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第百四話、衝撃の事実! ~倒れるフラグを積み上げて~



 長い魔導書の旅路から追い出されたあたしたち!

 場所は先ほどの海岸。

 時魔術の発動範囲だったので、外の時間はほとんど経っていない……筈!


 ちょっと間抜けに海岸の砂に腰を落としていた池崎さんが、頭をガジガジしながら吠える。


「な、なんだ!? 嬢ちゃん、魔導書化を維持できなくなったのか!?」

「違うわよ。あれは神父の記憶を追っていたでしょう? あの時、あの瞬間――パンデミックに憑依された時点で、もう中の人がほとんど変わっちゃってるのよ。そりゃあ性格や思考ベースはあの神父のモノ、なんでしょうけど」


 魔力の赤いドレスを翻し、魔術講師モードで答えるあたし。

 とっても凛々しいわね?


「なるほど。あれは糞神父の記憶を追ってた魔導書だから」

「ええ、不純物が混じりすぎたパンデミック憑依後の記憶を読み取れず、エラーを起こして排出されちゃったってところでしょうね」


 そんなあたし達の目の前。

 中二病のごとく顔面を筋張った手と指で押さえ、邪悪なオーラを発し。

 前のめりに上体を崩しているのは、ある意味で純粋過ぎる神父、ディカプリオくん。


「わたしは――っ。わたしは……神父様のために、わたしは……」


 うわぁ……。

 なんかこっちもエラー起こしちゃってるな。

 彼に憑依してる黒猫パンデミックが、メガホンを片手に洗脳電波をぶわぶわ!


『さあ、共に平和を作りましょうニャ。争いのない世界へ。二度と悲劇が発生しない世界へ――そうすれば、勇者召喚で犠牲者となるモノもいなくなるニャ~? オマエの最も大事なものを奪った、あの異世界召喚を封じるため、全てに平和なる世を――ニャーと共に作るのニャ!』


 めちゃくちゃ原始的な洗脳をしているが。

 これでもガチで憎悪の魔性。

 その洗脳効果は、並以上の能力者であっても防げないだろう。


 神父の瞳が赤く染まっていく。

 憎悪の魔性の力を取り込み。

 そして――。


「そう、でした。我が神よ。わたしは――もう二度と、誰も苦しまない世界を、誰も泣かない世界を作る。そのために、救世主となる。わたしが、救世主となれば、神父様もきっと! きっと喜んでくれるのですから!」


 ゴゴゴゴゴ!

 文字通り、憎悪のオーラを纏った救世主の完成である。


「なーるほどね、これで騙されちゃったってわけか」


 ジト目で頬を掻くあたしに、池崎さんも続く。


「もう二度と、異世界召喚で悲しい思いをするヤツがでねえように。救世主となる……か。なまじ救世主の異能をもっているだけに、本当の神だと思い込んじまったってわけだな」

「そりゃあ神様の声なんて知ってる人はいないでしょうしね。それっぽいことを囁かれたら、神様だって思っちゃうんでしょうけど――まずいわね」


 あたしは頬にちょっぴり汗を浮かべてしまう。

 腕を組んで、タバコを装備する池崎さんがキョトンとした顔をして。

 ぷふぅっと煙の息を漏らす。


「なにがまずいんだ。こいつを殺さない程度にぶっ飛ばして。憑依から外れたパンデミックも殺さないようにどうにかすりゃあ、全部解決だろう」

「そりゃ言葉にすれば簡単だけど。それって結構大変よ? あなた、憎悪の魔性が憑依した人間の解呪方法って知ってるの?」


 問いかけへの反応は薄い。

 んーむと、耳を下げる猫みたいな顔で彼が言う。


「浄化の奇跡とかじゃあ」

「普通のアンデッドなら簡単でしょうけど、無理ね。というか浄化しちゃったらしちゃったで、パンデミックが滅ぶことになるからループが発生しなくなる可能性がある。また最初からやり直しになるわ」

「いや、偉そうに言ってるが……それ、五年後のおまえさんのせいだぞ?」


 そうともいうが。

 気にしない。


「とりあえず神父を説得するのが手っ取り早いんでしょうけど。この神父――記憶も精神も心も、もう滅茶苦茶になってる。元から壊れかけちゃってるところに憎悪の魔性が憑依したんですもの、当然っちゃ当然なんですけど――」


