3-20 魔界都市東京市長戦挙
東京大空襲の衝撃によってなぜか東京が魔界につながり魔界都市東京と呼ばれるようになって百年。
ついに魔界都市東京に市長が誕生することになった。
この物語は、異形怪物超人天才いろんな奴らが暴れる魔界都市東京において、市長選挙に巻き込まれた赤羽四季というまとも(自称)な男の話である。
魔界都市会報
魔界都市東京に住む皆様へ
2044年12月31日。
魔界都市東京初の市長を決める選挙が行われます。
天空城に住むあのクソ野郎が時々爆撃してくる時以外は皆さま基本的に楽しく暴れていることと思われます。
東京大空襲の惨劇から100年。
空襲によってどういうわけか偶然東京が魔界につながり、その影響により異形怪物悪鬼羅刹が跋扈するようになって以来、長年代表である市長が不在だった我らが東京にようやく市長が誕生いたします。
選挙に関する情報は以下の通りです。
選挙権は都市に住む者全てに与えられます。
被選挙権は都市に住む者全てに与えられます。
選挙に出場される方は2044年11月30日までに市庁舎へ届け出をお願いします。
選挙活動期間は12月01日~30日。
その期間に選挙出場者はライバルを殺したり、市民を買収したり、自由に選挙活動を行ってくれて構いません。
投票は31日0時~23時に行われます。
開票は31日23時~24時に行われ、2045年1月1日になるとともに新市長の発表が行われます。
新年を新市長と共に祝いましょう。
選挙運営は市庁職員より選出された選挙管理委員会が行います。
ただし選挙管理委員会はいかなる買収・脅迫に屈することはなく、委員会への買収・脅迫を行おうとした場合には選挙権・被選挙権の剥奪も検討がなされますのでご注意ください。
皆さまの市長選挙への積極的な参加お待ちしています。
2044年11月1日
魔界都市東京市庁職員兼選挙管理委員会委員長 弓野百合
男子家を出ずれば七人の敵あり。
そういうことわざがあることを俺、赤羽四季は思い出していた。
要は家の外には少なからず敵がいるのだから注意しておくように、という類の意味だと理解している。
人を見たら泥棒と思えということわざと意味は似ているだろう。
まったく。
七人の敵ありとはよく言ったものだよ、本当。
昔の人の言うことは正しいんだな。
「でもまさか、七人全員が一度に来るとは昔の人も思っていなかったろうにな」
「「「「黙れ」」」」
俺の言葉に反応する七人の男。
そう。
俺の目の前には武器を持った七人の男が立っていた。
武器は刀。
さやから抜いて切っ先をこちらに向けている。
家の玄関を開けたとき、一斉に刃がこちらへと向けられたのだ。
「しかしすごいタイミングよかったな、お前ら。もしかして出てくるの待ってた?」
「黙れと言ったろう。赤羽四季」
男の内の一人。
七人の真ん中に立っている男が口を開く。
立ち位置と言動から察するに、こいつがリーダーだろうか。
「何もいうな。何も訊くな。抵抗するな。死にたくなけば黙って我らに従え」
「嫌だね」
リーダーが向けてくる刀の切っ先を指でつかみ、そして引き抜く。
あっけないほど簡単に刀は抜けた。
そのまま空中で一回転させ、柄を右手でつかむ。
この間は0.1秒も経っていない。
「今からボコすが、安心しろよ。峰打ちにしてやるから」
「ほざけ、クソが! おいお前ら、こいつを殺せぇっ!」
●
「「「「赤羽四季さん。申し訳ございませんでした!」」」」
「さん?」
「「「「赤羽四季様。申し訳ございませんでした!」」」」
「それでいいんだよ」
顔をボコボコに腫らした七人全員が土下座で謝罪をしている光景を見ながら、携帯で連絡を取る。
「ああ、皆川か? 状況は今話した通りだ」
『面白い状況ね! 見てみたいわ! 七人の男が全裸で土下座する光景なんてなかなかないわよ赤羽!』
「全裸じゃねえよ。服着てるわ」
何が面白くて男の全裸土下座をみなければいけないのか。
……女でも全裸で土下座している姿は見たくはないか。
『それで? そのネイキッド・セブンをよこした奴は誰?』
「だから全裸じゃねえって。あとこいつらを派遣したのはどうやら市庁舎らしい」
『あはは! あんた、ついに市庁舎の奴らに目をつけられたのね! 何したの?』
「何もしてないんだけどな……」
ここ最近のことを思い出すが、特に思い当たることはない。
支庁のやつらから目を付けられるようなことは本当にしていないのだ。記憶にない。
「先週した暴力沙汰は、ヤクザと忍者と錬金術師を半殺しにしたくらいだけど」
『そう。普通ね』
