第93話 弱虫ココール
大変長らくお待たせしました!
続き行きます!
今回からギルド対抗ミッション編です!
キーンコーンカーンコーン。
授業終わりのチャイムが響く。さてこれから放課後、我々の楽しいゲームタイムだ。
しかし今日はこの後行く所があった。リアル用事ではなくゲーム内で。
「蓮くーん、どうする? このまますぐ行く?」
「ああ。行こうぜ」
俺とあきらの行き先は同じ。
何かと言うと、次なる公式イベントであるギルド対抗ミッションの説明会だ。
各ギルド二名まで出席できるので、俺とあきらが行くことになった。
「んじゃまあ、あたしら店番やってますしー」
「こっちは任せて。そちらのことはお願いね」
「ああ。まあ説明聞くだけだしな。気楽に行ってくる」
というわけで俺とあきらは二人で教室を出た。
そして校舎を出て学校を出て――浮遊都市ティルーナの王宮エリアに向かう。
今回のミッションは王宮から発行される勅命という事になっているからだ。
王宮内にある礼拝堂に集合だそうな。
「さてさて、どんなミッションなのかね……?」
王宮の中庭を移動している最中、俺は何となく呟く。
「何だろうね? わたしとしては世界中の秘境を探検して宝探しとかがいいなー。いろんな所行けるし!」
「ああ、流石は絶景マニアですね」
「うんっ。蓮君は――」
バキィ!
ん!? なんかバイオレンスな音がしたぞ!?
「や、やめてくれコケー……! 痛いコケ……!」
庭の隅っこに数人のNPCの集団がいた。
みんな純粋な人間タイプの姿ではなく、直立二足歩行だが鳥の顔で鳥の翼もあるって感じ。
獣人の中でも鳥人種ってやつか。
さらにその中でもバリエーションがるみたいで、タカとかカモメとかクジャクの人もいる。
で、そんな集団の中で哀れっぽい声を上げているのが、ニワトリの鳥人種だった。
背が低く、でっぷりとした丸っこい体型。
アニメとかゲーム用にデフォルメされた中年オヤジのシルエットだ。
名前は――表示を見る限りココールだそうだ。
その体型とボケーっと呆けたような顔つきから、ゆるキャラ臭が凄い。
ただ今は他の鳥人種に囲まれ、怯えて顔が引きつっていた。
「はぁ? てめえからぶつかってきたんだろうが!?」
「そ、それはごめんって謝ってるコケー……」
「うっせぇんだよ! 喋んじゃねえ!」
バキィ!
タカの人の蹴りが入る。
「コケ―……!?」
「ったく……! せっかくお空の上までお呼ばれだってのに、何で弱虫ココールなんぞが一緒なんだよ」
「ああ、他にも候補はいたはずだが……こいつが英雄候補では鳥人種の面汚しになりかねん」
「大方お前の親父が賄賂でも使ってねじ込んだんだろ? 商人のお坊ちゃんは羨ましいねえ!」
「し、知らないコケよ……おいらだってこんなところ来たくなかったコケー……」
「何だと!? 英雄候補に選ばれる事が、どれほどの名誉か分らんのか!?」
「そ、そんな事言ったってコケ……!」
またココールが蹴られそうになる。
流石にその前に俺は割り込んで、止めた。
「そのくらいにしとけよ。何か分からねーけど、みっともないぞ」
「あぁ!? 何だ、テメー!?」
タカの人がギロリと俺を睨みつけてくる。
なかなかの迫力だった。さすが猛禽類。
「止せ。見ろ、こいつはギルドマスターだ」
少し輪から離れて傍観していたクジャクの人が、冷静にタカの人を制した。
「あ、ああ――揉めるのは得策じゃねえか」
「そういうことだ。世話になるかも知れんのだからな」
「世話に? どういう事だよ?」
「いや……すぐに分かる。とにかく失礼した。それでは」
と、鳥人種達はココールを置いて去って行く。
「大丈夫だった? ココールくん、かな?」
あきらがコケているココールを助け起こしていた。
「コ、コケ―……ありがとコケ~」
「こんな所で何があったんだ?」
