第70話 短期決戦!
さーて決勝戦開始!
俺に対するブーイングが鳴りやまない中、俺とあきらは向かい合う。
状況を整理しておくと、素材は何とか調達できたので『仕込杖』は作れる。
だが前の試合で壊した『狂信者の杖』は補充出来ていないので使えない。
とすると、俺にあきらの物理攻撃をノーダメージでやり過ごす手段は無い。
まあ元々『スカイフォール』持ちのあきら相手だ。
あれの衝撃波は魔法属性なので『狂信者の杖』でもノーダメージは難しい。
こういう状況なら、俺としては短期決戦で一撃必殺を狙いたいところ。
向こうには『闘神の息吹』によるAP自動回復もあるから、長期戦になればなるほどあきらの有利になって行く。
APがあれば赤羽さんもやっていた『バニッシュフリップ』からの闇討ちも延々とできるし、まだ見せていない奥の手もあきらは持っている。
それもAPがあればあるほど、有利に運ぶものなのだ。
長期戦は不利。短期決戦狙い。
そうなると俺の初手は――
「『ディアジルサークル』!」
MPを空にする大範囲で! これで一気に決着を狙う!
対するあきらの初手は『毒薬』使用。
これはもう基本ですな。分かっていたので俺も『仕込杖』装備でバトルに入った。
「速攻ッ!」
俺はあきらに向け突進を開始!
「そうは行かないから!」
あきらは俺に背を向け、サークルの範囲外に逃げるようにダッシュ。
迎撃はしないつもりのようだ。
「こら、待てええぇぇぇ!」
「きゃー! 襲われるー!」
逃げる美少女を斬り倒そうと追いかける俺の図は、どこの腐れ外道だよって感じだ。
しかし俺の勝機が最もあるのはこのタイミングなんだ! 仕方なし!
鈍足効果のある『ディアジルサークル』内なので、俺の方が足が速く距離はだんだん詰まる。もうちょっとで攻撃が届きそうになり――
「『バニッシュフリップ』!」
タンッと軽く跳躍したあきらの姿が、ふっと掻き消えた。
「ああくそ! もうAPが溜まったか!」
俺はあきらを見失う。
攻守交替。今度はこちらが向こうの攻撃に神経を尖らせる番だ。
しかし――あきらからの攻撃は、いつまで経っても一向に飛んでこない。
サークルも効果時間が過ぎ、消滅して無くなってしまった。
「……なるほど。俺に1ミリたりともAPを与えねーつもりだな」
APは攻撃を当てるか、当てられるかで溜まる。
また、『パリィリング』装備ならガードでダメージ0の場合でも溜まってくれる。
俺に通常攻撃の能力は無いから、これまではガードしたりガード削りされたりで溜まるAPを使用していた。
あきらはそれを断とうというのだ。
「うん。そうだよ。『ウィンドミル』とか『スティングシュート』の攻撃は大したことないけど、組み合わせてトリッキーな動きはできるもんね? 蓮くんに選択肢を与えると、応用で何か考え出しちゃうから――可能性を消させてもらうね」
姿の見えないあきらの声が聞こえる。
声の位置も、俺に場所を気取られないよう常に移動していた。
うーんさすがあきら、油断も隙も無いな。
あきらとしては、このままAPの限界まで溜めるつもりだろう。
『AP限界突破』により、あきらのAP最大値は通常の1.5倍の450である。
そこまで行ったら後は――
恐らく、あの奥の手が来る……!
まだこの大会でも一回も見せていない、伝説のあれが――!
そして俺も、それを使うあきらとバトルするのは初めてだ。
訓練場でも試したことのないやつなのだ。
「あきら、アレを使う気か――」
「ふっふっふっ――手加減はしないって約束だからね。蓮くん相手には、こうでもしなきゃって感じだし……」
「でも大丈夫か? こんなに人いるのに」
「だ、大丈夫だよ……! 多分……!」
自身なさげである。まあ、仕方ないかアレだし。
そして、更に暫く時間が過ぎて――
そろそろAPが450まで溜まる頃だな――
「よし――い、行くよ蓮くん! か、覚悟してね……!」
その声と共に、久しぶりにあきらの姿が見えるようになる。
「おおおおおおおっ! あきらちゃーーーーん!」
「うおおおおおおおおおおおっ!」
「すげーーーっ! いい! いいよいいよーー!」
観客席が大盛り上がりだった。
「うわ~! すげーなそれ!」
何ってあきらの装備の見た目だ。
いつもより多めに露出しております!
何て言うかもう、装飾されたきわどいビキニの上にちょっとヴェール的な布をつけたみたいな感じの奴だ!
今までのもあれだったが、今回のはヤバいぞ。
露出度マックスの踊り子衣装って感じ。
ビキニ部分は銀色ベースに金色の模様入り。
ヴェールも銀糸で編まれたものか、きらきらと輝いているように見える。
胸のぷるぷる感とか、腰のきゅっとくびれた感じとか、ヒップラインのまろやかな感じとか、全部がモロに見えるぞ!
うわ~やっぱスタイルいいよなー。エロ可愛いとはこの事ですなあ!
「あ、あんまり見ないで恥ずかしいから……!」
「戦う相手から目を離すわけにいかねーだろ。それに会場のみんなもガン見してるぞ?」
「うううううう……! そこは言わないで、気にしないようにするしかないんだから!」
この衣装は『エンジェルチャーム』という名前の装備だ。
これもアウミシュール大古墳の宝物庫産のアイテムだった。
見ての通りのグラフィックで、まさに見るものを魅了するわけなのだが――
特殊性能で『異性への攻撃が全てガード不可能になる』という効果を持つのである。
見とれてしまって、手が疎かになる感じを表した性能なのだろう。
なかなか――というかかなり強力な特性である。
ただし見た目が目立ちまくることの再現か『バニッシュフリップ』などの透明化をすべて無効化するという欠点も持っていたりする。
着替えをうまく駆使すれば回避できる欠点だが、あきらははまだ装備の『イクウィップリング』もタレントの『クイックチェンジ』も持っていないため、手動で装備チェンジしたのだろう。
ここから先は、ずっと『エンジェルチャーム』装備で来るだろう。
これがあきらの奥の手である。
何せここから俺は、あきらの攻撃の一切がガードできない。
ガードのモーションを取ったとしても、ダメージが一切軽減されなくなる。
ここまで強力なものをあきらがずっと取っておいたのは、当たり前だが見た目が過激すぎて恥ずかしいからである。
そしてここに来て――ついにこの伝説の装備を解禁したのだ。
「い、行くからね蓮くん! ここからは速攻でやらせてもらうから!」
あきらは顔を赤くしながら、そう宣言してきた。




