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第77話 胸元に華麗なる一輪の薔薇を

「つまり自分の性癖を満たしてくれるから、この学校に来てこのゲームやってると?」

「だが待って欲しい。それが第一だが、第二に我が赤羽グループ傘下のレッドフェザーソフトもUWアンリミテッド・ワールド開発に協力させて貰っているのでね。私自身が入学する事で広告塔となり、学園の実績にも箔が付くというわけだ。この学校の試みは中々興味深い。何とか協力できればと思っているのだよ」


 レッドフェザーソフト! 結構有名なゲームメーカーじゃねーか!

 うわほんとにセレブだな、この方々!

 でも広告塔? こんなので!?

 レッドフェザーソフトの人達困ってるんじゃねーかな……

 こんなド変態を広告塔にしろと言われましても――だ。

 むしろ邪魔してんじゃねーのか。

 しかしツッコミ所が多すぎて困るなこのお方は。


「あーじゃあ妹さんもそんな感じで?」

「フッ、だが待って欲しい。兄の矜持として、妹を政治に利用などせんよ。あの子が青柳家のご息女と友人になりたがっていることは分かっていた。生真面目で気位の高い妹ゆえに、決して自分から言い出したりはせんがな。私は単に面白いからこの学園をあの子に勧めただけさ。表向きはな」


 おいおいなんかまともっぽいことを述べるんですが、この変態フルフェイス仮面。


「実は君の事も妹から聞き及んでいるぞ。妹に良くして頂いて礼を言う、ありがとう」


 フルフェイスの頭を下げて礼を言われた。


「ど、どういたしまして……」


 うーんどう扱っていいのかなー。これは。

 案外中身はマトモなのか?

 いやでもこんな見た目の奴をマトモと言えるわけがない。


「それから春の新人戦の優勝おめでとう。見事な戦いぶりだったな」

「ど、どーも……ところであの、話戻りますけど――なんで顔は鉄仮面なんですか?」

「だが待って欲しい。顔など皆露出しているものではないかな?」

「まぁそうですね」

「ならばそのようなエアロパーツを見せる必要はない。むしろ不要なのだよ」


 ……つまり俺的にそうしたいからそうしているって事だな。

 訳が分からん。やっぱ理解できそうにないぞ?


 と、そこで二階から前田さんと矢野さんが下りて来た。

 二人はフルフェイス裸族を見て、驚きの声を上げる。


「! きゃー!? へ、変なのがいますしいぃぃぃっ! こ、ことみー何とかしてっ!」

「ええええっ!? 私? 私だって嫌よあんなおかしな人……!」


 意外と矢野さんの方がこういうのには耐性がない様子で、前田さんの背後に隠れてぐいぐい押していた。

 ギャルなのに下ネタ系に近いのは嫌がるんだな、矢野さんって。案外潔癖なのな。


「おかまいなく!」


 鉄仮面先輩は、なんかやたら嬉しそうに二人に声をかけた。

 ドン引かれるのが快感らしい。生粋の変態だわやっぱ。

 そういや三年生の教室で見かけたとき、ほむら先輩は見えてたのにスルーしてたな。

 もう三年目にもなると、慣れられてしまっているのだ。

 だから前田さんと矢野さんの反応はフレッシュでいいんだろう。

 やっぱ露出狂は、見られて騒がれてこそだろうし……


「しゃ、喋ってるうぅぅ! ヤダヤダことみー、早く追い払って欲しいんですけどぉ!」

「わ、私にそんな事言われても……!」

「フッ……」


 何だそのニヒルな笑いは。ホント嬉しそうだなー。


「ああ、大丈夫だぞ二人とも。俺いるし」


 いやホントは俺も大丈夫じゃないんですけどね。


「あ、高代くん……!」

「おおお、よかったぁ――てか高代が連れて来たの?」


 妖怪はだか仮面のインパクトが強すぎて、俺が見えていなかったらしい。

 まあ無理もない。


「いやお客さんだ、一応――そういや何したいんでしたっけ?」

「だが待って欲しい。妹からこちらでネイルペイントのサービスを行っていると聞いたのだ。であればこのボディにペイントも可能だろうか? ぜひお願いしたくてね」

「ボディに? ふむ……タトゥー的な?」

「ああ。そう捉えて貰って構わん」

「……できるよな? 矢野さん?」


 確か『レイブラの魔筆』で手に絵を描いたりはできたはずだ。

 一応一番詳しい矢野さんに聞いておく。


「出来ると思いますし……けどあたしはやりませんし……! 高代がやってよ!」


 近寄りたくないんだな。ホントにドン引きしてるなー。

 それがこの変態先輩を喜ばせるというのに……


「ああそれは任された。じゃあどんなデザインがいいですかね?」

「だが待って欲しい。願わくば、胸元に華麗なる一輪の薔薇を頼みたいのだが」

「薔薇っすか――ああ。ありますねえ。大丈夫っす。どのくらいの大きさで?」

「拳大程度だろうか」

「どれどれじゃあ、試しにペイントしてみますか。位置とか大きさはそこから微調整で」

「よろしく頼む」


 で――


「ほう……だが待って欲しい。これは素晴らしい出来だな――!」


 工房に置いてあった未加工の姿見ミラーの前に立ち、変態がポーズを決めている。

 背筋をピンと伸ばして、ちょっと斜め気味に腕組みポーズ。

 その胸元に、深紅の薔薇のペイントが映える。

 カッコいいロボとかがやるとメチャクチャかっこいいポーズなのだが――

 この人がやると怪しさ全開だわ。

 かっこいいポーズへの冒涜にしかなってない。


「ま、まぁいいんじゃないっすか……」

「満足だ。それではお代はいくらかね?」

「ああ、えーと新規デザインは無しのペイントのみなんで――5000ミラですかね」

「だが待って欲しい。それはリーズナブルだな」


 と言いながら、先輩が5000ミラを渡して来る。


「毎度あり――です」

「それでは私は失礼するとしよう。これからも妹をよろしく頼む」

「あ、こっちから出て貰っていいっすか」


 俺は工房から直通の外への勝手口を指差す。

 店舗の方に行かれると、他のお客さんがドン引くからな。

 出来るだけ見せたくないんですよ。


「だが待って欲しい。了解した――ではな!」


 やれやれ、ようやく帰ってくれたか――

 俺はふうと息をつく。


「妹って言っていたわね……?」

「あんなのがもう一人いるって……?」

「いや、妹は赤羽希美さんだし――フルフェイス裸族じゃないぞ」

「ええええええ!?」

「はぁ!? あれがあのキレーな子の……うっそおおおぉ!?」

「二人ともキャラネーム見落としてたんだな……まああの見た目だし無理もねーけど、今度会った時ちゃんと見ればわかるぞ」

「……だけど大変ね、お兄さんがあんな――」

「あたし絶対嫌ですし! あんな兄貴……」

「まあ赤羽さんも苦労してるんだなーと」


 Himechan好きの従者には付きまとわれ、お兄ちゃんはド変態だもんなー。

 ちょっとコメント聞いてみたいわ。

 まだ店にいるかな? ちょっと戻ってみよう。

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