表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

53/256

第52話 反省会

『ただ今の試合は高代君の勝利でーす! いやー高いHPと防御力を誇る重騎士を一撃で倒すとは、会場は度肝を抜かれております! 解説の雪乃さん、ただ今の試合は如何でしたか!?』

『やはりあの奥義が全てですね。重騎士の彼は一撃で倒されてしまいましたが、無理もないと思います。あれほどの一撃を紋章術師の蓮が繰り出してくるなんて、全くの想定外だったでしょうから――レベル30という制限下では、あれに並ぶ攻撃手段は存在しないかも知れません。また防御手段も限られますし……あの奥義は驚異ですね。あれを持つ蓮の紋章術師は、低火力の後衛職の姿では無いですね。認識を改める必要がありそうです。ここで見れて助かりました』

『なるほど。ありがとうございます雪乃さん! それでは次の試合に移りましょう!』


 そんな実況と解説を聞きながら、俺は控室に戻った。

 あきらが笑顔で俺を迎えてくれる。


「蓮くんお疲れさま! やったね!」

「おう! まあ割と楽勝だったぜ。あきらも一回戦頑張れよ!」

「うん。頑張るよー!」


 そこに次の試合に向かうほむら先輩が通りかかった。

 先輩は俺を見て、若干ひきつった笑みを浮かべる。


「や、やるじゃない君……! 相手にとって不足は無いわよ!」

「フン、ビビってるくせに何を強がってる。お前も蓮にワンパンでやられるがいい」

「お。雪乃先輩。解説はもういいんですか?」

「ああ、私の試合も近いからな。ああいうのはガラじゃないから勘弁して欲しいものだ」

「雪乃さん、ギルドマスターですもんね。あれもギルドマスターのお仕事なんですね」


 と、あきらが言うと雪乃先輩は首を振る。


「いや、それならギルドマスター権限で他の奴にやらせる。仲田先生からのご指名だからな……先生はうちのギルドの初代ギルドマスターだから、逆らうわけにもいかん」

「そうなんですか!? そういやうちの学校の卒業生だって……」

「ああ、自分のいたギルドだから実況とかやって盛り上げてるのかねー」

「まあ、協力して頂けるのはありがたいんだがな。そのれにしても蓮、さっきの試合は良かったぞ。会場も度肝を抜かれて盛り上がっていた」

「うっす! あれが魔改造の成果です!」

「フフフ……だが恐ろしくハイリスクハイリターンだな。HPを一気に減らしてダメージを引き上げたんだろう? 奥義を撃った後にHPバーが1ミリになっていた。あれで撃ち漏らせばやられたのはお前だ」

「紋章術師でそれなりのダメージを出すには、あの方向性しかないですからね」

「相変わらずやることが極端で蓮らしい。私があれを破って勝ってやるからな!」

「楽しみにしてますよ!」

「そうか……そうなんだ。そういうことなら、アレを――」


 俺達の会話を聞いていたほむら先輩は、何か難しい顔をして考え込んでいた。


「ふふふ、待ちなさいよ! あんたらが戦う前にあたしが君に勝つわ!」

「馬鹿言ってないでさっさと試合に行って負けてこい、アイテム集めしか能のない雑魚に構ってる暇はない」

「ふふん、だったらそのアイテムに頼るのみよ! 楽しみにしてなさい!」


 ほむら先輩はそう言い残し、闘場へと上がって行った。


「ま、あいつはどうでもいいが――蓮」

「へい?」

「紋章術師な。今はまだいいが、この先は苦労するかも知れんぞ」

「というと?」

「ああ。紋章術師と暗器使いを組み合わせての攻撃役(アタッカー)化な。私達も検討しなくは無かったんだ。これでも対人厨の集まりだからな。だがな――」


 と、先輩は少々言い辛そうだ。

 言いたいことは分かった。


「なるほど――結局は流行らなかったと?」

「ああ。全ての攻撃の銭投げ化と、暗器の自作強制仕様が運用面で大きなネックになって行ったんだ。この先レベルが上がれば加速度的に使う素材の単価も上がるし、合成レベルも上がっていく。私達には金策や合成スキル上げは辛くてな」

「ふむふむ……」

「何よりレベル帯が上がっていくにつれ、防御側に強力な手段が出てくるからな……例えば戦闘不能時の自動復活や、即死級のダメージに対する無効化等だな。それらの手段に一戦闘に一回の奥義では分が悪すぎてな。全く勝てなくなって行ったんだ。それに一撃だけは確かに強力だが、紋章術師の通常攻撃は貧弱だ。総合的な火力は低い――結局、膨大なランニングコストのわりに、攻撃役(アタッカー)としてはどうにも使い辛くてな」

「……つまり、今はいいけどこの先息切れするから、結局流行ってないって事ですね」

「すまんな、水を差すようなことを言ってしまって――」

「いや……っふふふ――逆にいいじゃないですか。そこを越えた先に真の覚醒があるんですよね!? わかります! 燃えてきましたよ!」


 みんなが諦めた先が俺の勝負所なわけで!

 限界の向こう側ってやつだ! ワクワクしてきたぞ!


「はははは。蓮には余計な心配だったみたいだな。やはりお前は面白いやつだよ!」

「まあ、蓮くんですもんねー」

「ところで先輩、暗器のアーツは一戦一回しか使ってなかったんですか?」

「ああ? それが何か……?」

「いや『ファイナルストライク』でぶっ壊した後、『流れ作業』付きの合成で作ればもう一回撃てるんで――」

「何!? それは知らなかったぞ……? それなら――いや、でもスキルの再使用時間(リキャスト)があるものな……連発は――」


 俺は隣のあきらの肩にポンと手を置き、逆の手で指も差す。


「ああ、ソードダンサーか! 組めば劇的に火力を上げられる! そうか……あきらがいるから、蓮は何のためらいもなく紋章術師をやっていられるんだなー。なるほど、紋章術師の新しい可能性……お前らなら開拓できるかもしれんな。何せ紋章術師をやっていた奴で、ソードダンサーの彼女がいた奴は知らんからな」

「ち、ちち違いますよお! 別に付き合ってないです……!」


 と、あきらが顔を赤らめつつ手をパタパタ振っていた。


「あれ? 違うのか、あんなに仲がいいからてっきり……それは済まなかったなー。ああそうだ蓮、なら私が付き合ってやろうか?」

「「えええええぇぇぇっ!?」」


 俺もあきらもびっくりして声を上げ――


「…………」


 あれ、なんか横から身の毛もよだつような恐ろしい気配を感じるな……


「冗談だよ。はっはっは。驚いたか? お前達を見ていたらからかいたくなってなー」


 先輩はにやりと笑って言った。

 あきらはふぅと大きくため息をついている。


「めっちゃビビりましたよ、今!」

「すまんすまん。どうにも私は無神経でいかんな。実はこの年になっても彼氏が欲しいとか、思ったことも無い! ゲームが楽しくてな、はははは」


 雪乃先輩らしいなー。サッパリした人だからな。


「いやいや、自分の楽しいことやってるのが一番ですよ」


 俺もそうだしな!

 我が家の教育方針が、好きなことをとことん突き詰めろ――! だからな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