「だろう?」
少なくとも支庁に目を付けられるようなことはしていないのに。
はあ、とため息をつく。
「あの」
土下座中のリーダー格から声が掛けられる。
「なに?」
「私達が派遣されてきたのは、来月から始まる選挙について話をするためです」
「ああ、なんだ。選挙ね」
「はい。ぜひ市長選挙に赤羽様も出て頂くように、市庁舎にて職員が話をする予定でした。私達は赤羽様を市庁舎まで連れてくるようにと仰せつかっていました」
「ならそれを先に言えよ」
「はい。申し訳ございません」
土下座しながら謝るリーダー格。
ここに来た時とは大違いだ。
一度ボコったらずいぶん殊勝な態度になったな。
「市長選挙って。俺は出る気はねえぞ」
「そ、そこをなんとか。お願いします」
懇願するリーダー格の男。
「お願いします。他にまともな市長候補がいないんです」
「知らねえよ。他を当たれよ」
『てめえまともな候補がいないってどういうことよ! 私がいるじゃない!』
電話口で会話を聞いていた皆川から抗議の声が上がっている。
「ま、まさか電話口の相手って……」
『そう! 私、皆川華よ! 東京随一の天才兵器開発者!』
「皆川華って、あの頭のおかしい天災兵器開発者の皆川華!? ビル一つ破壊する威力の銃をそこらへんに捨てたり、市庁舎前に誰にも抜けない謎の剣を作ったり、自律稼働する殺人植物を作ったあの皆川華!?」
『よし、赤羽。そいつら殺せ。私が許す』
「殺さねえよ。それに言っていることは当たってるし」
『当たってないでしょ! 頭はおかしくないわ!』
「いや十分おかしいと思うな」
謎の兵器を作ってはそこら中に捨てているはた迷惑な行為をしているような女だ。
頭がまともなわけがない。
そして迷惑なことに、この女は東京市長選挙に立候補してしまっているのだ。
――東京の予算を使って兵器を作りまくるわ!
――そして作った物は要らないから捨てるわ!
それが、彼女が立候補の時に言っていた言葉だ。
彼女は思いついた兵器を作るのが趣味の頭のおかしい発明家。
そして作った兵器をそこら中に捨てるはた迷惑な不法投棄女。
作るまでが好きなのであり、作った後は興味がないのだとか。
迷惑なことだよな。
せめて自分で管理しろと思う。
「まあ皆川のことはさておき、俺は市長選挙になんて出ないぞ。こんな都市の市長になんてなりたくもない」
「しかし、他の選挙立候補者もまともな人はおらず、このままでは来年以降の東京の治安は最悪なことになってしまうのです」
「もともとそんなに良くもないけどな」
魔界につながってからこっち、東京の治安はかなり悪い。
そこかしこで殺し合いは起きるし、空に浮かぶ謎の城から爆弾は落ちてくるし、とある女の作った兵器が建物をこわしまくるし。
家を出たら七人の武器を持った男達に襲われることだってある。
「これまでより悪くなってしまうのです。立候補者の一覧を見ましたか?」
「見てないけど。そんな酷かったのかよ」
「ええ。殺人鬼や吸血鬼、魔界出身の武人まで、それにあの天空城の主である加賀美アルヤまでいました」
「加賀美って。あー、確かにあいつは市長にはなって欲しくはないかな」
天空城とは、東京の空に浮かぶ謎の城である。
どうやら東京が魔界につながってからあるらしい。
そこを根城にしているのが加賀美アルヤという男だ。
城を飛ばしているだけならまだ平和だが、月に一回の頻度で爆弾を落としてくるのだから問題だ。
魑魅魍魎が跋扈する東京でも随一の嫌われ者である。
「それで、まともな精神をしている俺に市長になって欲しいって?」
「そういうわけです」
そこまで話をしたところで、声が響いてきた。
月に一回響く不快な声だ。
「やあやあやあやあ市民の皆様。愚昧で愚劣な愚民ども。最近刺激は足りてますか? 興奮はしていますか? 日常は退屈ではありませんか? ああみなまで言わなくてよろしいお前らの意見は聞いていない。欲しいんだろう? 求めているんだろう? 渇望しているんだろう? 刺激を、興奮を、愉快で楽しい日常を! そんな君たちに朗報です! 今日は待ちに待った月に一度の爆撃の日! いまから東京全域に爆弾を落としていくので、どうぞ皆さん楽しんでくださーーーい! それでは愚民ども、アデュー」
ドン、という爆音と悲鳴と怒号がそこかしこで響く。
爆弾が投下され始めたのだろう。
いつものことであり、これが一時間くらい続くのだ。
「赤羽様。彼を市長にしたいですか?」
「確かにしたくないね」
俺は、市長選挙にでることを真面目に考えることにした。





