第百八話、最終決戦! ~元凶姫と黒幕達と、ラスボスと~その2
前回までのあらすじ。
あたしのせいで世界がヤバイ。
いや! 訂正!
ここにいるあたし達のせいで世界がヤバイ!
目の前で暴走する歪な天使は、繰り返すループの度、魔力炉が追加されている歩く世界破壊爆弾。
単純な魔力の強さなら、異世界においても主神以上の存在といえるだろう。
まあ……正直、ただビームを撃っているだけなので三獣神たちと比べれば、まったく脅威ではないのだが。
そんな伝説の傑物と比べてもしょうがない。
問題は魔力総量だけなら比較対象にできるほどの存在という事だ。
あたしが周囲を結界で保護しているから無事なだけで、この結界を解除すれば地球もヤバイ。
神父の過去を追っていた時にかけた時魔術は、あいつの魔力に散らされて解除されてるっぽいし。
「さあて、どうしたもんか」
相手は常に魔力閃光を放ち続けているので、あたしはそれを防ぎながら考える。
なにかいい方法はないか。
一瞬ならともかく、結界の維持をパンデミックに任せるのは……たぶん無理。
この出力を結界で恒常的に防ぐのは、至難の業というレベルを超えている。
それこそ、あたしたち兄妹レベルの、上位存在ともいえるイレギュラーじゃないと不可能だろう。
池崎さんは状態異常攻撃で、相手の腕による詠唱を妨害し続けなければならない。
ディカプリオ神父は……まださすがに無理か。
聖遺物を溜め込んだ天使の一撃を胸に受けたのだ。
いくら最上級の回復アイテムを使ったとはいえ、完治するにはラグがある筈。
彼が使役していた天使も、頼りになれそうにないし。
しかし、何か手はある筈だ。
……。
ここであたしは考えに入り込む、が!
なにやら敵も周囲も騒がしい。
実際、ディカプリオくんが、まともに顔色を変えていた。
救世主の異能で攻撃を察知しているのだろう。
どんどん巨大化しているギシリトールが、むき出しの歯ぐきの前にプラズマ球を錬成し始める。
プラズマに見える光の一つ一つが攻撃的な魔術式。
破壊に特化した魔術の帯が、土星の輪のようにぐるぐると回転しているのだ。
それはさながら神話時代の巨人。
ちょっと興味はあるが。
「いけない――大きな攻撃が来ます!」
「オッケー、こっちも防御壁の練度をあげるわ。しっかし、それって救世主の力を用いた予知の一種でしょう? 敵にすると面倒だけど、便利な異能よねえ――ソレ」
と、ぷっくらとした唇の下に細い指を当て。
白い肌をキラキラキラ。
物思いに耽るあたしは思考の海の中で、緩やかに告げたのだが。
「いけません! いくらなんでもあの出力はあなたでも無理です! ギシリトールはあの人の遺骸の力を燃料として、更に高出力の攻撃に変えるつもりだと思われます!」
「分かってる分かってる♪ その辺も、まるっとさくっとお見通しなんだから!」
吠えて無差別攻撃を繰り返す”天使の咆哮”を、もはやルーチンワークで迎撃。
このあたしの思考を邪魔するとはいい度胸であるが。
神父とずっと一緒に居たいがために暴走しているのだ、本当に何も考えていないのだろう。
ディカプリオ神父が若干、呆れ気味に言う。
「って、アカリさん……本当に全部防いでいますね……。なんなんですか? 実は、楽勝なんですか?」
「あのねえ、楽勝じゃないわよ。ただこっちは相手をメタってるだけなのよ」
あたしは魔術講師の顔で、こほん。
今回使用した魔術式を、大空に輝く青文字で提示してみせる。
「相手は単純なんですもの。魔術式を読み取って同じ魔術式を同時に展開して、その破壊力に特効効果がある対抗魔術に変換してるのよ。尋常じゃない攻撃といえども魔術式を使っているのなら、そこに必ず解決策はある。破壊のエネルギーの部分を抜き出して、そこを消し去るオリジナル魔術を一から作ればいいってだけの話ね」
あたしは実は自慢だったりする即興防御魔術を解説し、えっへん!
