第71話 決着!
「ええいっ!」
あきらが始めて、俺に向けて攻撃を繰り出してくる。
離れたところから剣を一閃しただけなのだが――
『スカイフォール』はそれに合わせて衝撃波を生み出してくるのだ。
そしてこれが、『エンジェルチャーム』のガード無効効果でガードできないわけだ。
あきらは衝撃波を放つとすぐに走り出し、ぴたりと後ろにつけている。
俺が避けたら合わせてすぐに攻撃を加えるつもりだな。
さて――こっちはどうする?
避けることもできなくはないが、あきらは俺の回避を見越して追撃する構えだ。
APが無いので、『ウィンドミル』によるジャンプ回避は不可。
俺の動きはかなり限定されてしまう。
なら――一撃必殺を狙いに行く!
俺は衝撃波を無視し、そのまま真っ直ぐ突っ込んだ。
後ろに吹き飛ばされそうになるのを踏みとどまり、そのまま前へ。
あきらの攻撃。蓮に73のダメージ!
無視! 衝撃波のすぐ後ろにいるあきらの近接レンジに踏み込む!
「『ホークストライク』!」
あきらがアーツを発動し、俺の頭上を飛び越えて行った。
距離を取ったか――向こうはAPが450あるからな。
「ちっ、逃げたか……!」
「もう一発行くよ!」
ドシュウウッ!
再び衝撃波が俺に向けて迫ってくる。
このまま突っ切ってもまた逃げられる……!
ならばと、俺は斜め後方に走って距離を取る。
その動きを見るなり、あきらは足を止めまた俺に向け衝撃波を放つ。
またまた俺の前に迫る衝撃波。
『スカイフォール』と『エンジェルチャーム』の組み合わせは厄介だな……!
完全に男殺しだぞこれ。
突っ込んだら逃げられ、逃げたら追われるのである。
「よし――それなら!」
俺は衝撃波を目の前にし、アイテムボックスをオープンした。
そして『ヒールポーション』を使用した。
衝撃波を貰いつつHPが回復。結果ほぼダメージと回復量はイコールだった。
あきらは俺の奥義警戒で、近接レンジには踏み込んでこない。
レンジ外からまた衝撃波。俺は斜め後ろに逃げて距離を取って――
また同じシーケンスだ。
方向転換した俺を狙って繰り出される衝撃波に合わせて、ポーション使用。
結果ダメージはトントン。
二回繰り返すとあきらは動きを止め、こちらを探るようにじっと見てきた。
「なるほど……それでAPだけは溜まるってことだよね」
「あ、バレたか」
いったん距離を取るのは、ポーションのキャストタイムが少々あるからだ。
多少の距離を開けておかないと、先に衝撃波が着弾して使用が中断される。
距離を測りつつ、ポーションの発動直後に衝撃波が着弾するように調整したのである。
このままこれを続ければ、APが溜まって俺の選択肢は増える。
そうはさせじと近接レンジに踏み込んできてくれたら、一撃必殺の可能性が得られる。
さぁあきらはどっちで来る?
「このまま蓮くんのポーションが尽きるまでやってもいいけどね――?」
実際それが一番困るわなー。
近接レンジに踏み込まず、ガード無効の衝撃波で削り殺されるのが一番マズい。
被ダメージ時の取得APは相手の攻撃の種類によって決まり、ダメージ量には依存しない。
同じ攻撃方法であれば、それが10ダメージであっても100ダメージであってもAPの取得値は同じだ。
ガード無効のあきらの攻撃は被ダメージが大きいが、取得APはガードでダメージ軽減した場合と変わらない。
つまり非常にAPの取得効率が悪いということ。
今までのように、ガードである程度耐えたら、ポンポンアーツが使えるというような状況にはならない。
その前にこちらがやられている可能性が高い。
実際ポーションの数もそんなにないしな……
ここは何とか、近接レンジの戦いに持ち込みたいところ。
「フッ……そんな余裕かましててもいいのか? 急がないとだろ? 見ろよ――」
俺は観客席を指差す。
あきらの動きが止まっている今は、この上ないシャッターチャンスだ。
観客達の持つ『魔導式映写機』のフラッシュがバシャバシャたかれているのだった。
「……ううっ!?」
「この間にもどんどん『エンジェルチャーム』姿のスクショが量産されておりますが?」
「れ、蓮くん! ちょっとは怒ったり止めたりしてくれてもいいんじゃないの……!?」
あきらは真っ赤になって声を上げる。
「いやいや、だって気持ち分かるし――ちょい休憩なら俺も撮ろうかな……」
「馬鹿なこと言わないのっ! 蓮くんは後で撮ればいいじゃん!」
「ならさっさと決着つけようぜ……! ぐだぐだ小細工はナシだ――!」
「よ、よおし……! いいよ、もうこうなったら一発勝負に乗ってあげるんだから!」
俺達はお互い距離を詰め、近接レンジで武器を構え合った。
真剣勝負。決闘の立ち会い――って感じの緊張感。
俺のAPも50は溜まっている。
『ウィンドミル』か『スティングシュート』なら一回だけ打てる。
これをうまく使って勝ってみせる!
「いくよ――!」
「ああ、3、2、1――!」
「「勝負ッ!」」
お互いが突っ込む!
