第67話 ダブルミリオンの花火2
俺は! 殺意の波動に! 目覚めたッ!
さぁこうなったらブチかますぞ『デッドエンドV』をなあぁぁッ!
そのためにはまず『仕込杖』を作らないとだ。
問題はどこでその隙を生み出すかなのだが――
「『サンダースマッシュ』!」
見えない赤羽さんが俺に向けて繰り出そうとしたアーツは、雷属性付きのものだった。
属性系の技は『狂信者の杖』との相性が悪い。
INT-60とMND-60が付いてるからな。
むしろダメージが増えてしまう。
「装備変更、セットC!」
これで俺の武器装備を『アイアンスタッフ』に変更。
雷を纏った突き攻撃のアーツをガードする。
同じ姿勢で追加の二撃目もガード。
ガード削りはきっちり受けて、HPが半分以下のゾーンに。
さらに通常攻撃が続くはず。そう踏んだ俺はガードに備えるが――
想定していた手応えは、いつまでもやって来ない。
「?」
どういうことだ?
様子をうかがっているうちに、少し離れた所に赤羽さんの姿が。
慎重にこちらとの距離を測っている様子で、先程までのガン攻めが嘘のようだ。
「……」
うーむ……? あ、そうか! こっちの奥義警戒だな。
『狂信者の杖』はガード用だと断定してるんだな。
これを装備してる限り奥義は来ないと。だからその間は攻めてもいいわけだ。
装備を変えたなら、それが奥義の前兆の可能性がある。
だからうかつに近づくわけにはいかない――と。
『狂信者の杖』と『仕込杖』に使う『アイアンステッキ』のグラフィックの違いは一目瞭然だからな。
今までの俺の試合を振り返ると、確かにそういう使い分けをしていた。
赤羽さんはきっちりそこを見ていたわけだ――
「『バニッシュフリップ』!」
再び姿を消して来る。
だが、ここからは慎重に距離を測りながら一撃離脱で来るだろう。
できるだけ遠距離からの攻撃になるはずだ。
「『グランドウェーブ』!」
周囲に波紋のような衝撃波を放つアーツだ。
自分中心の円形範囲攻撃で、通常攻撃の倍くらいの範囲までは攻撃判定が届く。
が、『バニッシュフリップ』をしていても攻撃の波紋は見える。
不意打ちの効果としては薄くなるが、近寄って攻撃して『デッドエンド』をもらうリスクは負わないという事だろう。
『グランドウェーブ』をガードさせて少しずつHPを削ればいいというわけだ。
赤羽さんにとって恐ろしいのは『デッドエンド』のみ。
服毒して『ソウルスピア』の眠りは無効化しているから、脅威にはならない。
そして『デッドエンド』は近接攻撃。
常にその範囲外に身を置けば、喰らう事は無いってわけだ。
結構冷静だなー。
そういやEFのスカーレットもプレイが堅実だったな。
「なるほどね。そう来るなら……」
俺はMPを1/3程使った『ディアジルサークル』を展開する。
緑色の光の円陣が、俺と赤羽さんを包む。
赤羽さんの攻撃をガードし、即次のサークルの詠唱を始める。
慎重に距離を取る赤羽さんだが、その分攻撃の手数は減っている。
なので防御の合間にサークル魔法唱える程度の余裕がこちらにはできた。
「『ディストラサークル』!」
『ディストラサークル』は赤系の光だ。これも先程と同じ範囲に。
サークル魔法って何気に種類によって光の色が違う。
更に一度『グランドウェーブ』をガードし、次のサークルを!
「『ディインテサークル』!」
これは、青系の光を放つ円陣だ。
これで三つのサークルの範囲が重なった。
そうすると――!
