第69話 決勝戦!
さていよいよ――神秘の武技主催の対人デュエル大会春の新人戦も決勝を迎えようとしていた!
決勝のカードは、俺VSあきらの同ギルド対決になっております!
俺達は二人並んで、決勝の闘場へと向かう階段の前に立っていた。
「やっとここまで来たね~! もう目的は達成されてるし、わたし達頑張ったよね!」
あきらが楽しげに笑う。
もう『レイブラの魔筆』が俺達のものになるのは決まっている。
ここからは、いわばボーナスステージとかエキシビジョンだ。
あとはあきらの言う通り、思いっきり楽しんで終わればいい。
「ああ――長く厳しい戦いだった……ハンパない額が闇に消えていった……」
「ははは……結構銭投げしたもんねえ。トータル400万ミラだね」
「プラス『狂信者の杖』もな」
まああれはそんな高くないが、無ければ無いで結構困る。
『仕込杖』に使う『アイアンソード』は何とかこの決勝用に用意できた。
だが『狂信者の杖』の方は補充が間に合っていない。また買いに行かねーとな。
「まあ、貰い物とか拾い物だからはじめから無かったと思って諦めるしかないよ?」
「いや、別に未練はもうねえよ。5000ダメージはすげえ気持ちよかったからな! 全てが許されたな! やっぱ大ダメージはロマンだ! あきらもやってみればわかるぜ?」
「え? ソードダンサー廃業していいの? だったら紋章術師になっちゃおうかな~?」
「いややっぱダメだな。あきらはソードダンサーのままでお願いします」
ロマン砲はコストを度外視すれば1対1のデュエルもまあまあいけるが、真価を発揮するのはソードダンサーと組んだ時だからな。
俺とあきらで組んでこそ真価を発揮できるのだ。
「えぇ~? 性能的な意味で?」
「そう。性能的な意味で。やっぱ相性バッチリだからな」
「プラス目の保養的な意味も入ってるって感じ?」
「……ですね! まあくまでサブ的意味だが、いつもありがとうございます!」
「……もぉ~。最近どっちが本命だかわかんないよねぇ。蓮くん何ら遠慮せずに見るし。相手がわたしじゃなかったら、きっとめちゃくちゃ怒られてるからね?」
あきらがジト目で見てくる。
「いや~……でもほらつい、な――」
と、階段の先の闘場から、アナウンスが響いて来た。
『それでは決勝戦! 選手入場でーす!』
「あ、呼び出しだね!」
「よし――行くか」
「手加減はしないからね! 思いっきりやろうね!」
「ああ――恨みっこなしだ!」
俺とあきらは、頷き合って階段を上り始める。
この階段は、二人だけで他からは見えない空間だ。
そこに入ると、あきらは俺の腕を取ってぎゅーっと抱き着いてきた。
腕にあきらの胸がむぎゅっと押し付けられて、非常に柔らかいんですが!
「お、おい……! 何だよ?」
さすがにちょっと、どぎまぎしながら俺はたずねる。
「ふっふーん。何だと思う?」
「いや、分からんから聞いてるわけで……」
「色仕掛け~♪ こうやって蓮くんをドキドキさせて平常心を失わせて、戦いを有利に運ぼうという策略だよー♪ それにこのまま出て行ったら、会場の皆さんからのヘイトが蓮くんに集中するよね♪」
「うわ何だそれえげつねーな!」
「ふっふふ……手加減しないって言ったよね? 戦いは非情なんだよ、蓮くん!」
「ったくなんちゅう残虐ファイトだよ――」
「あれところで、策略と分かってても逃げないんだ?」
「いや、うーん……どんな策略でも正々堂々受けて立つというか――」
「単に喜んじゃってるだけでしょ~?」
「ノーコメントで!」
「あ、都合が悪くなったら黙る~」
と、あきらがくすくす笑う。
「ホントはね、照れ隠しだよー。蓮くんが約束通り決勝まで上がって来てくれたし、嬉しくてついこうなっちゃった――えへへ……ごめんねビックリしたよね?」
「い、いや、いい意味でのビックリだし、別に――」
「……」
「……」
お互い一瞬の沈黙。
甘酸っぱいような、くすぐったいような――
闘場はもうすぐ目の前だ。耳に入る会場のざわめきが、だんだん大きくなってくる。
何ですかこれは!? ギャルゲーでもこんなの知りませんよ!?
あきらがぱっと腕を離して、二、三歩先に駆け出した。
「何てね~♪ どう? いい精神攻撃になったかな? 試合に集中できないでしょー?」
「あ、結局そっちかよこの野郎――!」
と、逃げるあきらを構えようとして俺も走り出して、捕まえたと思ったらバランスを崩して二人とも転んだ。
「きゃっ……!」
「うぉっ――!?」
で――転んで倒れた先はもう闘場の中だったりした。
つまりこう……観客全員の前であきらを押し倒して登場! みたいな絵面になった。
更に、俺の手はしっかりあきらの胸をむにゅっとやっていた!
いわゆるラッキースケベなんですが! いやここではアンラッキーと言うか……!
しかし何て柔らかい物体なのか!
ゲームだからこうなのか、リアルでもこうなのか――
「おいコラーッ! あきらちゃんに何て事しながら登場しやがる!」
「俺らに喧嘩売ってんのかボケェェェ!」
「それが入場料取って見せる内容かー!? 責任者出てこい!」
「高代ーっ! てめぇ見損なったぜ! それは従者じゃなくて直結厨の所業だーっ!」
観客の皆さんから地鳴りのようなブーイングが!
「あ、あはははは……ごめん蓮くん、こんなつもりじゃなかったんだけど……」
「いや……もともとアウェイなのは覚悟の上だしな。まあ気にせずにやろうぜ」
「うん。じゃあ胸から手、離してくれる?」
「おお!? 悪い悪い……」
「ううん。わたしも悪かったし……」
俺達は慌てて身を起こし、デュエルに備えて向かい合うのだった。
『さぁいきなり見せつけられて、年齢イコール恋人無しの身としてはやる気が殆ど無くなりましたが、決勝戦です! きっとこの場の大半の皆さんは、私の気持ちがご理解頂けると思います!』
先生のカミングアウトを交えた実況に、その通りだー! と拍手が起こっていた。
『もう勝手にイチャイチャ戦ってればいいんじゃね!? はい開始。どぞー』
やる気なさそうなアナウンスと共に、決勝のゴングが鳴り響いた。