 憎悪の魔性パンデミックに憑依され。

 彼は暴走を加速させたのだろう。

 パンデミックの言葉は神の言葉、もう彼は本当に心を壊された操り人形のようになっているのか。


「で? どうするつもりなんだ」

「どうするって言われたって――」


 結局、この神父はどうにかしないといけない。

 パンデミックに憑依されなかったルートを辿ったとしても、結局池崎さんと敵対して、独善的な救世主になろうとするのは確定みたいだし。

 それにだ。


 お父様は彼の救済も望んでいる。

 ……。


「だぁあああああああああああぁぁぁぁぁ! そんなにあの時の子どもたちが大事なら、自分で動いてよ!」


 叫ぶあたしの声に、返答がある。

 夜空に、肉球マークが浮かんだのだ。

 あれは父からの伝言。


『いやあ、ごめんねえ。実は何回かシミュレートしてみたんだけど。にゃはははは! 途中で地球がぶっ壊れちゃって、パパじゃ無理なんだよね~』


 とのこと。

 本当にそうなのか。

 それともあくまでもあたしと池崎さんになんとかさせたいのか、それは分からない。


 けれど。

 呻きながら、邪悪な闇のオーラを放つディカプリオ神父を指差し。

 あたしはいつもの口調で、叱りつけるように口を開いていた。


「ちょっと神父! あんた! そんな詐欺師に騙されてるんじゃないわよ! 自分をしっかり持ちなさい!」

「詐欺師ではなく、我が神です!」


 あ、滅茶苦茶怒り出しちゃった。


「おい、挑発してどうする!」

「し、知らないわよ! 言っておくけど! あたし、ゲームとかでも仲間になるけど説得フラグが面倒な敵は、説得とかしないでぶっ飛ばしちゃう方ですからね!」

「偉そうに言う言葉じゃねえだろう!」


 あたしは考える。

 ……。


 彼の暴走の原因は、結局のところはおよそ二十五年前に神父、つまりあたしのお父さんが異世界転生を強制され死んでしまったこと。

 そこから狂気が始まった。

 思えば、彼がモグラ聖女ちゃんを異世界召喚して使役したのも、その復讐ともいえる行為だったのだろう。


 やられたからやり返す。

 その結果が異世界からの拉致召喚。


 つまり、彼は異世界の存在を知っているのだ。

 それはギシリトールの目、聖遺物たる角膜から得た情報と、憑依したパンデミックからもたらされた情報の筈。

 あたしは――選択した。


「神父! 単刀直入に言うわ! あたしは日向アカリ! 異世界の姫だってことは伝えたわよね!?」

「ええ、そして我が神が齎した我が妻」


 あ、その辺のこと、まーだ引っ張ってるのか。

 狂ったついでに忘れてくれればいいのに。

 と、ともあれ。


「あたしが偉大なる存在の娘であるってことは、理解できているわよね!?」

「それはCと呼ばれる異神。この世界に異能力を齎した、全ての元凶――おそらく、あなたはその娘。常識知らずで厚顔無恥な異世界神のわがまま姫、わたしはそう認識しておりますが? それがなにか?」


 わがまま!?

 こ、こいつ――人が説得なんていう、大嫌いな行為を選んでやっているのに。

 ここは我慢。あたしはできる子、おしとやかな姫!


「説明が長くなるから省くけど、あたしのお父さんこそがあなたの大切だった人。異世界召喚された、あの神父様よ!」


 ド直球な説得攻撃!

 そう、あたしがあの神父の娘と分かれば、もう少し話も聞いてくれるはず。

 パンデミックとの憑依が剥がれかければ、その隙に憑依解除も狙えるだろう。


 アイムユアファーザー的な衝撃が、相手には走っている筈!


 完璧な作戦!

