第74話 宣伝と変態
「お願いしまーす! 悪魔の仕業のギルドショップ明日オープンでーす!」
「お願いしまーす! 開店セールで割引になってまーす!」
「お、お願いします……!」
俺達は大通りに出て、早速ビラ配りに精を出していた。
あきらは割と平気そうにやってるけど、前田さんは自分の格好が気になって仕方ないのか、動きがぎこちない。カクカクしている。
だがうちの看板娘とサッキュバスなセクシーコスプレの効果は凄く、道行くプレイヤーもNPCも二人の姿に釘付けだった。
このゲームのNPCは思考や行動も凝りまくっているから、こういう宣伝にも反応してくれるし、実際買い物にも来てくれたりする。
学校のバックについているゲーム業界の企業連合が、試したい技術は惜しみなく投入してくるらしい。
NPCの思考や行動は、最先端の人工知能によるものなのだそうだ。
「琴美ちゃーん。動きがカクカクしてるよー。肩の力抜いていこ?」
「え、ええ……分かっているんだけど――あきらみたいに、普段から出し慣れていないというか……この服だとすごく心細くて」
「うっ……!? わ、わたしだって好きであんなカッコなんじゃないんだよ……! 蓮くんのせいなんだから……!」
あきらのジト目が俺に突き刺さる。
「そ、そうよね……ごめんなさい」
「わたし思うんだけど、こういう時女の子ばっかり脱がされるのって不公平だと思うの。男の子も平等に脱げばいいのに! そしたら喜ぶ女の子もきっといるよ?」
「ん!? 俺に言ってます?」
「うん! 裸に蝶ネクタイとかでいいよ? ねえ琴美ちゃん、不公平だよねえ?」
「それは言えてるかも知れないわね――男女は平等であるべきだわ」
「いやいや俺がそんなんやってもキモいだけで、あんな感じでただの変態に……!」
と、俺は視界の端の方に映った、鉄仮面に下が裸姿の変態に視線を向けて――
んんん!? またいた!? アレは見間違いじゃなかったか!
「あっ!」
と二度見すると、既にその姿は無かった。
何なんだ。こえーな。
どうせ幻とか妖精さんが見えるなら、あんな変態じゃなくもっとまともなのにしてほしいんですが……何であんなもんが見える?
「ねえ、そのビラを頂戴」
「あ、はーい! あっ、ほむらさん!」
「あ、先輩こんちわーっす」
「こんにちは……」
「うん。あなたたち二人とも気合入ってるわねー。あたしそんなの絶対着れないわよ。収集はするけどね」
ほむら先輩が呆れ口調で言うと、あきらも前田さんも苦笑いしていた。
好きでやってんじゃねーよ! と表情が物語っている。
ほむら先輩は気にした様子もなく、ビラに視線を落としていた。
「へ~ラッピングアイテムねえ。アイテム厨としては気にならざるを得ないわね……面白そうだから、明日見に行かせてもらうわよ」
「はい! お願いしまっす!」
「あ、そうだほむらさん!」
「ん? なあに?」
「男の人用で、こうセクシー系って言うか肌の露出の多い装備ってありますか? わたし達ばっかりこんな格好してずるいと思うんです!」
「ふむふむ……?」
「それなら私がいいものを持っているぞ!」
「おお、雪乃先輩!」
「たまたま通りかかったが話は聞かせてもらった。うちのギルドでよくやる『世紀末覇王ごっこ』用の装備を貸してやろう!」
「いやいやなんっすかそれは!? なんつー怪しげな……!」
「トゲ付きの革ジャンに、モヒカンを装備して馬に踏まれる遊びだ! 一番多く踏まれた奴が負けでな、まあ鬼ごっこみたいなものだ。結構装備の露出度は高いと思う」
「……脳金共のやることは、ワケが分からないわねー」
「ふん、仕方ないだろう。何だか分からんがうちのギルドの伝統なんだ。まあ皆原作は好きだからな、武闘派の奴ってあれ好きだろう?」
「あーそうっすよね。世の中の格闘家とかあれ好きな人多いですよね」
「じゃあ雪乃さん、それ貸してください! これで公平だよ、蓮くん!」
「……仕方ねーなー」
断れる雰囲気じゃないしなー。
それに俺もあれの原作好きだぞ。家にあるし。親のだけどな。
ってか一人でこれやるのかよ。
誰か一緒にやってくれる男のメンバーも欲しいかもなー。
メンバー構成女の子に寄り過ぎだもんな。
ウチはオスは俺とリューだけだし。
特に気にせずにいたらこうなっちまったな。
……まあいいか、では着替えまして――と。
「ヒャッハー! お店の宣伝だああああぁぁぁ!」
こういうのは照れたら終わる! 全力でやり抜くしかない!
アホになるんだ、俺! 何も考えるな! お前は世紀末の住人なんだ!
そんな俺を見て、あきらや先輩はくすくす笑っている。
だが、その中で前田さんだけは何故かメチャクチャツボに入ったらしく、お腹を抱えてうずくまっていた。肩を震わせ、息が苦しそうである。
「おーい、大丈夫かー?」
「だ、ダメ……! こっち見ないで――お腹痛い……!」
まあ、そこまでウケてくれると本望だわ。
その後緊張が取れたのか、普通に宣伝できてたし。
さて、店の準備もできてるし宣伝もやった。
後はオープンを迎えるばかりだな。楽しみだ!




