第54話 リキャストを巡って駆け引きする
自動復活のアイコンを身に纏ったほむら先輩が、魔法の詠唱を開始する。
「装備変更、セットC!」
これで俺の武器装備はこうなる。
メインウェポン アイアンスタッフ
サブウェポン なし
狂信者の杖はガード性能は高いが、特殊性能がこんなだからな――
特殊性能:INT-60 MND-60 MAXMP-50
物理攻撃のガードには重宝するが、魔法攻撃を受けるのはきつい。
魔法防御に関わるパラメータが下がり過ぎる。
そもそも魔法に対して、ガード性能というのは意味を為さないからな。
魔法をガードするならそれ用の性能が必要だ。
一応ガードモーションを取れば、ある程度のダメージのカットは期待できるが。
ならちょっとでもINTやMNDの上がるアイアンスタッフをという事だ。
ほむら先輩が、魔法の詠唱を完了する。
「ブレイズコーティング!」
ほむら先輩の全身が、真っ赤な炎のエフェクトに包まれた。
これは炎属性の強化魔法か。
魔法の効果中は炎属性の属性攻撃を吸収し、また近接攻撃を受けると身に纏った炎が襲い掛かり反撃する。
――ということはつまり……
今俺が先輩に『デッドエンド』を入れると、だ。
先輩は一撃で戦闘不能⇒先輩は自動復活⇒俺には炎の反撃ダメージ⇒俺だけ戦闘不能。
って感じになるな……これは迂闊に手が出せん。
とにかく、チャンスを窺うしかないか。
色々と確かめないと、このままでは勝負に出る事は出来ない。
炎コーティング完了したほむら先輩が、続いて魔法を唱える。
「フレアスプリット!」
こちらを向いた掌から、小振りな炎の弾丸が三連射された。
前田さんも使っていたファイアボールよりも一つ一つは小さいが、速射性が高い。
弾の速さも上だし、こっちの方が実戦向きかも知れない。
俺は放たれた弾を全てガードしておく。
ガードの上からHPを削られるが、まだ問題はない。
キャストタイムは大きいが、一応HP回復のポーションも持っている。
避けようと思えば避けられたかもしれないが、ガードで得られるAPが欲しかった。
「どんどん行くわ!」
再びフレアスプリットが飛んで来る。
俺は再びガードし、弾が途切れるとディインテサークルの詠唱を開始。
ほむら先輩の足元に展開した。
これはINTを下げるサークル魔法だ。
この上に乗ったままなら、ほむら先輩の魔法の威力は下がる。
「ふん――!」
先輩は唱えかけていた魔法を中断すると、サークルの範囲から走って離脱する。
まあ、簡単に逃げれるんだから逃げるわな。
再び繰り出されるフレアスプリット。
ほむらのフレアスプリットが発動。蓮はガード。40のダメージ。
ほむらのフレアスプリットが発動。蓮はガード。41のダメージ。
ほむらのフレアスプリットが発動。蓮はガード。40のダメージ。
ダメージログが三つ連続表示される。
少しダメージが蓄積してきたか――
と、ここでほむら先輩のブレイズコーティングの効果が切れる。
――効果時間は二分くらいか。これはしっかり把握しておかないと。
すぐに張り直しのために再詠唱が開始される。
じゃあこの隙に俺も――
ポーションを使用し、減ったHPを回復させた。
残りの数は少ないが、ここは使用を惜しんでいられない。
コーティングを張り直した先輩は、ポーションを使用する俺を見て、ならば自分もとMP回復効果のマジックポーションを使用する。
俺より明確にポーション使用のキャストタイムが早い。
キャスト短縮のタレントが付いていると思われる。
これでほぼ戦局は振出しに戻った。
しかし先輩は、再び同じようにフレアスプリットを打ち込んでくる。
本気でこちらを倒そうとするなら、違う手を持ってこないと無限ループなのに。
俺は今度は、飛来する火炎弾を走って回避した。
距離もあるし、弾自体はまっすぐ飛ぶだけ。
足を止めなければ、それほど苦労せず避ける事が出来る。
俺が避け始めたのなら、先輩に変化があるか?
そう思ったが、先輩は当たらないフレアスプリットを撃ち続けるだけ。
……つまりそれでもいいと思っているわけだ。
時間を稼ぎたがっている? 何のために――?
「フレアスプリット!」
俺は走ってそれを避け、今度こちらから魔法を撃つ。
「ディカリスサークル!」
CHRを下げる効果のサークルだ。
正直これは、下がった所で特に問題のないステータスだ。
向こうもそう認識しているようで、別に避けずに中に留まっている。
なるほどこれは意味のない行為と認識されて無視られると――了解了解。
それはさておき、俺は思考を続ける。
先輩の行動について、思い当たることが一つある。
恐らく、フェニクスクロークの自動復活エンチャントの再使用時間を待っているのだろう。
再使用時間が完了するまでにやられてしまうと、復活はできるが、次の自動復活をかけるには再使用時間を待たねばならない。
その間無防備になってしまう。それを嫌っているのだろう。
先輩としては、常に自動復活がかかった状態をキープしたいのだ。
こう見えて、慎重な性格をしている。
さっきの一回戦で『デッドエンド』を見ているから、警戒心の現れなんだろう。
なら、行動パターンを変えて来た時が、先輩が安心して攻撃に移れる時といえる。
すなわち再使用時間が完了したサインだ。
俺はそれを待つ事にしよう。
それによって、自動復活エンチャントの再使用時間がどのくらいかが分かる。知っておいて損はない。




