3-18 ダンジョン配信者、聖女職なのに災害級モンスターをドツいた結果バズってしまった……
宮水可憐は、高校に入学し、渋々ダンジョン配信部に入部することになった。
ダンジョン攻略配信時には、可憐は聖女職として魔法を使って魔物を倒し、清楚でお淑やかなイメージを視聴者に与えている。
ある日、事務所から届いた謎のポーションを飲み干した可憐。その結果、彼女は内向きな性格やしがらみを克服し、ダンジョンで暴れ回るようになった。
「ヒャッハー!! 行くどお!」
清楚な配信への影響を恐れ、姿を偽る可憐。
気付かぬうちにライブカメラにその様子が映し出され、視聴者たちを大いに盛り上げていた。
しかし、可憐が振り回す聖杖が他にはない特別なものであることに気付く者が現れ、特定しようとするものが現れ——。
「皆様、本日もご視聴ありがとうございました。次は聖なる光が降り注ぐ日にお会いできることを祈りつつ、本日の説教配信を終了したいと思います」
コメント
:乙!
:おつ様でしたー!
:聖なる光って次いつ降るの?
:早くても3年後じゃない?
:長くね?
:いつも癒やされるのじゃ!次の配信待っておるのじゃ!
:888888
「……ふぅ」
無事に今日のダンジョン攻略実況配信を終えた私は、両手をつなぎ軽く伸びをする。
私、宮水可憐はダンジョン配信者というものをやっている。
本日の魔物討伐(浄化)数は10。内訳は、ノーマルゾンビ6体、グール3体。巨大コウモリ1体。
特にハプニングも無く、撮れ高としてはいまいちだ。視聴者の反応も鈍い。
だけど、これでいい。
目立って陽キャ配信者にありがちな、滝のように流れるコメント欄に目が回ることもない。
まったりした配信が私には合っている。
私はまごうことなき陰キャなんだ。
——さてと、これで今日のお勤めは終了でいいよね。
「さ〜て、イきますか!」
私はぶかぶかの黒いパーカーを聖女着の上から羽織り、黒い仮面をかぶりダンジョン内を駆け始める。
やたら元気がでる「謎ポーション」を飲み干す。
このポーションは、3日前からダンジョン配信者事務所が差し入れてくれるようになったものだ。
「ヒャッハー!! 行くどお!」
テンションがあがる。陰キャなのに。でもそんなの関係ない。
私の本当の楽しみは今から始まるんだ。
「ごくごくごくごく。ぷはー!」
事務所がくれた「謎ポーション」を一気に飲み干す。
不思議と恐怖心が薄れ、むしろ力が湧いてくるように感じる。
まるで自分が超人にでもなったかのように、どんな場所にでもイケる気がするのだ。
ありがとう事務所。
私の中で、
「いや、それヤバくありませんか?」
と聖女ボイスで訴える声が響く。
しかし、
「うおおおおおおお!」
という私の雄叫びにかき消されていく。
◆◆◆◆◆
私は高校に通いながら、ダンジョン配信者をやっている。
およそ三年前、魔物が徘徊するダンジョンと呼ばれるものが日本全国に出現。
とはいえ、ダンジョンの外に魔物が出てくるわけでもなく、ダンジョン化したエリアが使用不可になるだけ。
そのため、世間は特に悲観的になることもなく、ダンジョンをテーマパークのように考えはじめた。
ファンタジーという空想の世界でのみ語られてきた魔物や冒険が現実になったわけだ。
国民はレジャーとして、あるいはスポーツとしてダンジョン攻略を楽しむようになっていく。
「すごい……!」
youtuberやvtuberという分野に、「ダンジョン配信者」という新ジャンルが爆誕。
私はダンジョン配信者たちのカッコいい姿に魅了され、推しの配信を楽しむようになった。
特にハマったのは【剣聖絵里香】というダンジョン配信者。
凜々しくて、かっこよくて。剣を振り回す姿に見とれてしまう。
特に【レッド・ワイバーン】を倒すシーンは痺れた。あまりにグウシコだったので、100回……いや、もっともっとリピートした。
とはいえ、私自身はダンジョンなんて怖くて行けない、そう考えていた。
しかし……。
「どうしてこうなった?」
高校に進学したのは良かったけど、まさか私がダンジョン配信部に所属することになるとは。
拒否したかったけど、それは叶わなかった。
★★★★★
ダンジョンを10階層下り、強力なモンスターがはびこる11階層へと足を踏み入れた。
「静かね」
ここまでくると他の冒険者やダンジョン配信者とすれ違うこともほぼ無い。
今、この階にいるのは私だけ。
第4〜第8階層は陽キャパーティの巣だったので、この静けさが落ち着く。
しかし……静寂を壊すように――ズドン! 地響きのような足音を響かせながら、災害級と言われるサイクロプス・ゾンビが目の前に立ち塞がる。
『ブモオォォォォ!!』
その巨体から繰り出される強力な打撃と瘴気は、並みの冒険者ならすぐ死んでしまうだろう。
しかし、今の私にとってみればただの的でしかない。
「遅いんだよっ!!」
大きく振りかぶった拳をかわすと、私は跳躍して相手の頭上をとる。
そして、そのまま空中で回転しながら勢いをつけて、持っていた聖杖の先端を叩き込む。
『ガアアアアァァ!?』
地面に叩き落とされたサイクロプス・ゾンビは、立ち上がろうとするが再び崩れ落ち、動きを止めた。
倒れた相手に向かって何度も殴り続ける。何度も何度も何度も何度も。
最初は抵抗していたサイクロプス・ゾンビだったが、次第に動かなくなり——ついに魔石と化した。
「ふぅ」
はあ、こんなの絶対に配信できないよね。
魔石になって消えたけど、殴っている最中はとてもグロい。
本当は聖女職らしく、結界を張ったりターンアンデッドや浄化の魔法を使うべきなのは分かっている。
私が持つ【聖杖】はそれが可能だ。実際に配信時は魔法で魔物を倒していて、「清楚な聖女」を貫いているのでお淑やかにやっている。
でもさ、あの謎ポーション飲むと気分が変わるんだよね。【聖杖】の先端には殴りやすそうなハンマー状の突起があったら、それでぶっ潰した衝動が抑えきれなくなる。
そのおかげだろうか? 私の口からは弾むような声が漏れた。
「スッキリしたなあ。帰ったら寝よっと」
★★★★★
〜大山ダンジョン第11層 定点カメラ24時間配信ROOM〜
コメント
:今来た産業
:ここにいる奴全員暇人
:特に配信者や冒険者がいるわけでもなく、ただ黙々とサイクロプス・ゾンビを見るだけの配信www
:もはや修行僧か何かかな?