ようするに毎回新魔術を作っているようなもの!
鼻高々なのだが。
「これ、なんなんですか。青い文字のようですが……」
って。
そういやディカプリオくんは異世界人ではなく純粋な地球人。
常識はずれな事ばっかりしていたが、分類するなら普通の異能力者なんだった。
自慢空振りであるが、あたしは説明する。
「あれが魔術式。物理法則を捻じ曲げる魔術の根源よ。今のギシリトールも使っているけど、あたしたちも使っている、魔術を起こすために世界を書き換える計算式なの」
「さ、さすがはあの方の娘様! なんだか知りませんが、凄いという事だけは分かります!」
あまり嬉しくない誉め言葉である。
と思った矢先に池崎さんが、キシシシっと微笑し。
「こいつ、お父様にコンプレックスがあるからそういう言い方は避けた方がいいぞ? 嫌われたくないならな」
あたしがブスっと口を尖らせる。
「はい、そこ! 余計なことは言わない!」
「ま、冗談はさておいてだ。どうする、具体的な対抗手段はあるのか――これ」
ふむ……。
一応、身も蓋もない解決策はあるのだ。
それは父が最も得意とする分野。
全ての破壊、である。
ダンジョン化してあるんだし。
もう、いっそ――。
あたしが代わりに地球を破壊しちゃって、後で一から再生し直すっていう最終手段を使っても……よくない?
である。
人道的な問題にも対処できる方法がある。
そう。
守るべき生命を全て魔導書化して保存しておけば話は早い!
命を全部! 魔導書化して保存しておけばいいじゃない作戦!
でもある。
あたしも、この世全ての生物の人生の物語を読むことができるし。
後でじっくり時間をかけて、魔導書化を解除すればオーケー……みたいな?
植物を含め、命という命をあたしが回収するのだ!
樹齢千年の大樹とかって、様々な人生を過ごしているのできっと読みごたえもある。
あたしの知らない知識が、まだ山ほどこの世界には存在する。
で! 極端な話だ。
誰もいなくなった世界ならギシリトールの相手も現実的に可能。
周囲への影響を考えず、ドカーン!
なにひとつ、遠慮せずにあたしが本気で破壊することだけを考えれば、壊せない存在などない!
破壊だけのスペックを考えた場合、異世界を含めても、あたしは結構上位に存在する。
魔王の血族で、勇者の娘で、反救世主の娘で、勉強家。
世が世なら、ラスボスと言われてもおかしくはない存在!
全てを破壊することが可能!
で!
あたしは天才なので、自分の魔力で破壊したモノなら再生も簡単――とまではいわないが、不可能じゃないし。
さすがに色んな人から怒られるだろうけど。
世界崩壊と同時のループ発生の前に、時魔術で時間を止めておけばいいだけだし。
止まった時間の中では一瞬の出来事、たぶんお父様以外にはバレない筈。
まあ途方もない時間はかかるが。
そこはあたしが頑張ればいいだけの話なのだ。
覚悟を決めるしかない。
池崎さんだって、何度も時間を繰り返していたのだ。
あたしだって、止まった時間の中で世界を作り直すことぐらいしたっていい。
ただ、問題はかなり多い。
後で直せるとはいえ、あたしが一度世界を滅ぼすことになる点である。
後は、世界再生に滅茶苦茶時間がかかることだが。
天才たるあたしの魔術で、自動で修理する魔術式を作って!
その間に、全人類の人生を時の止まった図書館で読み続ければいいだけ!
パーフェクト!
全人類魔導書化の魔術式を空に描きながら。
あたしは言った。
「一瞬でいいわ。パンデミック、結界を引き継いで――」
赤い髪が、魔力閃光で朝焼けに染まる空に――靡く。
あたしの顔を眺めて察したのだろう。
パンデミックが戯れを捨てた顔で、凛々しく猫口を動かしてみせる。
『作戦を思いついたようだな。構わぬが――して、具体的にはどうするつもりなのだ』
「とりあえず、地球を破壊するわ」
告げてあたしは魔導書を展開!
