第56話 自動復活を封じて勝つ
条件は揃った!
「装備変更、セットC!」
これで俺の遠隔装備がこうなる。
レンジウェポン 吹き矢(OEX)
矢弾 眠りの矢
あとは待つだけ――
何を待つかと言うと、ほむら先輩が眠りから覚めるのを待つ。
『おっと高代君は動きませんね? 今のうちに攻撃に出るわけでもなく、回復をするわけでもありません……! 何か狙いがあるのか!?』
その通りです、先生! 俺はしばらくじっと待機し――
やがて、このログが見える。
ほむらは眠りから回復した!
「んっ!? くっ! どうなって――!」
俺は間髪入れず、魔法の詠唱を始める。
「『ディカリスサークル』!」
サークルの範囲は極大化で、ほむら先輩も範囲に入るように。
一気に俺のMPは空になった。
サークルは発動したが、CHRを下げる効果なので意味はない。
そのため、ほむら先輩はその場を動かない。先程からそうだった。
更に俺は迅速に次の行動を取る。
「奥義『ソウルスピア』!」
バシュウウウウゥ!
紫色のレーザー光線エフェクトが飛び出す!
「なっ――!?」
先輩は複雑な軌道で迫って来るレーザーに一瞬たじろぐ。
だが――
『ソウルスピア』は『ディカリスサークル』の中に入れない。
ぐるぐると周囲を回り始める。
この間あきらとの検証で確認済みの現象だ。
『ソウルスピア』のレーザー光線は、サークルを障害物と見なし避けようとする。
若干バグ臭い挙動だが、そういうものである以上はそのように使わせてもらう!
先輩は『ソウルスピア』の挙動に気を取られ、状況を見るだけになってしまっている。
サッカーに例えるとボールウォッチャーだな。
俺はその隙にも止まらず、今度は『仕込杖』を合成した。
そしてそのまま、ほむら先輩目がけて走り込む。
「む――!」
俺の行動に気が付いた先輩が、『ヴォルカニック・フレイム』を詠唱する。
奥義を撃ったばかりの俺のHPは1だ。
『ヴォルカニック・フレイム』で巻き込んでしまえば決着がつく。
これまで俺は『ヴォルカニック・フレイム』をせいぜいガードするだけで、一度だって無傷でいられたことは無いのだから、当たるはずだ――先輩はそう考えたのだ。
その考え、行動が俺の狙い通りだ!
『ヴォルカニック・フレイム』発動。巨大な炎の獅子の顔が降って来る。
それが地面スレスレに迫ったところで――
今だ!
「『ウィンドミル』!」
杖のアーツで、杖をすくい上げながら昇〇拳のように飛び上がるアーツである。
それで俺は、空中に高く飛び上がる。
ドゴオオォォォンッッ!
『ヴォルカニック・フレイム』が着弾。
俺のログウィンドウには1行だけが追加される。
ほむらのヴォルカニック・フレイムが発動。ほむらは326のダメージ!
俺は『ウィンドミル』で飛び上がったため爆発を回避でき、無傷だった。
これまであれをガードしていたのは、この土壇場の行動を読まれないためだ。
一度見せてしまうと、この可能性があると先輩を警戒させてしまうから。
「くううぅっ……! そうか、効果が切れて――!」
そう、今の先輩は『ブレイズコーティング』の効果が切れていた。
先程先輩が眠っている間に俺が待っていたそれとは『ブレイズコーティング』の効果切れだ。
先輩が起きてバリアを張り直す前に、一気に攻め込んだのだ。
そして『ヴォルカニック・フレイム』に先輩だけを巻き込み、ダメージを与える。
そうすれば――!
「くっ――! 回復っ!」
先輩はポーションを使おうとするが、その前に『ウィンドミル』で飛び上がった俺が、すぐ側に着地する。
すでに空中で、武器は仕込杖に変更済みだった。
「くらええぇぇっ!」
着地して即座に、HP1状態での暗器アーツ『抜刀術』を発動!
鋭い銀閃が走り、ほむら先輩をモロに捕らえた。
「きゃあああぁぁっ!?」
蓮の抜刀術が発動。ほむらは452のダメージ!
一閃を受けた先輩は大きく吹っ飛び、地面に叩きつけられる。
攻撃のダメージにより、HPは0になった。
しかし先輩には自動復活がかかっている。
淡い色の優しい光に一瞬包まれると、ふわりと浮くように起き上がる。
レベル1の自動復活は、最大HPの30%回復で復活だ。
「やるわね――!」
起き上がると、先輩は即座に自動復活の掛け直しを行おうとする。
『抜刀術』で吹っ飛んだ先輩と俺には、割と距離が出来ていた。
このままでは、また自動復活モードに入ってしまう。
が――!
先輩の足元に注目! そこに光の文様はなく、ただの地面だ。
つまり――先輩は既に、展開されたディカリスサークルから出ていたのだ。
バシュウウゥンッ!
紫色のレーザー光線が先輩を穿つ!
サークル外で出待ちしていた『ソウルスピア』が、ここぞとばかりに仕事をしたのだ。
「な――!? そんな……!」
蓮のソウルスピアが発動。ほむらに251のダメージ!
蓮はほむらを倒した。
デュエル終了! 蓮の勝利です! 蓮の通算戦績は3勝0敗です。
「「「おおおおおおおおおおおっ!?」」」
会場がどよめきに包まれる。
『おっと決まったああぁぁ! 高代君の勝利です!』
仲田先生の実況が響いた。
「よおっしゃーああぁぁ! 勝った!」
正直結構危なかったぞ! けど緊張感あって楽しかったな!
初回撃破後に自動復活再使用を封じて勝つには、その隙を与えず連続攻撃で仕留める他ない。
そこで『ソウルスピア』がサークルに入らない現象を利用しディレイをかけ、一度撃破後即入るように調整した。
自動復活レベル1はHP30%回復だから『ソウルスピア』で十分倒せると判断した。
そして『ソウルスピア』がとどめになる都合上、初回撃破は『抜刀術』頼みになる。
HP1の素撃ちではダメージが足りないため、ほむら先輩の『ヴォルカニック・フレイム』に協力頂いたというわけだ。
これが、俺が脳内シーケンスによる勝ちルートの概要だ。
我ながらバッチリはまってくれたな!
『いやー見事な一連の流れでしたねー! どうでしたか解説の雪乃さん!?』
『見事と言う他はありませんね。最後の一連の流れ――あれは全て蓮は計算していたでしょう。速さと正確性を兼ね備えた思考力に、大胆な実行力……やはり対人戦のセンス抜群です。私も相手にとって不足はありません。試合が楽しみです』
そう解説する雪乃先輩の表情は、本当に嬉しそうだった。
楽しそうで何より――しかし次のバトルは、今回以上に大変そうだな。
よし、気合入れていくぞ! 相手は雪乃先輩だろうからな!




