第75話 ネイルペイント
翌日――
さて今日はギルドショップ正式オープンの日だ!
俺は五時半には起きて準備して、六時ジャストにログインした。
授業開始までに朝営業もするからなー。
従業員NPCとか雇えば授業中も営業できるが、今はまだそんな金はなかった。
ショップ経営が軌道に乗ったら雇いたいところだ。
「っし最速ログイン!」
俺がギルドハウスのリビングに降り立つと、隅の天井近くに張られたハンモックからリューが出てくる。
「きゅーきゅーきゅきゅー!」
「おう、おはよういい子にしてたか?」
「きゅきゅー!」
と、戯れていると次に現れたのは矢野さんだった。
「おはよー……」
「? おっす。どうしたんだよテンション低いな」
「うーん……ちょいキンチョーしてんの」
「ほう……?」
「だってこれでショップがすっ転んだら、戦犯あたしじゃね? 商品ほぼあたしカスタムですし……」
なるほど責任とプレッシャーを感じていると。
見た目ギャルだけど、案外まともというか。
いやこういう言い方は、他のギャルの皆さんに失礼になるな。
でもこう、イメージより周りに気遣いするんだよなー。矢野さんって。
あきらのほうがよっぽどゴーイングマイウェイなんだよな。
いや、俺も全く人の事は言えませんが。
「大丈夫だって! ほら、あの盾は俺のせいだし鎧はあきらのせいだろ」
涙目の美少女がプリントされたいぢめないでシールドと、バッキバキの筋肉をプリントしたマッチョアーマーね。
俺はそこまで絵心無いから、美少女は矢野さんに描いてもらった。
あきらは嬉々として自分で描いてたなー。
あのガチムチ好きは何とかなりませんかね。
「そうだけどぉ……」
「まー俺的にはいい感じになったと思ってるけどな。どっちにせよ今更どうにもならねーし、気にするだけ損だぜ?」
「んー……ま、そだねえ。まあいいか、気にすんのやめたしー」
「それがいいと思うぞ。ダメだったとしても、これはダメだったって検証データは残るわけだし、それはそれで無駄にはならんからな」
「ははは……いつも同じ事言うね~高代は」
「ブレないって大事だと思うんだ」
「時と場合によると思うし……」
と、あきらと前田さんが少し遅れてやってきた。
「おはよー! いよいよオープンだねー」
「ええ。どうなるか楽しみね」
よし、みんな揃ったな。
「みんな来たな。じゃあショップ開けようぜ!」
と、いうわけで俺達のギルドショップがオープンした!
そして、それからそんなに待たずに、ちらほらとお客さんがやって来た。
やっぱ宣伝しといた甲斐があったかな。
うちのクラスメートとかも、何人か顔を出しに来てくれた。
それから新アイテムに目がないほむら先輩も。
商品は結構売れてくれて、矢野さんが嬉しそうにしていた。
トータルでは雑貨系のモノの売れ行きが良かったかな。
授業前の朝営業でこれなら、結構いい感じなのではなかろうか。
ちなみに俺デザインの盾とあきらデザインの鎧は売れなかった。
まあまだこれからだこれから!
放課後になると再びショップをオープン。
俺と矢野さんはショップの奥の工房で売れた商品の補充を作った。
その間あきらと前田さんが店番を。
補充が済んだら交代で店番しながら営業を続けた。
暫くはショップにかかりきりでもいいけど、そのうち冒険に出る時間もきっちり作れるようにしないとな。
NPC雇うのどのくらいかかるんだろうなー。
で、俺とあきらが店番している時のこと――
「闘技場でバトルトーナメントもいいけど、こういうのもいいよねー」
「ああ、そうだなー」
「ショップもリアリティあるから、本物気分だよね~。こういうの新鮮だなあ」
「まあ、もう少しでギルド対抗ミッションで忙しくなるだろうし、それまではのんびりショップ経営でも楽しむとしますか。金策手段の確保も重要だからな」
特に俺みたいな銭投げ上等のプレイスタイルだとそうだよな。
暗器を用意する合成スキルも必須だし、金策も人の何倍もいるしで――
ロマン砲には手間も金もかかるってことですな。
可能なら『デッドエンドV』のための『ハヤブサの極光石』もストックしたいし、金はいくらあっても足りんぞ、マジで。
雪乃先輩がこの先厳しいって言ってたが、合成に興味なかったり金策嫌いだったりしたら厳しいな、確かに。
こう、総合的にゲームを多方面からやり込める奴じゃないと……って感じだ。
ああ――俺にうってつけじゃないですか!