「あいつらは、おいらがここに来てるのが気に喰わないコケ。だから――」
「でも、あんなの良くないよね! いじめだよあんなの! よくない!」
あきらがプンプンしていた。
「まあ、見てて気持ちいいもんじゃないわな」
「うんうん! だよね!」
「でも、あいつらが怒るのも無理ないコケ。おいらだって、なんでおいらなんかが英雄候補に選ばれたのか――本当に父ちゃんがやらかしたのかもしれんコケ……」
「さっきから言ってるけど、英雄候補って何だ?」
「それは――ああ、いやすぐに分かると思うコケ。だからおいらの事は気にせずやってくれコケな」
「?」
「それじゃあ、ありがとコケ!」
ココールは礼を言うとさっさと行ってしまった。
「あ、おいもう行くのか――?」
「ココールくん! 何か困ったことがあったらわたし達に相談してねー!」
体型のせいか不安定なよちよち走りのココールの背中に、あきらが呼び掛けた。
「だ、大丈夫なのかなあ……ココールくん」
「NPCも人間関係で苦労してるんだな。さすが最先端の人工知能。嫌なリアルさだわ」
「ねえ蓮くん。今度会ったら、わたし達で何か力になってあげようね?」
「ああ、そうしようぜ」
そうして、俺達はミッションの説明会が催される礼拝堂に到着した。
「各ギルドの代表者は、資料を受け取ったら任意の席について待つように!」
と呼び掛ける係の人NPCから冊子を受け取り、中に入った。
「わーステンドグラスだ。綺麗だねー!」
俺は喜んでスクショを撮っているあきらを先導しつつ席を探し――
お、この辺空いてるかなと思った一角。そこには――
「やあ、しばらくぶりだな」
で、出たあああああぁぁぁぁぁぁ! 鉄仮面に下パン一のド変態が!
この場には長机に長椅子が並んでいる。
そのど真ん中の長椅子の更にど真ん中に堂々と腰かけている。
当然誰もその側には寄らない、寄りたくない。
田んぼにできたミステリーサークルのように、中央にぽっかり人の穴ができていた。
そうだよな、このお方もギルドマスターだったよな……
いるよね。うん……残念ながら。
「ど、どうも――」
俺が応じると、周囲がざわついた。
うわ何こいつあれと知り合いなの? みたいな空気が凄い。
ひー恥ずかしい! 逃げたい!
「どうした? 席は空いているぞ? こっちに座るといい」
と、隣を指さされる。えーと……嫌なんだが!
あきらも俺の後ろでこっそり首をぷるぷる振っていた。
「れ、蓮! あきら! 何をしているんだ!?」
「馬鹿……! ほらこっちに来なさい!」
そんな俺達を助けてくれたのは、雪乃先輩とほむら先輩だった。
がっと強引の俺達の手を引っ張って、離れた席に連れて行ってくれた。
た、助かった――
「ダメじゃないか二人とも、お前達も仲間に思われるぞ……!」
「そうよ、アレには触らないのが基本よ……!」
そういやほむら先輩の教室に行った時にも、まるで空気のようにスルーしてたな……
「ま、まあ一応知らない仲じゃないと言うか、赤羽さんのお兄様だし、つい――」
「妹ね。この間の大会にもいたわね。よくもまああの兄貴がいる所に入ったものよね」
「ああ。余程この学校に入りたい理由でもあったのだろう」
ああそうか、そうだよな。
それだけあきらと友達になりたいってことなんだろう、赤羽さんは。健気だな。
そのあきらからはピンクのヘルメットプレゼントされておちょくられてるのに……
「ねえ蓮くん、それはそうと――その資料に何が書いてるの?」
「ああ。何々――ギルド対抗ミッション『英雄育成』について……だってさ」
「『英雄育成』? そういやココールくんたちが英雄候補がどうとかって――」
「ああ言ってた言ってた!」
と――
「皆さん、よくぞお集まり下さいました」
銀髪の超絶美少女NPC――つまりリエルリィズ姫がその場に姿を現した。




