第51話 ダメージ50%カットなら、最大HPの200%以上のオーバーキルをブチかませばいい
階段を上ると、円形の舞台をぐるりと取り囲む客席から、ワーッと歓声が降って来た。
ほほー。結構人いるな! これは燃えてくるなー!
「おーい高代ーっ! 絶対勝つべしー!」
「高代くん、頑張って!」
お、最前列のVIP席に矢野さんと前田さんが。
今日は、二人は雪乃先輩が用意してくれたいい席で見学である。
「おう! 任せとけー!」
手を振る二人に俺も手を振り返す。
「勝ってお土産持って帰るからなー! 乞うご期待!」
「おお! 流石うちのギルドマスターさんは頼りになるー!」
そうしているうちに、対戦相手が俺の前に姿を現していた。
顔まで覆うような青い全身甲冑を纏っており、その顔部分のバイザーだけ上げている。
見える顔つきはまあ普通。ちょっと神経質そうかな?
「女の子の前でいいカッコしたいのは分かるけどさあ、あんまはしゃいでると後で負けた時にカッコ悪いぜ?」
野村隼人(2-F)
レベル30(制限中) 重騎士 所属ギルド 平和の守護者
平和の守護者の人か。このギルドは知ってるぞ。
いわゆるところの生徒会らしい。だからここのギルドのギルドマスターが生徒会長だ。
もうこの闘場ではレベル制限がかかるようで、相手の先輩のレベルも30だった。
「いや、確かにいいカッコはしたいっすけど――女の子の前だからじゃなくて、ボンクラーズのリーダーの紋章術師を輝かせたいだけですよ。ダメな子ほど可愛いんで」
「君の趣味は知らないけど、紋章術師じゃムリだと思うけどなー」
「気のせいっすよ。見て貰えれば分かります」
「どうかな? まあ、恥ずかしいことになっても恨まないでくれよ。こっちもギルドの看板を背負ってきてるんでね」
と、話す俺達の耳に場内アナウンスが聞こえてくる。
『さあ、続いての試合は2-Fの野村君と1-Eの高代君の対決ですねー。野村君は重騎士、高代君は今回の参加者で唯一の紋章術師になります。また、野村君は大手ギルド平和の守護者の副会長の一人ですし、高代君は一年生の最初のクラス対抗ミッションのMVPです。プレイヤー解説の山村雪乃さん、見所は?』
実況までついてるとは。
しかし、なんか聞き覚えあるような――?
『そうですね。今回紋章術師での参加は蓮だけです。正直、攻撃能力の低い後衛ジョブですから、対人戦には不向きです。それでどういう戦法を取るのかが注目ですね』
『なるほどありがとうございます! しかし私個人としては、高代君は私の担任クラスの生徒ですので、是非とも頑張って欲しい所であります!』
んんんん!?
俺はスタンドを見渡し、実況席を見つけた。
やっぱいた! 仲田先生! 何してんだ!?
「先生何してるんですか!」
『GMとしてプレイヤーイベントを見守りつつ、趣味の実況中継で~す!』
趣味なのか、趣味なら仕方ないな。
しかし相変わらず綿菓子みたいに軽いノリだなー。
『それでは、二人とも準備はよろしいですね、デュエルスタート!』
俺達が一定の距離に離れ向かい合うと、仲田先生の号令が。
同時にカーンとゴングの音が響き渡った。
周囲を取り巻く客席のボルテージが一気に上がる。
「さぁ、行くぞ!」
ガシャンと鎧のバイザーを下ろし、先輩は完全フルアーマー状態に。
ごつい造りの両手槍をグルンと一振りすると、早速『名乗り』を発動してくる。
それが成功し、俺は挑発状態になった。
重騎士の持つヘイト獲得スキルだ。
対モンスターならばヘイトを高める効果だが、対人戦で使用すると一定時間対象のターゲットを自分に強制固定する効果になる。
回復や強化ですらターゲットを奪うので、それらの行為を妨害することにも繋がる。
さらに、効果中の相手は自分と一定以上の距離を取れなくなる。相手の移動を制限し、逃亡を防ぐ効果もあるという事だ。
かなり強力だが、必中ではなくレジストも発生するようになる。
再使用時間が30秒と高回転でもあるので、前線でこれをバンバン撒かれると面倒な事この上ない。流石はAランク評価のスキルだな。
だが――通常の『名乗り』よりレンジが広いような気がするな。
こんなに届いたっけか……ああ、そういう効果のタレントや装備をしていると見た。
なるほどこれさえ入れてしまえば、俺の自己回復を封じつつ、効果レンジ外に逃がさないようにできる。接近戦を強制してきているのだ。
重騎士の固さは、全ジョブでもトップ。重騎士のみ装備可能な全身鎧には、物理攻撃を50%カットする効果が標準でついているからだ。
常に盾ガードが発動している状態とでも考えるといい。
重騎士にとっての脅威は魔法攻撃だけだ。
先輩は一気に俺との距離を詰めてくる。
一直線で、攻撃以外考えていないような突撃。
距離は制限しているから、俺が魔法の詠唱に入っても潰せる。
物理攻撃には重騎士は滅法強いから、モーションが相打ちならダメージ差で勝つ。
ならば防御は考えず、突撃あるのみ――!
そういうことだろう。それは一般的な後衛相手なら非常に合理的だろう。
だがお生憎様! 俺にとって、こういう避ける気のない奴は大好物なのだ。
相手が50%ダメージカットするなら――
相手のHPの200%以上のオーバーキルをブチかませばいいだけだ!
俺は大範囲のディアジルサークルを放ち、MPを空に持って行く。
「装備変更、セットB!」
メインウェポンを『仕込杖』に変更。
「うおおおおおおおっ!」
先輩がレンジ内に踏み込んで来る!
俺は心の中で手を合わせた。さぁ……いただきます!
「奥義――『デッドエンド』おおぉッ!」
ズシャアアアアアァァァ!
紫電の一閃が、全身フルアーマーの重騎士を薙ぎ倒す!
「何ィ!? うわあああああああっ!?」
先輩はピンポン玉みたいにぶっ飛び、闘場の壁に激突してめり込んだ!
おー! 壁にめり込むとか芸が細かいな!
蓮のデッドエンドが発動。隼人に1311のダメージ!
蓮は隼人を倒した。
デュエル終了! 蓮の勝利です! 蓮の通算戦績は2勝0敗です。
ログがそう伝えてくる。
フッ……見たか150メートル級のホームランをなあ!
こちとら飛距離には自信がありましてね!
ダメージカットされようが、その上から一撃必殺すればいいんですよ!
これは気持ちいい勝利! 俺にとって最も相性のいい相手だったなー。
一撃必殺できるやつが避ける気なく突っ込んでくるとか、どんなイージーモードだよ。
1-1でク〇ボーを踏むのと何ら変わらん難易度だぜ。
会場は一瞬何が起こったかわからずシンと静まり返った後、割れんばかりの拍手と歓声に包まれていた。
うむ、お客さんに俺達のロマン砲をお見せする事が出来て満足だ。
これで皆が興味を持ってくれるといいな。




