第46話 吹き矢からホーミングレーザーを放つ2
俺達は訓練所に場所を移し『ソウルスピア』の検証を続ける。
外での検証の時、リューは木陰で眠っていたが、今は元気にきゅーきゅー言いながら室内の高い場所を飛んでいる。
他に誰もいない広いインスタンスエリアで、かなりの距離を取って向かい合う。
その距離は、30メートルくらい。
吹き矢の通常攻撃や『影矢』は射程が10メートルも無かった。
が、このレーザー光線っぽい『ソウルスピア』なら――
このくらい届くんじゃないかとの推測である。
「じゃあ行くぞー! 全力で逃げてくれよー!」
「うーん! いいよー!」
俺の呼びかけにあきらは笑顔で手を振ってくる。
よしでは――
「奥義『ソウルスピア』!」
バシュウウウウゥ!
俺が吹き矢を吹くと、紫色をしたレーザー光線にしか見えないエフェクトが飛び出す。
うーむやはり中々かっこいいな、これは。
それに、30メートル離れても飛んでいくっぽいぞ。
それを見たあきらは、斜め後ろに距離を取りつつ走る。
射出された『ソウルスピア』はあきらに向って複雑な軌道を描きながら迫っていく。
「うわわわわ……! すごい追いかけてくるー!」
あきらも全力で走っているが、レーザーのほうがそれより早く、追尾も正確だった。
これは、当たるな!
しかし――目の前にレーザーが肉薄すると、あきらは別の行動を取った。
「『ホークストライク』!」
大きく飛び上がり、前方に斬り込む片手剣アーツだ。
この動きにより、あきらは迫るレーザー光をジャンプで飛び越え回避に成功した。
大きく動くアーツは、こうやって緊急回避にも応用できるわけだ。
「おっ! やるなぁ!」
「そう簡単には当たらないから!」
咄嗟にこれが出るあたり、流石のアクションのセンスだなー。
こういうあきらだからこそ、俺もいい検証ができるわけだ。感謝感謝。
しかし一旦的を外れたレーザーは、ぐるんとカーブして再びあきらの背面に迫ろうとする。
「!? えぇいっ!」
あきらは今度はこちらに向けて走りつつ、背面に剣だけ振り、スカイフォールの衝撃波を放つ。
後方に衝撃波を置いた感じだ。
あきらに迫るレーザーは衝撃波に突き進むと――
ぐいんとカーブして衝突を回避した。
ほうほう。障害物は回避していく感じなのか、優秀だな。
しかし――軌道が大回りした分、少々あきらとは距離が開く。
その間にあきらは猛然とこっちにダッシュしてくる。
俺を巻き込もうとしてるな――!
狙いを察した俺は距離を取るように走る。
「待てええぇぇぇ! 巻き添えだあー!」
楽しそうに追いかけてくるあきら。
こう反応のいい相手だと、巻き添えを狙ってくることもあり得るんだな。
こういう場合、迫ってきた相手を『仕込杖』の『抜刀術』でばっさりがいいだろう。
今は『仕込杖』を持った状態で『ソウルスピア』を撃ったから、もう暗器アーツ使用不可能になっているが。
立ち回り的には『ソウルスピア』後すぐ『仕込杖』を合成して様子を見るべきだな。 うん、ガチな時の立ち回りはそうしよう。メモメモ。
なんて考えていると、あきらはぐんぐん俺に迫ってくる。
俺も走っているが、AGI差が結構あるから、向こうの方が足が速いのだ。
このままではこっちが捕まる!
ならば足止めを――!
俺は足を止め、素早くディアジルサークルを詠唱。
MPの八割を消費して、あきらの足元に大範囲で展開した。
ディアジルサークルは鈍足効果もある。
これで足止めすればレーザーが追い付く!
あきらはサークルを突っ切ろうとするが、そのスピードは落ちている。
後ろからレーザーが追いすがる。
距離が詰まり、展開されたサークルの上にレーザーが差し掛かる。
そして、またぐいんとカーブして方向転換した!
