達とは連絡は取れてるの!?」
「もちろんです! お兄さんたちとペスさん、そして魔猫の公爵の方々は世界を襲っているミサイルを全て対処してから、こちらに合流するそうなので――しばらくあなたがやらかさないように見張っていろと」
世界を襲っているミサイルって。
ああ、そういやこいつら、日本だけじゃなくて世界そのものを終わらせようとしてたんだっけ。
また突っ込むと、ディカプリオ君がしゅんとなってしまうだろうから突っ込まないが。
「具体的に作戦は決まっているのかしら!」
「アカリさんはそのまま結界を維持して欲しいとのことです。ミサイルを止めた後ならば電波による通信も衛星による通信も、むろん異能による通信も可能になる筈ですよねー!? 通信が可能となったら沢田さんのフレンドリーの能力で、魔導書化されずに日本で動いている全員と、友達になる放送を――」
言葉が途切れた!?
いけない! 天使ギシリトールがヘリコプターに気が付いて、咆哮を放とうとしている。
「避けて――!」
やばい!
あたしは結界の維持にリソースの大半を持っていかれてるから、即座に対処できない。
太陽の如き閃光が、ホークアイ君の乗るヘリコプターを直撃する!
ジャジャジャギィイイイイイイィィィィィィン!
いや、魔力閃光はヘリコプターの直前で止まっていた。
誰かが止めている。
ヘリに乗り込んでいたのは、猫の顔をした獣人。
見覚えのある顔だった!
「父さん!?」
『息子に手は出させんぞ!』
それはホークアイ君の父上。
月兄の眷属となっている石油王である。
飛行魔術で空を飛びながらキリリ! ヘリコプターの前で、紳士の仁王立ち。
赤い魔法石を嵌め込んだステッキから多重の魔法陣を展開し、魔力閃光を防いでいるのだ。
「来てくれたのね、石油王。今のは防げなかったから助かったわ♪」
『こちらこそありがとうございます。月影様から急いで行けと言われてきたのですが、間に合ったようで……ホッとしました。ただ――っ』
ステッキから生み出される魔力障壁と、相手のビームがぶつかり合い火花が発生。
なんとか相殺していると言った感じか。
歯を食いしばるダンディなネコ顔が、夜と朝の輝きの中で際立っている。
『重い……っ。月影様に頂いた、猫目石の枝でも……っ、長くは』
猫目石の枝って……。
それ、お父さんも使っている魔術ブースト神器の系列なのだが。
月兄……、んなもんをぽんぽん部下に与えちゃってるのか。
お兄ちゃんも人間界のバランスとか考える気ないっぽいしなあ……。
ともあれ!
それなり以上のマジックアイテムのおかげで、なんとか防いではくれたようである!
ホークアイ君も無事である。
それが天使ギシリトールには不快に映ったのか。
再び、高出力のプラズマ球をチャージし始める。
『させませんよ――!』
石油王も再び、ステッキを構え多重結界を構築し始める。
また、魔力閃光が放たれ――。
同時に石油王も、ステッキを振るう!
ステッキの先端のネコの瞳が、うにゃぁぁぁっと見開かれていた。
魔力を放出し続けているのだ。
ただ、何発耐えられるかは――……。
父を心配する息子があたしを振り向き。
「アカリさん! すみませんが!」
「分かってるわ! ナイスよ石油王! 今救出するわ! ホークアイ君、ディカプリオ神父をそっちに乗せて! それだけでも手が空くから」
提案するあたしに、慌てて神父が言う。
「待ってくださいアカリさん。おそらく、ギシリトールはわたしを狙っているでしょう。わたしがヘリコプターに移るのは、却ってあの石油王の息子を危険に晒してしまうのでは?」
「それもそうか――」
……。
「いや、まあいいんだけどさあ……。もしかして、あたしはあんまり心配されてない系だったりする?」
「え!? そ、そういう意味ではなくてですね!」
ジト目で睨むあたしに、胸の穴が塞がっている神父が困り顔である。
こちらの話をずっと遠くで聞いていたのだろう。
事情は知っているようで、ホークアイ君が神父の豹変には惑わず言う。
「それで、ど、どうしますか? 結界を維持して欲しいという伝言はお伝え出来たので、連れて逃げろというのなら従いますが」
「考えてるけど……とりあえず――次の攻撃を防ぐわ! これじゃあ石油王がもたない!」
告げてあたしは、指を鳴らす。
鳴らした指で発生した衝撃が、魔力となり周囲を変質させる。
そのまま世界に干渉し、海岸に作られたあたしの影を操作――!