:いや、これ絶対ヤベー奴だろwww
:アンデッド化すると強くなるのなんでだろ〜?
:先週【剣聖絵里香】のパーティが倒したはずがアンデッド化したんだっけ?
:災害級らしい。この上は災厄級。
:あたい知ってるわ、こういう人のことをダンジョンオタクって言うんでしょ?
【剣聖絵里香】:そうなの。私たちが完全に倒しきれなかったからこんなことに
:本物?
:大手配信者キター
:本物っぽい今配信してる
:【剣聖絵里香】が来ていると聞いて
:誰か現れたぞ
:黒いパーカー?
:おっ
:おっっ
:誰あれ? 顔が見えないんだけど?
:フード被ってるよ
:仮面してるみたい
:なんか怪しくね?
:どうせ陰キャでしょ
:いやソロで11階層ってやばくね?
:たしかに
:たしかに
:3日前から急に現れたよね
:一部では黒衣の狂戦士って呼ばれているらしい
:何それ?
:え、この人初見なんだけど
【剣聖絵里香】:顔出しNGの人なのかなぁ
:神聖系の杖を装備しているな
:神官? いや聖人? 聖女?
:たぶん聖職者だろうな知らんけど
:サイクロプス・ゾンビを倒すつもり?
:どうやって倒すの?
:聖域なんやろなあ
:浄化だろ常考
:ターンアンデッドは?
:災害級モンスターにターンアンデッドは効かないエアプ乙
:じゃあ浄化?
:ん?
:ん?
:ん?
:杖振りかぶったwww
:なんだよ脳筋かよwww
:大草原
:魔力を帯びてるから杖でもアンデッドにダメージ入るのか
:解説乙
:まさかの鈍器使いとは
:飛び跳ねたぞ!
:これはやばい予感w
:おいおいおい死んだわあいつ
:サイクロプス・ゾンビの動きが止まったぞ?
【剣聖絵里香】:ここからの自己修復がやっかいなの
:なんか滅茶苦茶殴ってない?
:サイクロプス・ゾンビがかわいそう
:サイクロプス・ゾンビたん
:イキロ
:ぐちょぐちょでグロい
:サイクロプス・ゾンビに同情
:サイクロプス・ゾンビの人気に嫉妬
:ひどい
:見せられないよ!
【剣聖絵里香】:嘘でしょ?
:これは勝ったな(フラグ)
:頑張れ!
:いけー!!
:いったれえええ!!
:いくんだ!!
:トドメだ!!
:やれ!!
:はい!!
:がんばれ!!
:やったぜ!
:勝った!!
:乙
:やったー!
:やべーものを見てしまった
:同接2000!?
:定点カメラのくせに、めちゃバズってるな
【剣聖絵里香】:倒した! すてき!!!
:え?
:え?
:え?
:フード着た奴男だったら許せん
:女だったら?
:キマシタワー
:寝る
:聖杖だけどさ、汎用品じゃなくね?
:そうなの?
:確かに形がちょっと違うね
:録画うp
【剣聖絵里香】:たぶんこれ、ユニークアイテムだと思う
:特定班はよ
:マジ?
:配信者じゃなきゃ特定ムリ
:だよなあ
:っていうか普通に帰ったな
:こいつ定点カメラに気付いてないゾ
:もう寝よ
:解散
★★★★★
朝。けたたましく鳴るスマホの音で目が覚める。アラームではない。着信音だ。
「ふぁーい」
眠い目をこすりながら通話に出ると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『可憐ちゃん、おはよう』
「え、ええと——」
さあっと血の気が引く。
声の主に思い至り、スマホの画面を確認する。
見慣れぬ番号が表示されている。つまり、この人と直接話すのは初めてということ。
『昨日かっこよかったよ。まさかサイクロプス・ゾンビを一人で倒しちゃうなんて!』
通話の向こうから、はしゃぐような弾む声が聞こえた。
何度も何度も聞いた声だ。間違うはずはない。でも、それでも、確認は必要だ。
「え、えと……あなたは……?」
『あっ、まだ名乗ってなかったね。私は香坂絵里香。【剣聖絵里香】と言えば分かるかしら?』





