第61話 ダブルミリオンの花火
HPを削られながら『ブーメラントマホーク』をガードした俺を、雪乃先輩のさらなる追撃が襲う。
「雷迅閃!」
高く飛び上がり、前方に急降下しながら強烈な飛び蹴りを放つ格闘アーツだ。
片手剣の『ホークストライク』と似たような動きである。
トマホークから間髪入れずの強襲だった。避ける暇は無く、俺は再びガードする。
蹴りに魔法剣は乗っていなかった。
が、アーツは通常攻撃よりガードブレイク性能が高い。
『狂信者の杖』とはいえ多少のダメージは貰ってしまった。
しかし取ろうと思っていた距離が、あっという間に詰められてしまった。
さすが雪乃先輩だな、つえーな!
まだこっちは攻撃用の『仕込杖』さえ合成できてないんだが――!
『ソウルスピア』⇒『抜刀ツバメ返し』のつもりで『吹き矢』装備で入ったから。
ここからどう巻き返すか――!
しかしその思考は中断される。
格闘アーツで飛び込んできた雪乃先輩の体が、魔法詠唱のマナ粒子エフェクトに包まれていたのだ。
『ムービングキャスト』か! まだ攻撃がある――!
「『フローズンバレット』!」
こちらに向けた掌から氷結弾が連続発射。
マナ粒子エフェクトに気が付くことが出来た俺は、一瞬早く『ウィンドミル』発動で上に逃れていた。
そして空中で振り向き雪乃先輩に向け、更にアーツを重ねる。
「『スティングシュート』!」
魔力で杖を操り、離れた敵にぶつけるアーツだ。
これは空中でも撃てる。
だが、攻撃力がINT依存で命中率はDEX依存だ。
つまり当たらない技なのだが――
この技のモーションには杖を魔力で発射する際に若干の反動がある。
空中で打つと後方に移動距離が稼げるわけだ。
はい、アーツ二連打で逃げようとしてるだけですが何か!?
そのくらい切羽詰ってるんだよ!
俺の狙い通り『ウィンドミル』と『スティングシュート』で距離はそこそこ稼げた。
だがそこで、予想していなかった事態が起きた。
蓮のスティングシュートが発動。雪乃の分身が一体消えた。
――んん!? 当たったか!? 全然期待してなかったが。
いや待て待て――そうか! 『スティングシュート』は遠隔攻撃扱いなんだな!
遠隔攻撃のアーツは回避の前に分身消費するらしいからな!
「逃げても少々の延命にしかならんぞ! 蓮!」
先輩は速攻で追いかけてくる。
シャドウの残りは一体だ。もう一体はがせば、掛け直しに持ち込めるのだが――
しかし『スティングシュート』を撃つAPがもう無かった。
なら――背に腹は代えられん!
俺は突っ込んでくる先輩に、吹き矢アーツ『影矢』を放った。
蓮の影矢が発動。雪乃の分身が一体消えた。
よし消えた!
「む――! 『シャドウスレイブ』!」
先輩が『シャドウスレイブ』の分身を掛け直す。
その隙を待ってた!
俺はすかさずアイテムボックスをオープン。
『隼のアイアンソード』と『アイアンスタッフ』で『仕込杖』を合成した。
この一瞬の間を買うために『影矢』を素撃ちしてしまった。
もうこのバトルで吹き矢は使い物にならないな。
だが――とうとう伝説のダブルミリオン砲がこの手に!
もうやるっきゃねえ! これしか勝機がない!
俺は撃つぞ! サヨナラ200万ミラ!
心でそう念じながら大範囲の『ディインテサークル』も詠唱完了。
俺を中心に発動し、MPが空になる。
魔法ダメージが痛いから、一応これを選んだ。
「もう逃げられんぞ!」
俺は再び繰り出される先輩の猛攻をガードで凌ぐ。
APを溜めるためだ。
『スティングシュート』で分身を剥がすAPが必要だ。
何度か攻撃を受け流し、俺のHPはレッドゾーン。
だが、APは溜まった!
さぁ――見るがいい! 今世紀最大の銭投げを!
「『スティングシュート』!」
蓮のスティングシュートが発動。雪乃の分身が一体消えた。
分身は残り一体――!
先輩は構わず突っ込んでくる。
ここだ! 撃つのはここでいい!
「装備変更、セットB!」
武器装備を『仕込杖』に変更。
「奥義――!」
先輩は『デッドエンド』の事を分かっているから――
分身で避けられるのだから、当然ガードや回避を試みない。
『デッドエンド』を撃つ以上俺のHPは1になるから、あと一撃で倒せるのだ。
無視して攻撃してくるはず!
「『デッドエンド』――!」
ズバアアァァァッ!
