表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

91/256

第90話 尊い犠牲者

「う……! こいつはまさか……!」


 その声にそのフレーズ……!

 中々忘れられるもんじゃない。

 奴だ――奴が来たんだ……!


「あぁん? 誰だ!? どこにいやがる!?」


 フロイが声を上げた。


「だが待って欲しい。上を見るがいい――!」


 穴が開いた天井の淵を見上げる。

 へ、へ、変態だあああぁぁーーー!

 フルフェイス型のツヤ光りする鉄仮面。

 クリムゾンレッドの小さなスカーフマフラー。

 同じくクリムゾンレッドのブーメランパンツ。

 名付けるなら変態三点セットって所だろうか。

 無駄に姿勢が良すぎる腕組みポーズの立ち姿。

 胸元の真紅の薔薇のペイントは、俺もこの変態の片棒を担いでしまった証だ。


「お、お兄様……!」

「やあ妹よ。苦戦しているようだな――この兄も手を貸そう! とうっ!」


 天井の淵から飛び降り、くるくるとムーンサルトを決めつつしゅたっ! っと着地。

 同時になんかよく分からん鳥のようなポーズを決めている。


「少々、無粋やも知れぬが――妹の危機を見ていられぬこの兄心……! 汲み取って頂けるならばありがたし!」

「お兄様、あ、ありがとうございます……!」


 あ! 赤羽さんちょっと目が泳いでるぞ……! 赤面してるし。

 やっぱ流石にあれは恥ずかしいんじゃないか……!?

 変態の兄貴がピンチになったら現れる恥ずかしさは汲み取って貰えないんだな!


「ほう……イカスじゃねえの、てめえ」


 フロイのリアクションに俺達は声を上げた。


「「「「「「ええええええっ!?」」」」」」


 何だこいつファッションセンスバグってんのか!?


「あ、六人! やっぱ赤羽さんもあれには思うところがあるんだな……!」

「な、ななななにを仰いますの!? わたくしは何も――」

「む……? 妹よ、どうかしたか――?」

「な、なんでもありませんわ、お兄様! それよりわたくし達動けませんの。早く何とかして下さいな」

「うむ――! ならば我が華麗なる舞いをお見せしよう!」


 はだか鉄仮面がクルクルとダンスをはじめ、俺達の足元を捕らえる氷が霧散する。

 しかし男ソードダンサーの動きはキモいなあ。

 やっぱダンスは、あきらのやつが一番お色気と可愛さを兼ね備えてていいと思う!


「そして更に――! ヘイッ!」


 ぴょんぴょん飛び跳ね、くるんと回転し、パパンと手を打ち鳴らす。

 うん異様だやっぱ。根本的に鉄仮面に下裸だし。マトモになるわけがない。

 だがシステムとは無情なもの。

 見た目はともかくちゃんと発動したダンスなので、俺達のHPは一気に全快した!

 ありがたみは無いが、さすがレベル200超えの回復力だな……


「さぁ我に注目せよ! かかって来るがいい!」


 それだけの大回復をすれば、敵のヘイトは一気に集まる。

 黒衣の暗殺者達が一斉にあちらに群がっていく。

 だが――


「フハハハハハ! 未熟なり! よく狙うがいい!」


 当たらない――!

 回避(スウェイ)! 回避(スウェイ)! 回避(スウェイ)! の連打!


「さぁ雑魚は私が引き受けた! 君達がボスを倒すがいい――!」

「う、うぃっす……!」


 俺はフロイの前に出る。


「フン、来るか――!」


 睨み合い。俺の横にあきらが並ぶ。


「い、一応助かったね……あのままじゃ勝ち目薄かったし」


 続いて前田さんと矢野さんも。


「喜んでいいのか悪いのかはグレーだけど……」

「ってか……あの鉄仮面なんで攻撃避けてるだけで反撃しないし?」


 それが耳に入ったか、お兄様が変なポーズを決めて矢野さんに顔を向けた。


「フッ! こう見えて私はバリバリのリベラリストでベジタリアン! 殺生は好まん!」

「ひいぃっ……! こっち向くなですしぃぃっ……!」

「ま、まあ――お兄様はお優しいので……」


 不殺主義って事か? おいどうやってレベル上げたんだよ……!?

 敵を撃破しない縛りとかも、縛りの一種としてはあるけどな!


「ゲームの世界だからと言って、そのポリシーは変わるものではない! いや現実に何のペナルティもないゲームの世界だからこそ、真の精神が試されるのだ!」


 腕組みポーズに戻った。相変わらずのかっこいいポーズへの冒涜!


「いやゲームの中では捕まらねえって、思いっきり露出してる件は……?」

「ふ、触れないであげて下さいませ……」

「そうだおい高代それ以上は言うなああぁぁあっ!」


 片岡め邪魔しやがった!


「おいおい来ねえならこっちから行くぜ! 『コキュートスオーブ』!」


 フロイの周囲に、青く輝く無数の小さな球体が出現する。

 一つ一つは拳大程度。それがフロイを護るようにゆらゆらと滞空している。


「こいつは――!?」

「様子見っ!」


 と、あきらが『スカイフォール』を一閃! 衝撃波がフロイに迫る。

 だが、無数の球体のうちの一つが衝撃波と激突。結果衝撃波だけが霧散する。


「吹き飛ばされた!?」

「効かねえのか……?」

「おい高代、俺が姿を隠して近づいてみるぜ」

「よし頼む」

「おう。『シャドウウォーク』」


 ふっと片岡の姿が掻き消えた。そして前田さんが魔法を唱える。


「炎なら――! 『ファイアボール』!」


 火炎弾がコキュートスオーブの球に衝突!


 ズシュウウゥゥゥ!


 蒸発するような音を立て、そして両方が消滅して無くなった。


「これなら相殺はできるわね……!」

「よし連打だ前田さん!」

「分かったわ!」


 再び前田さんが『ファイアボール』!


「そんな単発が効くかよ!」


 フロイが掌を翳すと、青い輝きが何発も前田さんに向けて飛んでいく。

 自由にコントロールできるのか!?

 『ファイアボール』は一発で消滅。残りが前田さんに迫って行く。


「きゃ――!?」

「ことみー危ないっ!」


 矢野さんが前に割り込んで盾で受ける。


 ピキイィィン! ピキイィィン! ピキイィィン!


 だが盾の表面で球体が弾け冷気をまき散らし、矢野さんの足元や半身を凍りつかせる。


「つ、冷たい冷たい冷たいいいいぃぃぃ!」


 ガードの上からHPも半分持って行かれている。


「優奈ちゃん!」

「しっかりなさいませ!」


 あきらがHPを、赤羽さんが凍結の状態異常をそれぞれダンスで回復。


「ハッ! 死ぬのが伸びたに過ぎん――!」


 再びフロイは球体を放とうとする。


「そうでもねーぜ! 『バックスタブ』――!」


 お、いいぞ片岡! ぶちかませ!


「む――!」


 しかしその瞬間、フロイの周囲の球体が一斉に片岡に群がって行く!


 ピキピキピキピキピキイィィン!


「うおおおおおおおおおおっ!?」

「片岡っ!」


 やばい一気に球を貰い過ぎた! HPがほぼ満タンから一気に全部削られてしまった。

 HPゼロ。戦闘不能。

 何気にあいつダメージ稼げるし抜けられると結構痛いな……!

 しかし近づいて攻撃しようとすると球で迎撃されるのか、厄介だぞ――!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