「な……!? どこに――!?」
赤羽さんが驚いて声を上げる。
いきなり周囲が暗くなり、視界がかなり悪くなったからだ。
それにより俺の姿を見失ったのである。
サークル系魔法の放つ光の色はそれぞれ違う。
そして、範囲を重ねれば色は混ざるのである。
赤・青・緑を混ぜれば黒くなるのだ。
黒色の光と化した三重サークルの中では、キャラの姿はかなり見えづらくなる。
これもまあ、検証済みの現象の一つ。グラフィックを利用した目くらましだ。
だが絵の具はリアルに赤・青・緑で黒なんだが光だと白くなるはず。
何で黒なのかと言うと、あくまでグラフィックであってリアルの光じゃないからかね。
リアルだと黒色の光はないが、ゲームだとシャドウ何たら~で黒の光とか出るしな。
ともあれ、赤羽さんが虚を突かれている間に俺は手早く『仕込杖』の合成を済ませた。
そして彼女に肉薄しようとするが――
「させませんわ!」
赤羽さんは一目散にサークルの外に走り、抜け出てしまう。
俺は追い付けず、彼女を追ってサークルの外に出た。
赤羽さんは、やはり慎重に俺と距離を取る。
「危ないですわ……! あんな手がありましたのね。ですが一度見た以上、二度は通用しませんわよ!」
「くっそ! 装備変更、セットB!」
俺の装備のグラフィックが『アイアンステッキ』のものから『狂信者の杖』のものに。
「『チャージスペル』!」
MP回復用のアーツだ。20%程度回復する。
MPが空になったので補給した。
俺の行動と装備のグラフィック見て、赤羽さんはこう思ったはずだ。
俺にとって切り札である黒色サークルで目くらましからの奥義は決まらなかった。
ならばと再び『狂信者の杖』でガードを固めつつ、何か考えようとしている。
今が攻勢に出て、押し切るチャンスだ――! と。
「『バニッシュフリップ』!」
赤羽さんが姿を消す。
「『ディストラサークル』!」
再び俺の周囲にサークルを配置。
耳を澄まし、足音の迫るのを聞き――
ここだ――!
俺は『狂信者の杖』と『隼のアイアンソード』で組み合わせた『仕込杖』を抜き放つ。
そう――サークルから逃げられたのは想定内だ。
『仕込杖』を作る時間さえあればいい。
そして赤羽さんの思考傾向から『狂信者の杖』ベースなら向こうから寄って来る。
逃がして悔しがったのも演技。上手く引っかかってくれた。
なかなかいいフェイクだったんじゃないかと!
さぁ、見えないが飛んで火にいる夏の虫が目の前にいるぞ!
今世紀最大の銭投げ(二回目)を見やがれええええぇぇぇぇ!
「奥義――! 『デッドエンドぉ……Vいいぃぃぃぃッ!』」
ズバズシャアアアアアァァァ!
斬り込み、即座に返しのV字を描く高速二連撃。
それがこちらに攻撃を仕掛ける寸前の赤羽さんを捉えた。
「!? きゃあああああぁぁぁっ!?」
決まった!
赤羽さんは高々と宙に舞い、きりもみ回転しながら地面に落下した。
うおぉぉ。すげー飛んだな今! 打ち上げ花火かよってくらい。
最後斬り上げだから、上方向にベクトルが向くのなー。
そしてログが見える――
蓮のデッドエンドVが発動。希美に5244のダメージ!
蓮は希美を倒した。
デュエル終了! 蓮の勝利です! 蓮の通算戦績は5勝0敗です。
「フ、フフフフ……もったいねえ……もったいねえが――!」
でも、でもですよ――!
なんつーダメージだこれはああああぁぁぁ!
全く意味は無い! 意味は無いが、5244だぞ!
何倍のオーバーキルだよ! 五倍は固いな五倍は!
すげええええええええぇぇ!
手が――! 手が震えてくるぜ……!
「やべえ、やべえよ――超気持ちいい……! やはり大ダメージはロマンだな……!」
脳汁が出るってやつだ! それはもうドバドバ出てるぞ!
やっぱこれだよこれ! これぞロマン砲の醍醐味ですなあ!
会場も真価を発揮したロマン砲の飛距離に、度肝を抜かれているようだ。
「また『デッドエンドV』かよ! あいつ頭おかしいんじゃねえのか……!?」
「けどそういう奴だからこそ見ごたえがあるぜ……! 何だあのダメージは!」
「すげえええぇぇ! なんかいいモン見た気がする……!」
うむぅ! いいね楽しんでいただけたようで何より!
『試合終了ーっ! 高代君の勝利です! 決勝進出おめでとうございまーす!』
仲田先生の実況が、そう会場に響いた。
「はっはっはっー! 見たかこのダメージ! 大ダメージはロマンだ! みんなも紋章術師やろうぜ!」
テンション上がった俺は会場に呼び掛けたんだが――
「うっせー! そんな事より何希美様を倒してんだコラアアァァ!」
「そうだそうだ! 俺達は希美様とあきらちゃんの決勝が見たかったんだよ!」
「面白かったが、てめーは銭だけ投げて負けりゃよかったんだよ!」
希美様ファンの皆様からブーイング喰らった。ヒドス。
まあ元々どアウェイの雰囲気だったからなー。
ともあれ勝ったああぁぁぁっ!
決勝行けるし、赤羽さんから話も聞けそうだな!