紫色の光に包まれた一閃が、先輩に襲い掛かる。
しかしその初撃は先輩を捉えず、横についている分身だけが消失する。
だがそこから俺は――
強く一歩を踏み出しつつ、刀身をV字に切り返すようなモーションに移行する!
これが――!
「!」
「Vだああぁぁっ!」
ズシャアアアアアァァァ!
一段目はオトリ。虚を突いて二段目を当てる狙いだ!
これは想定外のはず! 当たる!
二段目を浴びた先輩は大きく吹き飛んで――
だが倒れず、何とか踏ん張って立っていた。
蓮のデッドエンドVが発動。雪乃はガード。811のダメージ。
「くうぅぅっ……!」
咄嗟にガードした!? 俺のモーションを見て異変を察知したのか!
さすが雪乃先輩だな――!
しかしこうなるとマズイな……!
お互いHPバーは残り1ミリだが、こっちが圧倒的に不利だぞ!
「やるな……! だが凌いだぞ、蓮! とどめを刺させてもらう――!」
先輩が全力で斬り込んで来る!
「装備変更、セットA!」
俺もガード準備を整えるが、魔法剣でガード削りされればお終いだ。
まずいまずい。打開策は――!
いやもうこの期に及んでは無いんですけど!?
うがああああああああーーーっ!
「喰らえ――! 奥義……!」
しかし――先輩の奥義が放たれることは無かった。
「うぐうぅっ……!?」
先輩の動きが急に止まった。
びくんと震えると、ぱたりとその場に倒れ伏した。
あれ、戦闘不能になってるぞ……?
何故に――? あ!
「あっ!? そうか毒スリップかよ!」
そういや初手で眠り防止のために服毒してたよなー、先輩……
ミリ残ったHPを毒が削ったのか。
「はははは……いやあミスったな。最後は急いで止め狙いより回復だったな……」
倒れて地面にキスしている先輩が、そう笑っていた。
デュエル終了! 蓮の勝利です! 蓮の通算戦績は4勝0敗です。
ログが俺の勝利を宣言していた。
『試合終了ーっ! この試合は高代君の勝利でーす!』
仲田先生の実況が、会場に響いた。
歓声と拍手が、俺達を包む。
――何はともあれ勝ったのはいいことだ! やったぜええぇ!
『いやーそれにしても驚きました! 高代君が繰り出した奥義『デッドエンドV』は『ハヤブサの極光石』を使用した『仕込杖』から繰り出されるものです! つまり! 今高代君は時価200万ミラを銭投げした計算になります! そうまでして勝ちたいのか!? 中々に頭のネジがぶっ飛んでおります……!』
いやーまあ仰る通りですよねー。
会場も先生の実況を聞き、呆れたようにざわざわしている。
そうだよな。俺だって普通だったら流石に躊躇うぞ。
そもそも『仕込杖』に『ハヤブサの極光石』を仕込もうとしない。
どうせ壊すのにもったいなくて組み込めるか!
――とは言うものの、究極奥義『デッドエンドV』の存在を知った以上、いざという時の切り札として確保しておかねばなるまい……知った以上は仕方ない。
今は無理だから将来的には――だが。
まあ、今回はほむら先輩が200万ミラ以上に雪乃先輩にマウンティングされるのを嫌がった結果ですね。
デュエルが解除され、雪乃先輩のHPも1に復帰。
俺は先輩を助け起こした。
「紙一重でしたねー。あそこ回復されてたら、確かにヤバかったです」
「ああ……判断ミスだったよ。だがまあ面白かったぞ。あれは中々見れん光景だったからな! 私とのバトルのために200万ミラも銭投げしたお前に敬意を表するぞ! いやー馬鹿だなお前は! はっはっは!」
ほむら先輩に貰ったんだけどなー。
でも雪乃先輩には言うなって言われたんだよな……
「いやー。そうっすね! はっはっは!」
まあ、黙っておこうか。
「この先レベルが上がれば、もっといろんな武器防具やアーツや魔法で戦えるぞ! ガンガンレベルを上げてもっと強くなってくれよ。今度はレベル無制限で戦おうな!」
握手をを求められたので、素直に応じる。
先輩は凄い綺麗な手をしていた。 それにこの爽やかな笑顔。美人さんだよなー。
しかしほんと対人戦好きだよな、この人は。
まあ、俺としても200万ミラの花火は思い出深かったな。
ちょい不発気味だったのが悔やまれるが……
いつか俺の金で撃つ時は、絶対クリーンヒットさせないとな。
さぁラスボス的存在には何とか勝てたぞ!
こうなったら絶対『レイブラの魔筆』をゲットして帰るぜ!




