第57話 200万ミラ分の『V』
「蓮くん! おめでと~! 凄かったね、最後のコンボ!」
控室に戻ると、あきらは興奮気味に俺を迎えてくれた。
「フフフ――見たか!? 我ながら上手く行ったぜ!」
「うんうん! かっこよかったよ~! 置き『ソウルスピア』からの自爆誘導プラス『抜刀術』で一機減らして、復活した瞬間に遅れて『ソウルスピア』が着弾! 自動復活の張り替え前に二機目撃破! だよね!」
一目で完全に俺の狙いが理解できているあたり、さすがマイベストフレンド。
「あれだけアクションしながらよくそこまで考え付くよねー! 最後に『ソウルスピア』が当たるとことか、孔明の罠! って感じで、見てて気持ちよかった~! 『ソウルスピア』のレーザーがもう関羽に見えたよね!」
目を輝かせ、ちょっとぴょんぴょんしつつ語るあきら。
どうも、俺の戦いっぷりがお気に召してくれたらしい。
何だかんだ、あきらに喜んでもらえるのは俺としても嬉しい。
「ははは――『げぇっ、関羽!』って?」
こんなに可愛いのに、嬉々として三国志ネタぶっこんでくるのはどうかと思うが?
いやまあ付き合うけどな。
「そうそう。ほむらさんの心境的にはきっとそうだよねー」
「ま、これもちゃんと検証しといたお陰だぜ。『ソウルスピア』がサークルを避けるのを知らないと、できない作戦だったからな。付き合ってくれてありがとさん」
「どーいたしまして♪」
パチン。と俺達はハイタッチを交わした。
そこに、ほむら先輩が近づいてきた。
「高代君、ちょっといい?」
「あ、ほむら先輩。お疲れ様っす」
「うんお疲れ。君……強いわね。雪乃が認めるだけはあるわ――」
「ああ、どうも」
「悔しいけど、潔く負けを認めるわ。で、君にお願いがあるの」
「はあ、何っすか?」
「次はきっと君と雪乃の試合になるでしょ?」
「でしょうね」
今雪乃先輩は試合中だが、まあそうなるだろうな。
実質ここがラスボス戦になる予感がする。
「お願いだから、絶対あいつに負けないでよ! あたしが負けてあいつが勝ったら、後で調子に乗りまくってウザいのよ! どっちも負けなら引き分けノーカンだからね!」
「はははっ。まあ負ける気は無いんで頑張りますけど――」
雪乃先輩相手だからなー。
絶対勝てるかと言うとちょっとあれだな。
「いいえ勝って貰わないと困るわ! あたしの精神衛生上ね! というわけで君に力を貸すわ!」
「? 力を貸す?」
「ええ。これを試合に使って勝って!」
と、ほむら先輩は俺にアイテムを手渡してくる。
それは――
ハヤブサの極光石
種類:鉱石
説明:合成素材。武器に混ぜ込んで鍛え上げる事で、
ハヤブサのように素早い攻撃を可能とする魔力鉱石。
非常に希少で、産出されること自体が稀である。
「! うぉ!」
「!? ええっ! これは――!」
俺も、見ているあきらもびっくりしていた。
これはめちゃめちゃ高いアイテムだぞ!
ギルドショップ街で見かけたやつは、どれも200万ミラを下らない値段だったのだ。
効果は説明の通りの合成素材なのだが、武器と合成することによってその武器に二回攻撃の力を与えるのだ。
一つの攻撃モーションで、二ヒットするようになる。
皆の憧れ、二回攻撃武器の作成用素材なのである。
非常に希少で、ショップに出回ること自体稀だが、出たら出たで相当な高値だ。
それをポンと渡してくるとは――!?
「ちょっと待ってくださいよ! こんな高いもん貰えねーっすよ!」
「遠慮することはないわ。それを使った武器であいつをぶっ飛ばして!」
「でもですねえ……俺が使うとこれ仕込杖になるんですよ。奥義で壊すことになるっす」
「知ってるわよ。それで勝つならいいじゃない。あげるから使ってよ」
「さ、さすがにもったいねえな……」
一発200万ミラの奥義が完成してしまうんですが――
いやいや恐ろし過ぎるだろ!
今俺130ミラしか持ってないんだぞ! 換金して200万ミラ欲しいぞ!
それか俺じゃなく、あきらのスカイフォールをこれで強化したいなー!
その方が絶対長期的な視点で有意義だろ!
「あ、流石に別の事に使ったり換金したりしたら怒るわよ。あくまで対雪乃用だからね。ほら、後戻りできないように今武器に合成しちゃってよ。見てるから」
「う、うむむむむ……?」
「大丈夫よ。こう見えてもアイテム厨ギルドのギルマスなのよ。その位あげてもどうって事ないわ。それより君が勝つ方が重要なの」
『ハヤブサの極光石』を組み込んだ仕込杖か――
そしてそれで撃つ『デッドエンド』――
ロマン砲に200万ミラの現ナマが上乗せされた姿か……確かに見てみたくはあるな。
「なああきら、どう思う?」
「んー? まあ単純な興味としては見てみたいけどねー……」
だよな。そこはそうだ――
うーん。うーん。うーん……
「よし――分かりました! やります! ありがとうございます!」
結局好奇心に負けたぜ! 見たいものは仕方ない!
フフフ……ワクワクして手が震えてきたぞ!
「うん。よろしいっ! じゃあ合成してみてね」
「うっす!」
俺は簡易鍛冶ツールセットを起動した。
そして、『アイアンソード』と『ハヤブサの極光石』を合成する。
合成に要求されるレベルはそう高くはなく、すんなりと成功した。
そして――二回攻撃が付加された『アイアンソード』が完成する。
その名も『隼のアイアンソード』。
説明にも二回攻撃と記載されていた。
「よし。『仕込杖』への合成はバトル中にやりたいんで――」
「うん。いいわ、しっかり使ってね」
「はい」
『仕込杖』化した時の性能でも見て見ようか。
合成メニューで『隼のアイアンソード』と『アイアンスタッフ』の組み合わせを選ぶ。
合成結果予測の情報は、『仕込杖』のままだ
が――暗器アーツの表記に違いがあった。
「ほほう――!」
「おおおおっ~!」
俺もあきらも驚きの声。
普通なら『抜刀術』なのだが――。
抜刀ツバメ返し(消費AP 0)
<効果> 暗器技 不意を打つ強烈な抜き打ちの後、高速の切り返しを放つ
2回攻撃 1戦闘に1回のみ発動可能 現HPが低いほどダメージ上昇
防御力無視 スウェイ不可
『抜刀ツバメ返し』とか! やばいな、なんかカッコよさげだぞ……?
隼なのにツバメとはこれ如何にって感じだが、仕様なので仕方ない。
ゲームの世界は仕様が正義ですからな。
野球で言う審判がルールブックみたいなもんだ。
「いいね! 何か厨二力が上がった感じがするよ!」
「おー! どんなんか楽しみだな!」
「で、こいつを奥義にしたらどうなるのかしら?」
「どれどれ――」
一度画面に出したアーツやスキルなら『スキルチェーン』で合成候補にできる。
俺は『ターンオーバー』『ファイナルストライク』『抜刀ツバメ返し』をセット。
そして――
デッドエンドV(ターンオーバー⇒ファイナルストライク⇒抜刀ツバメ返し)
ほほほーう! 来たぞこれ! このVに200万ミラの価値があるわけだな!
こうなったら俺は撃つからな!
ダブルミリオンの花火をぶっぱしてやるぜ!
さぁ――次の試合が楽しみになって来たな!




