第43話 意外な人に意外な才能が有ったりするのが世の中
「「「「せーのっ!」」」」
放課後の俺達のギルドハウス。
俺達は二階のリビング部分に集まっていた。
俺が自作した『ウッドテーブル』の上に、四人がそれぞれ紙を差し出していた。
何をしているかって?
ステータス画面とかにアイコン表示されるギルドエンブレムのデザイン選手権だ。
優勝者のデザインが採用されることになっているのだ。
俺達はそれぞれ、他のメンバーの出した絵を観察する。
「蓮くんのは……何それ電球?」
「高代は何で電球だし?」
「そりゃあれよ、魔改造に必要なのは閃きだからな! ピコーンって感じを表現した!」
あとあんま絵心は無いから、これくらいしか書けんって感じです!
ちなみにギルド名は悪魔の仕業で決定している。
俺的には魔改造同好会とかダメジョブマイスターズが良かったんだが……
だがそう提案すると、あきら達には余りにダサいと却下された。
で、魔改造同好会をベースに若干のオサレ感をプラスしたこれに改変されたのだった。
まあ、割と悪くない名前に落ち着いたかなと思う。
「うーんでも電球だけだと、何がなんだかちょっとわかんないよねえ」
「まあそうかもなあ……絵は得意じゃねえから。じゃあ、あきらのは――?」
「よくぞ聞いてくれました! 見て見てー! マッチョデーモンだよー♪」
ボディビルダーみたいなマッスルポーズを決めた角の生えたオッサンの絵だった。
うーんマッチョキャラ好きだよなー、あきらは。
絵自体は結構上手いんだが、印象としては汗臭いことこの上ない。
魔改造ってのは検証と知恵が重要なのに、筋肉で語る感が半端ないぞこれは。
どこの脳筋ギルドだよって感じ。
「少し汗臭い感じよね……」
「わたしは、かっこいいと思うんだけどなあ……じゃあ琴美ちゃんのは?」
「え? 私のは……あんまり見なくていいわよ」
「どれどれ――」
……あっ(察し)。
こう、悪魔だか何だか分からない奇怪な生物が描かれている。
それもこじんまりと、自信のない感じで。
絵が苦手な人って、目立たないように小さく書きたがるよなあ。
いわゆる画伯ってやつなのか。あんまり触れないようにしてあげよう。
「……わーお、ことみー。何か個性的じゃん?」
「わ、私の絵なんて見ても面白くないわ! 次、優奈のは!?」
「うん、いちおー悪知恵って感じで意識してみたんだけどぉ。どーかな?」
「……おおぉ~! うめー!」
「うわ、すご~い上手いね!」
いい感じにデフォルメされた悪魔が、ペロッと舌を出している顔の絵だった。
悪知恵で相手を出し抜いてドヤ顔でニヤリって感じか。
表情が愛嬌がありつつも小憎らしくてすげーいい!
矢野さん絵が上手いなー。
「いいね! 俺的には矢野さんのやつ採用で!」
「そうね、私もそれがいいと思う」
「わたしのマッチョデーモンは残念だけど……異議なし!」
「お? やたー! 採用されたし♪」
と、矢野さんがにっこり笑顔になった。
「しかし、矢野さんがこんなに絵が上手いとは知らなかったなー……」
「そういえば優奈、中学校の時も絵のコンクールで賞を貰っていたわね」
「ああ、授業で描いたヤツね。センセーが気に入って応募しちゃったし」
「ホント、凄いねー! どこかの先生に習ったりしてるの?」
「いやーしてないしてない。ウチにそんな金ありませんし。何となくこうかなーって描いてるだけで……そんなに褒められてもぶっちゃけハズいし」
本人にはまるっきり自覚はないが、天性の才能ってやつか。
意外な人に意外な才能があるもんだなー。
今俺達が集まってるこのテーブルも矢野さんがいい感じにデコレーションしてくれた。
元は俺が合成したただの『ウッドテーブル』なんだが――
矢野さんがこのままじゃ殺風景とか言って、花柄の絵をペイントしたのだ。
ペイント用の絵の具は店でも売ってるし、俺も合成で作れたりするし。
ホント作り込みの細かいゲームだ。
矢野さんはこの調子で、ギルドハウスを賑やかに飾ってくれるそうな。
一応皆でギルドショップ街に行って買ったり、俺も自作したりして、ギルドハウス内に最低限の家具は揃っている。
だがそこまで高いものは買えなかったし作れない。内装は全体的に質素だった。
矢野さんがペイントしてくれると、華やいでいいですな。
クオリティが金取れても可笑しくないレベルだし、どんなになるか楽しみだわ。
「よし、じゃあ俺ギルド管理局事務所行って、レイミーさんにこれ提出してくるわ」
ギルド関係の色々な手続きをやってくれる場所だ。
このギルドショップ街に事務所がある。
俺達の担当のNPCがレイミーさんだ。
まあこれもギルドマスターとしてのお仕事ですな。
「んじゃよろしくー高代」
と、矢野さんが俺にイラストが描かれた紙を手渡してくる。
「よろしくね、高代くん」
「あとついでにギルドショップの出店申請も出してくるぜ」
ギルドハウスの一階はショップ兼工房にする事になっている。
初級工房セット一式の出費で、今の俺はほぼ一文無しである。
貯め込んでいた素材も資金のために換金したり、家具の合成に消費したりでかなり心もとないことになっている。
ここは店を繁盛させて、安定した金策手段を確保しないと!
俺の紋章術師のプレイスタイルには、MPと書いてマネーパワーも超重要だ。
何せ攻撃の度に常に武器がぶっ壊れていくスタイルだからな。
かといってケチったら負けだし、戦闘力とはつまり経済力でもあるわけですよ。
金策もまた、戦いの一環です。家に帰るまでが遠足的な。
「じゃあわたし、蓮くんと一緒に行こうか?」
「お? だったら手続きが終わった後ちょっと検証に付き合ってくれよ!」
「え? 検証? え~……何日も同じ敵殴らせ続けたりしない?」
「大丈夫だって、今回はサクッと確認する程度だからさ」
「う~ん……蓮くんのサクッとって、サクッとであった試しがないんだよねえ~」
あきらが疑いの目で俺を見てくる。
「そんな事ないって! これが嘘を言ってる目に見えるか?」
「ん~? そのキラキラした目は、そのつもりはなくても、感覚がおかしいせいでサクッと人を長時間拘束しちゃう人の目だね~?」
「ハハハハハ。ご冗談を、さぁ行こうぜマイフレンド!」
「はいはい。いいよ、付き合ってあげる」
「いってら~。あたしはお絵描きの続きしてるし~」
「わ、私も優奈を手伝っていようかしら……」
「ん~ん~ことみー。あたしが教えたげるから、絵が苦手なの直そうねぇ」
「……今度勉強を教えるときは、物凄くスパルタにしようかしら」
「あはっウソウソ。ま~適当に好きにやっちゃうべし」
「まあ、少しコツを教えてもらえると嬉しいわ」
「おけおけ!」
「よしじゃあ行くか! リュー! 出かけようぜ」
「きゅーきゅーきゅー!」
部屋の角の高い位置に設置された専用ハンモックから、リューが出て来る。
そしてそのまま、俺の頭にちょこんと着地。よし行くか!
というわけで、俺とあきらはリューを連れギルドハウスを出た。




