第44話 第二の暗器
事務手続きが済んだ後、俺とあきらはワープでミシュール大陸に移動した。
で、近くの森マップで、検証を開始しようとしていた。
「蓮くーん。このまま攻撃せずに維持すればいいのー?」
「ああ、オーケーオーケー! そのまま頼む!」
俺はちょっと離れた所にいるあきらに手を振って応じた。
あきらは敵と交戦状態で、自分からは手を出さずただ攻撃をガードしている。
相手はバンディットウルフというLV31のモンスターだ。
俺の検証にはちょうどいいレベルである。
あきらはタレントの効果でAPが自動回復するし、AP消費のダンスで自己回復可能。
なので、この程度の敵ならどれだけ長時間維持してもまず死なない。
検証を手伝ってもらうパートナーとして、非常にありがたい性能である。
何せ俺ときたらちょっと検証で敵を殴ろうにも、まともなダメージが奥義や暗器アーツくらいでしか取れないわけで。
毎回武器をぶっ壊す銭投げや、HP1にしないとダメージが出ないロマン仕様は、こういうルーチンワークと滅茶苦茶相性が悪いのだ。
金は飛ぶわ、ちょっとの不注意ですぐ死んで経験値ロストするわだからな。
本当ならちょっとした検証なら気軽にできるように、対雑魚用のタレントも取るべきである。
だが……俺の中で次のMEPの使い道は既に決まっているので、大分先の話ですね、それは。
あー早く定期テストが来ないかな。MEPを早くかつ大量に下さい。
ってかテストが楽しみとか衝撃的だな、人生で初めてだぞ。
「で、何するのー?」
「ああ――これを見ろッ! 新兵器の試し撃ちでーす!」
と、じゃじゃーんと俺が取り出したのは細長い筒状のアイテムである。
「何それ? 何かの笛?」
「いや――『吹き矢』だ! 待望の第二の暗器をとうとう作れるようになった!」
吹き矢(OEX)
種類:暗器 装備可能レベル:25 攻撃力:5 獲得AP:10
特殊性能:タレント暗器使いセット時のみ装備可能
アーツ『影矢』を使用可能
暗器は全部OEX属性で人に渡せない、同じアイテムを複数個持てない、だから自分で合成するしかない。
ギルドハウスにマイ工房設置した事によるサポート効果と合わせ、ようやくこれを作れる合成レベルになったのだ。
作れるようになったのなら、さっそく作ってみるのが職人の性。
そして作ったのなら、さっそく検証するのが検証厨の性である。
誰も俺を止めることはできない! さぁ検証だッ!
「おおおおおおー! で、すごいのそれ?」
「分からん! 今初めて使うからな。んじゃ、撃つぞー!」
「おーけー!」
俺は吹き矢の先端をバンディットウルフに向け、強く息を吹きかけた。
小さな鉄の矢がヒュンと飛び出し――敵に当たる前に地面に落ちた。
「……あれ?」
「……届かないね。距離遠いんじゃない?」
「そうかもな。もっと近づいてみるか」
「っていうか、届かずに落ちても矢は消えるんだねー」
そう、地面に落ちた矢はフッと透明になって消えていった。
もったいないから回収させてほしいんですけど……懐に優しくない仕様だ。
こっちはもう金欠がかなりやばい状態だというのに……
で、まあ次はかなり距離を詰めて――五、六メートルくらいに接近。
「よしもう一丁!」
ヒュンッ! と吹き矢が飛んで行く。
蓮の攻撃! バンディットウルフは攻撃をスウェイした!
と、ログ表示される。おお、こいつ避けやがるか!
続いて十発撃ってみたが、全部外れた!
