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第94話 英雄育成

 リエルリィズ姫の登場に、その場にいるギルドの代表者達からおお、とどよめきが。

 可愛くて大人気のNPCなわけだが、普段は立ち入り禁止の宮廷の奥にいるため、なかなか会う機会がない。レアキャラなのだ。

 初めてリエルリィズ姫を生で見た人間も多いだろう。


「あっ! リエルリィズ姫だ。アニタさんも」


 この間の限定クエストでお世話になった姫の護衛の女騎士NPCアニタさん。

 彼女も美人で、二人そろうと絵面が非常に華やかである。


 俺達が座る長椅群の奥には、祭壇があった。

 そこに登ると、リエルリィズ姫はにっこりと笑顔を見せる。

 あきらの言葉が聞こえたのか、こちらに微笑みかけているようにも見えた。


「ふふ……優秀なレイグラント魔法学園の皆様とお会いできて、まんもすうれPですね」

「まんもすうれP……?」


 イミフ! 解説役の前田さんがいねえし!


「と、とりあえず嬉しいって事……なのかな?」


 あきらも首を捻る。

 やっぱ変わってない。この唐突に死語をぶち込んでくる感。

 このせいですごい可愛いんだけど不思議ちゃんに見えるんだよなー。

 会場も意味不明の言葉にざわっとしていた。

 特に初めて姫を見た奴は混乱するだろう。


「ひ、姫様……! 学生達がポカンとしています。ちゃんとなさって下さい――!」

「まあ……! 分かっていますわよ」


 と、戸惑いのざわつきの中、声を上げるはだかフルフェイス仮面が!


「だが待って欲しい――! 解説しよう! 『まんもすうれP』とはとても嬉しいという事を意味する造語である! 前世紀の女性アイドルが流行させた、所謂『ノリP語』の一つだとされている――以上だ!」


 ああうん博識ですね。

 そうだよな、中身は頭いいんだもんな。社長とかやってるんだよな?

 そう――馬鹿だが馬鹿ではないのだ。単に変態なだけで。シンプルに変態なのだ。


「まあそれは何ですか? とても個性的なファッション――インド人もびっくりですね」


 何故にインド人なのかと思ってしまうのは俺が悪いんだろうか?

 気にしたら負けなんだろうが――

 それよりコレを前にしてドン引きしないとはさすが姫。ハイセンスだわ。

 隣のアニタさんなんて、明らかにドン引きして顔ひきつってるのに。


「だが待って欲しい――お褒めに預かり光栄です」


 立ち上がって優雅に一礼した。

 動きだけはピシッと決まってるのがなお怪しい。

 しかし姫とお兄さまの組み合わせは濃いな。

 見てるこっちが胃もたれしそうだ。

 ツッコミ所が多すぎて話が進まないからな。


「姫様、姫様。そろそろ本題に――」

「ああそうですね、アニタ。ごほん――それではこの度のミッションについて御説明させて頂きますね」


 お、アニタさんナイス。ようやく本題に行ってくれた。


「先日ミシュール大陸のミシュリア国より、我がティルーナに人材交流の申し入れがありました。曰く、ミシュリアの将来有望な若者を浮遊都市ティルーナの環境で鍛えさせてはくれないか――とのことです。ミシュリアは近年隣国カラナートとの紛争やモンスターの異常発生への対処で多くの人材を失っており、国を動かしていく英雄の育成が急務なのです。永き誼のあるミシュリアたっての願いとあっては、断ることはできません。我が王家はミシュリアの若者を受け入れることにしました」


 ふむふむ――

 同盟国がピンチだ⇒人材育成助けて。人送るから⇒おk。受け入れるわ。

 って感じですか。まあ普通に理解できる話だ。


「我がティルーナの最高学府と言えば無論レイグラント魔法学園です。そこで皆様にお集まり頂きました。各ギルド毎にミシュリアの英雄候補を一人ずつ受け入れ、各々のやり方で彼等を鍛え上げて欲しいのです。そうすることで、皆様方自身も成長できるはずと私は思います」


 なるほどそれでギルド対抗ミッションが『英雄育成』なわけだ。


「なるほどね……NPCを鍛えるレースね。面白そうじゃない」

「少し面倒そうだな……全エリアでPK解放の対人戦祭りが良かったんだが……」

「普段から対人戦ばっかなのに、わざわざギルド対抗でやらなくてもいいでしょうが」

「ふん。物事を極めるためにはそれに専念するのが必要なんだ」


 と、雪乃先輩達が感想を言い合っていた。


「一月後に英雄候補同士での競技会を催し、その成果にて各ギルドの順位を付けさせて頂きます。競技会の詳細は追って伝えさせて頂きますが、上位進出のギルドには当然報酬を用意させて頂きますのでお楽しみに」


 う、嫌な予感――

 また『プリンセススカルリング』じゃねーだろうな……


 プリンセススカルリング(O)

 種類:アクセサリ 装備可能レベル:1

 特殊性能:取得経験値3倍。

      ただしレベルアップ時のステータスアップ量が1/3になる。


 これだよ、これ。

 ちょっと検証してみたが、普段付けといてレベルアップ前に外してっていう黄金パターンは当たり前のように通じなかった。

 一回でも装備したら、もう次のレベルアップのステアップ量がダウンしやがった。

 悲しいので、わざと戦闘不能になって経験値ロストしてレベル下げて元に戻した。

 レベル41で装備して、42の時にアップ率が下がったから、それをキャンセルするには41に戻すんじゃなく、40まで戻して改めて41にならなきゃいけなかった。

 経験値減らしのために何回死んだことか――

 滅茶苦茶無駄な時間を費やしましたよ! もうやらんからな!

 正直使い道の分からん謎アイテムだよなー。今の所。


「というわけで――これからどのギルドが誰を受け持つのかを決定していきます。ミシュリアの英雄候補の皆様をお呼びしますので、ステータスや成長率等をよくご覧になって決めて下さいね。それでは、皆様お入り下さいな」


 リエルリィズ姫が合図すると、続々と英雄候補NPC達が入場してきた。

 なるほどこれは――!


「おおおおー! なんかドラフト会議っぽいな! いいね、ワクワクしてきた!」

「ふふふ、そうだねー! いろんな人がいるー!」


 テンション上がったのは俺とあきらだけじゃなく、居並ぶギルドマスター達の視線や雰囲気も熱を帯びる。ざわざわと熱気が、この会場を包む。

 さぁ、俺達のドラフト一位は誰ですか!


「なお、各ギルドの選択希望候補が重複した場合は籤引きで決定になります。ですがその前に――特例を設けます」


 ほう、特例?


「我が王家への多大なる貢献を評価し――ギルド悪魔の仕業(デモンズ・クラフト)の皆様には、他ギルドに優先して一番に候補を選択する権利が与えられます」

「え!? まじで!?」

「わ、すごーい! やったぁ!」


 声を上げる俺達に、リエルリィズ姫が笑顔で頷いていた。


「そうか――『プリンセススカルリング』だけがご褒美とかおかしいと思ったんだよ」

「ここの優先権が真の報酬って事だよねー?」

「そそ。なるほどなぁ、こりゃデカいかもなあ」


 何せ複数球団競合のドラ1を抽選無しで持って行けるわけだ。

 これがどれだけデカいかは、プロ野球をちょっと知ってる人ならわかるはず!


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