第55話 火属性回復と広域爆破
「よし――『ファイナルストライク』……!」
俺はスキルの『ファイナルストライク』を単体で発動しておく。
次の一撃で武器が消滅するが大ダメージなわけだが――
実はこれ『次の一撃』をいつ出すかは、時間的にかなりの余裕がある。
ワタクシの検証成果によりますと、30分は大丈夫だ。
どう検証したか?
『ファイナルストライク』発動⇒N分待機⇒『抜刀術』のルーティーンだ。
Nを1ずつカウントアップしていきながら、『抜刀術』後に武器が壊れない分岐点を探すだけ。実に単純な作業である。
ええ、『仕込杖』は都合30個壊れましたが何か?
しかしその甲斐あって分かった事。
『ファイナルストライク』後の一撃の猶予は30分あり、スキル自体の再使用時間は5分だ。
つまり――『ファイナルストライク』⇒5分の再使用時間待ち⇒大ダメージ攻撃⇒『ファイナルストライク』⇒大ダメージ攻撃という、疑似的な2連打は可能という事だ。
1度目の『ファイナルストライク』後、攻撃を出さなくてもスキルの再使用時間のカウントは進むのである。5分待機で発動をずらすのがミソになる。
『ファイナルストライク』の発動ずらし連打とでも名付けよう。
先輩が自動復活の再使用時間を待つなら、俺も待たせてもらう!
そこからも暫く、先輩による遠距離からの魔法攻撃が続き――
やがて、戦闘が始まって五分ほどが過ぎた。
「らちが明かないわね! もっとこっちから行くわよ!」
ほむら先輩が、とうとう本気で動き始めた――!
「行くわよ! 本気でね――!」
先輩が魔法の詠唱を終える。
「ヴォルカニック・フレイム!」
聞いたことのない魔法だった。
UWガイドブックにも載っていないはずだ。
魔法が発動すると、俺の頭上の空中に炎で形成された巨大な獅子の顔が現れる。
怒りに牙を剥く凶暴な表情だ。
「おお――!」
かっけぇ! 前田さんの竜言語魔法のディアボリク・ハウルみたいだな!
「いっけええぇぇぇ!」
ほむら先輩の号令一下。
炎の獅子は上空から、猛然と急降下してくる。
ただガードするのは芸がない、動きを見極めなければ。
それを確かめるため、俺は斜め後ろに走った。
軌道から逃げれば、逃げ切れる代物なのか?
それともソウルスピアのような誘導弾か?
俺はヴォルカニック・フレイムに注目しながら距離を取る。
炎の獅子は地面にモロに着弾し――
ドゴオオォォォンッッ!
耳をつんざく爆音と共に、盛大に弾け飛んだ。
着弾位置からかなりの広範囲に渡って、爆発の炎が広がって地面を焼く。
当然、俺もその範囲内だった。
ガードも間に合わず、モロに魔法を浴びた。
ほむらのヴォルカニック・フレイムが発動。蓮は422のダメージ。
「ぐぅ……!」
いてぇ……! 半分持って行かれるか!
次はきっちりガードしないとな。いきなり爆発とは予想外だった。
あんな広範囲に爆発されたら、余波を避けるのは――
いや、あれなら――
いやいや、後の事を考えると、基本ガードをしておくのがいいだろう。
仲田先生の実況が入る。
『おぉっと出ました、アレはボスモンスターからのドロップ限定のスクロールで習得するレア魔法ですね! さすがいい装備を揃えているぅー!』
『とてもレベル30で取れるような魔法ではないのですが――習得自体はレベル30から可能ですからね。このレベル帯では破格の攻撃魔法になるかと』
雪乃先輩も調子を合わせていた。
「もう一発! ヴォルカニック・フレイム!」
今度はただじゃ喰らわん――!
俺はほむら先輩の詠唱を見て、彼女に向けて走っていた。
ナパムの炎はかなり広範囲に拡がるからな。
これに巻き込む――!
ドゴオオォォォンッッ!
ほむらのヴォルカニック・フレイムが発動。蓮はガード。343のダメージ。
ほむらのヴォルカニック・フレイムが発動。ほむらは322回復した。
「あっ!?」
ブレイズコーティングの効果だ! うっかり忘れていた。
いや、どうせこっちは先輩のHPなんて1ミリも削っていない。
だから損したわけではないのだが――
しかしシンプルに強力な戦術だ。
事故防止のために自動復活をキープしつつ、自分に炎バリアを張って広範囲魔法で爆撃と。あの広範囲をバラ撒きつつ、自分だけ回復してしまうのが非常にずるい。
対策としては強力な攻撃で瞬殺を狙いたいが、自動復活するのだ。
ある意味力任せのごり押し戦術なのだが、やることがシンプルな分、誰にでも実行できそうで、汎用性が高い。
そこまで対人に慣れていないから、シンプルに強力なものを――という事だろう。
ほむら先輩やるなあ!
細かい読み合いとか駆け引きを拒否して、戦術で勝ちに来たな!
俺のHPは残り100を切った。すっかり追い詰められてしまった俺だが、万策尽きたわけではない。
ここからの逆転――狙えないわけじゃない。
脳内シーケンスには、勝ちルートがちゃんと記載されている!
「次で最後よ――!」
ほむら先輩がヴォルカニック・フレイムの詠唱に入る。
「ちょっと待った!」
俺は射程内に接近すると、既に発動済みのファイナルストライクを乗せ、暗器アーツの『影矢を使用する』
「うっ……!? くぅくぅ……」
蓮の影矢が発動! ほむらに25のダメージ!
ほむらは眠りに落ちた。
よし効いた!
先輩の動きを止めると、すぐに『吹き矢』を再合成した。
『おっと、ほむらさん眠ってしまった! これは高代君大チャンスだ! 奥義ぶっぱが来るかっっ!?』
いや――ここは待機!
1でもダメージ与えるとすぐに睡眠効果が切れてしまうのだ。
ここで『ファイナルストライク』の再使用時間待ちが終了した。
よし次が打てるぞ、タイミングばっちりだ!
そしてさらにもう一つの現象を待つ――
先に来い先に来い! 先輩が起きる前にな――!
そして俺の願い通り、それはやって来た。
「よし!」
俺は即座に、脳内シーケンスの続きを実行に移しにかかった。




