第8話 デッドエンド
「わおーなんか強そうなの出たー! スクショスクショ!」
ボスの登場に喜んで、カメラを撮りまくるあきら。
ってか大丈夫なのかね。これあのB組のPTがやられたら、俺達まであいつに倒されるんじゃなかろうか。
まあ戦闘不能になっても、デスペナルティは経験値がちょっと減るくらいではあるんだが。
B組のPTはギルギアが近づいてくるまでの間に強化をかけなおし、準備万端で迎え撃つ姿勢を取っていた。
重騎士が前に出て『名乗り』でターゲットを取ろうとする。
それはきっちり成功していた。だけど、何故かギルギアはそこで足を止めた。
そしてその場でスカイブルーの剣を振り下ろす。
当然間合いが少し遠いので地面を叩く。
ん? と思ったけれどすぐ理由が分かった。
剣先から吹き上がるような衝撃波が生まれ、重騎士に向かって突っ込んで行ったのだ。
予想していなかった重騎士は、避けられずに防御姿勢を取る。
ガードしたもののその上から削られ、結構なダメージを貰っていた。
ログウィンドウをアクティブにして確認すると、137ダメージだ。
大体HPの3割くらいを持っていかれている。一撃でこれは結構重い。
あの衝撃波は魔法属性なのか?
重騎士は物理攻撃耐性は頭一つ抜けている反面、魔法耐性は並み程度だった。
少し間をおいてもう一発衝撃波。今度は予測していたからか、回避に成功する。
その隙を見て、攻撃役達が接近して近接攻撃を仕掛けていた。
パーティリーダーの盗賊の片岡と闘士が左右からボスを挟んで攻撃開始。
猟師も離れたところから弓を射かけていく。
攻撃役達の通常攻撃で大体一発当たり10~20のダメージくらい。
アーツ一発のダメージは50前後くらい。
流石にボスだし固いな。そこそこ回避も発動している。
これはAGIが高いと発動する自動効果だ。
盾役の重騎士が、衝撃波に当たらないよう避けつつ間合いを詰めた。
ボスも衝撃波による遠隔攻撃を止め、盾役に対して直接攻撃を仕掛ける。
盾役の被ダメージは大きく、ボスからのアーツを食らうとHPが25%以下のレッドゾーンに行ってしまっていた。
それを僧侶の回復魔法で持ち直し、何とか戦況を維持していた。
被ダメージが大きいすなわちヘイトの抜けが多いという事だから、ボスのターゲットがふらつきそうに思える。
けれど、リーダー片岡が盗賊のスキル『スケープゴート』を駆使し、重騎士のタゲ維持を上手くサポートしていた。
これは30秒の間味方プレイヤーの陰から敵を攻撃すると、そのダメージヘイトが全部その味方プレイヤーに行くという効果だ。しかも攻撃にダメージボーナスまで乗る。
『スケープゴート』の効果時間中にアーツ発動を重ね、タゲの安定とダメージ稼ぎを両立させている。ボスの残りHPは7割ほど。このまま削り切れるかどうか――?
暫くそのまま維持し、残り5割――
ここでボスが新たなアーツを放ってくる。ログには『クレセントスラッシュ』と出た。
三日月のエフェクトを伴った前方範囲攻撃だった。
タゲは変わらず重騎士が取っていたけど、運の悪いことに『スケープゴート』の効果時間中の盗賊がその背後に立っていた。
一緒に巻き込まれてしまい、重騎士はHPレッドゾーン。
リーダーの方は戦闘不能になってしまいその場に倒れた。
「あっ! 巻き込まれた!」
「あちゃー。こりゃ痛いぞ」
盗賊の『スケープゴート』によるサポートが無くなった。
盾役のターゲット維持が厳しくなりそうだ。
俺の懸念は当たった。
僧侶の回復魔法によるヒールヘイトが、盾役を上回ってしまった。
そうなるとボスは僧侶の方を向いて走っていく。
それを止められずに、僧侶がボスの剣の前に倒れてしまった。
メインヒーラーがいなくなった。これは正直もう厳しい。
あとは一人ずつ個別に倒されていき――結局B組のPTは全滅となってしまった。
ボスのアーツに盗賊が巻き込まれて落ちたのがターニングポイントだった。
あれがなければ、崩れてなかったかも……
運が悪いというか、中の人が上手いというか。絶妙のタイミングだった。
「惜っしいなあ、せっかくだから倒すとこ見てみたかったけど……」
残念がるあきら。
「ていうかこれ、この後どうなるんだろ? 生き残りも全員殴られてく感じか?」
「あ! こっち来てる来てる――!」
「うお! マジかよ!」
B組のPTを撃破した幽霊艇長のギルギアは、俺たちのいる船内の方に。
「も、もっと奥へ避難を――!」
船員さんNPCがそう言う。俺達はそれに従おうとしたけれど――
ボスの姿がふっと掻き消えて、こっちのすぐ近くにワープして出現した。
「な、何か逃げられそうにないね――! よし、こうなったら!」
あきらはきりっと表情を引き締めて、カメラをぎゅっと構えた。
