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第68話 セレブ育ちはコミュ障になる?

「で、何であきらに自分がスカーレットだって言わないんだ?」


 試合終了後――

 控室へと引き上げる途中で、俺は赤羽さんを呼び止めて聞いてみた。


「そ、それは――」


 赤羽さんは、なんか急にもじもじする。


「それは?」

「だって、もし言ってEFエターナルファンタジーでも避けられたらどうしますの……!? あきらさんがわたくしを避けるのは、あなたもご存知でしょう?」

「ああまあ、ちょっと苦手そうにはしてたかなー……」


 正直、あきらにしては結構な拒否反応っぷりだったのは間違いないが。


「でしょう? ですから知られた時に、EFエターナルファンタジーでも距離を置かれてしまうかも知れません。わたくしはそれが怖いので、知られたくありませんの」


 なるほど……俺と雪乃先輩の見解と逆なのか。

 俺と雪乃先輩的には、EFエターナルファンタジーで仲いいんだからこっちでも仲良くできるはずと思う。

 だが赤羽さん的にはこっちで避けられるのが、EFエターナルファンタジーにも行ってしまいかねないと思ってるわけだ。


「んー……? でもあきらのことだから、そんな心配いらねーと思うんだけどなー」


 と、俺が言うとジト目になった赤羽さんがぐいっと詰め寄ってくる。


「軽く仰らないで。ではもし言って、やはりEFエターナルファンタジーでも距離を置かれてしまったら、あなたが責任を取ってくれますの?」

「いやそれは――」

「でしょう? リスクが大き過ぎます。今はまだ、知られていい時ではございません」

「ふむ……でもさー。んじゃこのままでいいと?」

「そうではありませんわ。今はまだ――と言いましたでしょう? ですから秘密を明かす地ならしのために、わたくしから歩み寄っているではありませんか」

「あれで歩み寄ってたのか!? 喧嘩売ってるようにしか見えないんですが……?」


 との俺の感想に、赤羽さんはびっくりした様子だった。


「えええええ!? そ、そんな馬鹿な……!」

「いや、こっちのセリフだ! だったら普通に友達になりに行けよ……!」


 何? 軽いコミュ障なのかなー。

 セレブに生まれると意識せずにマウンティングするのが普通になるらしいぞ。


「う、うるさいですわね! 普通って何ですの普通って!? 大体友人なんて向こうから寄ってくるものではないですか……!」


 と、赤羽さんは顔を赤くしていた。なんか恥ずかしくなってきたのか。


「あー、自分から友達を作ろうとしたことがないと?」

「……ええ」


 セレブだから向こうから寄ってくるんだな、セレブだから。

 多分あきらも同じような環境なんだろう。

 だから周りの環境がつまらないと言っていたし、リアルを無視した付き合いのできるネトゲにはまってたんだなー。


「よし、分かった! じゃあ俺も協力してやるよ! スカーレットのことは言わねえし、赤羽さんがあきらに話しかけに行く時は、それとなくフォローするぜ!」

「け、結構ですわそんなもの! わたくし一人で十分です!」


 ホントかよ、怪しいもんだ。

 この子だけに任せておくと、上手く行きそうな気がしないんだが……


「まま、そう言わず。俺が勝手に手伝うだけだからさ。やっぱ仲良くゲームできるんだから、リアルに仲良くできないはずはないと思うんだよ」

「どうしてもと言うのであれば止めませんが……わたくし達の場合は少々事情が特殊でしてよ。お互いあちらにだけは負けないようにと、そう言い聞かされて育ちましたの」

「ふむ……そういや、元々家が商売敵同士なんだよな? そもそも何でこんな事になってるわけ?」

「本当に単なる偶然なのですわ。わたくしが兄に勧められてEFエターナルファンタジーを始めて、最初に出会ったプレイヤーがあなたとあきらさんだったのです」


 うん。初心者のスカーレット君とログイン初日に知り合って、その後色々お手伝いしたり一緒に遊んだりしたなー。


「とても楽しかったですわ。現実では赤羽家の娘であることからは逃れられませんが、あの世界では何も気にすることなく自由でしたから」

「……あきらも同じようなこと言ってたなあ」

「そうですか」


 赤羽さんはくすりと笑う。ちょっと嬉しそうだった。

 あきらと同じ意見だったのが嬉しかったのかな。


「あなたたちとプレイするのが楽しかったものですから――その、失礼ながらどのような素性の方か調べさせて頂きましたの」

「ふむふむ。それでプレイヤーのアキラが青柳さんちのあきらだと分かったんだな」

「ですわ。それまでは彼女を倒すべき敵としてしか認識していませんでしたが……」

「実はいい奴だった?」

「ええ。ですからもう、敵だライバルだと争うのはイヤになって……ですがわたくし達には今までの積み重ねがありますから――」

「なるほどなるほど……好感度がマイナススタートだから時間がかかると」

「ええ。正直申し上げて、あきらさんはわたくしを嫌って避けていますし……スカーレットのことを明かすのは、そこが解消されてからだと思いますの」


 うんうん。赤羽さんなりに考えつつ、あきらと仲良くなろう作戦を実行中なわけだ。

 しかしまあセレブゆえのコミュ障のせいで、うまく行ってないと。


「オーケー了解。さっきも言ったけど協力するぜ。スカーレットのことはあきらに隠しつつ頑張ってみるか!」

「……お節介ですわね、あなたは」

「そうか?」

「ええ――EFエターナルファンタジーのまんまですわね」


 おお。初めてかもしれない、赤羽さんの柔らかい笑顔。

 美しいって言葉がぴったりだな。


 そして控室に降りると――


「蓮くんお疲れ様~! やったね、これで決勝進出だね!」

「おお! あきらも次勝ってくれよ!」

「ふん、残念ですわね。わたくしの手であなたを倒して差し上げたかったのですが」


 いや……うーん。やっぱこれ友達になろうっていう奴の態度じゃねーな!

 先は長いかもだが――まあ、二人が仲良くなれるように見守って行くとしよう。

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