第52話 反省会
『ただ今の試合は高代君の勝利でーす! いやー高いHPと防御力を誇る重騎士を一撃で倒すとは、会場は度肝を抜かれております! 解説の雪乃さん、ただ今の試合は如何でしたか!?』
『やはりあの奥義が全てですね。重騎士の彼は一撃で倒されてしまいましたが、無理もないと思います。あれほどの一撃を紋章術師の蓮が繰り出してくるなんて、全くの想定外だったでしょうから――レベル30という制限下では、あれに並ぶ攻撃手段は存在しないかも知れません。また防御手段も限られますし……あの奥義は驚異ですね。あれを持つ蓮の紋章術師は、低火力の後衛職の姿では無いですね。認識を改める必要がありそうです。ここで見れて助かりました』
『なるほど。ありがとうございます雪乃さん! それでは次の試合に移りましょう!』
そんな実況と解説を聞きながら、俺は控室に戻った。
あきらが笑顔で俺を迎えてくれる。
「蓮くんお疲れさま! やったね!」
「おう! まあ割と楽勝だったぜ。あきらも一回戦頑張れよ!」
「うん。頑張るよー!」
そこに次の試合に向かうほむら先輩が通りかかった。
先輩は俺を見て、若干ひきつった笑みを浮かべる。
「や、やるじゃない君……! 相手にとって不足は無いわよ!」
「フン、ビビってるくせに何を強がってる。お前も蓮にワンパンでやられるがいい」
「お。雪乃先輩。解説はもういいんですか?」
「ああ、私の試合も近いからな。ああいうのはガラじゃないから勘弁して欲しいものだ」
「雪乃さん、ギルドマスターですもんね。あれもギルドマスターのお仕事なんですね」
と、あきらが言うと雪乃先輩は首を振る。
「いや、それならギルドマスター権限で他の奴にやらせる。仲田先生からのご指名だからな……先生はうちのギルドの初代ギルドマスターだから、逆らうわけにもいかん」
「そうなんですか!? そういやうちの学校の卒業生だって……」
「ああ、自分のいたギルドだから実況とかやって盛り上げてるのかねー」
「まあ、協力して頂けるのはありがたいんだがな。そのれにしても蓮、さっきの試合は良かったぞ。会場も度肝を抜かれて盛り上がっていた」
「うっす! あれが魔改造の成果です!」
「フフフ……だが恐ろしくハイリスクハイリターンだな。HPを一気に減らしてダメージを引き上げたんだろう? 奥義を撃った後にHPバーが1ミリになっていた。あれで撃ち漏らせばやられたのはお前だ」
「紋章術師でそれなりのダメージを出すには、あの方向性しかないですからね」
「相変わらずやることが極端で蓮らしい。私があれを破って勝ってやるからな!」
「楽しみにしてますよ!」
「そうか……そうなんだ。そういうことなら、アレを――」
俺達の会話を聞いていたほむら先輩は、何か難しい顔をして考え込んでいた。
「ふふふ、待ちなさいよ! あんたらが戦う前にあたしが君に勝つわ!」
「馬鹿言ってないでさっさと試合に行って負けてこい、アイテム集めしか能のない雑魚に構ってる暇はない」
「ふふん、だったらそのアイテムに頼るのみよ! 楽しみにしてなさい!」
ほむら先輩はそう言い残し、闘場へと上がって行った。
「ま、あいつはどうでもいいが――蓮」
「へい?」
「紋章術師な。今はまだいいが、この先は苦労するかも知れんぞ」
「というと?」
「ああ。紋章術師と暗器使いを組み合わせての攻撃役化な。私達も検討しなくは無かったんだ。これでも対人厨の集まりだからな。だがな――」
と、先輩は少々言い辛そうだ。
言いたいことは分かった。
「なるほど――結局は流行らなかったと?」
「ああ。全ての攻撃の銭投げ化と、暗器の自作強制仕様が運用面で大きなネックになって行ったんだ。この先レベルが上がれば加速度的に使う素材の単価も上がるし、合成レベルも上がっていく。私達には金策や合成スキル上げは辛くてな」
「ふむふむ……」
「何よりレベル帯が上がっていくにつれ、防御側に強力な手段が出てくるからな……例えば戦闘不能時の自動復活や、即死級のダメージに対する無効化等だな。それらの手段に一戦闘に一回の奥義では分が悪すぎてな。全く勝てなくなって行ったんだ。それに一撃だけは確かに強力だが、紋章術師の通常攻撃は貧弱だ。総合的な火力は低い――結局、膨大なランニングコストのわりに、攻撃役としてはどうにも使い辛くてな」
「……つまり、今はいいけどこの先息切れするから、結局流行ってないって事ですね」
「すまんな、水を差すようなことを言ってしまって――」
「いや……っふふふ――逆にいいじゃないですか。そこを越えた先に真の覚醒があるんですよね!? わかります! 燃えてきましたよ!」
みんなが諦めた先が俺の勝負所なわけで!
限界の向こう側ってやつだ! ワクワクしてきたぞ!
「はははは。蓮には余計な心配だったみたいだな。やはりお前は面白いやつだよ!」
「まあ、蓮くんですもんねー」
「ところで先輩、暗器のアーツは一戦一回しか使ってなかったんですか?」
「ああ? それが何か……?」
「いや『ファイナルストライク』でぶっ壊した後、『流れ作業』付きの合成で作ればもう一回撃てるんで――」
「何!? それは知らなかったぞ……? それなら――いや、でもスキルの再使用時間があるものな……連発は――」
俺は隣のあきらの肩にポンと手を置き、逆の手で指も差す。
「ああ、ソードダンサーか! 組めば劇的に火力を上げられる! そうか……あきらがいるから、蓮は何のためらいもなく紋章術師をやっていられるんだなー。なるほど、紋章術師の新しい可能性……お前らなら開拓できるかもしれんな。何せ紋章術師をやっていた奴で、ソードダンサーの彼女がいた奴は知らんからな」
「ち、ちち違いますよお! 別に付き合ってないです……!」
と、あきらが顔を赤らめつつ手をパタパタ振っていた。
「あれ? 違うのか、あんなに仲がいいからてっきり……それは済まなかったなー。ああそうだ蓮、なら私が付き合ってやろうか?」
「「えええええぇぇぇっ!?」」
俺もあきらもびっくりして声を上げ――
「…………」
あれ、なんか横から身の毛もよだつような恐ろしい気配を感じるな……
「冗談だよ。はっはっは。驚いたか? お前達を見ていたらからかいたくなってなー」
先輩はにやりと笑って言った。
あきらはふぅと大きくため息をついている。
「めっちゃビビりましたよ、今!」
「すまんすまん。どうにも私は無神経でいかんな。実はこの年になっても彼氏が欲しいとか、思ったことも無い! ゲームが楽しくてな、はははは」
雪乃先輩らしいなー。サッパリした人だからな。
「いやいや、自分の楽しいことやってるのが一番ですよ」
俺もそうだしな!
我が家の教育方針が、好きなことをとことん突き詰めろ――! だからな。




