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第91話 新たなる奥義

「まあ、やられてしまうなんて情けないですわよ……!」

「うううう……しゅいましぇ~ん……」


 その場にばったり倒れる片岡。

 だとしたら、俺の手持ちの能力でやれそうなのは――!

 ゆっくり検証している時間はない。

 俺は自分の中の閃きを信じ、システムメニューを開きある操作を始める。


「だけど――球は無くなったよ!」


 あきらの言う通りだった。

 片岡への集中攻撃で『コキュートスオーブ』の球は全て消失していた。


「今なら――!」


 すかさず放つ『スカイフォール』の衝撃波。


「『コキュートスオーブ』!」


 再展開された青い球体に衝撃波が弾かれる。


「!? もうっ、再使用時間(リキャスト)が早いよ~!」


 悔しがるあきら。


「フン――おいコラピンクのメスガキ! てめぇさっきから目障りだぜ、俺ぁ下品な女は嫌いなんだよ! 生きてて恥ずかしくねえのかてめぇは!」

「わ、わたしだって好きでこんな格好じゃないし……! 余計なお世話ですっ!」

「そうだ! それにその恰好はまだまだ控えめな方だぞ!」


 操作を終えた俺は、あきらの隣に並びつつ擁護する。


「蓮くんは余計な事言わないのっ!」


 怒られた!


「ハン、もう一匹下品なのがいるが――てめぇの方がよりムチムチしてる分見てて不愉快だぜ……!」

「何それ! 太ってるって言いたいの!? どう考えてもセクハラなんですけど……!」


 まー、あきらの方が胸大きいし赤羽さんより背は低いからなー。

 とはいえ別に太っちゃいない。方向性の違いだろう。

 あきらは健康的なお色気の可愛い系。赤羽さんは完全にキレイ系だからな。


「まーまー。それよりあきら聞いてくれ……」


 と、素早く作戦を耳打ち。


「ええええっ!? アレ? どうしてもアレじゃないとダメ……?」

「ダメ! 行くぞ『ディバイトサークル』!」


 大範囲のサークル発動。

 MPは完全に空にせず、最大HPの一割ほど残しておく。


「さぁて、さっさと死にな!」


 フロイの号令が響く。

 『コキュートスオーブ』の球体が俺達の前に殺到する。

 俺はあきらを庇うように、その前に立った。

 目の前に迫る無数の攻撃を受ければ、俺も片岡のように戦闘不能になるだろう。

 だが――そうはいかねーぜ!


「『ファイナルストライク』!」


 ピンで『ファイナルストライク』を発動!

 なぜなら続く奥義にこれが含まれていないから!


「奥義――!」


 ゴウッ! と俺の身体が紅蓮の炎に包まれる!

 直後、青い球体が着弾するが炎にぶち当たり消滅する。

 そう、炎で相殺できることは『ファイアボール』で証明済み!

 なら、炎を纏う奥義ならどうなるかと言う答えがこれだ!


「何いぃ!?」

「うおおおおおおぉぉぉっ! 行くぜ新必殺!」


 炎を纏い、腰を落とし半身を捻った『抜刀術』の構え。

 そのままの姿勢で、俺はまっすぐフロイに突進する。


 ズシュズシュズシュズシュズシュウウウウゥゥゥ!


 向かってくる球体が全て蒸発して行く。

 俺の纏う炎は宙に尾を引き、その形が火の鳥――朱雀を象っていた。

 これが、俺が編み出した新たな奥義!

 まだ組み合わせを見ていただけで、撃つのも初めてだが――

 『ターンオーバー』『爆炎タックル』『抜刀術』の組み合わせ!


「『朱雀一閃』っっっっっ!」


 炎を纏った抜刀術が、モロにフロイを捕らえた!

 斬撃と共に俺は走り抜け、フロイの身を大きな火柱が包む。


「うがあああぁあぁぁっ!?」


 蓮の朱雀一閃が発動。フロイ・ヤシンに3555のダメージ!


 うん、威力では『デッドエンド』を上回ってる――!

 それに『爆炎タックル』の突撃の間は、周囲に攻撃判定が出る。

 だから『コキュートスオーブ』の球体を潰しながら進めた。

 問題は『爆炎タックル』のHPを残す調整と、AP(アーツポイント)が必要な点。

 しかしこれさえクリアすれば『デッドエンド』を越えてくれるなこれは!


 『ファイナルストライク』を『スキルチェーン』の三枠から追い出せるのもいい。

 『ファイナルストライク』は、スキル発動だけしておいて、『次の一撃』を撃つのを保留し再使用時間(リキャスト)を待つ発動ずらし連打が効く。

 常に再使用時間(リキャスト)待ちを回しておく方が、トータルでは効率的だ。

 だが奥義構成に『ファイナルストライク』を組み込んでしまうと、それが出来ない。

 スキルが発動可能な状態にないと、奥義が使えなくなってしまうからだ。

 奥義から『ファイナルストライク』を追い出せばそれも可能になる。


「て、てめぇ……! よくも――! コキュートス……」


 だが俺に注目するフロイの目前には、既にあきらが迫っている!