「奥義――『クロスクレセント』!」
『ダブルスラッシュ』と『クレセントスラッシュ』を合成した奥義だ。
前方範囲攻撃の『クレセントスラッシュ』の三日月エフェクトが左右に二連打されるようなエフェクトである。
さらにそこに『スカイフォール』の衝撃波までおまけで付いてくる。
攻撃レンジが広いため、俺の奥義はまだ届かない。
ここはモロに受けつつ前に出る!
あきらのクロスクレセントが発動。蓮に494のダメージ!
俺の残りHPは450!
踏み越えた! もうあきらは目の前! もう奥義を発動しても届く!
しかし今の俺のMPは空。
『デッドエンド』は発動と同時にHPが1になる。
だから相手と同時に攻撃を出せば、当てても相打ちになる確率が非常に高い。
勝つには、後の先を取るしかない。
つまり、あきらからの攻撃を受けた直後にデッドエンドを発動して当てる必要がある。
次の一発で、それをやる――
そしてあきらの次の行動は――
「奥義! 『エリアル――』!」
一発目を受けた俺の体は、大きく上に吹っ飛ばされる!
『エリアルクレセント』で来たか――!
これは一撃目で強制移動させられるから、後の先の返しが取れない。
上に浮かされた直後、あきらが二撃目を振りかぶっているのが目に入る。
奥義の二段攻撃のモーションだ。
まずいこれを受けて生き残れるか――!?
相打ち覚悟で『デッドエンド』に行くしか――!
しかしそこで、俺はHPゲージを見た。
残りHPは228。一段目で222貰ったことになる。
ん? おかしいぞ。
『エリアルクレセント』の一段目二段目のダメージは同じだ。
つまり、次の一撃で222貰ってHPが6残ることになる。
これを貰って後の先を取っても勝てる……!
いやしかし、あきらがそんなミスを犯すか?
マイベストフレンドのあきらさんがだぞ――?
これは何かあるか……!? なら――
そしてあきらの動きが、俺の知らないものへと変わった。
『エリアル』に続く奥義名が――
「『フルムーン』!」
あきらだけさらに高度を上げ、剣を高く掲げると、そのままダイナミックに前方宙返りを繰り返しつつ急降下。
その回転する刃が攻撃となる、およそ人間業ではない派手なモーションだ。
恐らく『エリアルクレセント』の更に上の、アーツを三種複合した奥義か。
二撃目の前に更に飛び上がっていたから、あのタイミングで『デッドエンド』を撃っていたら、モーション的にスカっていた。
後の先狙いで行っても、二発で止まらないあの奥義にやられていた。
寸前で異変に気がついて良かった。
俺は『デッドエンド』を思い止まって別の選択をしていたのだ。
「『スティングシュート』!」
空中で俺の軌道が変わる。
ギュンと回転するあきらが、俺の脇を通過して――
「あっ――!?」
その瞬間俺は既に動いていた。
「装備変更、セットC! 装備変更、セットB!」
着替えを二連打。
具体的には、武器を『仕込杖』⇒『アイアンスタッフ』⇒『仕込杖』と切り替えた。
今『仕込杖』で『スティングシュート』を撃ったのだが、これは杖を飛ばして戻ってくるエフェクトが入る。戻ってくる間は移動以外できないのだが、着替えを挟めばエフェクトカットで次の行動に移れるのだ。
そう、今この瞬間を逃す道理はない!
再び『仕込杖』を持った俺がやることは一つ!
「奥義! 『デッドエンド』おおぉッ!」
それが、回転中のあきらに直撃した。
ズシャアアアアアァァァ!
「んきゃああああああっ!?」
蓮のデッドエンドが発動。あきらに2622のダメージ!
蓮はあきらを倒した。
デュエル終了! 蓮の勝利です! 蓮の通算戦績は6勝0敗です。
『おっと決まったあああぁぁぁ! 割とどうでもいいですが、優勝は高代蓮君! おめでとうございまーす!』
勝った――! やったぜえええぇぇぇ!
やっぱり何でも勝つのはいいことですな!
ただしダメジョブマイスターとしては、ダメジョブで勝ってこそですが!
「あきら、おつかれ! いやーいい勝負だったな!」
俺はあきらに近寄り、手を貸して立つのを助けた。
「あ~あ負けちゃったぁ……せっかく辱めに耐えて頑張ったのにー!」
俺の手を取りつつ、あきらは既に元の普通の装備に戻っていた。素早いな。
「いやでもヤバかったぞ。紙一重紙一重。またやろうぜ!」
「うんまあ楽しかったしね! 『レイブラの魔筆』も貰えるし、参加してよかったね!」
「ああ、紋章術師の可能性も世間に示せたと思うしな! みんな見たかー!? 紋章術師も結構いけるだろーっ!?」
俺は会場に呼び掛けるのだが――
「「「BOOOOOOOOOOO!」」」
あ、ブーイングがすげぇ。
やばいやばい早く引っ込んだほうがいいか。
「うーん。俺嫌われてんなー。みんなあきらの応援だったもんな」
「あはははは……まあ、大丈夫だよ」
「とりあえずさっさと退散するか!」
「そうだねー帰ろうか!」
と俺達は、並んで闘場から控室に帰ることに。
階段を下りながら――
「あ、あとで『エンジェルチャーム』姿のスクショ撮っていい?」
「……ヤダ!」
「何ィ!? そんな馬鹿な……」
「だって負けて悔しいのは悔しいも~ん。だから見せてあげな~い。また今度ねっ」
まあそんなこんなで――
俺達は『レイブラの魔筆』を無事持ち帰ることに成功したのだった!




