第7話 飛空艇襲撃イベント
「いけないお客さん! すぐに船内に避難してください!」
必死な船員さんに背中を押されて、俺達は甲板から船内に連れていかれる。
相手がNPCとはいえ、こう必死な様子を見せられると素直に従ってしまう。
だけど逆に、喜び勇んで船内から出ていこうとする奴らもいた。
俺達の他にいたプレイヤーの乗客だった。
六人でパーティを組んでいるみたいで、レベルは18~20くらい。
ジョブ構成は重騎士、闘士、猟師、盗賊、僧侶、吟遊詩人か。
パーティーリーダーの星印のアイコンが付いたプレイヤーに注目してみる。
片岡真一(1-B)
レベル20 盗賊 PTリーダー。
みんなB組の生徒みたいだ。
「っしゃキタキター!」
「大チャンスだ他にPTいねえし!」
「張ってた甲斐があったな!」
そうテンションを上げながら甲板に行こうとするのを、職務に忠実な船員さんNPCは止めようとしていた。
「いけませんお客さん! 危険ですよ!」
「わりいな! どいてろよ!」
強引に突き飛ばされてた。そして片岡達のパーティは甲板に出て行った。
「何あれ態度悪いなあ。大丈夫ですか?」
あきらが船員さんを助け起こす。
「は、はい……すいません、ありがとうございます」
「何が起きるのかねー。何回か飛空艇乗ってるけど、こんなの初めてだわ」
俺は船室の窓から甲板の様子を見る。
「うーん攻略本にも何も書いてなさげだよー」
「まあガイドブックってくらいだし、攻略本としては入門編なんだろうな」
「だとしたら、何であの人達これ知ってる感じなんだろうね? 初見だったらびっくりするよね? そんな感じじゃなかったよお」
「ああ。狙ってた感じだよな。前にたまたま当たったことがあったとかかねー?」
そこは聞いてみないとわからないんだけど。
「わたし達が戦っても、多分役に立たないよねえ?」
「まあレベル4と1だしな」
「じゃあここで安全にスクショ撮ってよーっと。なかなか見れなさそうだもんね」
あきらは観戦モードを決め込んでいるみたいだった。
迎撃に出たB組のPTは、吟遊詩人や僧侶の強化用魔法や呪歌をかけてもらい、戦闘準備を整えていく。
PTメンバーのステータスアイコン欄に、良性ステータスアイコンが追加されていく。
「味方の強化できるのはいいよなー。紋章術師は敵の弱体だけだし」
「強化の方が効果を体感しやすいから、有り難がられるしねえ」
「だなー。しかも紋章術師のサークルなんて設置式だから、敵に移動されたら無意味になるしな。そのかわり踏ませさえすればレジストされんけど」
レジストというのは、『○○は眠りの呪文を唱えた、しかしきかなかった!』って現象の事を指してる。敵の耐性が高いと、そういう事が起こりやすくなる。
「んじゃヘイト管理が重要になるって感じだね」
「ああ。盾役ががっちりターゲット取ってくれると敵も動かねえからな」
ヘイト――つまり敵からの敵対心になる。
敵モンスターは、その時一番高いヘイトを取ってるプレイヤーを狙って攻撃する。
ヘイトはダメージを与えたり、味方を回復したりの敵対行動を取ることによって増え、逆にその敵からダメージをもらったり、時間経過することによって減っていく。
だから盾役がターゲットを維持するには、敵からの攻撃でヘイトを減らしつつも、ほかのPTメンバーより多くのヘイトを持っている状態を維持しなければならない。
盾役はヘイトを稼ぐ手段をそれぞれ持っているから、それを駆使することになる。
そこがうまく機能していれば、モンスターは盾役に張り付く。
だから、紋章術師的にはその足元にサークルを展開して弱体を行うことになる。
「だけど、対人戦だと見てすぐ避けられちゃうよね」
「そう、そこなんだよな。このゲーム対人もあるもんな」
あきらの言う通り、対人ではサークルを見た相手がその上に乗らなければいいだけになってしまう。だから紋章術師は対人戦ではますます役立たず扱いだったりする。