 『コキュートスオーブ』は全部俺が吹っ飛ばした。

 だからあきらも、ノーダメージでヤツに肉薄できたのだ。


「させないから! 奥義――!」

「くっ……!」


 素早い反応でガードを構える――

 が、無駄! なにせあきらの装備は『エンジェルチャーム』ですので!


「『エリアルクレセント』!」

「ぐうううううっ!? なんだと――」


 ガードを無効化され、為す術無く空中に打ち上げられるフロイ。

 その隙に俺は次の『仕込杖』を合成させてもらうぜ!


「赤羽さん! 俺に『剣の舞い』を! 矢野さん前田さんも集中砲火!」

「ええ、よろしくてよ!」

「おっけ! ここチャンスですし!」

「はいっ!」


 赤羽さんが『剣の舞い』を発動!

 俺の『ファイナルストライク』『ターンオーバー』が発動可能になる!

 あきらの奥義の二段目が入り、フロイが地面に落ちてバウンド。


「奥義『シャドウブラスター』!」

「『ファイアボール』!」

「ぐうううううううっ!」


 その隙に俺は、HP調整のためにサークル魔法を撃っておく。

 まだAP(アーツポイント)はある!

 まだ行くぞ――! コンボ続行だ!


「もういっちょおおおぉぉっ! 『ファイナルストライク』! そして奥義!」


 再び俺の身体を朱雀の形の炎が包む!


「朱雀一せええぇぇぇぇんっっ!」


 ズゴオオオオオオォォォ!


 蓮の朱雀一閃が発動。フロイ・ヤシンに3555のダメージ!


「ぎゃあああああああああっっ!?」


 盛大な火柱が上がる。


「わたしもまだまだああぁぁっ! 『エリアルクレセント』!」


 俺とあきらの奥義二発目で、フロイのHPは七割ほど削れていた。

 まだ攻める――一気に行く! そう思っていたのだが――

 二度目の『エリアルクレセント』を受けたフロイの身体が、突如濃いグレーの球体に包まれた。


「やってくれんじゃねえかてめえらああああぁぁ! そのツラは覚えたからなぁ! 今度会った時は必ずぶっ殺してやるから覚悟しとけや――!」


 そして球体がシュンッと音を立ててしぼむと、もうそこにフロイの姿は無かった。

 あいつ――ある程度のダメージで撤退する系のボスだったのか……!

 フロイが逃げ去ると、部下の黒衣の暗殺者達も同じように姿を消して行った。


「逃げた……? やったああぁぁ! 勝ったねええぇぇ!」

「ええ――やったわね……!」

「よっしゃあああぁぁ! やってやりましたし!」

「ふぅ――なかなか歯ごたえのあるクエストでしたわね」

「フッ……見事だ妹とその仲間たちよ。私の助太刀など必要なかったかもな――」

「きゅーきゅー! きゅきゅきゅー!」


 皆が喜びの声を上げる中――俺は無言だっだ。

 無言で『魔導式映写機』を取り出し、あきらのスクショを――

 だってほら『エンジェルチャーム』のスクショ撮りそびれてたし!

 こんなチャンスは滅多にないから!


 パシャッ!


 よしゲット! ねんがんの『エンジェルチャーム』のスクショを手に入れたぞ!


「あっ!? も~蓮くん! こんな時にいぃぃっ!」


 速攻で装備を戻すあきら。だがもう撮ったぜ!


「最高の一枚をありがとう! 俺は満足した!」

「そ~いう問題じゃないでしょ! ホントにあれは恥ずかしいんだから……!」

「まあまあ、よくお似合いでしたよ」

「も~~~~~!」


 近くで見ていた鉄仮面兄さんが声を上げた。


「ウム――仲良き事は美しきかな! それでは私の役目は終わった――! さらば!」


 異様に軽やかな身のこなしで割れた天井に飛び戻ると、そのまま姿を消した。


「……」


 まあ一応感謝はしなきゃだな。

 何だかんだであの人が来てくれなきゃ、俺達の負けだっただろう。

 フロイだけ倒せばいい状態に持って行ってくれたんだからな。


「ま、いいや! とりあえず姫様を捜しに行こうぜ!」


 その後程なくして、俺達は捕らえられたリエルリィズ姫を無事救出した。

 姫が戻るとアニタさんも牢から出られることになり、俺達のギルドハウスも俺達の元に戻った。

 以前の通り、ショップも再開できた。

 これにて限定クエスト『お忍び王女様誘拐事件』は無事クリアだな!

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