第48話 優勝賞品が欲しい件について
そう、あきらとこの赤羽さんってリアル知り合いっぽいんだよな。
どういう関係かは知らんが……
顔を合わせた二人の間には、ピリッとした空気が流れていた。
「あら、あきらさん。人の顔を見てそんな態度とは、随分ご挨拶ですわね」
「……ごめんなさいね。わたし、喜ぶとあんな顔になる病気なんです。会えて嬉しいんですよ? ごきげんよう!」
「ウソおっしゃい! どう見ても嫌そうじゃありませんの! 全く、あなたは青柳家のご令嬢として、ちょっとご自覚が足りませんわね? このままではお家も先が思いやられますわね」
あきらはぷいっとそっぽを向いたまま、それをスルーした。
うーん険悪だ。あきらがこんな顔するの初めて見るかもなー。
俺が見るあきらはいつもニコニコしてるからなあ。
家が華族の流れをくむ名家で、おじいさんは国会議員してるし親父さんは経営者で、家にはコックさんもいるんだっけか。すげーお嬢様だ。
セレブの世界はセレブの世界で、人間関係は難しいのかねー。
「……こんな所でわたしと会ったのに、驚かないんですね?」
「あなたもこの学園に通っておられることは、知っていましたわよ」
「知って……? だったらどうしていつもみたいにイヤミを……いや、何も言って来られなかったんですか?」
「あら、どちらから挨拶に伺うかは重要でしょう? 赤羽家から先に膝を折るわけにも参りませんので、私はお待ちしておりましたのよ」
「そうですか、それは済みませんでした」
つんつん、と片岡が俺を突っついてきた。
「ん? 何だよ?」
「なあ青柳さんって、希美様と知り合いだったのか?」
「ああ、らしいな。俺もよくは知らんが――」
「ふーん。でもさ、なんか空気悪くねえか?」
「だよなー。お前ちょっと和ませて来いよ」
「えぇ!? 俺がかよ――!」
「片岡君! 馴れ合うんじゃありませんわよ!」
「はい希美様! おうこら高代ぉ! てめー調子乗ってんじゃねーぞ! いい機会だ、今度はブッ飛ばしてやるからな!」
「ははは……」
いやー、徹頭徹尾従者してるねーお前は。ブレない奴だ。
「無駄ですよ。片岡君はこの間蓮くんとデュエルして負けていますから、今度も勝てませんよ」
「何ですって!? 片岡君! 情けないですわね――!」
「ふふふ……従者の質ではわたしに分があるみたいですね――」
「いや勝手に従者にされても困ると言いますか……」
「いーじゃん! 昨日もさんざん検証に付き合ってあげたでしょ!」
「おい高代ぉ! 従者がHimechanこき使うんじゃねーってこの間も言っただろ!」
「いや、お前が喋るとややこしくなるから黙ってろ!」
と、ギャーギャー騒ぐ俺達を見かねて雪乃先輩が仲裁に入った。
「まあまあ。何だかよく分からないが気に食わないなら、お互い試合で相手をブッ飛ばせばいいだろう。その方がスカッとするぞ。続きは試合で、な!」
「……はい、雪乃さん」
で俺達は、控室の奥の方へと移動した。
ここで待っていてくれと雪乃先輩が出ていくと、俺はあきらに尋ねた。
「あきら、赤羽さんってどういう知り合いなんだ?」
「あーうん、向こうの家も華族の流れでね……地元も一緒で、昔からのライバル? って感じらしいの。ほらウチのおじいちゃんとか、議員さんやってるでしょ? 向こうも一緒で、その選挙区とかも被ってるんだよねー」
「ふーん。ざっくり言うと商売敵か」
「だねー。こっちを凄いライバル視してるから、いっつもああいう風に絡んで来て、相手するのが疲れるの。幼稚園から学校も同じだし。まさかここでも一緒とか……」
「でもまあ、向こうもゲーム好きなんだろ? 意外に趣味合うんじゃね?」
「えー? そうは思えないけどなあ……」
「ほら、ジョブも一緒だしさ」
「向こうはどうだか知らないけど、こっちは蓮くんのせいなんだからね!」
と、雪乃先輩が抽選ボックスやトーナメント表を持ったギルドメンバーを引き連れて控室に戻って来た。
お。トーナメントの抽選が始まるのかな。
「皆さん、お集まりいただいて感謝する。本日のイベントを主催させて頂く神秘の武技のギルドマスターの山村雪乃だ。これからトーナメントの抽選会を行おうと思う。その前にバトルのルールだが、事前に告知させて頂いている通りレベル30制限での戦いとなる。当然装備も対象がレベル30以下のものしか使えないから、気を付けてくれ。また、守護竜に関してはバトルには参加不可となる」
まあ、できたら有利すぎるからなー。仕方ないか。
聞いて意味が分かっているのか、リューはきゅー……と残念そうにしている。
「それから賞品についてだが、優勝者にはこいつを支給させてもらう事にする」
と、雪乃先輩は装飾の施された絵筆のようなものを取り出して見せた。
「こいつは『レイブラの魔筆』という。この春の新作アイテムだそうだ。今回のプレイヤーイベントに際し、学園側から提供を頂いた」
ふむ……?
「どんな効果のものなんですか?」
と、参加者から質問が飛んでいた。
「ああ、一般的なペンタブレットに似たような動きをするらしい」
ほほう――? お絵かき用ツールか……?
前に見た『ディールの魔卓』みたいなノリのアイテムってことかね。
んー……そんなに詳しくはないが、いろんな色で絵を描けるし、書いたものは保存できるし、それをコピペもできるってことだよな……
おお! そうなると、アレでこれでこれすると――?
やっべいけるんじゃね? ギルドショップ流行っちゃうんじゃね?
アレ新作アイテムなんだろ? だったら、競合他社もそんなにいないよな……!?
「やっべ、あきら。俺あのアイテムめっちゃ欲しいぞ」
「? お絵描きしたいの? マッチョの描き方教えてあげようか?」
「違う……! 金だ、あれがあれば金策が捗るかも……!」
あのアイテム、俺達の金策の救世主になってくれるかも知れない……!




