第89話 喜んでいいのか分からない助っ人
「おいおいせっかちな奴だな……! なんかこう、しらばっくれたりとか帰れって脅したりとかしねーのかよ!?」
この物量は初見殺し過ぎるだろ!
ヤバそうだから今は出直す的な選択肢があってもいいと思うんだ!
「はん、俺は親切な男でな。どうせ最終的には戦うんだ、面倒な会話イベントは自動スキップしといてやるぜ! 姫は奥の部屋にいる、俺に勝ったら連れて帰りな!」
「別に嬉しくねえけど、あざーす!」
いやむしろ会話イベント欲しいのに飛ばしてくるゲームとか、不親切なクソゲー認定されても仕方ないんですが……?
「ふん。クソみてえな任務で退屈してたんだ、俺を楽しませろよ!」
フロイが周囲の黒づくめに号令を下す。
「かかれ――! 一山いくらの雑魚にも利用価値があると俺に思わせてみろ!」
黒衣の暗殺者達は声を発さず、それでも連携し一斉に襲い掛かって来る。
フロイは近くの岩の上にどっかりと座り、見物の構えだ。
おお、これはいわゆる舐めプか?
俺らがこの黒衣の暗殺者の軍団を倒すまで見てる的な――?
フフフ……だとしたら行けるかもしれんぞ。
レベル70の王冠付きボスとか、一緒に来られたら勝てる気がしない。
が、待ってくれるなら話は別――なぜなら、俺達は成長するからな!
これだけの黒衣の暗殺者を狩れば、相当レベルが上がる!
上がってからこいつ一体なら、いける! 勝てるかも知れない……!
「! 来ますわよ――!」
「うひいぃぃぃ! これ数の暴力だろ!」
「数多過ぎですし! ちょっとどーすんのこれ!?」
「た、高代くん……! どうすれば……?」
「こ、孔明ー! 早く何とかしてくれー!」
またこの美少女は三国志ネタをぶっこんできやがる。
ここでこういう冗談が出るということは、まだ余裕があるという事。
俺には打てる手があることが、あきらには分っているのだ。
ではリクエストにお答えして、東南の風的な何かをお見せしますか――
「リュー! 抱っこだ!」
「きゅー!」
「『ディアジルサークル』!」
やや広めの範囲のサークル展開!
輪を狭めて来ていた黒衣の暗殺者の大半をサークルが巻き込む。
範囲に漏れたのは、接近戦仕様ではない杖や弓持ちの奴等だ。
「行くぞリュー!」
俺は敵の輪をすり抜け、広場の隅へと向かう。
向かいながらできるだけ、まだサークルを踏ませていない後衛タイプの敵もサークルの範囲に引っ掛けて行く。
サークルを踏ませることにより、微弱だが敵にヘイトが乗る。
他に誰も手を出さなければ、奴等はとりあえず俺を狙ってくるのだ。
アウミシュール大古墳でもやった、『ディアジルサークル』によるモンスタートレイン再び――! これで時間を稼ぐ!
接近戦メインの敵は俺を追いかけてくるから、延々マラソンでいい。
後衛タイプが問題。走っている俺を狙ってくる。
「みんな! 杖とか弓とか、遠距離から蓮くんを狙う奴から順番に倒して行こ! 琴美ちゃん以外は一人一体タゲ取りつつ、攻撃はわたしと同じやつに集中して!」
うん。そうしてくれると助かる! さっすがあきらは話が分かるぜ。
あきら、矢野さん、赤羽さん、片岡がそれぞれ遠距離持ちのタゲを取ってくれた。
俺の方に飛んでくる遠距離攻撃は殆どない。マラソンが安定する。
向かってくる敵はサークルを踏ませて鈍足化できる。
が、飛んでくる弾や魔法は遅くできない。
このマラソン戦術にとって、敵の遠距離攻撃は脅威なのだ。
前衛たちはそれぞれ別の敵を引きつけながらも、攻撃は一体に集中。
横から自分がキープした敵にガシガシ遠距離攻撃されるが、それは無視。
それより俺に遠距離攻撃が集中してやられたらヤバいからな。
幸いにもこのPTは回復が豊富だからな。回復力で補える!
俺はマラソンを続け、あきら達が黒衣の暗殺者を撃破していくのを待った。
一体また一体と倒されて行き、俺達のレベルも上がっていく。
「このままならいける……!」
『ターゲットマーカー』プラス『ディアジルサークル』恐るべしだなマジで。
見た目こそ地味だが、ある意味こいつが一番のバランスブレイカーかも知れん。
しかし――
「なるほど――やるじゃねえか……!」
高みの見物をしていたフロイが、スッと立ち上がった。
こいつもっとサボってりゃいいものを――!
「そうでもねーって……! ゆっくりしてていいぞ!」
「ダメだな。話が早いのが俺の美点だ、遠慮するぜ! 『フローズンボム』!」
フロイが魔法を唱え、発動させた。
青く輝く氷結弾が俺の足元に着弾し、広範囲を凍り付かせた。
「くっそ――!」
ダメージも結構あるが――何より足が凍り付いて動かない。
『凍結』の状態異常だ。
魔法の範囲に巻き込まれた黒衣の暗殺者も少なくはない。
そいつらは俺と同じく、足元が凍り付いて動けずにいるが――
それでも半分程は無事だった。それが一斉に俺に群がって来る。
正面からの攻撃はガードでノーダメージにできるが――
同時に背後からも攻撃される。足元が動かない今、それを捌く事が出来なかった。
黒衣の暗殺者の攻撃。 蓮に66のダメージ!
「ぐっ……!」
「蓮くん!」
助けに来ようとするあきら達に向けても『フローズンボム』が放たれる。
そして俺と同じように足元が固まってしまう。
その間にも敵の攻撃は続く――
黒衣の暗殺者の攻撃。 蓮に71のダメージ!
黒衣の暗殺者の攻撃。 蓮に64のダメージ!
これは、まずい……!
戦闘不能が見える。俺が崩れればほぼ間違いなくPTも全滅だろう。
ぐぬぬぬぬぬ……!
これは絶体絶命ってやつか――?
「だが待って欲しいッ!」
その声が頭上から響いて来たのは、そんな時だった。




