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第98話 華麗なる自爆

「なるほど……なかなかの残虐ファイトだな――」

「うん――これがギルド対抗ミッションなんだね。ここまでやるんだぁ」


 あきらもゴクリと息を飲む。

 ああやって敵をキープされてしまうと、こっちからは手が出せない。

 システム上、先に自PTがヘイトを取っているモンスターに対して他PTは手が出せない。モンスターの占有権ってやつだな。


 そうしないと、たまにしか沸かないレアモンスターとかと戦っている横から殴って、敵を倒してドロップアイテム強奪とかが出来てしまう。

 それを封じるために一般的なシステムだと思うが、とにかく先にヘイトを取った者に占有権が生じるので、いいアイテムを落とすレアモンスターとかは、PT対抗のポップ即釣り合戦になりがち。

 沸いた瞬間ヘイト獲得(タウント)系スキルをぶち込んで優先権を得るべくいくつものPTが息を飲み、まるで短距離走のスタート直前かのような緊張感が味わえるのだ。

 アイテムに目が眩んだ人間たちの熱い戦いがそこにはある。


 占有権あり方式の逆は、誰でも横から好きに同じ敵を殴る事が可能な横殴り可方式なわけだが――このゲームのレベル上げに使うような狩場は大体優先権方式だ。

 イベントとかミッションでは横殴りOKな場合もある。

 とりあえず目の前の現象で言うと、約100体全部占有権を取られているので、俺達は手が出せない。この狩り場は使えないな。

 本来ならこういうのって、迷惑行為でGM行き案件なんだろうが――


 このプレイヤーの所属ギルド、平和の守護者(ピースメーカー)なんだよな。

 平和の守護者(ピースメーカー)って生徒会なわけですよ。

 普段は迷惑行為やハラスメント行為の取り締まりもやってるらしい。

 それがこれをやってるって事は、このイベントはこういう手もGM公認なわけだ。


「さぁ諦めてヨソに行くんだな! ここは俺が一匹たりとも離さんぞっ! おーよしよし可愛いでしゅねー!」


 もの凄い量のウルフに囲まれたムツゴロウさん状態。

 動物好きか、この人。なかなかシュールな絵だわ。


「ど、どーするコケか……?」

「場所移すしか無さげじゃん? 次行こ次!」

「近いから、アウミシュール大古墳の方に行ってみる?」


 その前田さんの提案に乗ってみる事に。


「そうするか――じゃあ移動!」


 で、場所を移すのだが――


「! ここもかよ!」


 大古墳の上の平原部分には、これまたでっかいモンスターの集団を作ったプレイヤーがひたすらそれをキープしていた。

 今度のプレイヤーの所属は――神秘の武技(ミスティック・アーツ)!?

 雪乃先輩の所かよ! やっぱ皆やるんだな……!

 となると、ほむら先輩の全覧博物館(グランミュージアム)もやってるだろう。

 この調子で、片岡がいる知識の泉(ナリッジレイク)とかもやってたら……?


「とりあえず、中も確認してみようぜ!」


 俺達は大古墳の中に足を踏み入れる。

 普段なら、壁一面に真っ赤なクリムゾン・マミーが埋まっているはずだが――


「あちゃー! 綺麗さっぱり何もいないんですけど!?」

「もしかして、全世界的に狩場が潰されてるのかしら……!?」


 矢野さん前田さんが声を上げる。


「マジで前田さんの言う通りかもな……!」

「狩場を潰しちゃえば、他のギルドの候補のレベル上げを妨害できるもんね――」

「だけど、ここまで他のギルドのNPCは見ないわ」

「そうですし。狩場つぶしのキープばっかだし」

「他を妨害するのはいいけど、自分達の候補の育成はどーすんだこれ?」

「分かんないなぁ。謎だね」

「とにかく、場所を移した方がいいと思う」

「ああ。どこか使えるとこ捜さねーとなぁ……」

「トリニスティ島は? 上の方の階層なら少しはレベル上げになるかも」


 仕方ない。そっち行くか――

 大分無駄足を踏んでしまったが、トリニスティ島へ。

 しかし、一番上の第十層も狩場が荒らされ済み。

 ぐぬぬぬ――! 一層ずつ下って行って――


「……結局ここかよ! ただいま!」


 目の前には、ぬぼーっとした表情でぴょんぴょん跳ねているアイランドバニー師匠が。

 もはやノスタルジーすら感じるトリニスティ島一層にやって参りました!

 ここしか空いてねえし! ここレベル3で既に経験値入らなくなるし、さすがにやる意味ないってお目こぼしにあずかったらしい。


「あははは……まあ、何もしないよりマシだよ。とりあえずレベル3に――」

「そうだな。よしココール、あいつを倒してレベル上げだ!」

「コ、コケー……や、やって見るコケー……」

「がんばれ! ココールくん!」


 あきらの声援を背に、ココールはボウガンを取り出し狙いを付けた。

 さて、ココールには『ノミの心臓』も付いてるわけだが――どう転ぶんだろう。

 ボウガンを持つ手が震えて、矢の先端がブレまくっている。

 当たるのかこれは……?


「こ、こ……コケーッ!」


 放たれたボウガンの矢は、狙いとは全然違う明後日に飛んで行った!

 山なりにぴゅーっと飛んでいき――

 あ、全然違う所にいるアイランドバニー師匠に――が、回避(スウェイ)された!

 しかし回避(スウェイ)されても攻撃は攻撃、敵対行動とみなされる。

 攻撃を受けたそいつは、当然ココールに向かっていく。

 で、すぐ側にはもう一体アイランドバニー師匠が。

 仲間がやられているのを見つけて一緒に付いて来る。

 これがリンクってやつだ。

 二体のアイランドバニーがココールに迫る。


「こここここ、コケーッ!?」

「大丈夫だココール。距離はある! もう一回ボウガンセットして」

「ココココ……!」


 あたふたしながらボウガンセット。

 発射! しかし慌てたのか、撃つ瞬間反動でずっこけて矢が真上に飛んでった。

 ココールに肉薄したアイランドバニー師匠のコンビが攻撃を繰り出す。


「んぎゃー!? お、おいらを食べても美味しくないコケーっ!」


 ダメージを負ったココールはパニック状態である。


「助けるぜ!」


 俺は一体のアイランドバニー師匠に単なる体当たりを繰り出す。まぁ当然相手は死ぬ。

 もう一体もあきらがスカイフォールの衝撃波で倒した。


「大丈夫か、ココール?」


 うーんボウガンをまともに撃てない系男子かー。適性アリのはずなんだが。

 『ノミの心臓』の影響なのかこれは? 単にココールの性格上の問題?


「ううぅぅ……ありがとコケ。とんでもなく恐ろしい敵だったコケー……」


 ココールはよろよろ身を起こすが――


 ドスッ!


 あ、上に飛んでったボウガンの矢か! 落ちてきてココールの脳天に刺さった!


 ココールの攻撃。 ココールに7のダメージ!

 ココールはココールを倒した。


「コ、コケェ~~~……!」


 戦闘不能になってばったり倒れるココール!

 自爆した! 自爆したよこの子!


「な、なるほどな……よく分かった」

「あっははははは! 自爆したし! ある意味凄いじゃん!」

「ぷっ……や、やめなさいよ優奈、可哀想でしょ……ぷくくっ――」

「こ、ココールくん、大丈夫だよはじめはみんな失敗するから!」

「きゅー! ちきん……! おいしゅい~……!」


 リューが倒れたココールにじゃれついてカプカプやっていた。

 いやーこれは、鍛えがいがありますなあ……

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