第4話 ある意味で不遇
「おぉぉう……いいね!」
俺はグッとサムアップして応えた。
ソードダンサーの装備は全体的にこんな感じらしい。
このジョブはDランク評価で、ボンクラーズの一員だ。
だけど、実は性能自体は結構高いと評価されてもいる。
役割的には回復役。けれど少し特殊で、回復魔法を使うのではなくて、回復効果のあるダンスで回復を行う。
そしてダンスはMPを消費しない。ソードダンサーはMP持ってないから0だ。
何を消費するかというと、APになる。
APは超必殺技のゲージみたいなもの。
だから、敵に攻撃をヒットさせたり食らったりで溜めなといけない。
そのために敵に接近して殴り続ける立ち回りになる。前衛型の回復役なわけだ。
使える武器は片手剣か両手剣。APをダンスじゃなくてアーツに使えば攻撃役もできたりして、いろいろ立ち回れる。テクニカルで中々面白そうなジョブだ。
じゃあ何が評価を下げるのか?
それはつまり、装備全般の露出度が高過ぎること。
モニターを前にして自キャラを眺める普通のMMORPGなら、露出度高かろうがニヤニヤしていられる。
けど自分自身がゲーム内キャラになる感覚のVRMMOだと、感覚がリアルに近い分、大胆なデザインの装備は着るのが普通に恥ずかしい。
だから、自分に自信がある人専用ジョブとか言われたりする。
女子になってほしいジョブナンバーワンで、女子がなりたくないジョブナンバーワンでもある。そんな中の人問題によって人口が少ないっていう悲しいジョブだ。
まああきらのリアクション見てたら納得だ。確かにこれは恥ずかしいかもな。
見てる俺からすればそれはもう、ありがとうございますだけどさ。
「蓮くんひょっとして、えっちい目的でソードダンサーって言ってたりしないよねえ!?」
「それはない! 俺昨日まであきらは男だと思ってたけど、ソードダンサーやってくれって言おうと思ってたぞ! 性能のためにはちょっとキモくても我慢するつもりだった!」
「……ホントにぃ? とか言いつつ喜んでたよねえ?」
不審そうな目線が突き刺さる。
「そりゃキモい絵を我慢するつもりが、美少女のビキニアーマー的な何かに差し変わったら嬉しいに決まってるでしょうに」
「美しょ……うーん……し、仕方ないなあ。もう決まっちゃったし、これで行くしかないかあ。よし、気を取り直してレベル上げ行こっ!」
コロッと笑顔になった。やっぱ表情豊かだ。
「でもやっぱ恥ずかしいから、移動中はこれで……」
そう言うと、学生服に装備を切り替えてた。気持ちは分かるが、ちと残念。
それから、俺達は校舎を出て浮遊都市ティルーナの街中エリアに。
そこから飛空艇が発着する港に向かった。
UWの世界各地にはワープ用の移送方陣がある。
だけどこれ、一回直接触れて開通しないとワープできない。
ワープ開通が済めば学校にある転送ルームからすぐワープできる。
あきらは最初の移送方陣も開通してないし、はじめは飛空艇で行くしかない。
港に着くとトリニスティ島行きの飛空艇はもう出発寸前。
急いで乗り込むとすぐに飛び立った。
俺達の他の乗客も何人かいたけど、数は少ない。
みんなわざわざ飛空艇使わずに移送方陣でショートカットするからな。
港を飛び立った飛空艇は、浮遊都市の全景を背に、真っ青に澄み切った空を進む。
空も、下に見える海も、全部が青くて綺麗。すごい幻想的。
絶景マニアのあきら大歓喜で、甲板に出て大はしゃぎしていた。
「うわあああああっ! すっごい絶景だよこれえ! 気持ちいいねーっ!」
「ああ、この臨場感はこのゲームでしか味わえねーよなー!」
「これだけでもこの学校にしてよかったなあー! すっごいリアルー! あっそうだ、スクリーンショット撮りたい! ねえ蓮くん、どうやって撮るのこれ?」
「ん。ほいこれ」
俺はアイテムボックスから『魔導式映写機』を取り出す。
デザイン的にはアンティークなカメラという感じ。それをあきらに渡した。
「やるよ。このゲームのスクショはカメラで撮るんだってさ。これで撮って、画像をエクスポート設定したら、学校からデータがメールで送られてくる感じっぽい」
「わぁ、ありがとー! 蓮くん準備いいね」
「まあ絶対欲しがるって分かってたから、合成で作っといた」
「さっすがあ! 話が分かる!」
あきらは甲板のあっちこっちに移動して、写真を撮りまくっていた。
こうやってはしゃいでる姿は何かいいな。
別ゲーではしゃいでスクショ撮りまくってるガチムチ獣人キャラでも何か可愛い奴だなって思って見てたけどさ、今は何て言うか、正しい意味で可愛いぞ。
「蓮くん! 一緒に撮ろうよー! すいません船員さーん、写真撮って下さーい」
あきらが、甲板に配置されていたNPCの船員さんに話しかける。
NPCは名前が緑で表示されるので、すぐに分かる。プレイヤーは青白い色だ。
NPCの思考ルーチンも凝りまくっているらしく、船員さんNPCは快くカメラを受け取って、バックに浮遊都市が映るような位置取りを俺達に促す。
「はいその辺でー。もうちょっとお互い近寄って下さいねー」
「はーい」
あきらがすっと俺に寄って、腕に抱き着いてくる。
そうなると肘のところにおっきい胸がこう、むにっと――
や、柔らかい……ていうかこのゲームこんなところまで無意味にリアルすぎだろ。
「蓮くん蓮くーん」
あきらがなんか悪そうな顔してる。
「え?」
「わたし前にさあ、この学校来ればモテるって言ったじゃん?」
「あー言ってたなあ」
「どう? 今女の子にモテてるっぽいぞー?」
あからさまにからかわれてる気配。
しかしこちとら彼女いない歴イコール年齢のヘビーゲーマーだ。
「えっと……ど、どうも……」
気の利いた切り返しなんて浮かんできませんが!
そういう事言われても、ただドキドキするだけなんですけど!
「な、なんか面白く返してよお……わたしも何か恥ずかしくなってきちゃったし……」
なんか俺の緊張が向こうにも伝染したっぽい。
「ご、ごめん……」
「いや、いいんだけど……ひょっとして嫌だった?」
「いやそんなことは――」
こんな可愛い子に抱き着かれて、嬉しくないはずはない。けど慣れてないので照れる。
「はい撮りまーす。ちょっと表情硬いですよー。笑顔でお願いしますねー」
そんな感じでカメラを撮ってもらい、船員さんNPCにはお礼を言った。
どんな顔して映ったんだろ俺は。恥ずかしいから見たくないぞ。




