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第86話 深い理由

「? 何かおかしな点でも?」

「こ、ここはさすがに『ナースリング』で間違いないと思ったんだけど……!」

「そうそうそう! どー考えても無駄に高いMPを活かさないとだし!」


 前田さん矢野さんがビックリして俺を止めてくる。


「まー確かにな。MPを無駄に投げ捨ててるシーンは多いし、レベル上げ的な雑魚連戦にゃ滅法弱いし、そういう時にサブヒーラーやれるのは弱点の補強になるわな」

「それ分かってて何でそっちなんだよお前? 回復魔法は従者力高いと思うけどな?」


 いや従者力とやらが何なのかから議論しないと通じませんな。

 まあ片岡としても、疑問らしい。


「決まってんだろ。俺は弱点を補う派じゃねえ――長所を伸ばす派だからな!」

「じゃあ『ラッシングリング』なら長所が伸びるって事だね!? ねえねえどんな風に?」


 あきらが何かワクワクした表情で聞いてくる。

 前からそうなのだが、俺があきらの考えていないようなことを言い出すと、嬉しそうに理由を聞いてくれるのだ。説明のし甲斐があるってもんだ。


「そりゃーあれだぜ。格闘の当て身系って、攻撃力VIT(耐久)依存な上にスウェイ無効なんだぞ! ただしアーツ一発ごとにHP消費するけどな……!」


 格闘系はモーションが豊富なので、技能が四系統に分かれている。

 拳打、蹴撃、投げ、当て身である。

 ジョブが格闘家だと、流派選択って事で四系統のうち二つ使えるようになる。

 それ以上はタレントや装備で増やす必要がある。

 新人戦で雪乃先輩が使ってたのは蹴撃だな。

 メインウェポン持ちながら蹴撃って言うのは、モーションの択を増やす意味で非常に有効になる。


 多分人気としては、拳打と蹴撃が二強だ。

 拳打は格闘家なら殆どが取っている。

 が、蹴撃は他ジョブがサブ的に使うニーズが高い。

 そこからは落ちるが、次は投げだ。

 関節技などもそこに含まれていて、相手にデバフ効果を与えるので渋い活躍が出来る。

 で、ぶっちぎり不人気なのが当て身。これは間違いない。

 何故なら威力がVIT(耐久)依存だから。

 当て身は、ショルダーチャージとかタックルとかの突進系のモーションを指している。

 固くて重いガチムチがぶつかって来る方が痛いからVIT(耐久)依存なのだろうが――

 VIT(耐久)なんて基本的に盾役(タンク)しか本腰を入れて上げないので、盾役(タンク)以外では真価を発揮できない。

 しかし盾役(タンク)としても、当て身攻撃のアーツは自分のHPも消費するという特性が邪魔になる。

 盾役(タンク)は敵の攻撃を受け止め、やられずに生き残るのが至上命題。

 自らHPを減らす行動は、リスクが高すぎる。

 スウェイ無効と引き換えのHP消費なのだろうが――盾役(タンク)としてはそのトレードが割に合わないのだ。

 通常攻撃ならHP消費は無いが、通常攻撃だけ使うなら蹴撃にした方がモーションの繋がりが良く、バリエーション豊富でどう見ても上位互換。

 当て身の通常攻撃は単に体当たりするだけの単発で、モーションの隙も大きいのだ。


 しかしここに――こんなヤツがいた!

 盾役(タンク)でもなくVIT(耐久)極振り。

 HPなんて奥義ごとに1まで減らすの上等。

 スウェイ無効が無けりゃ攻撃が格下にもスカスカ。

 だが奥義の威力だけはぶっちぎりのロマン砲。


 はい俺の事です本当にありがとうございます!

 俺なら、当て身のデメリットをスルーしてメリットだけ受け取る運用が可能だ。

 何より当て身なら、普通に通常攻撃が敵に当たるんだぜ……

 すげー進化じゃないか? 一度でいいから俺も通常攻撃してみたかったんだ……!

 それにもちろんアーツもあるからな、それによりロマン砲は更に進化できるはず!

 正直結構前からここまでは見据えてたぜ……!

 当て身の存在があるからVIT(耐久)極振りしてもやっていけると判断していた。

 不人気の暗器と不人気の当て身。

 マイナスとマイナスをかけ合わせればプラスになるんだ!


 俺はそのあたりの事を熱くあきらに語った。

 前からこれは取るつもりだった。それが目の前に来たのだ、選ばないわけがない。

 本当は次のテストで頑張って、タレントで取る予定だったが――

 前倒しになってラッキーと言う他はない。


「なるほどぉ……! じゃあ蓮くんにとっては、ねんがんの当て身を手に入れたぞ! って感じなんだ?」

「はい! その通りです!」

「はははは……そ、そこまで目をキラキラさせられたら何にも言えないな~。わたし」

「そ、そうね……私も別に使わないし――」

「右に同じー。でもさぁ『ナースリング』も一番活用できるの高代じゃんね?」

「いや、俺は今回は『ラッシングリング』で十分だから、矢野さんが『ナースリング』貰っといてくれよ。元の聖騎士(パラディン)にちょっと近づくぞ」

「あたしぃ? まああっきーもことみーも回復持ちだもんねえ」


 皆伝の証<回復魔法>を付ければ、空賊のようなMPを持っていないジョブでも、本職の半分程度のMPが付加される。

 付けさえすればそれなりに使えるはずだ。

 矢野さん元聖騎士(パラディン)だから、新しく魔法スクロール買って覚える必要もないしな。


「いいんじゃない? 回復あればソロでもいろいろやりやすくなるし」

「じゃあ優奈が貰っておけば?」

「ああ、まあ何かどうしても必要な時が来たら貸してくれ」

「オッケ。じゃあ『ナースリング』はあたしが……」


 と、戦利品の行き先が決まると、ちょうど飛空艇も目的地に到着した。

 さあ『ラッシングリング』ではしゃいじまったが、本来の目的を果たさないと。

 リエルリィズ姫の捜索開始だ――!

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