十一発目でようやく一回当たったが、ダメージは微々たるものだった。
「……うーん、当たんないみたいだね」
「ああ、これはつまり――」
「命中率がDEX依存とかになってるって事だよね?」
「だなー」
物理攻撃の命中率は基本的に攻撃側のDEXと受け側のAGIから計算される。
俺のDEXがこのバンディットウルフに比べても低すぎるんだろう。
まあ当然だな、DEXなんて一切振っていないし、紋章術師は元々のDEXも最低クラスだ。
VIT極振りの俺に、普通に吹き矢の攻撃を当てるなんてハードルが高すぎたようだ。
ここで吹き矢の通常使用の目は消えたな。
まあ、多分こうなるとは思っていた。けど何事も確かめてみないとな。
「となると――アーツでどうなるかだよな」
「だねー」
『仕込杖』に暗器の特殊アーツ『抜刀術』があるように、『吹き矢』にも『影矢』が存在する。
影矢(消費AP 0)
<効果> 暗器技 死角を突き目に見えない矢を放つ 1回攻撃
1戦闘に1回のみ発動可能
現HPが低いほど矢の追加効果の性能と発動率アップ
防御力無視 スウェイ不可
やはりこいつもHPが減れば減るほど性能アップ系だ。
ただしダメージではなく、追加効果の性能&発動率アップらしい。
スウェイ無効もあるし、『影矢』を活かしていくしかないな。
「今ある矢は――ノーマルと『毒の矢』と『眠りの矢』だな」
「HPを減らして『影矢』を撃てば、毒のスリップ量とか眠りの時間が延びるのかな?」
「ああ、どんな程度か試してみようぜ」
というわけで、今度は『影矢』を撃っていくことにする。
比較検証のため、まずHP満タン+毒の矢で。
「いくぞ――!」
蓮の影矢が発動! バンディットウルフに25のダメージ!
バンディットウルフは毒になった。
おう発動した。俺の目にも飛んでいく矢が見えなかったけど――
これが『影矢』の効果だな。見て回避はできませんと。
さてしばし敵を観察。
2、3秒おきに毒ダメージが5発生してるみたいだな。
ログには出ないけど、敵の頭上に白いダメージ数値が表示されている。
バンディットウルフは毒状態から回復した。
ん~もう切れたか。30秒も持たなかったな。
「3秒5ダメージが30秒間くらいって感じかなあ?」
「かもな~。けど、ある程度数こなさないとデータとしては信用できん」
「……うわ出た~。いつものアレだ~。試行回数を欲しがるやつだ~!」
「まあ他の項目も検証したいし、コレは20回で手を打とう」
「2、3回で十分じゃないのかなぁ……?」
「まあまあ、あきらさん、せっかくですし」
「はぁ……なんでそんなに楽しそうにしてられるんだろ。じゃあこいつ倒しちゃうよ?」
暗器のアーツは一戦闘に一回だからな。倒さないと次が撃てない。
「お願いします!」
「よーし――行くよストレス発散! 奥義――!」
あきらは敵の足元から上に斬り上げるような斬撃を放つ。
その斬撃に三日月のエフェクトが発生し、敵は大きく空中に弾き飛ばされる。
同時にあきらも、斬撃の勢いそのまま高く飛び上がっていた。
「『エリアルクレセント』っ!」
今度は空中で、大きく剣を振り上げ叩き下しの斬撃。
それにも美しい三日月エフェクトが見える。
地面に激突したバンディットウルフはHPが0になり、呻き声をあげて消滅していく。
あきらはくるんと美しい宙返りをして、舞うように地面に着地した。
敵を打ち上げると同時に自分も飛び上がり、空中でもう一撃する二段攻撃の奥義だ。
『ホークストライク』と『クレセントスラッシュ』の合成奥義である。
アクロバティックな動きにエフェクトも綺麗。威力も高い。
飛び上がるモーションだから、空中にいる間敵の攻撃を貰いにくいのもメリットだ。
「うんうん。この技気持ちいいよねー! スカッとするなぁ~!」
満足気なあきら。
確かにこの技、なかなか人気あるだろうなーという感じなのだが……
それより何より――
見えたッ! モロに! だってあんなスカートで高くジャンプしたら当り前だろう。
俺はそこはスルーして検証を続けることにした。
終わってから教えてあげようかなと。
いやー、単調な検証が最高のエンターテイメントと化しますね。
で、しばらく繰り返したところ、場合により10秒くらいで切れることもあった。
しかも毒の効果自体発生しない事もある。発動率は1/2というところ。
ダメージ自体は3秒5ダメージで変わらない。
マックスで3秒5ダメージが30秒間という感じだった。
発動率も安定せず、正直そんなにいい効果でも無いかなという感じ。
続いて『眠りの矢』も似たようなもので、マックスで30秒間寝ているという感じ。
こちらも発動率が安定しない。
「まあ、仕込杖だってHPマックスだと弱いからな」
「次はHP減らして?」
「だな。次行こう!」
「おーけー! そーれ『エリアルクレセント』っ!」
あきらも、奥義バンバン撃って暴れるのが楽しくなってきたらしい。
それを下から眺める俺も楽しいです。ありがとうございます!