「やられる前に最接近して、大迫力のスクショを撮る!」
「いやー……相変わらずのスクショ厨だわなー」
「わたし1ミリも経験値稼いでないから、デスペナ喰らっても痛くないもん。蓮くんは逃げていいよ? 一応わたしが囮になるから。すぐやられるけど」
「いや待った。ここは俺もちょっと試したいことがあってさ」
「おっ? なになに? さっきの奥義?」
「うん。まあせっかくだし見たいだろ? 魔改造の成果」
「うんうん! よーしバッチリ取ってあげるからね!」
俺はあきらの前に二、三歩出てギルギアに臨む。
まず、速攻で『ディバイトサークル』を詠唱する。
俺の足元に、結構大き目な紋章の円陣が生み出される。ボスの足元にもかかった。
効果時間は一分間。足を踏み入れた敵のVITを下げる効果だ。
範囲は命一杯広げたから、一気に俺のMPは1になった。
今はサークル自体に正直意味はないけど、この前フリは絶対必須だった。
で、見た目は木製の杖にしか見えない武器を、刀を抜く寸前のような持ち方で構えた。 俺の武器は暗器の『仕込杖』。
『オークスタッフ』の中に『ブロンズソード』が仕込まれている。
杖のトップの部分がぐりっと回るようになっていて、回すと剣が抜ける仕組みだ。
ぐりっと回しておいて、準備完了。相手の接近を待つ。
少しの間合いを、ギルギアはゆっくり歩いて近づいてくる。
今度はスカイブルーの剣の衝撃波を撃ってこない。舐められてるのか?
まあ当然っちゃ当然なんだが、そんな舐めプのルーチンがある? 作りが細かいな。
でも今の俺にはラッキーだ。おかげで安全にサークルの詠唱ができた。
ギルギアのHPバーは、B組のPTとの戦闘で減ったままになっている。
残り五割くらい。さっきの戦闘ログを追っかけながらざっとトータルのダメージ量を数えてみると、大体1000前後だった。
1000でバー五割削れているので、残りも1000くらいだろう。
このレベルのボス系モンスターにしては低い方だ。その分防御力が固いんだろう。
この見立てに間違いがなければ――たぶん俺は、こいつを倒せる!
「よーし一発ぶちかます! 奥義!」
声に応じて、俺の体が薄い光に包まれる。ブゥンと低く唸るような効果音もする。
ギルギアが俺の目の前まで迫り、武器を構えた。こっちの奥義も射程圏内。
さぁ紋章術師の俺流魔改造の結果、ここで見せてやるぜ!
「『デッドエンド』おぉぉ――っっ!」
『仕込杖』から抜き放たれた刀身は、若干悪そうな紫暗系の眩い光に覆われていた。
その輝く一閃は異様な唸り、響きを上げてギルギアに襲い掛かった。
向こうも俺を倒すべく剣を振り上げてたけど、こちらの方が早かった。
俺の放った奥義は、モロにギルギアを捉えていた。
半分くらいだったHPバーが一気にギュンと削れていく。
入った――! ダメージは!?
俺はギルギアを注視する。剣を振り上げた姿勢のまま、止まっていた。
倒れろ倒れろ倒れろ倒れろっー! こっちにはもう打つ手がないんだよ!
俺の念が通じたのか――
ギルギアは一拍置いてゆっくりと、仰向けに倒れていった。
ログウィンドウに注意を向ける。この二行が見えた。
蓮のデッドエンドが発動。幽霊艇長のギルギアに1123のダメージ!
蓮は幽霊艇長のギルギアを倒した。
おおおおおお! 行けた行けた!
結構すごくないかこれ! レベル4でレベル27のボス撃破できましたよ!?
これは俺の大好物のジャイアントキリング的な何かですね!
「えええええ!? うっそおぉ! そんなダメージ出るんだそれ!?」
あきらは驚いて目を真ん丸にしていた。
「っしゃああああぁぁっ! 見たかこのアホみたいな火力っ!」
テンション上がった俺は、ガッツポーズ&渾身のドヤ顔を披露していた。
同時に奥義を放った後の『仕込杖』は、粉々に砕けて消滅していく。
奥義に組み込んだスキル、『ファイナルストライク』の副作用だ。
放った一撃が強化される代わりに、必ず武器が壊れて無くなる。
「くくくく……! これは始まったなぁ紋章術師! クビ寸前の育成選手が起死回生の魔改造により覚醒し一流プレイヤーとなる的な流れだな!」
そんな中突然鳴り響くファンファーレ。レベルアップ音だった。
しかも連続で。俺レベルは低かったし、レアモンスターはボーナス経験値もある。
鳴りやまないファンファーレは、俺だけの事じゃない。
当然、パーティを組んでたあきらにも経験値が入って――
二人して、レベルアップ音を鳴らしまくることになった。
「うわわっ!? めっちゃレベル上がってるぅ!」
最終的に俺は9回、あきらは10回のファンファーレを鳴らすことになった。
一気にレベル13と11になったわけだ。