本来なら格好いい魔術名とかを叫びたいところだが、即興なので諦める!
「邪なる攻撃を弾き飛ばしなさい、影の槍よ――!」
ズジャジャジャジャジャジャジャ!
ジャジャジャジャズズズズズズズ!
影が魔槍となって、相手の極太魔力閃光に突き刺さる。
致命的な攻撃にはならないが、放ち続けるビームの方向を逸らすことぐらいはできる。
そのままパンデミックに向かい、猫使いの能力を発動!
「あんたも原因の一つなんだから、サボってないで! 石油王を救助するから手伝って! 早く!」
『ぶぶにゃ! しょ、しょーがないにゃあ!』
パンデミックが瞳を赤く染め、ギン!
夜の世界に赤い瞳のネコの幻影が、おどろおどろしく広がっていく。
その幻影が咆哮をとどろかせ続ける天使の頭上で、ニヒィ!
『痴れ者が、我はネコぞ? 頭が高い!』
上げた猫手を。
ベチンと落として、重力攻撃!
魔女の魔術、ウィッチクラフトに憎悪の感情を乗せて、力を増した圧縮魔術だろう。
ネコちゃんが肉球で、プニーっと相手を押す。
あれの超すごいバージョンと思ってもらえばいいだろう。
こいつ、やっぱり繰り返す時の中でちゃんと魔術も習っているのか。
今まで披露していなかった理由は、おそらく単純。
まだ世界を滅ぼすことを完全に諦めたわけではないのだろう。
だが。
『な!? 効かぬだと!?』
「効いてはいるけど、押さえるまでには至ってないのよ! まだ隠し玉ぐらいあるんでしょ! ここで終わったら、全部が台無しよ! もし、あんたの大好きだったご主人さまの生まれ変わりがいたら――」
『言われずとも分かっておる! ならば――これでどうだ』
パンデミックが吊られた魔女の呪いを空に具現化。
全身に赤い紋様を浮かべ。
海岸の上に、ちょっとしたホラー映画の世界を顕現させる。そのまま――。
ざざざ、ざぁああああああぁぁぁぁぁああ! と、空に闇の霧を発生させたのだ。
いや……これは霧を発生させた、というよりは憎悪や呪いを具現化させた塊。
憎悪の魔性パンデミックとしての本来の姿なのだろう。
闇の霧に生まれた二つの赤い亀裂、瞳のような真紅が細まり。
憎悪の声が、世界を揺らす。
『汝。災い在れ』
それは呪いの言葉。
世界を呪う災禍の言霊が、ギシリトールの腹を直撃する。
ぐじゅじゅじゅじゅぐぐじゅじゅじゅうう!
肉が捲れて、皮膚が弾けて……いや、解説は止めよう。
憎悪の魔性は伊達ではない。
世界を呪い続けた者の呪いが、ギシリトールの動きを止める。
ここであたしが転移魔術で、石油王を回収すればいいのだが。
そう都合よくいかないのが、戦いの恐ろしい所。
呪いによる攻撃を受けたギシリトールが、そのまま超速再生。
立ち止まり。
足の腱を攻撃し続けているあたしの聖剣を踏みつぶし、ぎしり。
大地を割る勢いで、足を踏み込み始めていた。
ジャンプするつもりなのだろう。
憎悪の霧と化しているパンデミックが唸るように叫ぶ。
『いかん! 此のような異形なる魔力炉が飛び跳ねたりなどしたら!』
「だぁああああああぁぁぁぁ! 次から次へと!」
あたしは魔力閃光を防ぎ続ける結界の横に、手を伸ばす。
指による、筆記詠唱を発動させていたのだ。
そのまま口でも詠唱を開始。
「天に遍く星々よ。夜空を彩る箒星よ! 我は契約せし者、宇宙の真理を知るもの也や。聞け! 我は日向、日向アカリ! 汝らの契約者! 我が名に従い、我が魔弾の射手となりて、我らの敵を戒め給え!」
あたしの生み出す結界内なら、ある程度の無茶をしても問題ない!
