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第79話 難易度のミスマッチ?

 俺達はすぐ店を閉め、誘拐犯を追った。

 俺のフードの中で寝ていたリューも起き出して、俺の頭の上に乗っている。


「すまない! 先程銀髪の少女を連れた黒衣の集団が通らなかったか!?」


 アニタさんが通行人に呼び掛けると、結構な人数が反応してくれた。


「あっちに……!」

「ありがとう! 行こう、君達!」


 アニタさんと一緒に、目撃証言を辿って追跡していく。


「リリィさんって、お姫様だったんですね……!」


 走りながらのあきらの問いに、アニタさんは頷く。


「ああ――あの方はリエルリィズ・フォン・ティルーナ様。この浮遊都市ティルーナの王家の姫様だ……! 私はその護衛を仰せつかる騎士アニタ・アーシェス。お忍びゆえ変装はしていたのだが……!」

「あいつら何の迷いも無く、リエルリィズ様を拉致って行きましたね」


 俺が言うとアニタさんは首を縦に。


「ああ、付けられている気配は無かったのだが……!」

「だとしたら待ち伏せされてたって事ですかね?」

「あり得るな――姫様がお忍びでここに来ることは、ごく一部の身の回りの者しか知らぬはず。そのごく一部の中に内通者がいたか……!」

「犯人に心当たりは?」

「あり過ぎて逆に見当がつかないな……! ティルーナ王家の姫など、その存在だけで何に狙われても可笑しくはない。世界で随一の権威と技術を持った王家なのだからな」


 アニタさんの言う通り、この世界のパワーバランスはそういう事になっている。

 天上の浮遊都市に居を構えるティルーナ王家は、地上の各国を直接支配することはないものの、そのずば抜けた技術力を背景とした権威により、世界の盟主的な存在になっているのだった。


 そんな風に情報収集を挟みながら進んで暫く――

 俺達はだんだんと、浮遊都市ティルーナの港エリアに近づいて行った。

 定期船等の大型飛空艇が発着する大桟橋ではなく、うらぶれた倉庫街の一角だった。

 そこに歩いていた現場作業員風のNPCに、アニタさんが問いかけた。


「失礼! 黒衣の集団がここを通らなかったか!?」

「ああそれなら、そこの倉庫と倉庫の間の路地に入ってったぜ。ついさっきだ」

「よし近いぞ! 追い付ける!」


 路地に入る。すると――

 リエルリィズ姫らしき人を抱えた黒づくめ達が!


「いた! 追い付いたぞッ!」


 アニタさんが声を上げる。


「姫様! 今お助け致します!」


 それが聞こえたか、向こうも反応を見せる。

 姫を抱えた一人はそのまま走り去り、残りは足を止めてこちらを迎撃する構えだ。


 人さらい  レベル60×2 王冠アイコン(レアモンスター)


 名前はそのものズバリだな。ある意味適当と言うか投げやりと言うか……

 問題はレア系のモンスター扱いっぽい所だな。

 まあ限定クエだし、そうなるのは分かるんだが。


「あいつらは俺達が引き受けますから、アニタさんは姫を追いかけて下さい!」

「すまない! そうさせてもらう!」

「みんなもそういう事だからよろしく!」

「おっけー! 取り合えずレアっぽい敵は記念にスクショっと!」


 あきらが『魔導式映写機』をパシャリ。

 まあいつも通りのあきらさんで安心する。変な緊張とかはないみたいだし。


「分かったわ、高代くん!」

「レベル60のレア系かあ……勝てるといいですし」

「わたしが二体釣ってみるね!」

「頼むあきら。前田さんと俺は『マジックエンゲージ』試してみるか」

「そうね、当たれば大きい――でも外れそうな気がするけれど」

「だな。まあ一応な」


 俺と前田さんの検証によると、レア系モンスターにサークルプラス『ディアボリク・ハウル』は効かなかったからな。ここもその可能性は高い。

 それを踏まえた上での試行的なものだ、これは。

 本命はやはり、あきらが釣ってからの『デッドエンド』だな。


「んじゃ効いたら後はお任せ!」

「じゃあ行きまーす! それそれぇっ!」


 あきらが『スカイフォール』を二連続で振り抜く。

 生まれた衝撃波が、左右に並ぶ敵にそれぞれ着弾する。

 攻撃を受けた人さらい達は、あきらに向かって来ようとする。

 その脇を、アニタさんが駆け抜けて行く。


「後は頼んだぞ!」


 よし、捕まえてくれよ――アニタさん!

 俺達は俺達で、この敵共を片付けないと。

 レベルは倍近く上で、しかもレア系モンスターだ。

 レア系モンスターは、同レベルでも通常配置のモンスターよりかなり強い傾向がある。

 通常配置の敵なら、この間アウミシュール大古墳でレベル80くらいの奴をやれた。

 今度はどうだ――!?


「前田さん!」

「はい!」


 俺達は手に手を取って――


「「『マジックエンゲージ』!」」


 そして俺は『ディストラサークル』。

 前田さんは『ディアボリク・ハウル』をそれぞれ詠唱。

 魔法陣から生み出されたドラゴンヘッドが、二人の人さらいに突っ込んで行く!


 蓮と琴美のマジックエンゲージが発動! 人さらいはレジストした!

 蓮と琴美のマジックエンゲージが発動! 人さらいはレジストした!


 うわやっぱりダメか!


「ダメだわ……!」

「なら切り替えて『デッドエンド』で行くぞ! 矢野さんフォロー頼むな!」

「あいあいっ!」


 俺は大範囲の『ディストラサークル』を展開。MPを空にする。

 そしてあきらに攻撃を加える人さらいのうちの一体に、サイドから突っ込んだ。


「『デッドエンド』おおぉっ!」


 蓮のデッドエンドが発動。人さらいに2622のダメージ!


 HPゲージもギューンと減るが――

 それでも減ったのは、三割ちょいという程度だった。

 結構HP高いな……!

 矢野さんが、すかさず俺からヘイトを引き受けてくれる。


「『ギルティスティール』!」


 俺が稼いだヘイトを矢野さんが持って行く。

 これで、あきらと矢野さんがタイマンで一人ずつ人さらいを受け持つ構図に。

 だが――


「れ、蓮くんちょっとマズい……! こいつ結構強いよ!」


 あきらが敵に押されている……!

 攻撃があまり通らないのはまだしも、一撃ごとの被ダメージが大き過ぎた。

 これではダンスの回復量とダメージの収支が取れない。

 AP(アーツポイント)が枯渇してしまうだろう。


「痛ったあぁぁ~。やっぱガチで殴り合うとレベル差が響きますし――」


 むう矢野さんも。こいつは厳しい――!

 このクエストは敵が強いな……!

 しかし当然かもしれない。

 発生条件がギルドショップを流行らせることだが、出来たばかりの零細ギルドのショップがそんなに流行る訳がないもんな。

 本来ならこのクエスト、もっと有力な大手ギルドで発生して然るべきものなのだ。

 それに合わせて、難易度も調整されているのだろう。

 それをこの春の新作アイテム『レイブラの魔筆』と、デザイナー矢野さんのセンスの力で、出来て間もないうちのギルドに引き寄せてしまったのだ。

 だから難易度的には、ウチに合っていない。ミスマッチだ。

 しかし――だから失敗しましたと言う気はないぜ!

 低レベル縛り、大いに結構じゃないですか!

 まだ打てる手はある……!

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