3-05 転生したら美し過ぎた私、どうやらエロフのよう〜かわいい系40歳独身処女実家住み〜
私はとてもかわいい。
だから私が結婚相談所に行って、それだけの条件を出すのは当たり前だ。
パパとママに言われなきゃ、結婚しようとおも思わなかったけれど、しようと思えばすぐにできる。それだけのポテンシャルが、私にはあるのよ。
と、思っていた。
どうやら私のかわいさを理解できる男性がいないようで、なかなか結婚相手が決まらない。結婚相談所にも退会を勧められる始末。
そんなある日。パチンコ屋に行った私は、私のかわいさを理解できない可哀そうな青年二人組に殴り殺されてしまう。
目が覚めると、異世界に転生していた。
転生したらエルフになっていて狂喜乱舞したけれど、どうやらエルフはエロフだった。毎日毎日里の中でエッチばかりしている。
転生後の私はかわいさを失い、美しさを手に入れた。美しすぎる私は成人した日に、里の男たち全員に犯されてしまう。
前世を含めて初めてだった私は嫌気がさして、里を出る決意をする。
「なんでよ!」
「そうは申されますが……」
目の前にいる結婚相談所の女を睨む。
こともあろうにこの女、私に退会を勧めてきたのだ!
「私ってかわいいのよ!? こんなにかわいいのだから、年収2000万以上のイケメン20代くらい捕まえられるわよ!」
「その……非常に申し上げにくいのですが、鈴木さんのご経歴ではとても……」
「高卒がなんだってのよ。パートくらい行ってるわ!」
「そう、ですね。週2回4時間のパートで、年収が40万円ほどですよね……?」
「それの何が悪いのよ」
頭に来る!
パパに言いつけようかしら!
「何よその目。パパに言うわよ」
「いえ、えっと、ちなみに確認ですが……家事のほうは」
「したことないわ」
「御料理とか、掃除とか……」
「そんなのママがしてくれてるわよ。私はしなくていいの!」
「ええと、結婚した場合、どうされるおつもりで……?」
「雇えばいいじゃない。そのための年収2000万でしょ」
「はぁ。そうですか。とりあえず、今日はこの辺りで……」
「ふん、次来るときには用意しとくのよ!」
「はい。申し訳ありません」
まったく。
結婚相談所なんて来るんじゃなかったわ!
* * *
「まだこんな時間……いま帰ってもママに早く結婚しなさいって言われるし、パチンコでも行こうかしら」
午後4時。
学生が帰る時間でもある。
子どもが多くて本当に煩わしい。どうして子どもがこんなにいるのかしら。
「邪魔よね、ほんと」
相談所から徒歩5分。パチンコ屋に到着した。
「ふぅ〜」
タバコをふかしながら椅子に座り、パチンコを始める。
「こんな昼間から来てんのヤバくねこのババア」
「それな! どうせ起きてパチンコやって寝るだけの生活だろ」
私の後ろを笑いながら過ぎていく、大学生くらいの若い子たち。
私の魅力がわからないなんて、まだまだ子どもね。
手鏡を取り出し、メイクをチェックする。
うん、バッチリ。
今日もうんとかわいいわ!
「当たらないわね……」
今日はこの辺りでやめておこうかしら。
パパったら、来月からお小遣いは無しにするっていうし。節約しないとダメなのよね。
パートにも行ってるのに、何がダメなのかしら。
「早く結婚しないと……」
「ぶはっ、このババア結婚できるつもりでいんのかよ」
「ウケる〜! こんなのできっこねーよな」
いい加減鬱陶しいわね!
「私の魅力がわからないなんて、かわいそうに」
「ぶはははは! このババア、魅力ってなんだよ! 笑わせるぜ!」
「ありえねー! こんなの実在してんだな!」
笑い続ける子たちに、堪忍袋の尾が切れる。
椅子を持ち上げて振り回した。
「うお、あぶねーなこの野郎」
2人がかりで私に殴りかかる。
思わず目を閉じた。
「なによ! あなたたちが悪いんでしぶっ」
いったぁ〜〜〜い!!
何よ。なんなのよッ!
私の何がダメだって言うの!?
信じられない。
目を開けると、私の頭に椅子が振り下ろされていた。
* * *
エルフ族。
永遠に等しい時間を生き、魔術の扱いに長けている種族。
人間族からはそう思われているらしく、実際その通りでもある。
でも、だからって――
「これはないでしょ!?」
私の目の前に広がる光景は、日本だと考えられない。
完全に異世界なのだと、転生40年目にしてまたしても再確認する。
私が死んだのも40歳で、いまの私も40歳。
エルフの中では40歳はようやく独り立ち、つまり大人だ。
「大人になったら服を着るな! イーサ!」
「やだ! そんな淫乱にはならないわ!」
「何を言っている!? 貴様それでもエルフか! 自然とともに生き、自然とともに暮らすッ! それが我らエルフだ!」
「だからって全裸はないでしょッ!!」
このエルフというのは、大人になったら全裸で生活しなければならない。
そんな真似できない。
どうして子どもは服を着ていて文化的な生活ができるのに、大人になったら原始的な生活に戻るのだろう。
しかも、至るところで致している。
縄文時代や昔の村なんかでは、男女がペアを作って子どもを作る、という風習はなかった。誰とでもエッチするし、誰とでも子どもを作る。だから、私は誰の子かわからない。ただ一つ母親はわかっているけれど、里の子として育てられるため、女性の大人は全員母親かつ、男性の大人は全員父親だ。
私も物心ついたころには衝撃を受け、当然のように抗議した。抗議したけれど、まったく聞き入れてくれないのだ。
「こんな里、出て行ってやるわ!」
「まぁ待て。そう焦るな」
父親のように接してくれていた男が、私の体を抱きしめる。
「なっ、離して! 離しなさい!」
「いいじゃん。気にすんなって」
そして私は、初めてを失った。
前世も含めた初めて――どうしてこんなことになったのだろう。
エルフとして成人してしまったから?
