第82話 天馬の目
「というわけで赤羽さんも片岡もよろしくな!」
「ええ、よろしくてよ」
「ああ……!」
片岡がいやにきりっとしていた。何だどうしたんだ?
と思ったのも束の間、小声でなんか言ってる。
「わぁいHimechanがいっぱいだ……! いい匂いだなぁ……!」
いやしないから! これゲームだし!
食べ物とか、アイテムの香水とかの匂いはするがさすがに人の匂いまでは分からんぞ。
こいつ勝手に脳内で補完して喜んでやがる! ヤバいやつだこれ!
「おい片岡、ちゃんとやってくれよお前」
「わかってるぜ! もちろんだ!」
「ホントかよ……まあとりあえず、さっそくお前に聞きたいんだけどさ」
こいつこう見えても情報屋ギルドの知識の泉の一員だからな。
従者としてHimechanに尽くすため、色んな情報を得るために入っているそうな。
「おう、なんだ?」
「あきら、あの写真見せてくれ」
「うん」
あきらが昨日の敵を撮影した写真を取り出す。
「こいつらって、どこの誰だか分かったりするか?」
「んん? 何だよこれ?」
「今やってるクエスト関連の敵でさ。昨日戦ったんだけど――」
と、クエストの概要やら経緯を説明。
「限定クエストですか……そんなものもありますのね。昨日から街中に兵士のNPCが多いのは、そういう事情だったのですね」
赤羽さんがそう感想を漏らす。
「流行ってるギルドショップでの限定クエストはちょくちょく起きるんだわ。毎度バリエーションは違うわけだが……お姫様が誘拐されるパターンは初めて聞くな」
まあ、毎度毎度誘拐されてるわけにもいかないだろうしな。
もしそうだと、余りに不自然でリアリティがないもんな。
このゲームの世界は、ある意味で生き物。
意志を持ったNPC達は、独自に世界の歴史を紡いでいる。
――ように見えてしまうほど、作り込みが凄いという事だ。
そしてプレイヤーの行動や選択が、世界の進む方向に影響を与えていく。
超高性能イベントジェネレーターは、単なるゲームイベント発生機ではない。
一つの異なる世界を作り出す語り部なのだ――!
あ、はい。学校側の説明の受け売りです。
俺的には面白いゲームがやれれば、細けぇ事はどうでもいいんだよ!
「リエルリィズ姫を探す手掛かりにならねえかと思ってさ。何か分からねえか?」
「うーんこれ見ただけじゃなー。ウチのショップでデータベースにアクセスしねーと」
「じゃあ行こうぜ!」
と、言うわけで『情報屋 ビッグスマックス』へゴー!
到着すると、今日の店番は口髭のある男性NPCだった。
おーやっぱ、大手ギルドは店番NPCも使うんだな。
ウチも雇えるようにならねば……!
「いらっしゃいませ――やあ片岡君ですか」
「ようマークスさん。ちょっと調べたいことがあってさ、少し代わってくれよ」
「ええ。構いませんよ」
と、片岡はカウンターの中に入り『ディールの魔卓』を操作した。
「んー……この敵人さらいって名前なんだよな?」
「だな」
「捻りも何もない名前だよなー。んー同じ名前の敵はデータベースに登録なし……と」
「この手持ちの短剣の紋章のデザインなど、手掛かりになりませんか?」
横で見ていたNPCのマークスさんから、そうアドバイスが。
「この紋章の部分をスキャンで取り込み、画像データのマッチング検索をしてみては如何でしょう?」
おおう有能! 片岡より話が早いぜマークスさん。
うちも有能な店番NPC欲しいなー。
「よし、じゃあやってみる……!」
片岡が『ディールの魔卓』を忙しく操作し――
「ん……出た!」
「おお? どんな情報だ?」
俺達は一斉に、カウンター上に置かれている『ディールの魔卓』の画面を注目。
「ああ。カラナート教主国で使われてる紋章みたいだぞ――」
「カラナート……?」
「ミシュール大陸の新興国ですね。隣国ミシュリアとは、近年何度も衝突を繰り返しています。この浮遊都市ティルーナはミシュリアは友好関係が深いですから、直接の敵対関係ではありませんが、潜在的にはそれに近いかもしれません」
マークスさんの解説がありがてぇ。
「じゃあもしそいつらが絡んでるとしたら――」
「お姫様、カラナートに連れて行かれちゃってるのかなあ」
「ティルーナの中は、兵士が大勢で捜索しているものね。潜伏し続けているなら、もう見つかっていても可笑しくないわ。ティルーナの外を捜した方がいいかもしれない」
「じゃーこのカラナートに出張してみるべし?」
「つってもそこ行っても、範囲が広すぎてどこ捜せばいいかがなー……」
「『天馬の目』を使ってみてはどうですの?」
赤羽さんが言ったのは、ダンジョン内などで目的の人物の位置を光で指示してくれるナビ的なアイテムの事だ。
パーティメンバーがはぐれた時の合流に使ったりするんだが――
攻城戦や都市防衛イベントなどでも使ったりすると聞くし、別にダンジョンじゃないと使えないわけではない。
ただし、パーティ外のキャラをサーチするには色々と条件がある。
一緒にPTを組んだ時間が一定以上とか、そのキャラが持っていたアイテムを用意したりだとか――
それに、あまりに距離が遠いと『天馬の目』もさすがに無効になる。
少なくとも同じダンジョン、同じ街くらいにはいないと効果がない。
「となると、何かお姫様にまつわるアイテムが必要だよな」
お姫様とパーティ組んだことなんてねーしな。
もしそれが用意できたら、カラナートに出向いていろんな場所で『天馬の目』を使って捜索してみようって感じだな。
「じゃあやっぱりアニタさんに会いに行った方がいいね」
と、あきらが言う。
その通りだな。アニタさんなら何か姫様ゆかりのアイテム持ってそうだし。
「あとは『天馬の目』が用意できれば――か」
「ウチのギルドのショップに在庫があるぜ。ちなみに一個五万ミラね」
「結構するなぁ……!」
ここ数日のギルドショップの売り上げが百万ミラ位溜まってはいるんだが……
それをぶっこむことになりそうな予感……!
「じゃあ姫様ゆかりのアイテムが用意できたら、買うか?」
「そうだね」
「ええ」
「世の中何でも金、金ですし」
じゃあまあそういう事で――次はアニタさんに会いに王城に行くぞ!