「ギルド対抗ミッションかあ、どんな事やるんだろうね?」
「どうだろうなー。雪乃先輩曰く、毎年やることが違うから分からんらしい」
と、ショップのドアが開きお客さんの姿が。
「ちーっす」
おう片岡か。それに赤羽さんも一緒だった。
Himechanが従者連れてやって来ましたよっと。
しかしこのHimechanは、実はあきらと仲良くしたいらしいんだが――
でもあれだからなー……不器用と言うかセレブ育ちだから……
今日はうまく絡めるのか。頑張れ俺も応援している!
「うげっ!」
またあきらが苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
やっぱり好感度はマイナスのようである。
赤羽さんは一瞬怯んだような顔を見せたが、気を取り直して話しかけに行く。
「……わたくしは、あなたと口論しに来たわけではありませんの。話題になっているショップを見に来ただけでしてよ?」
「あ、あははは……つい条件反射で、悪気は無かったんです」
「……本当かしら。まあいいですわ。お店を見せてもらいますわ」
「あ、はいどうぞ――」
「ごゆっくり!」
いいぞ割と穏便に受け流した。頑張れ赤羽さん。
俺は激励の意味を込めて、愛想よく彼女に声をかけた。
で――赤羽さんはショップ内をうろうろし始める。
「意外と悪くないセンスですのね――」
なんて感想が。
矢野さんも聞いたら喜ぶんじゃないかな。
で、ふと彼女が足を止めて見つめたのは――
ペイントのみのサービスもやってますという張り紙である。
「つかぬことをお伺い致しますが――これは、何でも好きなものにペイントをして下さるという事ですのね?」
「あ、はい。アイテムを持ち込んでもらえれば、後はデザインを選んでもらって――」
と、あきらが応じた。
「これは大丈夫ですの?」
と、自分の手の爪を見せてくる。
あ、なーるほど、ネイルか。
それもありだよな、そういえば。出来るはずだ。
「ええ、大丈夫だと思います」
「では、お願いしてみますわ」
というわけで赤羽さんに店のカウンターに座ってもらい、ネイルアート開始。
俺もあきらも『レイブラの魔筆』の操作は覚えているが、ここはあきらに任せる。
メニューから色選択を呼び出し、色を選んでもらうようだ。
「ではこの色味の赤をベースに、ワンポイントで何かアートを――内容はお任せします」
「お任せ? はい、わかりました!」
あきらの目がきらっと輝いた。
あ、これはダメな予感がするぞ――
あきらは赤羽さんの人差し指の爪に鮮やかな色合いの赤をペイントする。
綺麗に塗ると、メニューからデザインを選択して爪のサイズに貼り付けを――
で、あきらが選択したデザインは……
うわあマッチョデーモンだ!
ギルドエンブレムデザイン選手権で負けたやつ!
いつの間にアレのデザインを組み込んだんだ……!?
「できましたっ♪」
「ちょっ……!? なんですのこの奇怪なデザインは! あなた、これはわたくしへの嫌がらせですか……!?」
「えええええっ!? だってお任せだって……」
「あ、いや赤羽さん。あきらはマジだぜ。本当にこれがいいと思ってやったんだ、今の」
「……本当ですの?」
「に決まってるじゃないですか」
あきらが唇を尖らせる。
「……わ、分かりましたわ。頼み方が悪かったようですわね、先程のアートは取り消して別のものを――どんなものがあるか見せて下さる?」
とまあ今度こそ、赤羽さんの人差し指にまともなネイルアートが施されたのだった。
少しずつ雪解けムードになって行けばいいですな。