成人した日はすべての男のエルフから犯されるという話も聞いたことがある。絶望しかない。どうしてそんなことになったのか。そもそも、どうして私は転生したのか。40年ぶりに思考に耽る。
次の日。
「よし、これで準備万端ね」
こんな里、出て行ってやる!
幸い私にはエルフ族として熟達した魔術がある。危険は少ないはずだ。日本での経験も、きっと役に立つ。何より私は美しい。エルフは全員が美しいけれど、中でも私は1万人に1人の美しさらしい。正直、ここまで全員が美しいとどれくらい違うのかわからない。
でも、美しいに越したことはない。
かわいい系ではなくなってしまったかもしれないが、美しいのだ。美しいことも正義であるに違いない。
空間系魔術により作った空間収納魔術の中へ、必要になりそうなものをどんどん入れた。必要なさそうなものも入れた。魔力量によって空間の大きさは変わるが、私は美しさに加えて魔力量も人一倍ある。だからどんなものでも入れられるのだ。
里を出て振り返ると最高峰の結界系魔術で作られた、八重五芒星聖法結界が光輝いて見える。魔術によっぽどの適正がなければ見えないもので、結界の存在を知っていても認知できるかはその人次第だ。
エルフの里は、人間族に明かされることのない秘密の花園。
そんな花園で、あんなことやこんなことをしているのだから、この異世界ももう末期だ。
「おい! こっちに人がいるぞ!」
「!?」
男の声だ! 声がしたほうを見ると、鎧に身を包み、盾と剣を持った重装備な戦士がいた。
「一人か? なぜこんなところに?」
「一人よ。あなたこそ何?」
「俺はアラン。A級ギルド『無窮の地平線』の一員だ。この惑いの森の調査依頼を受けて来た」
「ギルド? 惑いの森?」
ギルドは確か……人間族の間の集まりの単位だ。集落のようなものらしい。
惑いの森に関しては、あの結界のせいだろう。
なんとなく理解した私、やはり天才だわ。
「ここは一人だと危険だ。惑わされるのもそうだが、それを抜いても、ここにはS級魔獣や悪魔が出現するんだ。町まで送るからついてくるんだ、嬢ちゃん」
「……?」
S級魔獣や悪魔など、なかなかファンタジーな言葉が出てくる。
友達がしていたスマホゲームだと、S級は一番強い。つまり、世界でも屈指の強さを誇る獣が出るのだろう。
「でも、そんなのいないわよ?」
言われてから探知魔術を使って森全体を調べているが、何も出てこない。
あ! この反応は子どもの頃に食べた美味しいお肉だわ! 日本の国産和牛に近いのよこれ!
「あ、おい待て! 嬢ちゃん!?」
いた!
「ふふん、私に食べられることを光栄に思いなさい!」
「待て! そいつはS級魔獣『崩壊の叫び』だ! 早く逃げろ! クソッ、俺が時間を稼ぐ!」
「アラン! やっと合流でき――え!?」
「撤退戦だ! ビッツ、キイチ! やるぞ!」
「「おう……!」」
さあて、やろうかしら。
「いくわよ! 精霊皇翠砲!」
『ぐぎゃっ!?』
倒したわ! これで今日の食糧ゲットよ!
「「「――は?」」」
お肉に触れて空間収納魔術を発動し、空間に入れる。
「いやいや待て待て待て待て! なんだおいそりゃあ!」
「え? 何って、ただの砲撃魔術よ」
「は? ただの? ただの砲撃魔術!? 俺の見間違いでなければ、いまのは『精霊皇翠砲』に見えたんだが……」
「その通りよ。初歩的な魔術じゃない」
「しょ……ほ?」
私におかしいところでもあったかしら。
ないわよね?
だいたい、こんな魔術は誰でも扱える。
本当に難しい魔術は里の人でも一握り、とかだ。
「嬢ちゃん、ちょっと、俺たちと一緒に来てもらえるか? 嬢ちゃんも町に行くよな?」
戦士を見る。
この戦士はどうやら、私をどうこうするつもりはないらしい。
そして、その仲間であろう二人も、私をエッチな目で見ていない。
「いいわよ。町に行きたかったし、案内させてあげるわ!」
ここからが私の異世界人生。
エルフなんて知らないわ。
私は人間族として生きていくのよ!