「うーん何かこう、物足りない感……」
「効果範囲を思いっきり広げて避けられないようにする手もあるけど、範囲を広げれば広げるほどMP消費も大きくなるってね」
大範囲のサークルを魔法で設置すれば、MPが満タンでも一蓮で空にできてしまう。
それだけ範囲の拡張はMP消費が激しい。
「『ターンオーバー』があるしMPの持久力は悪くなさそうなのにね」
『ターンオーバー』は、再使用時間五分でHPMPの値を入れ替える紋章術師の専用スキルだ。
MPが空でもHPが残っていればMPを補充できる。
あきらの言う通り、MPの持ちを良くしてくれる。これは良スキルだと思う。
「魔道士とか僧侶もMP補充スキル持ってるけどな。あっちはHPと入れ替えじゃなくて純粋にMP回復だし、詩人の呪歌はそもそもMP消費しないし」
「そこでも劣化なんだ……ボンクラーズのリーダーは伊達じゃないって感じだね」
そう話してるうちに飛空艇が大きく揺れた。
見ると、幽霊船から発射されたアンカーがこっちの船体に巻きついていた。
そしてそのアンカーを伝って、敵がわらわら乗り込んでくる。
みんな武装をしたヒト型だった。
赤い目以外はのっぺらぼうで、真っ黒の表皮の異相。
スペクターという種族のアンデッドモンスターだった。
レベルは全部16だった。数は十体ほど。これは俺達では厳しそうだ。
スペクター達と、待ち受けていたB組のパーティーとの交戦が始まる。
「足止め頼む!」
「おう!」
まず吟遊詩人が前に出て『亡者のレクイエム』という呪歌を発動させる。
その効果範囲に巻き込まれたスペクター達が、一斉に止まって動かなくなった。
対アンデッド特化の睡眠効果だ。便利だ、俺もあんなの欲しい……
突入してきたスペクターの殆どは眠りに落ちた。だが、何体かは漏れている。
それが詩人に向かおうとする。
「おらこっち来い!」
盾役の重騎士が範囲系のヘイト獲得スキルの『名乗り』を実行。
スペクター達は重騎士に矛先を変える。敵のタゲ取りがうまく行った。
三体に一斉に殴られても、全身鎧でガードを固めてビクともしない。
その隙に闘士、猟師、盗賊の三人の攻撃役が一体ずつ集中攻撃して撃破する。詩人の強化用の呪歌が効いていることもあって、撃破が早い。
僧侶は後方に下がって、適宜重騎士や被弾した攻撃役の回復。
けどガードを固めた重騎士は、物理攻撃にとても強い。
そんなにダメージを貰っていないので、回復役としては若干暇そうだった。
三体処理し終わったころに、眠っていた他のスペクターが目を覚まし始める。
しかしその頃には、『亡者のレクイエム』のリキャスト時間も経過している。
もう一発『亡者のレクイエム』が発動。
そこで漏れた敵をまた重騎士がヘイト獲得スキルで拾って引き付ける。
そして攻撃役達が各個撃破。以下ループになりそうな展開だった。うまく回っている。
「なかなか快調って感じだねー」
と、あきらが完全に観客のコメントをしている。
「だなあ」
詩人の範囲寝かせが大きい。あれで大部分足止めできてるから楽にやれている。
更に味方の強化もしている。地味だけどいるといないとでは大違い。それが支援役だ。
B組のPTは特にピンチらしいピンチもなく、スペクターの部隊を倒し終えた。
すると少し数が増えた構成でもう一回敵襲があったけど、それもうまく処理していた。
更にスペクター部隊のおかわりが来るかと思っていたら、今度は様子が違った。
現れたのは一体だけ。
だけど今までのスペクターと比べて、明らかに二回りくらい体が大きかった。
恰好も豪華で、海賊船の船長という雰囲気だ。
頭上に浮かぶネームを見ると、『幽霊艇長のギルギア』と表示されてる。
レベルは27。王冠アイコン付きのレアモンスターだった。
いわゆるボス的な存在ということになる。
スカイブルーに透き通った、宝石みたいに綺麗な剣を携えている。