 の、予定だったのだ。

 しかし、金髪糸目のディカプリオ神父はあからさまに眉を顰め。

 めちゃくちゃ真顔で、ぼそり。


「いや、それはないでしょう。あの方の娘なら、こんなに暴走わがまま娘に育つはずがありません。バカにしているのですか?」


 反応は。

 とっても小馬鹿にした、辛辣なものだった。


「バカになんてしてないわ。真実よ、あなたの神父様は異世界に転生して、本当に様々な冒険をしたの」

「冒険、ですか……」

「ええ、そうよ。今でも異世界ではその冒険譚が語られているの、御伽噺みたいな、数百年も前の話なのにね――」


 少し興味がでてきたのだろう。

 ディカプリオ神父はあたしをまっすぐに見つめていた。

 語れという事か。


 説得としては、悪い流れではない。


「あの日、異世界転生された父の魂は勇者として召喚されたわ。けれど、召喚自体がうまくいかなかったのか、それとも父が特別な存在だったからか。それは分からない。結局、召喚は失敗したの」


 母から聞かされた父の話。

 資料から読み解かれる父の話。

 伝承から推測できる父の話。


「父の魂は次元の狭間に取り残されていたと聞いているわ。それが始まりよ――転生に失敗した魂は……次元の狭間に取り残され極めて強力な悪霊となる。勇者として呼ばれつつも召喚に失敗した強い魂の霊ですからね、人はそれをブレイヴソウルと呼んで畏れたのだけれど……まあそれはまた別の話ね」


 大魔帝ケトスの物語を読み解きながら、あたしは続けた。


「ある日のことだったわ、その魂が次元の狭間から解き放たれたのか。あるいは、父は特別な存在だったからか――次元の狭間から抜け出し、転生することに成功したの。これが世界を恐怖と混沌に落とすことになる大魔族、大魔帝ケトスが異世界転生した瞬間だったわ。そして、あなたの大好きだった神父様が転生した瞬間でもある」


 この時点でだいぶファンタジーな話なので。

 うまく通じてくれているかどうか、ちょっと怪しい。

 だが――。


 薄目を開いた神父は、探るような声を漏らしていた。


「それが、あなたの父であり、わたしの尊敬する義父でもあるあの神父様だった……そう言いたいのですか。どうにも胡散臭い話ではありますが、まあ続けて下さい」


 よし、まだ話を聞く気があるようだ。

 パンデミックも話に興味があるのか、モフ耳を傾けている。

 歴史の資料で見た大魔帝ケトスの物語を、映像としても見せつつ――。


 あたしは言う。


「ネコとして生まれ変わった父は、魔王陛下に拾われ、世界最強のネコとなった」


 証拠として。

 魔王陛下から頂いた若い頃のお父さんのドヤ猫写真を提示したのだが。

 なぜだろうか。


 パンデミックも神父も、ぬーんとジト目になっていた。


「失礼、いまなんと?」

「世界最強のネコよ?」


 むろん、あたしは全て真実を語っている。

 魔王軍を率いる幹部としての父の姿も、ちゃんと映像として流している。

 ――が!


 ディカプリオくんの反応はというと。

 すんごい真顔である。


「えーと……あなたはその、正気度といいましょうか。なんというか――頭とかは……大丈夫なのですか?」

「どういう意味かしら?」


 なんか気遣われてる!?

 神父の瞳は、まるで狂人をみるような目でね?

 なんか、憐憫すら浮かんでいるのだ。


 分かっている。

 分かっているのだ。


 ブニャハハハハと嗤い。

 天と地を割っている、まだ若くてスリムハンサムな黒猫の映像が。

 どこからどうみても、三流特撮映画以下のクオリティーにしか見えないことは。


 なまじ強すぎるから、ドーンと杖の一振りで戦闘も終わってるし……っ。

 画像編集ソフトで、ウチのネコちゃんを最強にしてみた!

 みたいな、素人動画状態になってるってのも分かってるのよ!


 神父が困った顔をしながら映像を見て。

 あたしに目をやり、ぼそり……。


「危ない薬に手を出されていたりなどは――」

「してないわよ!」


 があぁあああああああああぁぁぁぁぁ!

 や、やっぱり!

 し、信じて貰えていないじゃないぃぃいぃぃぃっ!


 恩師の異世界転生により人生を狂わされた神父。

 その説得は――まだ始まったばかりだった!



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