第97話 狩場殺しの残虐ファイト
ギルド対抗ミッションのドラフト会議から、三日が過ぎた。
「ただいまー」
授業を終えた俺達がギルドハウスに戻ると、ココールが出迎えてくれた。
「あ、みんなお帰りコケー!」
ギルドショップ内のカウンター奥の椅子からぴょこんと降りる。
一々動きがコミカルで愛嬌があるやつだ。
「きゅーきゅー! ちきん……! ちきん……!」
リューがじゃれついて、ココールの頭に乗るとカプっと甘噛みした。
「コケーっ!? やめろコケ! 捕食すんなコケーっ!?」
バタバタと走り回る。
「あはははっ。リューくんココールくんに懐いてるねー」
「いや、ガチで喰いに行ってる説もありますし。リューがもうちょいデカくなってたらヤバいんじゃ……?」
「だ、大丈夫よきっと――わざわざそんなイベントを作り込むと思えないし……」
「どうかなー……アホな部分の作り込みは異様に凝ってるしなー」
「高代くんまで……! 脅かさないでよ」
「蓮、蓮! はいこれコケ!」
「ん?」
ココールが俺にアイテムをトレードしてきた。それにお金も。
11万ミラに、ギルドショップ用のラッピングアイテム多数と。
俺が頼んでおいた数量とデザインがきっちり守られている。
「おー結構売れたなぁ! それに合成もばっちりだな! ありがとな!」
「しばらく厄介になるコケからな。置いてもらう分は労働で返すコケよ」
そう、ココールは『丁稚奉公』と『下請け職人』を持ってるから、ギルドショップの店番を任せる事が出来る。更に合間に商品補充のための合成もやってくれる。
ちょうど店員NPCは欲しかったところだから、その点ではピンズドの補強だったり。
商人の息子らしく商才があり、店の外で呼び込みまでやってお客さんを増やしてくれている。授業の間に店を任せておくと、俺達が店番をやる時の150%くらいのペースで売り上げを上げてくれるのだ。
店員NPCとしては、実はすげー有能だったのだ。
ただ、レベル上げにはまだ行けてないから、レベルは1のままだ。
まだ店の事とかに慣れてないから――とココールは言っていたが……
流石にそろそろ行動開始しないとな。
「じゃあさ、ココール。今日はこれからレベル上げ行こうぜ!」
「やった待ってましたしー! レベル上げレベル上げ♪」
矢野さんレベル上げ好きだからなー。嬉しそうだ。
「そうね。そろそろ動き出さないと、他のギルドに後れを取ってしまうわね」
「そうだね! 頑張ろココールくん!」
「コ、コケー……ほんとにやるコケか……? せっかくおいらを連れて来てくれた蓮たちには申し訳ないコケが、おいらなんか鍛えても無駄コケよ? 才能無いのは自分でも分かってるコケー……店番してる方が役に立つコケが……?」
「ああ、店番してくれるお前はすげー役に立ってくれてるよ。だからさ、もう役に立ってるんだから、鍛えても無駄とか考えなくていいんだよ。遊びに行くつもりでいいからさ」
「そ、それでいいなら……ちょっと行ってみるコケか――」
「よし、じゃあ装備を整えてだな――」
と、俺達はココール用の装備を見繕う。
NPCも武器防具の装備は勿論できるからな。
それをコーディネートしてやるのもこっちの仕事だ。
ただ何でも装備できるわけではなく、キャラによって装備可能な系統は決まっている。
ココールの場合は革鎧とか鎖帷子系までの軽戦士タイプだった。
武器防具類には装備可能レベルがあるから、まあレベル1でも行けるのを一通りと。
その位なら俺が余裕で合成できるので、合成して装備してもらった。
「武器は何系統がいいんだ?」
ココールが装備できるのは――
短剣、剣、槍、鞭に――あと機械弓すなわちボウガンだな。
結構装備できる種類は多いなー。我々の紋章術師は基本杖オンリーですぞ。
「直接斬ったり叩いたりは苦手コケよー……」
「じゃあボウガンにしとくか」
「そうするコケー」
よし、じゃあ基本の『ウッドボウガン』と『ウッドボルト』を作って――と。
一応これで、ココールの戦闘準備完了!
「よし出かけるぞ!」
「「「おー!」」」
と言うわけで、移動!
ミシュール大陸のティンバーの森にやって参りました!
ここは、前にあきらと『吹き矢』の性能検証をやってた場所だ。
結構敵もいたし、まあ狩場としては悪くないかなと。
だが――!
「……あれ? 敵がいない……?」
前はバンディットウルフがウヨウヨしてたんだが――?
「コケー? 何もない所だコケな」
「おかしいねえ。前いっぱい敵いたのに」
「たまたまじゃん? きっとちょっと待ったら沸きますし」
「そうね。待ちましょう」
で、一分経過。二分経過――五分!
おかしい! このあたりの敵のポップ時間は五分のはず。
つまり倒された後五分経ったら再出現になる。
なのにポップしない。それはつまり――倒されずにどこかにいる!?
「なんかおかしいぞ……ちょっとそのあたり探してみようぜ」
皆で少し森の奥に進んだ。
そうすると――
ガウ! ガウゥッ! ガウ! ガウ! ガウ! ガウゥッ! ガウゥッ!
ガウ! ガウゥッ! ガウ! ガウ! ガウ! ガウゥッ! ガウゥッ!
ガウ! ガウゥッ! ガウ! ガウ! ガウ! ガウゥッ! ガウゥッ!
ガウ! ガウゥッ! ガウ! ガウ! ガウ! ガウゥッ! ガウゥッ!
ひたすらガウガウ言ってるのが聞こえて来た!
これはバンディットウルフの唸る声だよな。
森の奥の開けた場所に出た。
「!? 何をやってんだよ――!」
もんのすごい数のバンディットウルフがその場にひしめいている!
その数、100体近いかもしれない。
まるでこの森の敵を全部集めてきたような――
そいつらが一人のプレイヤーを取り囲み、攻撃しまくっているのだった。
とんでもない集団リンチだが、囲まれてる本人はまるで平気そうだ。
レベルが100オーバーでかなり高く、対するバンディットウルフは30前後。
レベル差があり過ぎるので、100対1でもダメージを与えられないのだ。
俺達に気づいたか、そのプレイヤーが声を上げた。
「ふっふふふ……悪いなお前ら。この狩場の敵は既に俺がキープした! ここにいても、お前らのNPCに食わせる経験値はやらんぞ!」
何だと――そうかこれ、ギルド対抗ミッションにおける妨害工作だな!
狩場を封鎖して、他ギルドのNPCのレベル上げを封じるつもりか!
うーむ、これはなかなかの残虐ファイトだ! やってくれるぜ……!