と言い切りたいところなのだが、これは緊急手段。
多少、地球が歪むが――。
魔術を齧っているだろう石油王が、ぎょっと顔を歪ませ。
『アカリ様!? それは大規模天体魔術では!?』
「あら、よく知ってるわね。まあ大丈夫よ、あれを降らせ続けてジャンプを阻止するだけだから」
言いながらもあたしの手は複雑な印を結んでいる。
魔術にあまり詳しくないディカプリオ君とホークアイ君が。
「いったい、あれは……」
「なにやら、空が燃えていますが……」
「ほら、ゲームとかでよくあるじゃない。宇宙から天体を降らせる魔術よ」
あたしの言葉に、男子二人は沈黙する。
彼らが見上げた空には、宇宙から降ってくる無数の箒星がギラギラギラと輝いている。
シューティングスターとか、メテオスウォームとか、呼び名はいっぱいあるがゲームではおなじみの魔術だろう。
あれってゲームだからいいけど、実際にこうやって降らすと結構とんでもないインパクトになるのよねえ。
ちなみに。
あたしたち兄妹は小学生の頃、夏休みの自由研究に決めた星の観察をサボってしまい。
慌ててこの魔術を魔導書から読み解き完成させて、発動させまとめ。
箒星の群れが地球に激突する――そんな、すんでのところで防いだお父さんと、お母さん達からガチ説教を受けたことがある。
まあ、子どものちょっとした失敗というやつである。
男子二人は、汗を浮かべ。
ホークアイ君の方が言う。
「だ、大丈夫なのですか!?」
「このままジャンプされて世界が滅ぶよりはマシでしょう? それともなに? なにもしないで滅んだほうがいい?」
「それは……困りますが」
よし、これで許可を取った。
ということにしよう。
「まあ平気平気! たぶん被害は少ないし、安心して! あくまでも影響はこの結界内だけにとどめてみせるから!」
言ってあたしはブイサイン!
そのまま落下してきた箒星が、味方判定となって結界を素通り。
足に力を溜めるギシリトールに直撃!
ズガガズゴゴオオオオォォッゴゴゴゴッゴゴゴ!
ヒュンヒュンヒュン……ズゴオォオォオオォォオッ!
再び。
夜空が隕石の衝突熱で赤く染まる。
何度も朝焼けを繰り返しているので、もし太陽を目印にしている鳥がいたら大迷惑をしていそうだが。
ともあれ、問題はこれから。
衝撃が、波となってこちらに向かってくる。
当然である、結界内に誘導して地球にそれほどダメージが当たっていないとはいえ。
天体を降らせているのだから。
それは目視できる土煙と魔力の波。
あたしは慌てず騒がず、ふっと微笑し!
ビシ!
「さあお願い! 池崎さん! 今あたしは手が離せないの!」
「ちぃ! こっちだって、だが――しゃあねえなあ! 嬢ちゃんはどんな時でも、人使いが荒いのは変わらねえな!」
両手を広げた池崎さんもまた、瞳を赤く染め上げ。
ざざざ、ざぁああああああぁぁぁ!
闇の中に、赤い瞳のネコの幻影を浮かべて魔力による手を伸ばす。
コートの裾から、おどろおどろしく伸びる邪悪な魔力アームが、空に巨大な煙を発生させ。
ドドドォオオッォォオオォォォ!
箒星落下による衝撃波を、なんとか魔力持つ煙で相殺してくれる。
「ナーイス! ほーらみなさい! やればできるじゃない!」
「お、おまえさんなあ、出来なかったらどうするつもりだったんだ?」
ぜぇぜぇと肩で呼吸をし、池崎さん、ジト目である。
「あら。あたしの眷属になるんですから、それくらいできて当然でしょう?」
「おい、誰が誰の眷属だって?」
「そりゃあ、あなたに決まってるでしょう? あたしはできるだけ強い仲間をいっぱい作りたい、そう、今回の事件で悟ったのよ」
さて、一応は難局を乗り切った。
あたしは考え。
「神父はこちらで待機。敵に冷静さが戻った時に、説得できるかもしれないし。だから、ホークアイ君と石油王さんは戦域から離れていて! 具体的には、そうね、この周囲を覆っているあたしの結界外ならたぶん平気よ。ちょっと周囲を守りながら戦える相手じゃないのっ」
結界外なら平気、というのはウソじゃない。
結界が貫通されたら、そこで全部が終わるので結界外ならどこでも同じなのだ。
「分かりました! それでは申し訳ありませんが、お兄さんたちが到着するまで時間を稼いでください! それと、絶対に地球を破壊しないでくださいね!」
『くれぐれもお願いいたします、アカリ様』
石油王も、落下してきた箒星の群れを眺めながら言う。
皆、どんだけあたしがそのまま地球を破壊すると思ってるんだか……。
真顔で釘を刺されてしまったのである。
さて、全力で時間稼ぎ開始である!