今回の事件で一時的に入手してある魔導書の数は、膨大。殺してはいけない暴徒たちを魔導書にしてあるからである。
この魔導書の魔力を収束させて――。
と、こっちは割った空にあたしの本体ともいえる、超特大な赤きモフモフ魔猫を輝かせていたのだが。
説明を省いたせいだろう。
池崎さんとパンデミックが、似たような赤い瞳でくわっと吠えていた。
「いや! おま、おまえ! なにをいきなり言い出しやがる!」
『気でも狂ったか!?』
こいつらには言われたくない案件である。
あたしは、あははははっと手をパタパタ。
「だって仕方ないでしょう! 大丈夫よ、後で全部直せるから! そっちの体感時間だと、たぶん一瞬だから問題ないわよ?」
無限に近い時の中で、全人類の物語を一冊一冊読み続けられる。
ああ! そこにはあたしの知らない知識や魔導の群れがある!
じゅるりと、つい涎が流れてしまいそうになるが。
あたしは覚悟を決めた凛々しい姫の顔を維持!
対する池崎さんは、ぐぬぬぬっと顔を尖らせ。
「どうしてアレを止めることから地球を壊すに話が飛ぶんだ!」
「説明すると長くなるから仕方ないじゃない!」
だいたい、あたしの魔術式をちゃんと理解して読める存在なんてあんまりいないし。
はぁ……と池崎さんが露骨にため息を漏らし。
自らの頭を大きな大人の手でガシガシ。
「あのなあ、嬢ちゃん。前から言おうと思っていたんだが、普段おしゃべりなくせに、おまえさんは意外に言葉が足りねえんだよ」
「ちょっとなによ。こんな時にお説教?」
ジト目で睨むあたしと、あたしの頭上の巨大魔力猫を見て。
「なにをしたいのか、どうしたいのかもっと言葉にしろ。いっておくがあの時……この世界にループを発生させた時もそうだったからな? どうせ嬢ちゃんの事だ、そこにあるリスクやデメリットの事を口にしたくねえんだろうが」
「いや、デメリットもメリットになるっていうか――あたしなら問題ないっていうか」
事実、知識欲の獣のあたしなら本気でわりと問題ないのだ。
ただ、絶対に反対されるだろうなあ。
目線を逸らしながら、とりゃとりゃ!
あたしがギシリトールのビームを、十字に配置した新たな聖書で完封する中。
あたしと同じジト目を作り、池崎氏がタバコによる魔術封じを継続し。
眉間に怖い皺を刻み。
鋭い三白眼を作り、じろり。
「てめえ、マジで何を企んでやがるんだ?」
「あははははは、そんな企むだなんて」
闇落ちしたともいえる外見のせいだろう。
圧力が凄い。
池崎さんがシリアスハンサムな……けっこう、本当のイケオジみたいな顔で――。
「あのなあ……言っておくがおまえは前科持ちなんだぞ?」
「はぁ? なによ前科って」
「この繰り返しの世界の元凶のお姫様は誰だったっけなぁ? ああん?」
う……っ。
ま、まあたしかにそうなんだけど。
「も――もう、しょーがないわねえ。一からちゃんと説明するから、理解しなさいよ!」
あたしは説明した。
池崎さんは頬をヒクつかせました。
「このバカ! 他に方法もあるかもしれねえだろうが!」
めちゃくちゃ怒られた。
「そう言われてもねえ」
告げてあたしはますます巨大化しているギシリトールをちらり。
「まあ、例えばだけどギシリトールを強制的に異世界に転移させるって手もあるわね。お父様たちが手を出せない理由が、三獣神があまりにも強すぎるから地球がもたないって理由ですし。だったら、あっちに送ってあっけなく倒して貰うって感じの作戦ね」
「おいおい……それでいいじゃねえか。なんでやらねえんだ――っていいてえが。何が問題なんだ」
そう、やれない理由があるのだ。
