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第60話 猛攻

 雪乃先輩は二丁斧を構えた前傾姿勢で、一気にこちらの間合いに走り込んでくる。

 先輩は水色ポニテのモデル体型の美人だが、それがいかつい二丁斧スタイルでキメているのは、何と言うか独特のカッコ良さがあった。


「はああぁっ!」


 肉薄してきた先輩は、右の斧を振りかぶり叩き下ろして来る。

 ――ガード!


 雪乃の攻撃。蓮は攻撃をガードした!


 よしナイス『狂信者の杖』! さすがのガード性能だな!

 攻撃をガードされた場合、攻撃側の取得AP(アーツポイント)は0だ。

 ガード側も基本0なのだが、俺は『パリィリング』装備なのでAP(アーツポイント)が溜まる。

 続く左の打ち下ろし、右の横薙ぎとガードして行き、AP(アーツポイント)が溜まって行くが――


「くっ……!」


 ガードがし辛い――!

 『二刀流』のせいである。

 攻撃が矢継ぎ早で単純に早いのもあるが、常に右か左のどちらを出してくるかという択

を見極め反応しなければならないので、普通の攻撃より先読みが効きにくいのだ。

 格ゲー的に言うと、〇×の攻撃ボタンがあるとして、〇の攻撃の後に〇と×はどちらもコンボが繋がり、しかも上段と下段で別れているとでも考えればいいか。

 実際は左右の択になるわけだが、決めつけでガードすると外した時は当たる。


 右! 左! 右! 右! 左! 左!

 怒涛のような攻撃を、俺はガード専念で凌いで行く。

 攻撃前の足捌きをよく見ていれば、多少なりとも先読みして備える事が出来た。

 決してチラッと見える先輩のフトモモをガン見しているわけではない!


「やるな! さすがの反応だな、蓮!」

「――まだまだですよっ!」


 今の所、攻撃は貰っていない。

 先輩のAP(アーツポイント)は溜まっていないはず。

 このまま凌ぎつつ、隙を見つけて――!


「ならばこれはどうだ――!」


 先輩の体がマナ粒子に覆われるエフェクトが入る。

 これは魔法詠唱中のもの――!

 だが、先輩は変わらず二丁斧の攻撃も繰り出して来る。

 これは『ムービングキャスト』の効果だな!

 動きを止めずに魔法詠唱を可能とするタレントだ。

 MEP(メリットポイント)的にもお高い上級タレントである。

 さすが先輩ならその位は持ってるか……!


「『ブリザードエッジ』!」


 先輩の魔法詠唱が完了し、左右の斧の刃が水色の輝きに包まれる。

 凍り付くような冷気が纏わりついた魔法剣である。

 これで先輩の攻撃には魔法の力が乗る。

 単なる物理ガードだけでは防ぎきれなくなるか……!

 そして更に――


「『シャドウスレイブ』!」

「!?」


 来た分身! 先輩の体が三つに歪んで見える。

 分身が二つ出たという事。

 これで二発は無条件で相手の攻撃を回避できる。

 回避対象は単体攻撃のみで、範囲攻撃の魔法なら分身を消してダメージも通せる。

 しかし――そんなものは俺にはない!

 また、多段ヒットのアーツならそのヒット数だけ分身を消せる。

 二回攻撃アーツなら二体消せるわけだ。


 とはいえ先輩もAP(アーツポイント)さえあればすぐ分身を補充してくるからな。

 しかし厄介なことになった――使わせてしまったか。

 『抜刀術』や『デッドエンド』も分身で回避されてしまうのだ。

 分身を剥がして打ち込む必要があるが、俺の通常攻撃はまるで当てにならない。

 攻撃が回避(スウェイ)されてしまうと、分身が剥がせないのだ。


 遠隔攻撃アーツなら確定で剥がせるという情報も聞いたが、俺の手持ちの遠隔攻撃アーツは吹き矢の『影矢』だ。

 はじめから回避(スウェイ)無効ついてるし!

 しかも暗器の仕様上『影矢』は分身剥がしのためにと連打できるようなものでもない。

 タレントで範囲攻撃魔法でも使えるようにしていれば別だったが――

 それにしても、俺は先輩にAP(アーツポイント)を与えていなかったはず――

 という事はあきらと同じ『闘神の息吹』でAP自動回復か、ぐぬぬぬ……!


「さぁこれでも防げるか!」


 先輩の攻撃モーションは変わらない。

 が――今度は武器に魔法剣がかかっている。


 雪乃の攻撃。蓮はガード。25のダメージ。

 雪乃の攻撃。蓮はガード。27のダメージ。

 雪乃の攻撃。蓮はガード。28のダメージ。

 雪乃の攻撃。蓮はガード。22のダメージ。


 連続攻撃があっという間にガードの上からダメージを積み上げてくる。

 まずい――!

 そう思いながら右の縦斬りをガードした瞬間――

 雪乃先輩は下段にローキックを打ち込んで来た!


 雪乃の攻撃。蓮に65のダメージ!


「!?」

 蹴りモーションだと!?

 左右の斧に集中していた俺は、まったく反応出来なかった。

 『皆伝の証<格闘>』か!

 二刀流に格闘まで組み合わせているとは。

 さらに複雑で対処の難しいモーションパターンをという事か。

 先程までの猛攻も、まだまだ小手調べレベルだったと!


「フフ――! ほむらのように下手に時間を置けば、お前は何かしら対策を捻り出して来る! 押せるときに一気に押し切るべきなんだよ!」

「くっ――!」


 一度、距離を置く!


「『ウィンドミル』!」


 俺はAP(アーツポイント)を消費しアーツ発動。

 杖をすくい上げながら高く飛び上がり、先輩を飛び越えて後方に着地した。

 一応攻撃判定もあるのだが、当たり前のように回避(スウェイ)だった。

 完全にAP(アーツポイント)消費の移動技と化してるな……

 ともあれ、着地するとすぐ走り、更に距離を取ろうと試みた。


「逃がさんぞ! 『ブーメラントマホーク』!」


 先輩はそれを許さず、二丁の斧を俺に向かって投擲してくる。

 片手斧のアーツだが、消費AP(アーツポイント)10とかなりの低燃費で、使いやすいアーツだ。

 気軽に遠隔攻撃を発動できるので、片手斧というのは実は攻撃範囲がかなり広い武器だと言える。それが片手斧の強みであり、特徴になる。


 放たれた『ブーメラントマホーク』は、猛然と俺を追いかけてくる。


「っ!?」


 俺はガードするが、氷の魔法剣がかかっているためダメージを負わされる。

 接近しても離れても、先輩は隙が無いな……! さすがに強い!

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