んん!? 何でだよ、障害物なんてないぞ?
その後もレーザーはサークルの外側をぐるぐると回るだけで、あきらがいる内側に入ろうとしない。
あ――ひょっとして、サークルが障害物扱いされてる?
それを避けて回りこもうとして、ぐるぐるしてるのか!
こりゃあきらがサークルを突っ切って出るまで当たらないな。
「とうっ!」
俺がレーザーの軌道に注意を向けた隙に、あきらは次の行動に移る。
サークルの内側から、再び『ホークストライク』で宙に舞った。
そして絶妙に俺の真ん前に着地してきた。早いしうまい!
すぐさま、がしっ! と抱きつかれる。
「ちょっ……! こら離せ!」
「ふふふーん♪ 喜びなよー。美少女のハグだぞー?」
いやまあ確かに、ぷにぷにして柔らかくて気持ちいいですけども!
ビシュウウゥン!
そこにレーザーが着弾。俺とあきらをまとめて貫いた。
直後に強烈な眠気で、俺の意識は飛んだ。
矢が眠りのやつだったからな……
――で、目が覚めた。
「ん……!?」
まあ直撃喰らう前の状況からして当然なのだが、俺はあきらに抱きつかれたまま倒れていた。
がっつり密着した感触が、ゲームとは思えないくらいリアルに柔らかい。
相変わらず意味の分からない拘りを感じるゲームだ。
「……」
それに、顔がめっちゃ近いんですが――
うーん近くでまじまじ見つめると、なんという美少女。
ちょっと視線を下にやると、ソードダンサー装備の大きく開いた胸元から、迫力ある谷間も見えた。
おおおおー。すげー眺めですなあ。
よしせっかくだ。ここはあきらが起きるまでガン見しておこう。
じー……――
「ねえ蓮く~ん。いつまで見てるのかなぁ?」
「うぉ!? お、起きてたのかよ……!」
「さっきから起きてたよぉ~。しばらくガマンしてたけど、もう恥ずかしいよ~……」
「わ、悪い悪い……! ハハハハハ! 不可抗力でさ!」
「も~……」
と話しながら俺たちは身を起こす。
「で、どうしよっか? まだ検証する?」
「いや、大体分かったしこんなもんでいいかな。金も素材もヤバいから、これ以上奥義でぶっ壊すときついしな……」
懐に余裕があるときにもっと検証してみたいな。
しかし早急に金策が必要だな。ギルドショップを流行らせないとだ。
「じゃあ、終わりだねー。よしじゃあ次私の番だから! どこかいい景色見に行こ~!」
さて今度は絶景マニアにお付き合いするか。
まあ持ちつ持たれつ、ギブアンドテイクですね。
というわけで俺達は、ちょっと散歩してからギルドハウスに戻った。
「あ、高代にあっきーおかえり~。二人にお客さん来てるよー」
「? お客さん?」
心当たりなんて無いが……?
「誰だろうね?」
とあきらも首を捻っている。
ともあれ俺達は二階のリビングに。
そこには見慣れない、女の子がいた。
水色の髪のポニーテールに、凛と精悍な顔立ちをした美少女である。
キャラネームは青白いからこの人も生徒だ。
山村雪乃(3-C)
レベル199 魔剣士 ギルドマスター(神秘の武技)
んんん!? ああ知り合いでした! 初対面だけど!
ってかレベル199とかつえーな! こっちまだ30だぞ!
しかもどこかのギルドのギルドマスターらしい。
「おおおっ雪乃先輩! こんちゃーす!」
「わぁ~♪ 初めましてですね! 遊びに来てくれたんですか?」
と、俺達の驚きに雪乃先輩は満足そうに頷いた。
「やあ、蓮にあきら! ここでは初めましてだな。二人を誘いに来たぞ!」
「誘う? 何にです?」
「デュエルで遊ぼうと言っただろ? 明日大会があるんだ、二人ともエントリーしておいたからな!」
雪乃先輩は、いきなりそんな事を言い出したのだった。