「単純よ。いくらあたしでも、何万回タイムリープを繰り返したのかは知らないけど、あそこまで聖遺物を吸って膨らんだ存在の強制転移は不可能よ。そりゃあ時間をかければできるでしょうけど、そもそも結界を維持する人が足りないわ。ちなみに、結界をちょっとでも維持しなくなったらその時点で地球は蒸発するわ。今はもう、それくらいのエネルギーになってるのよ。アレ」
「なるほどな――まあ、その無限聖遺物現象も、誰かさんのせいらしいがな?」
あたしって。
どのルートを進んでもトラブルばっかり起こしているような気もするが。
気にしたら負けである。
状況を眺めるパンデミックが、髯と尻尾を風に任せながら言う。
『あいつを魔導書化するのはどうかニャ? ある意味であれは一撃必殺。即死技だにゃ』
むろん、それはあたしも考えた。
「あのねえ……忘れたの? あいつは記憶を維持し続けてるのよ? そんな膨大なデータを魔導書化したら、たぶんその時点でドカン! 地球よりも大きな魔導書になって、魔力的な重力崩壊を起こすわ。それともなに? あんた、この世界を二度と復帰できない黒死惑星にでもしたいの?」
『もしまた滅ぼしたくなったらそうするニャ』
真顔で言いやがったよ、この駄猫。
こ、こいつ――。
別にそこまで改心してるわけじゃないから、素直に邪悪だなぁ……。
ディカプリオ君が言う。
「とりあえず、結界を維持しながら他の皆さんを待つというのはいかがですか?」
池崎さんが同意し。
「時間はかかるが、しゃあねえか。通信魔術や、それこそスマホで直接連絡を取ればいいだけだろうしな」
「ま、それが現実的な方法ね」
お兄ちゃんたちが協力してくれれば、結界の維持もおそらく可能。
あたしは飛ばした聖剣でギシリトールの足の腱を狙い、時間稼ぎをしつつスマホを操作。
……。
「って、あれ? 電波が通じてない?」
『にゃっふふっふ! それはミサイルの影響だにゃ! 一度飛ばした後には、簡単に協力させないように通信手段を遮断するようにあらかじめ電波妨害の異能を……って、なんニャ! その顔は!』
そりゃあ怒りたくもなる!
「だぁああああああああぁぁぁ! あんたたちは本当にとことんまで迷惑なことしてくれるわね!」
「す、すみません……その、わたしは――返す言葉も……ありません」
って、あぁああああああぁぁぁぁ!
ディカプリオ君がものすっごい罪悪感を感じた表情で、どんよりしちゃってる!
「ま、まあ――あなたはいいのよ。この糞猫に洗脳されてたようなもんなんですから」
『差別はよくないニャ?』
さーべーつ!
さーべーつ!
と、肉球であたしの額をペチペチしているのだが。
こいつ、本当に憎悪の魔性なのかってぐらい軽い……っ!
ま、まあ世界を何回も滅ぼした影響で、憎悪が和らいでいるのだろうが。
とにかくだ。
「しょうがないわね。通信魔術で……」
言いかけたあたしの前で、ディカプリオ君が再び、はうっと申し訳なさそうな顔をしている。
はいはいはい。
もう読めたわよ。
ドヤ顔をしたパンデミックが言う。
『当然、そこまで読んで妨害してるニャ~。魔導契約でそっちが動けない間、たっぷり時間があったからニャ~、こちらも準備だってするニャ~』
「あ……あんたたち、本当に、色々とやらかしてくれてるわねえ」
というわけで。
みんなと連絡が取れません。
異能での通信でも、魔術でもなくてどうにかして連絡を取る方法か。
……。
そこまで考え。
あたしはふと、思いついていた。
「決まったわ! このままあたしたちはしばらく結界を維持するわよ!」
「そりゃあ構わねえが。どうしたんだ?」
訝しむ池崎さんに、あたしは笑顔でブイサイン。
「たぶん、もう皆。動いていると思うわ!」
そう。
異能による”通信”は通じないが――。
おそらく、彼にはあたし達の声が届いていた筈だろう。
遠くの方から、ヘリコプターの音が聞こえていた。




